哲学者と宗教学者がオーディオについて語り合う
黒崎政男×島田裕巳のオーディオ哲学宗教談義 番外編。オーディオが変わったら聴き方も変わってきた?!
哲学者・黒崎政男氏と宗教学者・島田裕巳氏が、音楽、オーディオについて対談をする「オーディオ哲学宗教談義」。2017年夏から銀座サウンドクリエイト恒例の人気イベントとなっている。「オーディオは本当に進歩したのか」を論じたSeason1、「存在とはメンテナンスである」を論じたSeason2に続き、2018年8月5日に、番外編として開催された「先生たちの夏休み」全編をお届けしよう。
サウンドクリエイトスタッフ 今回は島田先生と黒崎先生がこの夏休み、何にはまっているのか、今夢中になっていることをお聞かせいただきます。前半は島田先生によるお話を、後半は黒崎先生によるお話を中心にお聞きしたいと思います。
島田裕巳、クラシックに目覚める
黒崎 島田先生は最近、roonとかいうデジタルの最先端にすっかりはまっているとか。
島田 僕は今日はほとんどクラシックの話になると思います。いままでと全然違うんですが。
黒崎 あれ、そうですか。
島田 皆さんご存じのクラシック音楽誌『レコード芸術』。なんとこの雑誌から取材の話が来たのです。巻頭の「青春18ディスク」というコーナーに登場することになり、ディスク18枚を選ぶ。半分はクラシックにしてください、という注文なんです。でも私、青春時代に9枚もクラシックのレコードを買ったことがないんです。それで仕方なく、クラシックをめぐる自分探しの旅をしてみたんですね。
黒崎 ふむ。
島田 まず、親父が、割とクラシックを聴いていたんです。とくに「新世界」が好きだった。だから私は、幼い頃から「新世界」という音楽があることは知っていて、聴いていた。おそらくカラヤンだったと思います。それで思ったことは「クラシックは民族音楽だ」ということ。
黒崎 ドヴォルザークだから、特に民族色が強い。
島田 そう。親の影響っていろんな形で出ます。黒崎先生とはよく歌舞伎座でお会いしますよね。歌舞伎の話をしますと、私が観始めたのは2000年から。オウム真理教事件があって大学を辞めて、仕事もろくになかった頃です。テレビで「情熱大陸」を観ていたら市川海老蔵が出ていました。当時は新之助でしたね。それで、こんな役者がいるのかと驚いた。この役者を観るには歌舞伎を見ないといけない、と思ったんです。
ただ、歌舞伎のことについては、歌舞伎座に通う前から知っている部分があった。父は、一度でいいからあなたに6代目菊五郎を観せたかったと、しきりに言っていました。父親の話だと、彼の母、つまり私の祖母になりますが、昔、歌舞伎座に幕見に行って、途中から劇場の中に入れる隙間があって、そこから劇場にちゃっかり入ってしまったとか。そういう話をしてくれていました。
また、子どもの頃はテレビで、勘三郎とか、幸四郎とか、松緑を観ていた記憶があります。舞台というよりもドラマなどではなかったかと思いますが。
さらに、父は渡辺 保先生の本をよく読んでいたので僕も読んでいました。渡辺 保先生とは、のちに、鈴木忠志さんの縁でお会いしました。最初の出会いは、淑徳大学の日本宗教学会の集まり。その時なんと渡辺先生がクロークをなさっていたのです。いまは歌舞伎座でもお目にかかりますし、私はNHKのカルチャーセンターの青山教室で講座をやっているのですが、同じ時間に渡辺先生も「今月の芝居・来月の芝居」という講座をずっとお持ちで、たまにお会いして、歌舞伎や演劇の話をするんです。
ところで、これは宣伝ですが私が執筆した『神社崩壊』という本があります。例の富岡八幡宮の事件から始まって……。
黒崎 早いよね。半年前の事件がもう本になっている(※富岡八幡宮事件は2017年12月で本は2018年8月に出版された)。我々学者からすると信じられない早さです。
島田 学者じゃないからね。はっは。
一同 (笑)
黒崎 はっはっは、そういうつもりじゃなかったんですが。
島田 歌舞伎には、富岡八幡宮を舞台にした作品が結構ありますよね。「名月八幡祭」とか。そこで、渡辺先生にもその本を差し上げたら、わらしべ長者のように。「じゃあ、これ差し上げます」って、インターネットでやっている劇評をまとめた著書をくださって……。
黒崎 随分いろんな話が出ましたが、整理しますと、お父さまはドヴォルザークを聴いていた。お父さん、お祖母さまは歌舞伎を観ていた。のにかかわらず、島田青年は観ていなかったのはなぜか、って話ですね。
島田 はい。過去を振り返ってみた時に、ひとつはクラシックと言えばカラヤンということですね。親の影響もあるし、そういう時代だったように感じます。あと、映画をよく見たので、そこで使われたクラシック音楽が印象に残っていたりします。では、一曲。
