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サウンドクリエイトの名物イベント

黒崎政男×島田裕巳のオーディオ哲学宗教談義 Season3「私たちは何を聴いてきたか」<第1回>

公開日 2020/01/20 12:00 季刊analog編集部
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サウンドクリエイトスタッフ Season1では「オーディオは本当に進歩したのか」、Season2では「存在とはメンテナンスである」をテーマで語っていただきました。

宗教学者・島田裕巳氏(左)と哲学者・黒崎政男氏(右)

このSeason3で大テーマとしたいのは、「私たちは何を聴いてきたのか」です。思えば結構深いテーマでして、オーディオが変わったり、環境が変わったり、聴く本人の気持ちが変わったり、また音楽の背景を知ったりすることで聴こえ方が変わることがあると思います。そんな大テーマを置きつつ第1回目のサブテーマとして「アメリカ」を掲げました。では、テーマ曲に合わせて先生方に登場していただきましょう。

「アメリカ」とは何か

〜DA PUMP「U.S.A.」TIDAL〜リンKLIMAX DSMより再生


DA PUMP「U.S.A.」
島田 知ってる?

黒崎 知ってるよ〜。「Come on baby, America〜」でしょう。初めて聴いたときから、一瞬にして流行るだろうとは思ったよ。でもこんなに日本中で聴かれる曲になるとは思わなかった。

島田 今年1月の歌舞伎界も席巻しましたよね。

黒崎 そうそう。歌舞伎を観にいくとこの曲のパロディなんかも途中で入れますよね。猿之助でもやっていた。

島田 国立劇場の冒頭でもやっていて、あちらでもこちらでもという感じ。最近、こういう「誰でも知っている曲」って珍しいですよね。皆さん知っています?(会場に挙手を促す)

島田 8割くらいの方はご存じですかね。これの原曲は知っていますか?

とりあえず、 聴いてみましょうか。

〜原曲 ジョー・イエロー「U.S.A」〜TIDAL
リンKLIMAX DSMより再生


ジョー・イエロー「U.S.A」
黒崎 原曲では「カモン・ベイビーDo it again」で一度切れて「U.S.A」と続く。だけどDA PUMPだと「カモン・ベイビー・アメリカ」とすぐに続いて「アメリカ」と歌う。このジョー・イエローの原曲はいつ?

島田 92年のイタリアのディスコ音楽です。

これを聴いて、ヒットすると思いますか? 黒崎さんが歌手だとして、これやってよ、って言われたらどう? 先ほどの直感は働きますか?

黒崎 「カモンベイビー Do it again」の方は、90年代ユーロビートですよね。それがDA PUMPの「カモン・ベイビー・アメリカ」とくると、「結局アメリカか〜」とは思いますよね。国の大きさや、かつてのアメリカンドリームへのワクワク感みたいなのがこの国に対するイメージのベースになっていて、つい乗ってしまう。アメリカって決して好きではないのに、結局のところ「アメリカ」で曲が流行ってしまう。

島田 敗北感?

黒崎 そうね、悔しさっていうか……。でもDA PUMPだしねえ。

島田 メンバーが変わったの知っている?

黒崎 ISSA以外はそもそも他のメンバーのことはよく知らない。

島田 DA PUMPもう1度聴きましょう。

〜DA PUMP「U.S.A.」〜TIDAL
リンKLIMAX DSMより再生

DA PUMP「U.S.A.」


再生機はリンKLIMAX DSM(中央上から2段目)
黒崎 でも、改めて聴くといまさら、「カモン・ベイビー、アメリカ」って、古くない? にもかかわらず、2018年大ヒットってどういうことだろう。

島田 歌い方に違いがあるんです。90年代イタリアと、2018年DA PUMPを比べると、後者はこぶし(小節)が効いているんですよ。ISSAは沖縄出身だから、沖縄のこぶしの利かせ方みたいなものが生きているんです。DA PUMPのオリジナルメンバーは、ISSAを含め、全員が沖縄出身だった。でも、現在のメンバーには、他に沖縄出身はいないんです。こぶしを効かせるというのは、実は、アメリカ音楽の特徴でもあるわけです。そこが重なる。さらに言えば、世界中の音楽がこぶしを効かせるか、効かせないかで二分できるかもしれません。

黒崎 歌い方が日本的こぶしだから流行ったの? それとも歌詞(特にサビ)で「アメリカ」と歌うから流行ったの?

