高域まで滑らかな音色
MSB Technology「Analog DAC」レビュー − 最新技術でアナログライクな音を実現
ソル・ガベッタがソロを弾くエルガーのチェロ協奏曲は、チェロとオーケストラそれぞれの余韻が空気中でブレンドしながら広がる様子をリアルに描写し、微小信号を含む膨大な空間情報を忠実に再現していることをうかがわせた。時間軸の揺らぎを抑えきれていない再生系で聴くと、チェロの音像がやたらに大きくなり、オケとの位置関係が曖昧になってしまうのだが、本機の再生音はそれとは対照的なものだ。チェロ以外の独奏パートも含め、音像はいずれもピンポイントで定まり、音域によって定位がふらつくこともない。
ヘンデルのオルガン協奏曲は演奏会場の澄み切った音場のなか、空気をたっぷり含んだオープンな低音が浸透し、遮るもののない広大な空間の存在をこの曲でもはっきり意識することができた。高音域の音色はストップごとの微妙な変化を正確に鳴らし分け、ヴァイオリンやオーボエと音域が重なったフレーズでも音色が飽和することなく、伸び伸びとした響きを体感させてくれる。
女性ジャズヴォーカルは、アンカーで固定したような安定したベースに対し、声のイメージは空気中にフワリと浮かび、両者のコントラストが自然なリアリティを生んでいる。声は高い音域までまったく粗さがなく、「ハーシュネス」と縁のない滑らかな音色を実感。アナログ音源のマスターをそのまま聴くような柔らかさをたたえており、本機の製品名の由来に気づかせてくれた。
ハイレゾでは高音域まで滑らか。不自然な刺激がまったくない
入力モジュールに含まれるUSB端子を介してMacBook Airをつなぎ、ハイレゾ音源を聴く。ヴォーカルはI2S伝送と同様な滑らかさをたたえ、エミリー・バーカーの声から澄んだ音色を引き出してきた。アコースティック・ギターのサウンドにも一切くもりがなく、低音弦が必要以上に膨らまないので和音のバランスがとてもいい。
ウェーバーのクラリネット協奏曲はブレスの感触が生々しいが、クラリネットはオーディオ機器での再現が難しいフォルテの高音域まで滑らかさを失わず、音色の幅に余裕を持って再現していることが分かる。オーケストラは低弦やティンパニの輪郭がぼやけず、芯のある音を再現。この引き締まった感触は同社の製品に共通する美点と思われ、参考のために聴いたUniversal Media Transport plusからも同様のメリットを聴き取ることができた。
DSD音源は5.6MHzの『NAMA』を聴いた。この音源は再生装置によって音の質感が意外なほど変化するのだが、Analog DACはギターのナイロン弦や声の感触が飛び抜けて柔らかく、音量を上げても不自然な刺激がまったくない。この滑らかさには大きな価値があるというのが私の実感だ。ぜひ実機で体験していただきたい。
Specifications
●デジタル入力(3スロット):[RCA&Toslink]、[AES/EBU]、[MSB PRO I2S(32bit)]、[USB2.0]の内3系統を選択装着可(3系統の内1系統は標準価格に含まれる。ほかの2系統はオプション扱い)●許容デジタル入力:PCM→44.1、48、88.2、96、176.4、192、352.8、384(kHz)(各24bitまで※PROI2Sは32bitまで)、DSD→64×、128×(DoP@USB2.0)●アナログ入力:RCA(L/R)●アナログ出力レベル:2.62Vrms(RCA)、2.62Vrms(XLR)※0dBポジション●出力インピーダンス:53Ω(RCA@ボリューム非搭載モデル)、38Ω(RCA@ボリューム搭載モデル)、106Ω(XLR@ボリューム非搭載モデル)、76Ω(XLR@ボリューム搭載モデル)●ボリュームコントロール(※搭載モデルのみ):+9dB〜-69dB(1dBステップ)●アナログXLR出力極性:Pin 1=Ground、Pin 2=Hot、Pin 3=cold●コントロールフィーチャー:リモート、ディスプレー照度(※)、位相反転、ボリュームレベル制限(※)、入力セレクション、フィルター選択(※)、ビットパーフェクトテスト(※印はRS232またはWiFi別ユニット接続時に操作可)●消費電力:30W●サイズ:本体→445W×22(+スパイク16)H×335Dmm、電源→68W×56H×226Dmm(Desktop Power Supply)、445W ×21.5(+スパイク16)H×320Dmm(Analog Power Base)●質量:本体→6kg 電源:→2kg(Desktop Power Supply)、7.5kg(Analog Power Base)●外装:マットブラックまたはマットホワイト●取り扱い:アクシス(株)