スタッフ Katalyst DAC搭載のリンKLIMAX DSMが先頃roonに対応したので、roonで再生します。
〜カラヤン(指揮)/リヒャルト・シュトラウス:交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」を聴く〜
KLIMAX DSM(Roon×TIDAL)、KLIMAXEXAKT 350で聴く
黒崎 『2001年宇宙の旅』で使っているのはカラヤンの指揮か(編集部註:『2001年宇宙の旅』はカラヤン指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のデッカ・レコード録音版)。
島田 監督のスタンリー・キューブリックは、クラシック音楽を結構使っています。この『2001年宇宙の旅』では、ほかにもヨハン・シュトラウスの「美しき青きドナウ」などが効果的に使われています。キューブリックは『時計仕掛けのオレンジ』でも、ベートーヴェンの第九を使っています。映画音楽として強い印象を与えるのは、クラシック音楽なんだとあらためて思いました。
黒崎 クラシック音楽は、映画の印象を強めるものであったと。
島田 はい。マーラーを知ったのも、『マーラー』という伝記映画(ケン・ラッセル監督)を通してでした。それまで、マーラーの音楽なんて聴いたこともなかったんですけれど、映画を観たあとCDを買いました。そんなふうに、クラシック音楽と映画は自分の中で結びついていました。でもあくまで映画の中の話で、自ら選んでディスクを買おうとは思わなかったんです。
このレコード芸術の取材の他に、クラシックを聴くようになったきっかけはオーディオの変化です。自宅のオーディオシステムはリンEXAKT AKUDORIKとAKURATE DSMをEXAKT Linkで繋いで聴いているんですが、スピーカーに搭載されているDACをKatalystにバージョンアップしたのです。
さらに、リンがDSのアップデートでroonに対応したので、使い始めたこともあります。一気に家のシステムの音が激変しました。roonというのは再生アプリケーションで、roonを通してTIDAL(ストリーミングサービス)の MQAを聴けるのです。MQAという技術で配信している24bitの音源をDSでも聴けるようになっているんです。
黒崎 島田先生は装置のバージョンアップのおかげで、クラシックもやっと自分の守備範囲に入ってきたというわけですね。
サウンドクリエイトスタッフ 今回は島田先生と黒崎先生がこの夏休み、何にはまっているのか、今夢中になっていることをお聞かせいただきます。前半は島田先生によるお話を、後半は黒崎先生によるお話を中心にお聞きしたいと思います。
島田裕巳、クラシックに目覚める
黒崎 島田先生は最近、roonとかいうデジタルの最先端にすっかりはまっているとか。
島田 僕は今日はほとんどクラシックの話になると思います。いままでと全然違うんですが。
黒崎 あれ、そうですか。
島田 皆さんご存じのクラシック音楽誌『レコード芸術』。なんとこの雑誌から取材の話が来たのです。巻頭の「青春18ディスク」というコーナーに登場することになり、ディスク18枚を選ぶ。半分はクラシックにしてください、という注文なんです。でも私、青春時代に9枚もクラシックのレコードを買ったことがないんです。それで仕方なく、クラシックをめぐる自分探しの旅をしてみたんですね。
黒崎 ふむ。
島田 まず、親父が、割とクラシックを聴いていたんです。とくに「新世界」が好きだった。だから私は、幼い頃から「新世界」という音楽があることは知っていて、聴いていた。おそらくカラヤンだったと思います。それで思ったことは「クラシックは民族音楽だ」ということ。
黒崎 ドヴォルザークだから、特に民族色が強い。
島田 そう。親の影響っていろんな形で出ます。黒崎先生とはよく歌舞伎座でお会いしますよね。歌舞伎の話をしますと、私が観始めたのは2000年から。オウム真理教事件があって大学を辞めて、仕事もろくになかった頃です。テレビで「情熱大陸」を観ていたら市川海老蔵が出ていました。当時は新之助でしたね。それで、こんな役者がいるのかと驚いた。この役者を観るには歌舞伎を見ないといけない、と思ったんです。
ただ、歌舞伎のことについては、歌舞伎座に通う前から知っている部分があった。父は、一度でいいからあなたに6代目菊五郎を観せたかったと、しきりに言っていました。父親の話だと、彼の母、つまり私の祖母になりますが、昔、歌舞伎座に幕見に行って、途中から劇場の中に入れる隙間があって、そこから劇場にちゃっかり入ってしまったとか。そういう話をしてくれていました。
