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哲学者と宗教学者がオーディオについて語り合う

黒崎政男×島田裕巳のオーディオ哲学宗教談義 番外編。オーディオが変わったら聴き方も変わってきた?!

公開日 2019/11/06 15:28 季刊analog編集部
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ウィルキンソンを目印にして聴く

黒崎 次はDECCA盤でのアルベニスを聴きます。これ大好きなんです。ウィルキンソンの手によるものだからこそ、空間がこんなに表現されているんじゃないかと。今度はステレオ録音です。ブルゴスが指揮をしているスペイン組曲。アルベニスがピアノ曲で作ったものをブルゴスが編曲したんですけれども、ずうーっと長い間彼は演奏してきているんです。祖国のスペインに。本当に素晴らしい演奏です。


「ウィルキンソンの手によるアルベニス、DECCA盤です」
スタッフ  リンのLP12、URIKA IIから、デジタルで出して、KLIMAX 350に入れます。A面。ステレオですね。


リンURIKA Uを内臓したKLIMAX LP12SE(右)
黒崎 URIKA IIというのはLP12の内蔵フォノイコで、デジタルでRIAAカーブを直すものです。私はすでに使っていましたけれども、島田さんはこの前、雑誌の取材を受けて、URIKAとURIKA IIの聴き比べをやっていましたよね。

島田 詳しくはanalog 61号で。

黒崎 ではウィルキンソンのアルベニスを。

〜ブルゴス(指揮)/アルベニス『スペイン組曲』(ブルゴス編曲)より「スペイン組曲」(ウィルキンソン録音)
LINN LP12SE(URIKA II内蔵)、KLIMAX DSM、KLIMAX 350で聴く

ブルゴス(指揮)/アルベニス:スペイン組曲(ブルゴス編)

黒崎 音の快楽ですね。1967〜8年です。オリジナル盤ではありませんが、かなり初期の盤です。やっぱりURIKA IIで聴くと、前半で聴いたショルティのストリーミングの音よりゾワゾワ感というかワクワク感というか、リアリティが強い。

島田 録音年はショルティとあんまり変わらないじゃないですか。今聞いた方が古い録音、ずいぶん時間が経っているな、と感じました。デジタルはそういう感じがないんです。それは何なのかなと。

黒崎 デジタルって、時代性を削ぐんですよね。1950年に歌っているビリー・ホリディもデジタルで聴くと現代歌っている歌手と同じようになってしまう。SPレコードなんかは30年代のパリになっちゃった、とか、あぁ、日本になっちゃった、とか、時代をそのまま再現する。さらに言えば、私は古いものを聴いている時、LPの中では、あぁ1970年代の録音で昔風の感性なんだよな、って普通にいいなと思う録音と、いま聴いてもすっごく新鮮だな、と感じるものがあります。特に、ウィルキンソンが入れた音は、ものすごく新鮮なの。

島田 新鮮なのと、その時代の空気との関係はどうなの? ちょっと矛盾しているような気がしますが。

黒崎 うん、確かにね。はっはっはっは。で、これはまたウィルキンソンが入れた私の愛聴盤ですが、ペーター・マーク指揮でロンドン・シンフォニーを振ったメンデルスゾーンの交響曲第3番。とんでもなくいい演奏です。いろんな人がこれに狂っちゃうんですよ。

「ウィルキンソンによるメンデルスゾーンの交響曲第3番もとてもいいのです」

島田 ステレオ?

黒崎 はい、ステレオです。モノラル盤でも出ています。私の所有しているモノラル盤はDECCAオリジナルです。でもこのモノラル盤はあんまり良くないのです。これは矛盾するから恥ずかしいんですが、オーケストラはね、正直ステレオの方がやっぱり面白いんですよねぇ。まぁ、その問題は置いとくとして。このメンデルスゾーンは、いつ聴いても瑞々しい、飽きない。と言っている人はたくさんいます。ウィルキンソンだからかもしれませんが。

〜ペーター・マーク(指揮)、ロンドン・シンフォニー/メンデルスゾーン:『スコットランド交響曲』第3番〜ステレオ盤の第2楽章〜

ペーター・マーク(指揮)、ロンドン・シンフォニー/メンデルスゾーン:『スコットランド交響曲』第3番〜ステレオ盤
リンLP12SE(URIKA II内蔵)、KLIMAX DSM、KLIMAX 350で聴く

黒崎 物としてのレコードを追いかけてきて、初期盤、初期盤と言っているうちに、録音エンジニアを目印に聴くようになってきているんです。ベートーヴェンの5番「運命」を聴きました、と最初は言うわけです。次にカラヤンで聴きました、と指揮者で言う。演奏家の方に力点がつくわけですけれども、今の私の場合は録音エンジニアに興味が行く。メンデルスゾーンだろうが、アルベニスだろうが、モーツァルトだろうが、「ウィルキンソン」を聴いている。完全にいってしまった(笑)。さらにヴァン・ゲルダーがカッティングしたものを追いかける。「あぁ、これはオーディオだ、オーディオをやっているんだ私は」と深いところに気づきました。生音を録音する時のその塩梅、具合、置き方こそが音を決めているんだ、と。それこそがオーディオのいちばん根本なんじゃないか、といま、思い始めています。初期盤などもそれとともにあるんです。

島田 2つ聴いて分かったけど、音の録り方、マイクの置き方で誰にも真似できないことをウィルキンソンという人がやっている。ヴァン・ゲルダーもそう。それってどういうことなんた?

黒崎 例えばピアノを録音する時、演奏家は素材なのかもしれない。根本的に作品を作っているのは調整室にいる人、マイクのセッティングをする人。演奏家は自分がメインだともちろん思っているけれども、テクノロジーをいじるエンジニアこそが音を作っている。もちろん演奏家の音を聴いているけれども、それはエンジニアを聴いていたのかもしれない。

島田 ものを書くということのアナロジーで言えば、素材というものがありますね。そして文献がある。ある文献を研究して、そこからどう引き出してくるのかということが人によって全然違う。僕も、そういった構成を考えていつも本を書いているのです。僕は学者じゃないってさっき言ったのは、一次資料、原資料を徹底して扱うのではなくて、その使い方こそに力点をおいている。読者が読んでくれているのも、そっちがあるからだと思う。

黒崎 『神社百選』っていうのが出ていて、知らない人はどんな神社百選でも同じだろうと思うかもしれないけど……。

島田 僕の監修本に『日本の神社百選』ていうのがある。コンビニで売ってます。

黒崎 (笑)まったく違うものなんだよね。100個の神社を書いていても人によって違うんだよね。「島田さんという書き手と一次資料の関係」と同じ……というと、演奏家がかわいそう過ぎるけれども、そういう側面はありますね。


監修した 『日本の神社百選』を手にする島田裕巳氏
島田 『日本の神社百選』は、当初監修頼まれただけで、編集者は100の神社をどう選ぶかなんて僕に期待していなかったんですけれども、見せてもらったリストがあまりにも無秩序だったので、ひとつの筋が必要だなぁと思って。二十二社って皆さんご存じでしょうか。

黒崎 知りません。

島田 昔朝廷が何か問題が起こった時に、使者を送って、神さまに祈るという有名な二十二社があるんです。伊勢神宮とか、岩清水八幡宮とか。おそらくこの二十二社を冒頭に持ってきて100を選んだ本はいままでにないと思います。

黒崎 それが島田プランですね。

島田 こういう本はこれまでになくて、僕はすごく満足しているの。録音でも、ウィルキンソンという人じゃなかったら、全然違うでしょ、というのと似ている。


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