[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第169回】新世代ハイブリッドイヤホン3機種聴き比べ! AKG「N40」/ONKYO「E900M」/SONY「XBA-N3」
▼ONKYO「E900M」
近年のオンキヨーではダイナミック型ドライバー搭載「E700M」が高い評価を得ており、その上の型番となるこの「E900M」にも当然大きな注目が集まる。今回紹介する中では、他は2ウェイに対してこれのみ3ウェイ構成(D+BA+BA)というのもポイント。
実は正直なところ、高評価のダイナミック型の少なくとも型番と価格からしてはその上位となるモデルがオンキヨー初のハイブリッド型というのは、その情報を知ったときには「いやそれは期待してたのと違う…」と思った。また実物のルックスを最初に見たときにも「いやこれは期待してたのと違う…」と思っていた…のだが、音を聴いたら「ああこれはE700Mと同じシリーズの音だ」と納得した。
改めて考えてみると、「このシリーズの音」の要はドライバーがどうこうではなく、開発陣の音作りの方向性、それを具現化するための大胆なアコースティックチューニングによる部分が大きいということなのだろう。ハイブリッドありきではなくシリーズの音が先にあり、その方向性のままでさらなる向上を得る手段としてハイブリッドが選択されたといった印象を受ける。その推測が正解とすれば、実に真っ当な理由と手法だ。
その「大胆なアコースティックチューニング」とは何かということだが、それが表に現れているのがこの大胆なベントポート、シェル内の空気圧を抜くための空気孔だ。
この大口径ポートが全体のデザイン要素の中でも際立つアクセントになっている。このポートありきのデザインだ。このポートがこのイヤホンの要だと一目でわかる、わからせる。その姿に…“狙い”がそのまま現れている。密閉性頼りで低音を稼いだり音漏れ低減のために音作りを妥協したりは絶対にしない。必ず音作りを最優先にすると誓いを立てている。あっぱれ也オンキヨー!!!
さて、勢いだけで押し切るのもあれなので、そこについてちゃんと説明しておこう。ダイナミック型はBA型よりも圧倒的に振動板が大きい。だからこそ中低域の再生能力に強みがあるのだが、振動板の面積が大きくなれば相対的な厚みは薄くなるので強度は下がり、外力によって変形しやすくなる。
そしてイヤホンでは密閉性を高めるほどに遮音性が高まるが、密閉性を高めるとシェル内部や耳の中に空気が閉じ込められ、閉じ込められた空気の弾力や抵抗が振動板の動きを阻害しそれを変形させる要素、外力になってしまうのだ。つまりダイナミック型ドライバー搭載イヤホンにおいて密閉性は音質と相反する部分が大きい。
そこでこのモデルは「密閉性についてはある程度は妥協し。音質についてはどの程度も妥協しない」という方針を選んだと思われる。
…とは言ったが実はこのモデル、遮音性はN40より上だと感じた。というのも、遮音性に定評のあるコンプライのイヤーピースも標準付属しているのだ。イヤホン本体は音抜けや広がりを重視した設計として遮音性はイヤーピースで稼ぎ、最後にイヤーピースの特性も込みでチューニングしてまとめあげる。そういった狙いや手法を採ったのかもしれない。
ケーブルは極めてしなやかで耳への掛け心地はとても良い。一方で、しなやかな上に表面がしっとりとして滑りにくいことからか、絡まりやすくほどきにくいのが弱点だ。収納時はケーブルホルダーなどを利用して綺麗にしっかりとまとめておいた方が良いだろう。
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