ドレー、ジェイ・Z、ヤング・・・キーマンは大物ミュージシャン!?
ビートルズやアップルなど様々な噂…海外ハイレゾ&ストリーミング最新事情を元洋楽ディレクターが分析
■ヒップ・ホップ界の巨人JAY-Zが北欧のストリーミング会社を買収
前述のTIDALのサービスを行っている親会社アスピロ(Aspiro)が、ヒップ・ホップ界の巨人ジェイ・Z(本名Shawn Carter)に5,600万ドル(66億円)で買収されることがこの3月に決定的となった。一時はAspiroの株主が買収を阻止しようと動いたらしいが、先日、買収が完了したことが報じられた。ジェイ・Zは全米ソロアーティスト歴代最多の11作のNo.1ヒットを誇る。元デフ・ジャム・レコードのCEOも務めた有能なビジネスマンでもある。ちなみに妻は歌手のビヨンセだ。
買収の対象となったアスピロは、スカンジナビアの音楽ストリーミングの会社。傘下にはTIDALと共に、北欧を中心にドイツ、デンマーク、オランダで50万の有料聴取者を持つ「WiMP」を持っている。Time誌は1月30日付けで「Spotifyの前に立ちふさがったのはテイラー・スウィフトだけではない。ジェイ・Zも自身が買収したストリーミング会社を使ってSpotifyに立ち向かう」と記事にしている。
なぜここでテイラー・スイフトの名前が挙がるかと言うと、彼女はSpotifyの使用料が不当に低いとして、大ヒット中の『1989』を含め自らの作品をSpotifyから撤去したから。世界中で話題となった。ちなみにTIDALでは彼女との間で使用料のトラブルはなく、『1989』を聴くことができる。
買収問題は別として、メリディアンとパートナーシップを組んだTIDALの動きには、今後ともハイレゾ業界から熱い視線が送られている。
■そしてアップルがbeats musicで音楽ストリーミングに本格参入へ
そして、やはりここで注目すべきはアップルである。アップルは2014年、ヒップホップ・アーティストのドクター・ドレーが共同創設者である定額制音楽ストリーミング「Beats Music」をヘッドホンブランド「Beats Electronics」とともに3,000億で買収した。半年以上その動きはベールに包まれていたが、9to5macのレポートなどでようやく少し輪郭が見えてきた。
不確かな情報も含んでいるものの、その骨子は以下のようなものだ。アップルはBeats Musicを、2015年6月頭を目処として、iTunesに組み込むという形でリリースする。月額料金の低価格化はレーベルとの交渉の結果断念し、Spotifyの月額9.99ドルの価格帯とほぼ同じ月額10ドルとなる(Beats Musicも現行は月額9.99ドル)。また、有料オンリーでの提供となるアプリについては、iOSと共にAndroidも登場する。これはアップル初(Beats MusicはすでにAndroidアプリもリリースしている)となる。そして、ブランド名はBeats Musicから変更の予定で、サービスはiOS、iTunes、Apple TVとの連動に重点が置かれる。
ここまでは2月段階の情報だったが、3月に入ってアップルが英国BBCラジオのトップ・プログラマー/DJのゼン・ロウと契約したことから、ネット上ではさらなる憶測が飛び交っている。ゼン・ロウはBBCの番組からアデル、アークティク・モンキーズ、エド・シーランなど英国のトップアーティストを世に出したことで知られる世界的な放送プログラマー。アップルではDr.ドレーの元でBeats Musicの全体構成、さらに新iTunes Musicの編成を担うようだ。
またアップルは2月上旬から英国で編集のプロ(音楽番組制作及び記事などの編集者)を募集している。応募には英語の正確な文章能力と専門的な音楽知識が必要とされ、さらに多数のフリーライター(音楽、文化、映像、美術)をまとめあげる能力が要求されている。ゼン・ロウ及び多数の編集スタッフの募集から、欧米のWEBメディアが憶測するのは下記のような内容だ。
