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<IFA>有機EL/液晶/4Kプロジェクター…次世代画質を競う各社製品を山之内正がレビュー
■最も画質が良かったのはソニーの「バックライトマスタードライブ」搭載液晶テレビ
ひときわ巨大なブースを構えるサムスンは、今回も量子ドット(Quantom Dot)を採用した「SUHDテレビ」の展示に広大なスペースを割り当てて、「これがテレビだ!」という挑戦的なキャッチコピーでSUHDシリーズの優位性をアピールした。
たしかに、見た瞬間に目を引く鮮やかさがあり、色の豊かさとコントラストの高さを見る者に強く印象付ける映像ではある。だが、ディスプレイの前に立ち止まってじっく見ていると、なぜか妙にフラットな映像に感じられ、遠近感や立体感が伝わってこないことに気付く。デモ映像自体にも原因があるのかもしれないが、4Kらしい精細感もあまり感じられず、極端な例では実写なのかCGなのか判別しづらいようなケースもあるほどだ。量子ドット技術の優位性を伝えるためには、ディスプレイとしての画質をさらに追い込む必要があると感じた。
画質チューニングの完成度が一番高いと感じたのは、ここまで紹介してきた「次世代テレビ」ではなく、液晶のバックライト制御に新技術を投入したソニーのZ9Dシリーズが見せる映像であった。国内仕様の製品は先週発表されたばかりだが、欧州では先行してZD9シリーズとして発売済みで、筆者もベルリン市内の販売店などで時間をかけて画質を確認する機会があった。
ソニーのLEDバックライトはHDRを視野に入れた力強いコントラストに特徴があるが、今回導入された「バックライトマスタードライブ」は、高密度に配置されたLEDをダイレクト駆動する方式として新規に開発されたものだ。LED層と液晶パネルの間に配置した光学系の設計の巧みさ、一新した制御アルゴリズムの完成度の高さなどが威力を発揮し、今回の画質改善の大きさは近年のソニー製品のなかでも群を抜くレベルに到達している。
都市の空撮映像や海岸沿いの風景などを見ると、精緻な立体感が際立ち、実際に肉眼で経験する距離感や遠近感に非常に近い印象を受ける。細部までコントラストを確保した光学性能と、HDRの長所を引き出す高精度な信号処理が相乗効果を生んでいることは明らかだ。
『ANNIE/アニー』の1シーンは、撮影監督の意図を的確に再現する例として注目に値する。ヘリの窓越しに映るマンハッタンの街並みは黄金色の光線の美しさが際立ち、実際の風景を肉眼で見ているような錯覚に陥る。
従来のバックライト機構とは異なり、漏れ光などの副作用はほとんど気にならないレベルにまで抑えていることにも注目したい。以前の製品では映像の内容によってバックライトの挙動そのものを見せられているように感じてしまう瞬間があったが、今回のZ9Dシリーズではバックライトが文字通り裏方に徹して、その存在が消えたように感じる。
OLEDなど新しいデバイスが高いポテンシャルを持っていることはたしかだが、テレビの画質はデバイスの優位性だけでは決まらない。ソニーのZ9Dシリーズはその端的な例の一つである。