[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第169回】新世代ハイブリッドイヤホン3機種聴き比べ! AKG「N40」/ONKYO「E900M」/SONY「XBA-N3」
改めて並べるとハイブリッド型には大きく以下2つの系統があるわけだ。
●BAマルチの一部、主には当時のBAドライバーが特に苦手としていた低域の担当をそこは得意なダイナミックに置き換えるという発想からのハイブリッド型
●ダイナミック型ドライバーを主役に高域担当としてBAを組み合わせる発想からのハイブリッド型
なお、どちらにも該当しないものとしてDynamic Motion「DM200H」(関連ニュース)がある。BA型とダイナミック型の同軸「一体型」ドライバーを自社開発して搭載しており、「組み合わせて」ではなく「そもそもハイブリッド」という新世代ハイブリッドだ。
一口にハイブリッド型と言っても、そもそもの発想も、その実現のために採られた手法もひとつではない。しかしいずれにせよ、狙うは「ダイナミックとBAのいいとこ取り」、「ダイナミックの弱いところあるいはBAの弱いところをもう一方を組み合わせることで補う」というところにある。
といったようなことを踏まえてもらった上で、その流れの最先端に登場した新製品を見ていこうと思う。まずは各モデルの注目点を写真も添えてざっと紹介、その後に全モデルまとめて音質の印象を述べていく。
▼AKG「N40」
2011年登場のAKG「K3003」。時代的にはハイブリッド極初期のモデルでありながら現在でも超ハイエンドハイブリッドの最高峰のひとつとしての地位を譲ることがない、揺るぎなき名品だ。
そのエッセンスを抽出して継承し、現代的に洗練させてより手頃な価格でより使いやすいモデルとして完成されたのが、このAKG「N40」となる。『遂に』『待望の』登場と言って差し支えないだろう。
K3003との最も大きな違いは、
●K3003 |3ウェイ|低域ダイナミック+中域BA+高域BA
●N40 |2ウェイ|低域ダイナミック+中高域BA
と、ハイブリッド構成が簡略化されていることだ。
一方で、そのハイブリッド構成において継承されている要素として見逃せないのは、各帯域各ドライバーに送り込む音声信号をエレクトリックで分割/調整したりするネットワーク回路は使用せず、フィルターやノズル周りなどのアコースティックな処理のみで各ドライバーのバランスを調整してチューニングを行なっているところだ。
それらを合わせて考えると、3ウェイから2ウェイへの簡略化は単純に「ドライバーを減らしたら部材コストを下げられる」という話ではないだろう。ドライバー構成をシンプルにすることでアコースティックチューニング周りもシンプルにできるなど、設計から製造まで、総合的なコストダウンやチューニングのまとめやすさにつながっているものと思われる。
K3003の経験も経て、現在のAKGのハイブリッド開発ノウハウは2011年当時よりも格段に向上しているはず。現在の技術であればよりシンプルな構成でも高いサウンドクオリティを達成できる。ならばシンプルな構成にした方がサウンド的にもコスト的にも利点が多い。そういうことかもしれない。
その他にも注目点として、「メカニカル・チューニング・フィルター機構を継承し、ユーザー側でも音の調整が可能」「同社初の耳掛け式ケーブルを採用」「同社初のMMCXリケーブルを採用」などが挙げられる。フィルター交換とリケーブル対応のおかげで色々と融通も利くモデルとなっている。
耳掛け式ケーブルのその“耳掛け部分”はいわゆる「針金」ではなく、形状の固定されたしかし極めて柔軟な素材だ。その形状の具合のよさと表面のソフトタッチさ、そしてイヤホン本体の形状も合わせて、装着感はとてもよい!と感じられた。僕がこれまでに試した耳掛け方式のイヤホンの中で最上級の装着感だ。
唯一弱点かもと感じられるのは遮音性。極端に低いというほどではないが、今回並べたモデルの中では低めだ。