[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第137回】“花澤病ライター”が花澤香菜ソングスにぴったりなヘッドホンをコーディネート!
■I LOVE NEW DAY!×Fidelio L2
花澤香菜さん初の武道館ライブの冒頭を飾ったのはやはり、アルバム「Blue Avenue」の冒頭も飾ってるこの曲だった。エヴァーグリーンなポップスをジャジーに仕上げてさらにブラスでハッピーな感じも上乗せしてあるような曲だ。何となくだがSUGAR BABEのアルバム「SONGS」のような雰囲気も感じるといえば、時代に左右されない普遍的なポップスとしてのその良質さが伝わるだろうか?
アルバムのテーマは「ニューヨーク」で、この曲にはウィル・リー氏やスティーブ・ジョーダン氏といったまさにニューヨーク一流のミュージシャンも参加。しかし曲の印象は、洗練はされているが都会的にクールすぎることはなく、「ニューヨークっていってもそこで生きてる人にとってはそこが日常だよね」みたいな様子で、その日常の中でのちょっとした心踊る気分が伝わってくる。
という印象に合わせて選んだヘッドホンがFidelio「L2」だ。実売2万円程度であるから決して安いモデルではなく、またデザインや仕上げも価格相応以上に見事。
なのだが音の傾向は「いかにもハイエンド!」というタイプではない。クリアとかフラットバランスとかそういう要素も必要十分には確保しつつ、そこに偏りもしないで味付けもしてある。ベースやドラムスなど中低音楽器の太さや勢いを少し強め、また質感表現にもちょっとした荒さがあるといった音調。大人としての完成度や節度は備えつつ、子供っぽいやんちゃさや不器用さも備える。そんなヘッドホンだ。そんなところがこの曲の「日常の中のワクワク感」にフィットするということでのセレクト。
この曲はシンプルだからこそ一気に引き込まれるフィルインからのドラムで始まるが、その太鼓らしい太さと抜け、弾みに注目。そしてスネアドラムのスナッピー(響き線)のザシュッとした荒さ、音色の濁点の気持ちよさもポイントだ。ブラスにも同じようによい具合に荒っぽい勢いや質感を感じられる。
全体に音像はやや大柄で、鉛筆で言うと少し先の丸まってきたところでぐいぐい描き出しているかのような印象でもある。解像感、音の分離、空間性といった要素よりも、なじみやまとまり、躍動感が先に来る感じだ。例えばハイハットシンバルのシャープさとかはこのモデルは、ハイエンドヘッドホンの中ではそれを得意とするタイプではない。一方でいわゆる大きなグルーヴの表現は得意だし、ピンポイントでいうと曲の中盤、リズムのキメを打ちながらのベースソロとそこからのブラスの流れなどでは、その躍動感が特にほとばしっている。
逆にもう少し都会的なニューヨークっぽさでこの曲を楽しみたい場合は、ここまでに述べたあたりを綺麗に整えて表現してくれるタイプのヘッドホンを選ぶのがよいだろう。
肝心の花澤さんの歌だがここでもやはり、飾らず力まず楽しそうに歌うこの曲での花澤さんには合っていると思う。細やかな息づかいとかを聴き込むにはもっと「いかにもハイエンド!」なヘッドホンの方が合うとは思うが、この曲ならこれもあり!だ。