[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第143回】あのFitEarがハイブリッド型に挑んだ! 最新カスタムIEM「Air」の魅力とは?
■空気には抵抗やバネ性がある
まず大前提は「空気には抵抗やバネ性がある」ということだ。さらに言えば「特に閉じ込められた空気は強い抵抗やバネ性を持つ」ことが問題となる。
常人ならどれだけ全力で走っても空気に跳ね返されるようなことはないと思うが、その空気をビーチボールに詰め込んで閉じ込めたら、そこに弾力、バネ性が生まれていることを実感できるだろう。あるいは密閉された部屋のドアやタンス等を勢いよく閉じようとしたら抵抗や反発を感じた。そんな経験もあるかもしれない。
そしてBA型ドライバーよりも振動板面積が広いダイナミック型ドライバーは、その抵抗やバネ性、反発力の影響を受けやすい。このモデルの公式解説での言い方に倣えば、「気圧変化による動作規制」を受けやすいのだ。
つまりイヤモニとしての遮音性を高めるために耳の穴をぴったりと塞ぐとそこに密閉空間が生まれ、そこに閉じ込められた空気のバネに振動板が負けて動作が不正確になり、そのドライバーが本来発揮できるはずの特性を発揮できなくなる。そういう問題が生まれる。
その問題を回避するための一般的な手法は「ベント」、空気孔の設置だ。空気のバネ性は空気が閉じ込められているから発生するのであって、ハウジングに空気孔を開けて空気の出入りをある程度自由にすれば、それを低減できる。またベントは音質調整にも利用できるので一石二鳥だ。
ただしベントを設置して空気を出し入れすれば当然そこから音も出入りするので、程度の差はあるが、多少の遮音性と音漏れは回避しにくい。多少のそれを大問題と考えるか否かは開発者やユーザーの考え方や好み次第だ。その「次第」の話だが、音楽再生においてダイナミックレンジを重視するFitEarとしては、外部騒音の混入によるS/N低下は大問題。ベント設置は避けたい。
そこで考え出されたのが「ショートレッグシェル」だ。