[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第164回】本当に乗り換える価値アリ?「AK70」とAK歴代エントリーDAPを比べてみた
■実際に比べてみる!歴代エントリーAKの音を確認
…とはいえ音でしょ! 100IIや300よりは小さくて100MKIIやJrより音がよければ、乗り換える動機として十分!という方がやはり多いことだろう。そこを聴き比べていこう。
今回イヤホンは「AK T8IE MKII」を使用した。
AK70はバランス駆動対応なので、そこまで含めてできるだけ揃えた条件で比較したい。このイヤホンには純正バランス駆動対応ケーブル、すなわち純正付属のシングルエンドケーブルと条件が近いバランス駆動ケーブルが付属するので、その点で都合がよかったのだ。もちろん、そもそもこのイヤホンの音質が高いレベルにあり、また僕の好みにも合致していることも前提だが。
ただこのイヤホン。ハウジングとイヤーピースの形に癖があり、合う人には素晴らしい装着感を提供する代わりに、合わない人には緩すぎたりして音質的にも力を発揮できない。コンプライイヤーピースも付属しており、そちらを使えばだいたい何とかなるが、「相性問題は出やすいタイプ」であることは否めない。検討している方は何とかして、できるだけイヤーピースも含めて試聴試着をしてみてほしい。
しかし幸いにも僕の耳にはフィットしてくれていて、前述のようにとても気に入っている。以降の参考までにこのイヤホン側の音の特徴もいくつか挙げておくと、
・ダイナミック型らしいジャキンと心地よい鋭さの高域
・低域のさらに下の深い鳴りや響きの帯域の豊かさ
・巧妙なベント(空気孔)のおかげなのかの自然な空間性
…といったところ。
ではまず、懐かしのAK100MKIIの音を確認。
…そういえば先日、ポータブルオーディオ界隈の知り合いの高校生と小倉唯さんのライブ会場の前で少し話をしたのだが、そのときにこのモデルを見せたら「これ知ってます。でも実物を見る前に販売終わってました」とのこと。若えっ!時代、早えっ!
今回はこれをスタート地点、基準としてJrと70を評価していく流れということで、これ自体についてはまずは簡単に。中低域の厚みや力強さに若干欠ける…というのは当時からこのモデルの弱みとして指摘されていたかと思うが、今回は組み合わせたイヤホンがそこに強みを持っており、トータルではそこはさほど気にならない。
ボーカルや空気感などはややドライというか、味気ないさっぱり感になってしまっているかもしれない。オーディオで言うところのモニターライクではなく、もっと実務的なモニター機の音のような印象でもある。
というのを受けて、続いてはAK Jr。相対性理論「たまたまニュータウン (2DK session)」冒頭のバスドラムからベースは、太さや厚みは出しつつ、輪郭の明瞭度や音のまとまりもよくなっている印象。そのおかげで全体にもわっとした感じが薄れてクリアさを増す。
その上で低音楽器の感触も異なる。弾力というかもっちり感というか肉感というか、それが押し出されていてベースが動かずにルート音を連打する場面でも、そのシンプルなフレーズの中での音の弾みといったものを感じやすい。一言で言えば、躍動感があるということだ。中高域側、ボーカルの手触りやギターのエッジなども中高域の感触も、こちらの方が滑らかで整っているしクリアと感じる。
しかしQ-MHz feat. 小松未可子「ふれてよ」では、ベースの存在感が出すぎているような気も。この曲はアレンジにおいてそもそもベースの役割が大きいと思うのだが、だからこそ、うっかりそれを目立たせてしまうとボーカルと並ぶ主役にまで躍り出てきてしまう。歌ものとしてはそれはまずい。さすがにそこまでのことにはなっていないが、傾向としてはそっち寄りではある。
さてベース周りのそこは、「たまたまニュータウン」とは印象が異なる。「ふれてよ」の方が、フレーズの音程にしても音色の帯域にしても低いポジションにいる気がするので、より低い低域にまで踏み込むと抑えが緩くなりがち…ということかもしれない。
ということで僕の印象としては、
・相対性理論「たまたまニュータウン (2DK session)」はクリアな音調や空間性なJrの方がいい感じ。
・Q-MHz feat. 小松未可子「ふれてよ」は整えすぎず、それでいてさっぱりした感じな100MKIIの方がいい感じ。
・他にもいくつか曲を聴いてみたところ、やはり相性の良し悪しがあり、一概には優劣を付けづらい。「Jrの方がよい場合が多いが、100MKIIの方がよいこともちょいちょいある」
…といった感じだ。