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[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域

【第169回】新世代ハイブリッドイヤホン3機種聴き比べ! AKG「N40」/ONKYO「E900M」/SONY「XBA-N3」

公開日 2016/11/04 10:10 高橋敦
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3モデルの音をチェック!

それでは各モデルの音の印象を述べていこう。まずはAKG「N40」から。こちらは主に「リファレンス」フィルターを装着した状態で試聴した。なのでここから述べる印象から「高域をもう少しシャープに」「高域をもう少しソフトにして中低域を前に」という調整の余地も残されていることにも留意してほしい。

全体的な印象を一言にまとめると、「最上級のリスニングサウンド」といった感触だ。十分な再現性や忠実度も備えるが、厳格さよりも包容力を感じさせる人柄、音柄という印象。耳を凝らせば情報量も豊かだが、そこを意識せず音に耳をまかせるような聴き方との相性もよい。

例えば、相対性理論「たまたまニュータウン (2DK session)」のキレッキレに刻むハイハットシンバルは、ジャギッと金属的なエッジ感は強調せずにシュッと綺麗なキレ具合で表現。高域の音色のこういった雰囲気は、AKG開放型ヘッドホンのそれに通じるものがある。

相対性理論「たまたまニュータウン (2DK session)」

低域側の楽器、バスドラムやベースの超低域の響きは薄味。そのあたりは密閉性の高いモデルの方が有利なところなので、このモデルがそこを得意としないことは頷ける。代わりにくっきりとしたアタックと音像でリズムを明確に打ち出しつつ、響きが自然に広がる様子は見事だ。こちらは筐体内の空気をうまく抜いたチューニングの効果が発揮されているところかもしれない。

そして響きの広がりのよさを感じられるということからもわかると思うが、そもそもの空間の広さ、空気感の豊かさも見事。というかイヤホンとして最上級だ。厳しすぎない音が余裕のある空間に広く配置されるおかげで、前述の「厳格さよりも包容感」という印象になっているのだろう。

続いてONKYO「E900M」。このモデルの全体的な印象は、「すっきりナチュラル軽やかに」といった感触だ。

元々「E700」がダイナミック型っぽさは前面に押し出さずこういった音調だったのだが、ハイブリッドになってもそれを継承して強みを伸ばしてきている。

相対性理論「たまたまニュータウン (2DK session)」のバスドラムとベースは、ナチュラルに明瞭なアタックから透明感の高い響きが豊かに広がる。がっしりとした重みや厚みがほしい方には合わないかと思うが、軽やかでスピード感のある中低域を好み、空気感や空間性を重視する方にはかなりフィットするだろう。エレクトリックギターのクリアさ、声の息遣いの自然なシャープさなど、中高域の感触も抜群に良い。

このあたりはやはり、こういう音作りを狙ってこういう音にするために、大胆なポートを筆頭にある程度特化型なチューニングを施されているためではないかと思う。もちろん中低域の厚み重みも必要十分には確保している。その上で個性そして強みとなる広がりや抜け、中高域などを伸ばすことの方に注力したのではないだろうか。

とはいえ例えばglobe「DEPARTURES(Remode 2 Ver.)」では低域側にも光るものがあった。この曲のベースはドライな感触で深く沈むのだが、そのドライさ、もたつかずさっぱりと軽やかな手応えで沈み込む様子を一番それらしく表現してくれたのはこのモデルだ。いわゆる重低音だけがベースの魅力ではない。この軽やかな低音への追従力は、例えばジャズのウッドベースなどとも相性がよさそうだ。

globe「DEPARTURES(Remode 2 Ver.)」

最後にSONY「XBA-N3」を聴く。本機の全体的印象を一言で言うと、「濃厚に、しなやかに」といった感触。

E900Mの「すっきりナチュラル軽やかに」な感触とは、ハイブリッド型というところでは共通でありながらも、音の方向性としては120度くらいは違う。E900Mは「BAマルチ発展型ハイブリッド」的な印象、こちらは「ダイナミックをBAで補強型ハイブリッド」寄り、といった感じだろうか。

相対性理論「たまたまニュータウン (2DK session)」でも、その中低域の厚みや迫力からダイナミックの側の支配力が強い印象を受ける。エレクトリックギターも肉厚に感じるので、上の帯域までにその支配力は及んでいるようだ。響き方にしても、バスドラムの低く大きな響きのその低さと大きさに、BAではなくダイナミック型ならではの振動板面積の余裕、音の自然な広がりを感じる。

Q-MHz feat. 小松未可子「ふれてよ」では、声とアコースティックギターの柔らかさ、しなやかさ、ほぐれ、そういった感触の表現が特に秀逸だ。軽く歪んだエレクトリックギターのカッティングも軋むようなエッジを強くは出さずにほどよくほぐす。かといって全体が甘くぼやけることもない。

Q-MHz feat. 小松未可子「ふれてよ」

空間の広がりは、イヤホン全般からして絶対的に狭いわけではないが、今回ピックアップしたモデルの中で相対的にはこのモデルがいちばん狭い。だがそこは誰にとっても広ければ広いほど良いというものでもないだろう。中低域の濃さと広すぎない空間が相まって、このモデルの音場や空気感にはイヤホンらしい密度感がある。例えば音数の多いメタルなどでは、空間に余裕がありすぎて「すかっと“してしまう”」のはぴんと来ない方もいらっしゃるだろう。そんなときこのモデルなら音をいい感じに「詰め込んで“くれる”」。

また他の面としては「音漏れが少ない」「耳掛けでないからこその付け外しの気楽さ」というところも、今回ピックアップした中でこモデルならではの特徴だ。使い勝手の面ではポイントになるだろう。

まとめ
さて、3モデルの特徴を改めてコンパクトにまとめてみる。

・AKG「N40」は、得て不得手の少ない最上級のリスニングサウンドを備え、装着感も最上級。遮音性の低さは弱点だが、他のすごさがそれを補って余りある!

・ONKYO「E900M」はすっきりナチュラル軽やかなサウンドを備え、好みや曲との相性は出そうだがそこにハマればかなり強い!BAマルチ好きの人にも試してみてほしい

・SONY「XBA-N3」は濃厚でしなやかで、密度感のあるスタンダードなハイクラスサウンド。新イヤーピースのおかげもあり、装着感や遮音性、付け外しの楽さなど、屋外での使い勝手のよさもポイントだ


ハイブリッド型というのは強力に特徴的な要素ではあるが、しかしそれもやはり音作りの一要素、手段手法のひとつでしかない。だからハイブリッド型という点では同じモデルでも、音の個性にはこれほどの幅があるのだ。その幅を見極めそして楽しんで、自分に合うモデルを見つけ出してほしい。

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