iTunesは有料のストリーミングとともにポッドキャスト配信やWEBマガジンを統合した新しいサービスを作ろうとしている。WEB上で「ローリング・ストーン」誌のようなサブカルチャーのリーダーとなりえるコンテンツを展開するのが目的かもしれない。そしてアップルは独自のライブ・プログラムやスター・アーティストの独占インタビューなどをApple TVを使って提供することを検討している。
ここまでの経緯や推測などをまとめると、指針となるプレイリスト、音楽記事はミュージシャンまたは音楽の専門家によって作られるという点で、ジェイ・Zの獲得したTIDALに近いように思える。Beats Musicもロスレス・ストリーミングを標準に沿えてくるようならば、ドクター・ドレー(Beats Music) 対 ジェイ・Z(TIDAL)の直接対決の要素が強くなるかもしれない。ここでTIDALをBeats Musicを並べてしまうのはいくらなんでも大げさだと感じる方もいるだろうが、錚々たるアーティストを一堂に揃えたTIDALのリローンチ・イベント(ちょうど日本時間の本日31日に開催された)を見ると、そんな考えも浮かんでくる。あるいは、この2人の大物ヒップホッパーによるSpotify包囲網が形成されていくという見方もできるだろうか。
アップルによるBeats Music発表は6月の「WWDC」の可能性が高いと予想されているが、秋までもつれ込む可能性もある。Mastered for iTunesで集積した96kHz/24bitマスターを「MQA」のコーデックを使ってハイレゾ・ストリーミングする新サービスが始まる…などという夢がかなったらうれしい。
本間孝男
Takao Homma
【Profile】1971年、日本コロムビアに入社。40年以上にわたり音楽業界に関わる。76年から洋楽ディレクターとしてのキャリアをスタート。翌年の77年にはセックス・ピストルズを担当し、歴史的名盤『勝手にしやがれ!』の邦題を名づける。また、80年代はコロムビアの洋楽ポピュラーの部門をひとりで担い、ニュー・オーダーやPiL、ピクシーズなど数々の伝説的アーティストを担当した。定年退職を迎えて以降は、ライターとして活動している。
前述のTIDALのサービスを行っている親会社アスピロ(Aspiro)が、ヒップ・ホップ界の巨人ジェイ・Z(本名Shawn Carter)に5,600万ドル(66億円)で買収されることがこの3月に決定的となった。一時はAspiroの株主が買収を阻止しようと動いたらしいが、先日、買収が完了したことが報じられた。ジェイ・Zは全米ソロアーティスト歴代最多の11作のNo.1ヒットを誇る。元デフ・ジャム・レコードのCEOも務めた有能なビジネスマンでもある。ちなみに妻は歌手のビヨンセだ。
買収の対象となったアスピロは、スカンジナビアの音楽ストリーミングの会社。傘下にはTIDALと共に、北欧を中心にドイツ、デンマーク、オランダで50万の有料聴取者を持つ「WiMP」を持っている。Time誌は1月30日付けで「Spotifyの前に立ちふさがったのはテイラー・スウィフトだけではない。ジェイ・Zも自身が買収したストリーミング会社を使ってSpotifyに立ち向かう」と記事にしている。
なぜここでテイラー・スイフトの名前が挙がるかと言うと、彼女はSpotifyの使用料が不当に低いとして、大ヒット中の『1989』を含め自らの作品をSpotifyから撤去したから。世界中で話題となった。ちなみにTIDALでは彼女との間で使用料のトラブルはなく、『1989』を聴くことができる。
買収問題は別として、メリディアンとパートナーシップを組んだTIDALの動きには、今後ともハイレゾ業界から熱い視線が送られている。
■そしてアップルがbeats musicで音楽ストリーミングに本格参入へ
そして、やはりここで注目すべきはアップルである。アップルは2014年、ヒップホップ・アーティストのドクター・ドレーが共同創設者である定額制音楽ストリーミング「Beats Music」をヘッドホンブランド「Beats Electronics」とともに3,000億で買収した。半年以上その動きはベールに包まれていたが、9to5macのレポートなどでようやく少し輪郭が見えてきた。
