スピーカーはどれほど重要なのか? 黒崎政男氏と島田裕巳氏が語る
オーディオ哲学宗教談義 Season3「私たちは何を聴いてきたか」<第2回>
オーディオ装置は出口より入口のほうが重要
島田 私の持ってきたレコードは青春と関係ないですが、武田和命というテナーサックス奏者の『ジェントル・ノヴェンバー』(1979年録音)。これを聴いていただきましょう。コルトレーンのバラッドみたいな、そんな感じのアルバムですね。若い頃から割合日本のジャズを聴いていたんですが、その中で出会ったものです。ピアノは山下洋輔、ベースは国仲達夫。国仲は沖縄の人で、たしか山下さんが見出したんじゃないかな。一時東京で活躍してリーダーアルバムも出していますが、その後ベースを辞めて、民族楽器に転向したみたい。
黒崎 それはいつ頃聴いていたんですか?
島田 発売時期からすると、大学院生の時かな
黒崎 ああ、そう……(感慨深げに)。
〜武田和命(テナーサックス)『ジェントル・ノヴェンバー』1979年より「ジェントル・ノヴェンバー」を聴く〜KLIMAX LP12SE+AKURATE DSM+KLIMAX SOLO+AKUDORIK PASSIVEにて再生
黒崎 非常にいい感じで溶け合っている。いいねぇ、これ。
島田 こんないい音で聴いたことない(笑)。LP12の最高レベルだと、ここまで鳴るんだって。
黒崎 気持ちいいよね。だから私も若い頃はスピーカーが最重要だと思っていたけど、だんだん入り口のほうか大切だと思えてきて。
島田 音源のこと?
黒崎 音源っていうか、例えば……音源があって、それを読み取るプレーヤーがあって、プリアンプで、メインアンプ、スピーカーがあるとすると、上流のほうが重要なような気がしてきている。最近。
島田 そこは共感。
黒崎 だから、どこにお金をかけるかっていったら、入り口なんじゃないかな、って私なんかは思うんですね。
島田 そこで、オリジナル盤に行くのですね。それは、さんざん聴かされてきたので、だんだん分かるようにはなってきた。
黒崎 よかったね。では、このパッシブのスピーカーで最後にもう1曲。ショルティ指揮の「ニーベルング指環」の「ワルキューレ」を。ショルティの指環の素晴らしい名演です。私は普段外盤ばかりなんですが、私としては珍しく日本盤を。日本盤なんですけれど、おそらく一番初めに出たんじゃないかと思われます。これはものすごく音が気持ちがいいので聞いてください。
では、ショルティの指環、ワルキューレの冒頭第一幕。ジークムントが逃げてきて、ジークリンデに出会う場面。それをパッシブスピーカーとちょっと高いアンプで。
島田 ちょっとじゃない(笑)。
〜ショルティ(指揮)/ワーグナー:指環『ワルキューレ』第一幕の冒頭〜KLIMAX LP12SE+AKURATE DSM+KLIMAX SOLO+AKUDORIK PASSIVEにて再生
島田 ここでやめた方がいいよね。これだけいいが音するんだから……。
黒崎 もう余計なもの聴かないで、これで幸せと思った方がいい(笑)。今のはネットワークを使っている、普通のスピーカーですけれども。
リンはこのスピーカーの作りそのままに、スタンド部分にDACとアンプを入れたものを作った。接続はデジタル伝送のLANケーブル1本でつながるんですよね。
島田 LANケーブルは高価なものはまったく必要ない。高くなると逆に良くない。
黒崎 島田さんの持論ですね。物議をかもしているやつじゃないですか、雑誌上で(笑)。
島田 Audio Accessoryの誌面で。
黒崎 島田さんには忖度がないので。「高いケーブル、全然良くない」とか、寺島さんという有名なジャズオーディオ評論家のウチに行って「酷い音だ!」「最高のボーカルが場末の安いスナックで聴いているみたいにしか聴こえない」とか平気で言っちゃう(笑)
島田 いや、すごく褒めたのにそこの部分はカットされて……。大丈夫です。私は寺島さんに忖度なしで語ると言ってありますから(笑)。