海外で話題の革新的音楽管理・再生ソフトをレビュー
クラウド/ローカルをシームレスにつなぐ“総合音楽鑑賞プレーヤーソフト”「Roon」の魔法とは?
■Roonがネットオーディオにもたらすもの
音源をデジタルファイルとして扱うメリットを享受し、快適な音楽再生を実現するためには必要不可欠だった音源管理という面倒な作業をRoonは肩代わりし、Roon色でライブラリを仕上げてくれる。そうして出来上がったライブラリはほとんどのユーザーに不満を抱かせないばかりか、膨大な情報を繋ぎ合わせて「音楽の海」を構築することにより、未曾有の音楽体験をも提供する。
既に実現できていた「すべての音源に自分自身の意思を反映させることで構築される、聴きたい曲に瞬く間に辿り着ける自分にとって理想のライブラリ」とはまた違ったライブラリの在り方である。Roonはまさに「音楽を楽しむ」という点において、非常に大きな可能性を持っている。
とはいえ、問題がないわけではない。まず、強力極まりないRoonのデータベースも、決して完璧ではないこと。まったくデータが見つからないこともあれば、適用されたデータが間違っていることもある。そのような時は、結局自分自身で修正する必要が出てくる。仕方がないとは思うが、邦楽になるとデータベースの情報量が極端に落ちることも問題と言えば問題だ。
そして、ライブラリが自分自身のコントロールから離れ、Roon色に染め上げられてしまうこと、それ自体が気に入らないという人もいるだろう。特に厳密な自分ルールに基づいて音源管理を行っている人ほど、ライブラリの主導権を奪われた際の影響が大きい。
アルバムタイトルにせよ、アーティストにせよ、ジャンルにせよ、自分にとって分かりやすい情報を入れているのに、Roonは一切お構いなしにそれらを上書きする。音源に割り当てられるジャンルが増えれば音源に辿り着く経路も増えるが、一つの音源が複数のジャンルに同時に存在することにもなり、ライブラリの無用な肥大化を招きかねない。
項目単位でRoonのデータと音源自体のタグのどちらを表示させるかを選ぶことは可能だが、あくまでRoonのデータが優先されるようになっており、逆にRoonのデータを使わないのであれば有機的な音楽情報の繋がりも小さくなる。最終的にはRoonを使う意味がなくなってしまう。
Roonの魔法はライブラリを全面的にRoonに委ねるからこそ機能する。「視覚的な情報が十分確保され、聴きたい曲に瞬く間に辿り着ける」というだけならRoonを使わずとも既に実現できているので、Roonが提供する「音楽情報の海」にどれだけ価値を見いだすかが、Roonを導入する際に重要になる。
自らの意思をひとつひとつ反映させていくも良し、Roonにお任せするも良し。「美しく使いやすいライブラリの構築」という意味では、両者の目指す所は同じである。Roonを使うとしても、音源に注いだ愛情は決して無駄にならない。
ちなみに、LUMINのネットワークプレーヤーは、現時点でもAirPlay経由での出力先としても設定できるのだが、本格的にこのRoonと統合した機能を開発中であることを表明している。ネットワークプレーヤーなどのオーディオ機器との連携が強化されれば、Roonの可能性はさらに広がるだろう。
音源のクラウド化が進んでいる昨今、ライブラリをローカルとクラウドの区別なく、美しく、楽しく提示することはますます重要になってきている。一方で、ネットオーディオの領域においては、アルバムアートもアルバムタイトルもアーティストも何一つ表示されずとも、ただ「聴けるだけで満足」という風潮も残念ながら未だに根強い。
Roonはそんな状況に異を唱えた。そして「再生ソフト」の枠から飛び出し、「総合音楽鑑賞ソフト」と呼べる段階にまで進化することで、状況を打破し得る力を手に入れた。ネットオーディオはもっと快適に、もっと楽しくなるのだということをRoonは示している。
(逆木 一)