不確かな情報も含んでいるものの、その骨子は以下のようなものだ。アップルはBeats Musicを、2015年6月頭を目処として、iTunesに組み込むという形でリリースする。月額料金の低価格化はレーベルとの交渉の結果断念し、Spotifyの月額9.99ドルの価格帯とほぼ同じ月額10ドルとなる(Beats Musicも現行は月額9.99ドル)。また、有料オンリーでの提供となるアプリについては、iOSと共にAndroidも登場する。これはアップル初(Beats MusicはすでにAndroidアプリもリリースしている)となる。そして、ブランド名はBeats Musicから変更の予定で、サービスはiOS、iTunes、Apple TVとの連動に重点が置かれる。
ここまでは2月段階の情報だったが、3月に入ってアップルが英国BBCラジオのトップ・プログラマー/DJのゼン・ロウと契約したことから、ネット上ではさらなる憶測が飛び交っている。ゼン・ロウはBBCの番組からアデル、アークティク・モンキーズ、エド・シーランなど英国のトップアーティストを世に出したことで知られる世界的な放送プログラマー。アップルではDr.ドレーの元でBeats Musicの全体構成、さらに新iTunes Musicの編成を担うようだ。
またアップルは2月上旬から英国で編集のプロ(音楽番組制作及び記事などの編集者)を募集している。応募には英語の正確な文章能力と専門的な音楽知識が必要とされ、さらに多数のフリーライター(音楽、文化、映像、美術)をまとめあげる能力が要求されている。ゼン・ロウ及び多数の編集スタッフの募集から、欧米のWEBメディアが憶測するのは下記のような内容だ。
iTunesは有料のストリーミングとともにポッドキャスト配信やWEBマガジンを統合した新しいサービスを作ろうとしている。WEB上で「ローリング・ストーン」誌のようなサブカルチャーのリーダーとなりえるコンテンツを展開するのが目的かもしれない。そしてアップルは独自のライブ・プログラムやスター・アーティストの独占インタビューなどをApple TVを使って提供することを検討している。
ここまでの経緯や推測などをまとめると、指針となるプレイリスト、音楽記事はミュージシャンまたは音楽の専門家によって作られるという点で、ジェイ・Zの獲得したTIDALに近いように思える。Beats Musicもロスレス・ストリーミングを標準に沿えてくるようならば、ドクター・ドレー(Beats Music) 対 ジェイ・Z(TIDAL)の直接対決の要素が強くなるかもしれない。ここでTIDALをBeats Musicを並べてしまうのはいくらなんでも大げさだと感じる方もいるだろうが、錚々たるアーティストを一堂に揃えたTIDALのリローンチ・イベント(ちょうど日本時間の本日31日に開催された)を見ると、そんな考えも浮かんでくる。あるいは、この2人の大物ヒップホッパーによるSpotify包囲網が形成されていくという見方もできるだろうか。
アップルによるBeats Music発表は6月の「WWDC」の可能性が高いと予想されているが、秋までもつれ込む可能性もある。Mastered for iTunesで集積した96kHz/24bitマスターを「MQA」のコーデックを使ってハイレゾ・ストリーミングする新サービスが始まる…などという夢がかなったらうれしい。
本間孝男
Takao Homma
【Profile】1971年、日本コロムビアに入社。40年以上にわたり音楽業界に関わる。76年から洋楽ディレクターとしてのキャリアをスタート。翌年の77年にはセックス・ピストルズを担当し、歴史的名盤『勝手にしやがれ!』の邦題を名づける。また、80年代はコロムビアの洋楽ポピュラーの部門をひとりで担い、ニュー・オーダーやPiL、ピクシーズなど数々の伝説的アーティストを担当した。定年退職を迎えて以降は、ライターとして活動している。