哲学者と宗教学者がオーディオについて語り合う
黒崎政男×島田裕巳のオーディオ哲学宗教談義 番外編。オーディオが変わったら聴き方も変わってきた?!
オーケストラを体で聴く
島田 TIDALで何でも聴けるから。特にMQA24bitの世界だと音がいいんですよね。
黒崎 クラシックも面白くなった?
島田 あるクラシックに詳しい編集者から「ジャズはピアノの音が汚い」と言われたことがあるんです。24bitで聴くと確かにそうかなと思うようになりました。
黒崎 エンジニアの問題かもしれないですよね。ジャズってヴァン・ゲルダーが作った音が我々のイメージ。彼はラッパとかはすごくリアルだけど、ピアノは弱く録るから。
島田 リンはMQAに最初反対していたんです。途中でロイヤリティがかかるので、音楽の発展のために良くないと。敵対していたわけじゃないけど、TIDALがバージョンアップされた時、DSも対応して、24bitの配信を聴けるようになって、すごく音が良くなったと感じています。いろいろ条件はあるんですが。特にデジタル技術の最先端の装置で24bitの配信を聴くことで、いままでより2ランクくらい上の音が出てきていると思います。
黒崎 話も面白いけど、聴いてみましょう。TIDALのMQA24bitで。
〜ショルティ(指揮)/ワーグナー:タンホイザーTIDAL MQA 48kHz/24bitKLIMAX DSM(Roon×TIDAL)、KLIMAXEXAKT350で聴く
島田 どう? 僕は「タンホイザー」なんてこれまで聴いてきていないんです。いまのかけ方で、音としては良い方でしょうか。
黒崎 良いと思いますよ。「タンホイザー」といえばパリ版、ドレスデン版があって、途中カスタネットの音が入ったからパリ版だと思いますが、良い音ですよね。こんな風に鳴らすのはいままでだったらとんでもなく難しかったのです。どこか限られた場所でだけ鳴っていた音が、還暦を迎えて初めてクラシック音楽に目覚めることができるくらいクオリティのよい音源がネット上にある。1ヶ月1,000円とか2,000円を払えばいくらでも聴ける。
島田 ここまで朗々と響かせるのは、ちょっと家では難しいです。私の家はこのミニ版なんです。でも、感じとしてはこういう感じ。(編集部註:島田氏が自宅で愛用しているEXAKT AKUDORIKはブックシェルフタイプ)
黒崎 オーケストラの豊かさっていうのは、単純に、感覚的に気持ちいい〜っていう喜びでしょう。私もそうなんです。
島田 そう。インターナショナルオーディオショウで、2年続けて出ていましたかね。ソナスファベールの最高峰の「THE SONUS FABER」を聴いた時の感覚と、いま聴いた音は同じ感覚です。
黒崎 私は10歳くらいからクラシックの世界に入りました。チェロを弾いたり、オーケストラに入ったり。リンのシステムで聴くオーケストラの豊かさって、浸っていたいというか天国的な喜びですよね。
島田 前回ここでやった時、DSDを再生したでしょう。DSDって録音が新しい方がいいという感じだったでしょう? でもこれはショルティの指揮で、録音は1970年。最新録音というわけじゃない……。
黒崎 60年代っていいでしょう。いい方向に向かっているじゃないですか。
島田 だって、事実がそうなってきているじゃないですか!
黒崎 昔のものは、演奏がいい場合でも録音の悪さと共に在りました。でも実はすごくいい音で録れていて、装置のレベルでそれまで聴こえていなかっただけだったのかもしれない。いまはベールが剥がれたように、ここまで良く聴けるようになっている。2000年に録音されたものも、1960年代に録音されたものも、装置によって同じように存在している。そうすると演奏がいい方がいい。
島田 昔は本物の楽器の音との乖離があったのではないかと思います。それがだいぶ詰まってきたなぁという感じ。僕の場合は音楽の才能はないんですけれども、小学校の3年から6年までピアノを習っていたの。それが結構影響していて、自分の中にピアノの音階や音色が入っている。だからこれまでの装置で聴いていたピアノの音は、物足りなかったのかなと思っています。
黒崎 私もウチのLP12にURIKA
II(LP12専用の内蔵フォノイコライザー、出力はデジタルのみ)を入れたら、何が面白いかっていうと、オケの分厚いの聴くと気持ちいい〜って感じなんですよ。そして、ふとね、生演奏を聴きたいなって。
島田 あ、改心しているわけね。
黒崎 前のシーズンで、生は嫌いと言ったからね(笑)。で、実際生演奏を聴きに行ってみたんです。新日フィルが拠点としている墨田区のトリフォニーホール。URIKA IIを入れて、でブルックナーとマーラーをLPレコードで聴いて、もう、すごい! と思って。URIKA II、本当にすごいんですよ。ここまですごいと、ほかのオーディオと比べるんじゃなくて、生オケと比べたくなるんですよ。それで、2回行ったの。ブルックナーの4番とマーラーの4番。5〜6,000円で聴けて。マーラーの4番がめちゃ良くて。おぉ、これ、やっぱ生、いいなあって。
島田 はっはっはっは。
黒崎 でもブルックナーの4番は同じオケなのに指揮者が変わったら酷くて。まず、音が濁ってる。ホルンが下手くそ。ブルックナーってゲネラルパウゼって、休止して始まるんだけど、それがものすごく深い意味を持っているわけですよ。カール・ベームを聴いていると、それはもう本当に深いわけ。でも、墨田で聴いたのは、ポンッて終わってただ待っていて、ハイッてもう1回始まるだけ。これじゃダメだ。生オケっていっても、天と地ほど違う。しかも同じオケで、同じホールで。一方は本当に幸せになり、一方はものすごく無駄感がある。で、あらためてLP12で、選りすぐられてきた演奏の素晴らしさを感じました。