[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第112回】高橋敦の “オーディオ木材” 大全 〜 音と木の関係をまるごと紹介
●特殊処理
基本的な乾燥に加えて、特殊な乾燥処理を施した材もある。「サーモウッド」「ローステッド」等の呼び方をされている材だ。木材を無酸素に近い環境で高温で乾燥させる(普通なら燃えてしまう温度でも無酸素なので燃えない)ことなどでその性質を好ましい方向に変化させるという理屈らしい。
特徴としては、軽くなり、狂いが出にくくなり、耐水性と対腐食性が強まるとのこと。そもそもフィンランドで建築等の屋外用途を意識して開発された技術とのことで、日本でもデッキやフェンスといった普通の木材では痛みやすい部分への導入例が増えつつある。また楽器でも、その安定性からギターやベースのネック材としての利用例を見かけることが増えている。他、人工的に古材の特性を再現する処理など、木材の周辺技術はいまも進化を続けているようだ。
●ピースとプライと積層
「ピース」はざっくりと言うと、幅の狭い板を何枚か並べて板の幅を確保すること。3枚の板を継いであれば3ピースだし、もっと多ければマルチピースなんて呼ばれたりもする。「プライ」はざっくりと言うと、厚さの薄い板を何枚か重ねて板の厚さを確保すること。いわゆる「合板」だ。
ピースとプライは、材を効率的に利用するのに有効な手法だ。そういう意味では、貼り合わせのない完全な「ワンピース(一枚板)」や合板ではない「無垢板」から見て、低コストな安物ではある。
しかし、個体や種類や板目柾目の異なる木材を組み合わせることで全体としての狂いを出にくくしたり音響特性を調整できる、木目の流れ(繊維方向)を90度ずつずらしてプライすることであらゆる方向からの力に対して強度を確保できるなど、ピースやプライならではの利点もある。そういった観点から「あえてピース」「あえてプライ」を選んでいる製品も多くあるのだ。例えば楽器だと、大きな張力のかかる多弦ベースのネックはマルチピース採用が珍しくないし、セミアコースティックギターの表板とかにはプライ材もよく使われている。
また「これはもうプライとかってレベルじゃねーぞ」な「積層」材は、「バーチ」材の項目で例に挙げたように、スピーカーキャビネットの頑強さを高めるために用いられている例が目立つ。
●MDF系
木材を繊維レベルにまで砕いたものを接着用の合成樹脂等と混ぜ合わせて熱して固めて板にしたものを「ファイバーボード」と呼ぶ。身近なところでは、廉価な本棚とかカラーボックスとか呼ばれている家具で多く使われているあれだ。そのファイバーバードの中でも中密度の「MDF(Medium Density Fiberboard)」は特に様々な用途で広く利用されている。
MDFは木材の効率利用という観点からは、ピースやプライを極限まで押し進めたようなものと言える。樹種とか製材方法とかほとんど関係なしにリサイクル材からでも何からでもおおよそ均質に生産できて狂いも出ない。しかし強度は、ものによって様々であるが多くの場合においては、通常の木材に及ばない。また木材ならではの響きとか感触とかそういうものも希薄だ。
ただしさらに、木材ならではの響きが希薄というのは余計な響きを出したくない場面では有用だし、強度も必要十分にはあるし、特に強度の高いMDFというのもあるようだ。そういった特性を巧く生かせば響きではなく制振重視のスピーカーキャビネットやディスクプレーヤーの筐体等には適しているし、実例も少なくない。
また楽器分野においてはMDFをさらに進化させたような素材が以前から一部では採用されている。そういった新素材が大ヒットして定番化した例はないが、もしかしたらその手の新素材は、楽器の世界よりは保守的ではない(と思われる)オーディオの方でならもう少し受け入れられやすいかもしれない。
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