[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第164回】本当に乗り換える価値アリ?「AK70」とAK歴代エントリーDAPを比べてみた
■実際に比べてみる!AK70の音は?
では本題のAK70。まずはシングルエンド駆動。
相対性理論「たまたまニュータウン (2DK session)」冒頭のバスドラムやベースはやや大柄で響きも豊かだが、それでいて引き締められた弾力も感じる。太いが緩くはない。続いて入ってくるハイハットシンバルやギターは、Jrよりさらにもう少しクリアで、音色の明るさによってそのクリアさがさらに際立っている。
演劇の舞台に喩えるなら、役者たちの演技が大きめの劇場に向けて少し大きくなり、照明も少し明るめになったような雰囲気だ。見る側からすれば見やすく、演じる側からすれば届きやすい。かといって大袈裟にデフォルメされているというわけでもなく、演出として普通にあり得る範囲だ。このあたりはそういう音作りをしているのもあるだろうし、アンプがパワー的にかなり強化されているようなので、その余裕のおかげでこういう音作りが可能になったのかなとも思う。
Q-MHz feat. 小松未可子「ふれてよ」ではベースのよさが光る。前述のようにこの曲のベースはオーディオ再生側としては表現が難しいところもあるのだが、AK70はこのベースにアレンジの主役としてのパワーは注ぎ込みつつ、曲の主役のスペースはボーカルにしっかりと空けておいてくれているのだ。
ベースに注ぎ込まれたパワーが飽和してしまうと、ベースの余計な帯域が膨らんだり輪郭がぼわんとぼやけたりする。するとそれがボーカルにかぶったり空間全体を埋めてしまったりで、ボーカル周りも全体もすっきりしなくなる。AK70のアンプはベースの音色にパワーを注ぎ込みつつそのベースの手綱を握る制動力も備えており、他の邪魔はさせずにアンサンブルをぐいぐいっと引っ張らせる。そんな印象だ。
小松未可子さんの歌もほどよく明るく、それでいて落ち着きも損ねすぎておらず、好印象。ドラムスやベースだけでなくアコースティックギターなどでも音の立ち上がりがパシッと速く、そこも気持ちよい。ここもアンプの力が大きいだろう。
さらにバランス駆動。シングルエンドと比べると音像が少しコンパクトになり、すっきりとした印象だ。舞台の喩えで言うならば、大劇場向けの大きな演技からもう少し小さな劇場に合わせたより細やかな演技や照明に切り替えたような、といったところだろうか。
しかし、例えばベースに顕著だが、音像としてはコンパクトになってもパワーは変わっていない。より小さなサイズにシングルエンド時と同等のエネルギーを詰め込んであるというか、密度や比重が高い音になってくれている。中高域もシャープさを増しつつ、そのシャープさは不快なものではない。
ポータブルオーディオということで言えば、シングルエンド時のわかりやすい演技や照明の方が、屋外という悪条件の舞台では映えるかもしれない。そこは組み合わせるイヤホンの遮音性などにもよるし、もっと単純に好み次第とも言える。選択肢がふたつあるということ、それ自体に文句のある人はあまりいないだろう。