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スピーカーはどれほど重要なのか? 黒崎政男氏と島田裕巳氏が語る

オーディオ哲学宗教談義 Season3「私たちは何を聴いてきたか」<第2回>

公開日 2020/01/23 10:59 季刊analog編集部
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録音技師ウィルキンソンが与える「感覚の喜び」

では、今度はまずトールボーイで、ウィルキンソンの「くるみ割り人形」を。ウィルキンソンのっていうのはおかしいか(笑)。アンセルメが振ったチャイコフスキーの「くるみ割り」を。

島田 ウィルキンソンて誰?


哲学者・黒崎政男氏
黒崎 ウィルキンソンは録音エンジニアです。私はここのところその録音エンジニアをずっと追いかけて聴いています。もうほとんど創作者。ジャズだとヴァンゲルダーが録音したものを聴くというのと同じですね。そういう倒錯したところに入っているわけです(笑)。

この「くるみ割り」のオリジナルのRCA盤は1枚40万とかして、それは買えないので、復刻版の2005年とか2010年に出た盤を手に入れて……それは7〜8,000円くらい。ところがいろいろ調べてみたらなんと、その曲がイギリス盤で出ていたんですよ。これはほとんどオリジナルに近いのです。

ではRCAのイギリス盤で、冒頭をまずトールボーイで。次にブックシェルフで聴きましょう。オケがぐるぐるって八の字を駆けて動き回るのが楽しい。

島田 これは落ち込んでいる時には聴かないの?

黒崎 先ほどかけていたものは若い時に聴いていたもの。これはここ2〜3年の間に見出した世界。ウィルキンソンの音が気持ちいい! という「感覚の喜び」を知ったわけですけど。それの最たるものです。

〜エルネスト・アンセルメ(指揮)、ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団/チャイコフスキー:バレエ組曲「くるみ割り人形」〜
トールボーイEXAKT AKUBARIKで聴く

アンセルメ(指揮)、ロイヤルオペラハウス管弦楽団『バレエ・フェイバリッツ』

黒崎 気持ちいいでしょ? 1956〜7年、ステレオ録音が始まったばかりの頃の録音です。前にこの会でかけたブリテンもウィルキンソン録音だし、とにかく今はウィルキンソンをめがけて聴いています。

島田 そういう人たちって世界中にたくさんいるの?

黒崎 ウィルキンソンはその世界では神様のように言われていますよ。ロストロポーヴィチ(チェロ)とブリテン(ピアノ)とのアルペジオネのソナタ。ペーター・マーク指揮の「スコットランド」とか、とにかく素晴らしいものがたくさんあります。マイクのセッティングは、最初の頃は、マルチマイクでもワンポイントでもなく、3つとかだったと思いますが、良いものばかりなのです。

島田 モノラル時代からやっているわけでしょ?

黒崎 そう。で、50年代はモノラル盤とステレオ盤両方作っていたのですが、同じひとつの演奏に2つの録音チームがいて、そちらはモノラル録音、こちらはステレオ録音担当、とそんな風に録っていたんですよ。

島田 ヴァンゲルダーの時と同じだね。

黒崎 おそらく60年代の後半から70年代にかけてマルチマイクになってマイク1本1楽器で撮って、後でミックスするという手法になりますよね。それだと音は録れるけど、空間は録れていないわけですよ。初期のステレオは空間も録れている。その音場感がすごく気持ちいいわけ。

では、もう一回同じところを今度はブックシェルフの方で。

〜エルネスト・アンセルメ(指揮)、ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団/チャイコフスキー:バレエ組曲「くるみ割り人形」〜
ブックシェルフEXAKT AKUDORIKで聴く

島田 今は、女房子供よりEXAKT AKUDORIKと共にいる時間が長いのですが、まさにこの音なんだよね。また寺島さんが来たときの話になりますけれど、うちのシステムのケーブルをLANやら電源ケーブルやらいろいろ換えて実験して、その後に元の何でもないケーブルに戻すじゃないですか、その時の安心感っていうのは忘れられない(笑)。自分の世界が戻ってきたっていう。だからEXAKT AKUDORIKに関して僕には客観的な判断ができない。ただAKUBARIKには関心を持っています。

<環境的な>トールボーイ型、<主題的な>ブックシェルフ型

黒崎 AKUBARIKってトールボーイの方ね? 意味性が強いというか、主題性が強いのはブックシェルフのほう(AKUDORIK)ね。何のためにやっているのか、意味合いがすごく感じられます。トールボーイの方は何か環境的になって、ゆったり浸れるって言えば浸れるんだけど。

島田 概して大きなスピーカーだと、AKUBARIKに近い感覚を受ける。「音楽を聴く」という行為から遠ざかって、環境として確かに音の世界というのがそこにあって、それが凄く広大なんだけど、キュッとくるところがない。というか魂が失われていく感じがする。


宗教学者・島田裕巳氏(左)、哲学者・黒崎政男氏(右)
黒崎 そこで最初の話に戻るわけね。大きければ大きいほど、トールボーイの延長になっていく。広大なグランドキャニオンみたいな光景も、もちろん魅力的ではあるけど。

島田 カトリック的アプローチ

黒崎 これ(AKUDORIK)はプロテスタントアプローチなわけね。

島田 これだと解脱しています

一同 (笑)

黒崎 プロテスタントでもなく、解脱なの?

島田 プロテスタントっていうのはどちらかというと、今日一番初めに聴いたものです。

パッシブスピーカーで豪華なアンプを使う。そういうのがプロテスタント。

黒崎 なんでこのAKUDORIKだけ解脱で、他は違うの?

島田 だって、悟っているブッダはひとりですから。

一同 (笑)

島田 いや、KLIMAX EXAKT 350に関しては同じかな。

黒崎 一番最高級機種ですね?

黒崎 とにかく、島田さんはEXAKT AKUDORIK を気に入って偏愛している。

島田 気に入っているというよりも、結局これが全てなんじゃないかという気がしています。スピーカーの在り方っていうのは。


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