[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第37回】あえて近距離! KEFのUSB-DAC内蔵スピーカー「X300A」をデスクトップで楽しむ
■音質チェック −「さすが!」「期待通り!」の再生
試聴時の条件だが、まず前述のように超ニアフィールド(左右スピーカーのドライバーの中心同士の距離=600mm弱、左右それぞれのドライバーから左右のそれぞれの耳までの距離=500mm弱)。そしてバスレフの具合と関連してくる背面壁面との距離は75mm前後。バスレフポートに詰めるスポンジは適時抜き挿しして調整しながら試聴した。
というわけでつまり確認すると、「デスクトップに無理矢理詰め込みました」という設置状態と考えてほしい。本機のパフォーマンスを最大限に発揮できる状態ではないが、しかしその条件の中での実力を今回はチェックした。
さてその印象は「さすが!」「期待通り!」だ。
低音側の太さや厚みは無理して出してる感がなく自然に充実。そして音の左右の配置の見え方が美しく、さらには前後の立体感も十分に感じられる。デスク上のスペースは全く余裕がなくなったが、音場の再現性にはかなりの余裕が生まれた。ヘッドホン再生では味わえないスピーカー再生ならではの空間性を存分に楽しめる。
上原ひろみのピアノ・トリオによるプログレ的でアグレッシブな楽曲「MOVE」からは、まずピアノに注目。冒頭の印象的な単音フレーズは輝きと落ち着きを兼ね備えた凛とした音色。音色の余韻も綺麗に響く。和音を強打する場面ではその和音に厚みがあると同時に、低音弦のピアノ線の太さと張力をガツンと感じさせてくれるところが嬉しい。強引なまでの演奏の迫力をきっちりと伝えてきてくれる。
エレクトリックベースは、重さ太さを過剰には主張しない。音場の中央にほどよい存在感ですっと収まる、実に適当な重さ太さだ。音色は芯が強くて濃さや図太さもあり、くっきりと艶やか。
ドラムスのシンバルは、金属素材のトゥイーターの持ち味が生かされているのか、良い具合に明るい音色だ。ライド・シンバルはとても抜けがよく、また金属質の粘り気も感じられる。シンバルの粘り気を感じらせてくれるスピーカーやヘッドホンはあまりないのだが、本機はそこをクリアしている。クラッシュ・シンバルの強打のバシャーンという音色も濁点で迫力を出しつつもどこか澄んだ音色でうるさすぎない。
ドラムスの太鼓類は、バシンスパパンと実にキレがよい。さらに細かく言えば、バシンッの「ッ」の部分の響きというか、その部分のニュアンスまでもが感じられるほどだ。タムは太く、胴の響き、空気感も豊か。
定位について言えばドラムスがやはり秀逸だ。シンバルの一枚一枚の配置、タム回しの移動感、音場の奥に収まりつつその中でのさらに微妙な前後の配置で見せる立体感。全体を見ても、設置した背後の壁面から耳のすぐ前までの限られた空間を最大限に生かした奥行描写による立体感は、今回のようなデスクトップ設置でもここまで実現できるのかと感心させられた。
■バスレフポートの処理はどうする?− スポンジを入れるか入れないか
ここでバスレフの具合について確認しておこう。今回は設置スペースの関係上、本機背面=バスレフポートと壁面との距離は限界まで近付いている。この状態だとその影響で低音が膨らみやすい。
しかし今回の場合、その対応策としてポートにスポンジを詰めると低音に物足りなさを感じた。スポンジを詰めない方が自然な太さがあって好ましく感じる。つまりこのあたりはケース・バイ・ケースだ。今回の僕のように特に対策をしないでも問題ないと感じられる場合もあるし、問題を感じたらスポンジを詰めたり、可能な範囲で設置場所を動かしたりすればよい。
さて続いては全天候型ポップ・ユニット、相対性理論の「ミス・パラレルワールド」。こちらの音源でもやはり空間性に感心させられる。この音源では特に、ギターのそれが印象的だ。
エレクトリックギターはクリーン〜軽く歪んだクランチの音色で演奏されるが、場面に応じてディレイやコーラスといった空間系エフェクトが使われている。また定位も場面ごとに入念に設定されている。それらの効果でギターが空間に浮遊する様子がしっかりと目に浮かぶのは、本機がディレイやコーラスのエフェクト成分を綺麗に拾い上げる再現性、それらを正確に配置する定位の良さを持っているからだ。またこの曲は細かなギター・フレーズがあちこちにさらりと散りばめられているが、小さめにミックスしてあるそれらも、本機はすっと自然に耳に届かせてくれる。届けてくれる情報量、音数が多いという印象だ。
LUNA SEA「JESUS」では歪ませたエレクトリック・ギターのアンサンブルを中心にチェック。歪みのエッジ感、倍音の豊富さは文句なし。演奏も音色もキレキレだ。様々なフレーズが数本重ねられているギターは左右はもちろん前後の配置も明確。例えば左のスピーカーに張り付くようなコードカッティングと音場中央で炸裂するザクザクのリフは、音色と演奏だけではなく定位の面でもコントラストがはっきりとしている。重層的に構築されたアンサンブルをちゃんと再現してくれているのだ。
ボーカルの感触にも大満足だ。田村ゆかりの「Tomorrow(Crown edit)」では、彼女ならではのツンとしていつつもスイートな声が、実にクリアで抜けが素晴らしい。様々な音が重ねられたバンド・サウンドの中から、声がスパッと抜きん出ている。そもそも抜けがよい声質だとは思うが、その点をさらに生かしてくれている印象だ。同軸ドライバーの効果によって音場中央のボーカルにピシッとフォーカスが合っていることは、その大きな要因だろう。またもうひとつ推測できるのは、トゥイーターとウーファーの発音タイミングが正確に揃っているのではないかということだ。帯域ごとにアタックがズレたりすると抜けは鈍るが、本機にはそういう様子が見られないのだ。なおボーカルの音像の大きさ、フォーカス、は大きすぎずピンポイントすぎず、ほどよい。
というわけで、その音は説得力十分。「自分、もっと余裕のある設置をしてもらったらもっといい音出しますよ」的な余力を感じさせつつではあるが、デスクトップに詰め込んだ設置でも納得満足な音を叩き出してくれた。
正直なところ、これを設置するとデスク上のかなりの面積を占有されてしまうので、僕の場合は現実には導入は難しい(僕のデスクはこの連載のテスト&写真撮影スペースでもあるし)。しかし大きめのデスクで場所が余っている方ならアリだと思う。
これだけ本格的なスピーカーでしかもUSB-DACとアンプを内蔵している一台完結型でこのお値段、というお買い得感もある。スピーカー再生に興味をお持ちで、なおかつデスク上のスペースに余裕のある方は、ちょっと大胆な選択肢としてこれを検討してみるのも面白いだろう。
高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi 趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。 |
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