島田 アメリカの曲というものは、実はこぶしが効いている、というふうに日本人は認識している。

黒崎 ……。みんなポカンとしているけど。

ゴスペル、入っているかいないか

島田 アメリカの曲というのは、ゴスペルが基盤にあるんです。ゴスペルというのはこぶしが効いているでしょう。

宗教学者・島田裕巳氏「アメリカの音楽はこぶしが効いているでしょう?」

黒崎 先にひとりで行かないでください。みんな置いて行かれていますよ。

アメリカの音楽ってどのあたりのことを言っているの?エルビス・プレスリーとか?

島田 アメリカンのロックは、皆そうじゃないですか。アメリカにはもともと、黒人文化の影響で、ゴスペルが基盤として根付いている。ところが、イギリスに行くとそれがまったくない。ヨーロッパにはこぶしを効かせる音楽がないんですよ!

黒崎 ……ふーむ。

島田 邦楽だとこぶしを効かせた音楽がある。演歌は典型ですが、長唄などの伝統音楽でもそうですね。

黒崎 つまり、世界にはふたつの音楽がある。こぶしの効いている音楽と効いていない音楽。前者はゴスペル? 民謡?

島田 アメリカで言うゴスペル、日本でいう民謡がこぶしが効いています。

黒崎 世界にはいっぱい民謡があると思うんだけれど、こぶしの効いている民謡とこぶしの効いていない民謡があると。そういうことですか?

こぶしが効いていないヨーロッパ音楽

島田 ヨーロッパの音楽が特殊かもしれない。ヨーロッパの音楽はこぶしが効いていない。まぁ、実例を聴いてみましょう。こぶしを効かせて歌える人と、それを真似ようとはしているけれど、こぶしが効かせられないミュージシャンの比較です。

〜B・B・キング&エリック・クラプトン「ライディング・ウィズ・ザ・キング」TIDAL〜リンKLIMAX DSMより再生

B・B・キング&エリック・クラプトン「Riding with the King」

島田 これ、見事にステレオです。右にクラプトン、左にB.B.キングがいますね。クラプトンはB・B・キングに憧れていて、ようやく共演した。クラプトンはイギリス人だけど、ブルースに強い憧れがあるんです。

黒崎 うーんと、なんか、言わなきゃいけないんだろうけど……。要は、クラプトンにはこぶしがないってこと?

島田 その前にクラプトンの歌を聴いてブルースの感じがする? ブルースになっていないでしょう。

黒崎 クラプトンはブルースどうこうという観点であまり聴いていない。アルバム「アンプラグド」とか、格好いいので良く聴きました。内容はちょっと女々しいけど。

島田 クラプトンはB・B・キングのようにやりたいのに、B・B・キングになれるかっていうと、なれない。

黒崎 B・B・キングはゴスペル的。クラプトンはイギリス風ということ?だけど、人気のある上手いギタリスト達って、クラプトン、ジョー・ペイジ、ジェフ・ベックとか皆イギリスですよね。アメリカはB.B.キングのようなブルース・ギタリストたち。

島田 まったく違いますよね。クラプトンはなんとかブルースを歌いたいと、それを目指していて、本人は自分は歌えていると思っているかもしれないけれど、B.B.キングと比べるのも酷ですが、かわいそうに、できない。

黒崎 そんなこと言って大丈夫?

哲学者・黒崎政男氏

島田 クラプトンが目指していてうまくいかない事例のもうひとつ、ロバート・ジョンソン。

黒崎 ロバート・ジョンソン?

島田 伝説のブルース・シンガー。ロバート・ジョンソンは、クロスロードというところで悪魔に魂を売って、ギターテクニックを教えてもらったと言われているギタリスト。

黒崎 アメリカのギタリストですね。

〜ロバート・ジョンソン「ミー・アンド・ザ・デビル・ブルース」TIDAL〜リンKLIMAX DSMより再生

ロバート・ジョンソン『ザ・コンプリート・レコーディングス』より「ミー・アンド・ザ・デビル・ブルース」

島田 クラプトンは彼にものすごく憧れていて、『ミ―&Mr.ジョンソン』というアルバムも作っています。クラプトンが歌うとこういうふうになる、というものを聴いてみましょう。

〜エリック・クラプトン「ミー・アンド・ザ・デビル・ブルース」TIDAL〜リンKLIMAX DSMより再生

エリック・クラプトン「ミー・アンド・ザ・デビル・ブルース」

黒崎 クラプトンは一生懸命表現しようとしているんだけど、島田さんの説に乗っかっていえば、魂の部分で欠けているのかもしれないね。彼が近代人……現代人だからか、イギリス人だからか分からないけど、魂が奥底から出てくるという感じはしない。核のところにソウルは感じられないね。

島田 彼はロバート・ジョンソンの魅力を再現しようとはしている。出だしでも、ギターの弾き方も。クラプトンの音楽が悪いと言っているわけではないんですけれども。


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