<山本敦のAV進化論 第43回>ハイレゾに迫る音質は本当か
ソニーの“ハイレゾ相当”コーデック「LDAC」の実力とは? 最新ヘッドホン「MDR-1ABT」で検証
もう一つのワイヤレス接続時の新機能が、本体右側のハウジングに搭載されたタッチセンサーコントロールパネルだ。音楽再生時のコントロールが、ヘッドホンを装着したまま行えるので非常に便利だ。ハウジングの表面を指で上下にフリックすればボリューム、左右で曲送りとなり、ダブルタップで再生・一時停止という割り当てだ。ハウジングの表面がほかのMDR-1Aシリーズと異なっており、滑らかでフラットな塗装に仕上がっている。タッチ操作がスムーズにできるだけでなく、外観のメタリックで上品な輝きが活きてくる。
■LDAC再生の音を聴いてみた
今回はヘッドホンと同時期に発売されるウォークマン「NW-ZX2」をリファレンスにLDACの音を試聴した。
NW-ZX2ではLDAC伝送時の音質が3段階で設定できる。伝送ビットレートは音質優先モードで990kbps、標準モードで660kbps、接続優先モードで330kbps。ZX2の場合はデフォルトが音質と接続の安定性のバランスを取った660kbpsに設定されている。リスニング環境に応じて「SBC固定」も選べる。イコライザープリセットの「ClearAudio+」はBluetooth接続のサウンドには反映されない。
SBCの音と聴き比べると「標準モード」あたりから明らかな音質の差を実感できた。音楽の情報量が一段と高まり、中高域の音が滑らかになり、低域のアタックも力強くタイトに引き締まる。帯域間のリニアな一体感が増して、奥行き方向にも立体的なパースペクティブが広がる。オーケストラやバンドの演奏は楽器の音のセパレーションがグンと上がる。
「音質優先モード」でハイレゾを聴くと、その音質はもはやSBCとの比較で語るべきものではなく、ケーブルを接続した有線リスニングのクオリティに肉迫してくる。
ミロシュ・カルダグリッチのアルバム「Latino Gold」から『Barrios Mangore: Un Sueno en la Floresta』(96kHz/24bit・FLAC)では、ガットギターの澄み切った高域の艶やかさと、サスティーンのきめ細かな階調を美しく再現する。トレモロの音色は粒立ちが鮮やかで、低域のハコ鳴りもふくよかに優しく広がる。中低域の透明度が高まるので、空間の広さが見えるようになって演奏のリアリティも増してくる。
ボーカルものではLDACの効果がよりはっきりと表れる。ジェーン・モンハイトのアルバム「The Heart Of The Matter」から『Sing』(88.2kHz/24bit・FLAC)では、声のざらつく感じが消えて、ディティールが鮮明に浮かび上がる。SBCで聴いた時には何となく突っ張って息苦しそうに感じられたハイトーンに、ゆったりとした余裕が生まれる。声質の再現はニュートラルで余分な色づけがなく自然な心地よさが得られる。歌声は明るくメリハリがある。音像の定位感が高まって、バンドの楽器との位置関係も立体的に聞こえるようになる。
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