[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第112回】高橋敦の “オーディオ木材” 大全 〜 音と木の関係をまるごと紹介
●加工性
強度とも深く絡むのだが、「加工性」は製品としての生産しやすさに大きな影響を及ぼす。例えば硬く脆い材は削り出しでの整形において、硬いので削りにくいし脆いので欠けやすい。製造に時間がかかったり、特別な設備や人材が必要だったり、歩留まりが悪かったりということになる。となると生産数を増やしにくかったり価格を下げにくかったりするわけだ。「削りやすさ」の他にも「曲げ加工のしやすさ」「塗装等の仕上げの乗りやすさ」とかがポイントになることもあるだろう。
●入手性
こちらも製品としての生産性に大きな影響を及ぼすところだ。広く分布していて多くの数量が安定した低価格で供給されている材であれば、それを利用した製品も安定して低コストに生産しやすい。
一方、入手性が低く、しかし需要のある材には、「希少材」としての存在価値がある。例えば金属を例に取ると、金や銀の価値というか価格の高さは、美しさとか耐食性とか導電性というのもあるのだがそれはさておいて、その基盤はまさにその希少性にある。ビットコインだって、発掘難易度調整でその適当な希少性を維持することでその価値を担保する仕組みだ。
木材で言えば、その樹種自体が環境問題で保護対象になっていて輸出入に制限があるとか、偶然にしか生まれないある特定の杢目が珍重されていたりとか、そういった要素が「希少性」につながっている例が多い。前者は原因が原因、鼈甲や象牙と同じような問題であるので、価格の話だけではなく安易に使うわけにもいかない。木材業界や関連業界が協調して、節度を持って扱っていかなくてはならないところだろう。なお「木目」は板等の形に製材したときに木の年輪等によって現れる木目の流れ一般を、読み方は同じ「もくめ」だが「杢目」は、木目の中でも特殊であったり特に美しいとされているものを指す。
●外観等
いわゆる「木材の暖かみを生かしたルックス」なんてのはまさに木材の見た目や手触りあってこそ。そして同じ「木材の暖かみ」でも樹種等が異なればその暖かみの質が異なる。例えばメイプルのような明るい白木とローズウッドのような暗い色調の木では、醸し出す雰囲気はかなり異なる。また例えばアルダーは大きな木目が出る個体は少ないが、アッシュは大きくてうねるような木目が出やすいといったところも、見た目のポイントになる。
先ほど「希少材」の例として挙げた「偶然にしか生まれないある特定の杢目」というのも、強度や音響的には普通の木目のものと大きく変わるわけではないという意見が多い。では希少で高価な杢目の材は何のために利用されるのかというと、外観の装飾なわけだ。フレイムやタイガーストライプ(虎杢)、バーズアイなどが代表的な杢目。
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