[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第33回】プロ用機だけど一般ユーザーにもオススメ! RME「Babyface」のUSB-DAC機能
■がっつり音質チェック!− モニター系のシビアな描写力
では音を聴いていこう。今回はまずはSHURE「SRH1840」を組み合わせてのヘッドホンリスニングを中心にチェックした。
本機の持ち味をざっとまとめると、シャープネスや解像感を遠慮なく高めた硬質なタッチでの描写で音色の質感も強く引き出しつつ、無理や癖はない。場面に応じて音色の荒さも生かしてロックの激しさも引き出す。低音の量感は必要十分に止めて、低音描写は堅実かつ充実。オーディオファンがプロオーディオ機器に求める、いわゆるモニター系のシビアな描写力を、本機はまさに備えている。遊びの少ないカッチリとした描写が苦手な方には合わないだろうが、これにハマる方も多いはずだ。
さてでは具体的な例を挙げていこう。
上原ひろみのピアノ・トリオ作品「MOVE」はドラムスの演奏と録音が特に素晴らしいのだが、本機はそれを見事なまでに再現してくれる。
太鼓のアタックは速く強くスパンと抜け、恐ろしくキレの良いパンチを思い起こさせる。これがあごをかすったら脳震盪確定だ。中低音を確実に制動したスピード感とそれが生み出す迫力は実に爽快。ドラムスの手数が多い場面でもその一打ごとが気持ちよく分離して音が抜け、一打ごとのダイナミクスも豊か。力任せの描写ではなく表現の懐も深い。
ドラムスではシンバルの表現も豊かだ。ライドシンバルは研ぎ澄まされた薄刃さを見せ、緊張感を高める。その薄刃の音像からふわっと広がる金属の粒子の淡い輝きも美しい。そのように高解像度で繊細な描写と同時に、クラッシュシンバルは見事にバシャーンと濁点を強調して荒く炸裂させてくれる。そのコントラストも鮮やかだ。
続いて相対性理論のアルバム「シンクロニシティーン」から「ミス・パラレルワールド」。これはニューウェイブ感の強いロック・ポップスだ。この曲はハイハットシンバルが目立つミックスで、その描写が曲の雰囲気を左右する。本機は金属質のざらつきを強めに描き出し、その質感を伴うキレが鋭い。しかしそれでいて耳障りではなく、シャンと鈴鳴りの綺麗な響きでもある。高音側の再現性に余裕があって演奏や録音の意図を十分に引き出せるからこそ、こういった絶妙の質感描写になるのだろう。バンド全体のシャープさを印象付けながらも過剰ではない、好ましいハイハット描写だ。
エレクトリックベースは膨らませずにコンパクトで密度感のある音像でスタッカートも確実。ドラムスはバスドラムがくっきりと明確で、ボトムがしっかりしている。中低音の制動はやはり確実だ。
やくしまるえつこの倍音成分が豊かなボーカルの描写は、ハイハットシンバルのそれに通じるものがある。倍音成分をシャープに引き出しながらも聴き心地がよい。このあたりは本当に巧い。
エレクトリックギターは、ジミ・ヘンドリクスの「Valleys Of Neptune」から「Stone Free」などでチェック。
ファズで歪ませた音色では、音色の本体の周りにまさにファズ(毛羽立ち)のような倍音がまとわりつく。音色の芯はやや硬質でその周りの倍音はほどよく曖昧、それでいてエッジ感やバイト感(音色が耳に食いつく感じ)もあるという、このファズならではの音色を堪能できる。このあたりは前述のシンバルの質感や女性ボーカルのシャープさと同じく、本機の質感描写の優秀さの現れだろう。
他にギターでは、田村ゆかりの作品でのドライなディストーションサウンドでの和音の分離の良さに、本機の解像度の高さを実感できた。
最後に宇多田ヒカル「HEART STATION」から「Flavor Of Life -Ballad Version-」で女性ボーカルをさらにチェック。こちらは声の手触りを荒くせずに、実に滑らかで柔らかな輪郭でクリアに描き出してくれた。他の楽器では荒い質感も遠慮なく強めに出してきていたので意外ではあったが、この描き分けには感心させられた。語尾を掠れさせていく切ない表現や、低い音域を歌うときの硬質な凄みも引き出されており、情感も迫力もある。理想に近い感触だ。
■おまけ:今回はスピーカー再生もチェック!
さて、本連載にしては珍しくデスクトップから離れて、本機のライン出力からプリメインアンプに接続してのスピーカー再生も、簡単にではあるがチェックしてみた。この際には前述のブレイクアウトケーブルを利用する。
すると期待通りに、本機の持ち味は変わらずに発揮された。僕の自宅システムだと、システムの性能にしても部屋で出せる音量にしても、本機の力を十分には引き出しきれていない感はある。しかし傾向としてはヘッドホン再生と同じく、精密感や質感に優れた描写と確認できた。とりあえずヘッドホンリスニング用に導入して、準備が整ったらスピーカーシステムにも活用する…そういった腹づもりで導入しても期待に応えてくれるだろう。
本来は音楽制作用の機器であることやブレイクアウトケーブルの点など、オーディオアイテムとしては取っ付き難そうな印象の製品であることは否めない。しかし実際試してみると、特にヘッドホンリスニングに使う分には、接続に苦労することもなく、意外とさくっと使い始めることができる。プロ御用達のRMEクオリティに興味のある方には、魅力的かつ現実的な選択肢なのではないだろうか。
高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi 埼玉県浦和市(現さいたま市)出身。東洋大学哲学科中退。大学中退後、パーソナルコンピュータ系の記事を中心にライターとしての活動を開始。現在はデジタルオーディオ及びビジュアル機器、Mac、それらの周辺状況などに関する記事執筆を中心に活動する。また、ロック・ポップスを中心に、年代や国境を問わず様々な音楽を愛聴。 その興味は演奏や録音の技術などにまで及び、オーディオ評に独自の視点を与えている。 |
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