また、子どもの頃はテレビで、勘三郎とか、幸四郎とか、松緑を観ていた記憶があります。舞台というよりもドラマなどではなかったかと思いますが。
さらに、父は渡辺 保先生の本をよく読んでいたので僕も読んでいました。渡辺 保先生とは、のちに、鈴木忠志さんの縁でお会いしました。最初の出会いは、淑徳大学の日本宗教学会の集まり。その時なんと渡辺先生がクロークをなさっていたのです。いまは歌舞伎座でもお目にかかりますし、私はNHKのカルチャーセンターの青山教室で講座をやっているのですが、同じ時間に渡辺先生も「今月の芝居・来月の芝居」という講座をずっとお持ちで、たまにお会いして、歌舞伎や演劇の話をするんです。
ところで、これは宣伝ですが私が執筆した『神社崩壊』という本があります。例の富岡八幡宮の事件から始まって……。
黒崎 早いよね。半年前の事件がもう本になっている(※富岡八幡宮事件は2017年12月で本は2018年8月に出版された)。我々学者からすると信じられない早さです。
島田 学者じゃないからね。はっは。
一同 (笑)
黒崎 はっはっは、そういうつもりじゃなかったんですが。
島田 歌舞伎には、富岡八幡宮を舞台にした作品が結構ありますよね。「名月八幡祭」とか。そこで、渡辺先生にもその本を差し上げたら、わらしべ長者のように。「じゃあ、これ差し上げます」って、インターネットでやっている劇評をまとめた著書をくださって……。
黒崎 随分いろんな話が出ましたが、整理しますと、お父さまはドヴォルザークを聴いていた。お父さん、お祖母さまは歌舞伎を観ていた。のにかかわらず、島田青年は観ていなかったのはなぜか、って話ですね。
島田 はい。過去を振り返ってみた時に、ひとつはクラシックと言えばカラヤンということですね。親の影響もあるし、そういう時代だったように感じます。あと、映画をよく見たので、そこで使われたクラシック音楽が印象に残っていたりします。では、一曲。
スタッフ Katalyst DAC搭載のリンKLIMAX DSMが先頃roonに対応したので、roonで再生します。
〜カラヤン(指揮)/リヒャルト・シュトラウス:交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」を聴く〜
KLIMAX DSM(Roon×TIDAL)、KLIMAXEXAKT 350で聴く
黒崎 『2001年宇宙の旅』で使っているのはカラヤンの指揮か(編集部註:『2001年宇宙の旅』はカラヤン指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のデッカ・レコード録音版)。
島田 監督のスタンリー・キューブリックは、クラシック音楽を結構使っています。この『2001年宇宙の旅』では、ほかにもヨハン・シュトラウスの「美しき青きドナウ」などが効果的に使われています。キューブリックは『時計仕掛けのオレンジ』でも、ベートーヴェンの第九を使っています。映画音楽として強い印象を与えるのは、クラシック音楽なんだとあらためて思いました。
黒崎 クラシック音楽は、映画の印象を強めるものであったと。
島田 はい。マーラーを知ったのも、『マーラー』という伝記映画(ケン・ラッセル監督)を通してでした。それまで、マーラーの音楽なんて聴いたこともなかったんですけれど、映画を観たあとCDを買いました。そんなふうに、クラシック音楽と映画は自分の中で結びついていました。でもあくまで映画の中の話で、自ら選んでディスクを買おうとは思わなかったんです。
このレコード芸術の取材の他に、クラシックを聴くようになったきっかけはオーディオの変化です。自宅のオーディオシステムはリンEXAKT AKUDORIKとAKURATE DSMをEXAKT Linkで繋いで聴いているんですが、スピーカーに搭載されているDACをKatalystにバージョンアップしたのです。
さらに、リンがDSのアップデートでroonに対応したので、使い始めたこともあります。一気に家のシステムの音が激変しました。roonというのは再生アプリケーションで、roonを通してTIDAL(ストリーミングサービス)の MQAを聴けるのです。MQAという技術で配信している24bitの音源をDSでも聴けるようになっているんです。
黒崎 島田先生は装置のバージョンアップのおかげで、クラシックもやっと自分の守備範囲に入ってきたというわけですね。