[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第106回】ヘッドホン/イヤホンの「バランス駆動」徹底解説!− 基礎知識から聴き比べまで一挙レポート
■バランス駆動の実現条件
せやかて駆動、そない優位やったらバランス駆動はもっと前からもっと普及してへんかったらおかしないか?
…ここまでの説明でそういった疑問をお持ちの方もいらっしゃるだろう。「最近まで」そうなっていなかった理由はやはり、前述の回路構成全体の複雑化や大規模化を伴うという点からだと思う。しかし「いやま」技術的には小型化はさほど難しくなくなったようだし、ヘッドホンブームの到来によって「金なら(出せる範囲で)出す!」というユーザーも増加したはず。そういった土台が整ったことでいまこのタイミングでバランス駆動が盛り上げってきたのではないだろうか。
あと、アンバランス駆動の中での高音質化手法はおおよそやり尽くされ、それより先の格段の向上を実現するには、駆動方式を根本から見直すしかないと判断するメーカーが増えてきたというのもあるのかもしれない。
しかしバランス駆動、その実現へのハードルはいまでもまだ低くはない。バランス駆動システムの構築には次のアイテムを揃えることが必要だ→「バランス駆動対応ヘッドホンアンプ」「バランス駆動対応ヘッドホンまたはイヤホン」「バランス駆動対応ケーブル」
▼バランス駆動対応ヘッドホンアンプ
これは改めての説明は必要ないだろう。バランス駆動のためのアンプ回路と接続端子を備えるヘッドホンアンプはもちろん必須だ。
▼バランス駆動対応ヘッドホンまたはイヤホン
ここがポイント。前述のようにバランス駆動時にはアンプとヘッドホンを、
・L/HOT
・R/HOT
・L/COLD
・R/COLD
…の4つの信号線と端子を持つケーブルで接続する必要がある。そのためにはそもそもヘッドホンがそれに対応していなくてはどうにもならない。
まず問答無用でアウトなのは、ケーブルが直付けでリケーブル(ケーブル交換)ができないモデル。元からバランス駆動専用に設計されていない限り、ケーブル交換でバランス駆動対応にすることはできない。ただし、腕に覚えのある方であれば分解改造してバランス駆動対応にすることは、ものにもよるが可能な場合もある。ケーブルのアンプに接続する側の端子からさかのぼっていけばどこかで必ず左右ドライバーの+とーが別々になっているところに行き着くので、そこから線を引き出せばよい。
次に惜しいけれどアウトなのはケーブル交換可能なんだけれどそのリケーブル端子が左右をまとめた片側出しで3極なモデル。リケーブル端子の時点でそこにアンバランス駆動用のL・R・GNDの信号しか来ていないので、その先をリケーブルしたところでバランス駆動対応にはできない。こちらも信号経路をさかのぼって強引に改造すれば話は別だが。
そして、ここからがバランス駆動に容易に対応できるタイプ。
まずリケーブル対応のイヤホン。イヤホンはそもそもハウジングとの接続部分ではイヤホン左右のケーブルは必然的に分かれており、そこにはドライバーの+とーにつなぐことができる2極の端子が用意されている。そこにバランス駆動用のケーブルをつなげばOKだ。元々は音声信号とグラウンドの接続端子なわけだが、それを+とーに流用するわけだ。
そしてヘッドホンでも、左右のハウジングそれぞれから両出しのリケーブル対応ヘッドホンなら同じ話。
例は多くないが、片出しリケーブルのヘッドホンでもバランス駆動対応が容易なモデルもある。ソニー「MDR-A1」は独立グランドケーブル構造を採用し、アンバランス駆動時にも左右のグラウンドをヘッドホンとアンプの間では分離することで音質改善を図っていることが特長だ。
そしてそれが同時にこのモデルをバランス駆動対応機にもしている。このモデルのリケーブル端子は4極となっていてそれぞれの曲が左右ドライバーの+とーにつながっているので、バランス駆動可も容易なのだ。これは偶然幸運にもではない。ソニーはこれと同時にバランス駆動対応ポータブルアンプ「PHA-3」、本機用の純正バランス駆動ケーブル「MUC-S20BL1」も用意している。それを想定しての設計だ。
▼バランス駆動対応ケーブル
ただしヘッドホン側がバランス駆動レディでも、それ用のバランス駆動対応ケーブルが用意されていないことには、自作は別にして、バランス駆動対応が容易とは言い難い。純正にせよサードパーティ製品にせよそれ用のバランス駆動ケーブルが用意されているかは、まあそこは各モデル個別に調べてもらうしかない。目安としては、
・人気のあるブランドやモデル(特にハイエンド)
・上記と同じ端子を採用しているメーカーやモデル
・全体として採用例の多い端子のモデル
…であれば期待できる。例えばイヤホンだとMMCX端子採用モデルなら、Shure製品を主に想定して発売されたのかもしれないバランス駆動対応リケーブルをそのまま流用できる場合も多いわけだ。