レコードの「本当の音」を聴くために
レコード再生におけるEQカーブとは? 3種類のRIAAカーブを「micro iPhono2」で探る
■盤によって異なる結果となった、3種類の「RIAA」
RIAA-IECカーブを設定できるフォノイコライザーはいくつかあるが、比較的低価格のものとしてはiFI-Audio「micro iPhono2」や、M2TECHのデジタルフォノイコライザー「Evo PhonoDAC Two」と「JOPLIN MK2」がある。
M2TECH「Evo PhonoDAC Two」「JOPLIN MK2」では、IEC既定のカーブのほか、環境に合わせて低域の減衰量を複数の設定から選択することが可能だ。iFI-Audio「micro iPhono2」については、Enhanced RIAAカーブを設定することができる。
■micro iPhono2を使って3種類のRIAAカーブを検証
同じRIAAを名乗るカーブのでも、どのような変化がみられるのか。RIAA/RIAA-IEC/Enhanced RIAAそれぞれに設定できるmicro iPhono2を使い、各種カーブで『ショルティ(指揮)、シカゴ交響楽団/春の祭典』をリリース年の異なる英DECCA盤、国内盤、Speakers Corner復刻盤の3枚で聴き比べてみた。
まずは国内盤。帯にも書かれている通り、ノイマンのカッティングマシンを使っている。まずはスタンダードなRIAAカーブに設定して聴くと、音場にゆがみが感じられ、定位も曖昧な印象だ。また、金管の音の飛びもいまいちである。Enhanced-RIAAカーブに切り換えてみると、こうした音調がピントを合わせたかのようにはっきりしてくる。少なくとも、国内盤ではEnhanced-RIAAカーブが最も好印象だった。
この国内盤に対してSpeakers Cornerの復刻盤では、RIAAカーブが正しいと感じた。Enhanced-RIAAカーブだと異様に各楽器が張り出してしまい、バランスが崩れてしまうのだ。
オリジナルの英DECCA盤は、RIAAカーブでもEnhanced-RIAAカーブでもないようだ。これはRIAAではない、ほかのイコライゼーションで聴いてみるともっとよい結果が得られそうだ。
なお、今回聴き比べた3枚のレコードはいずれも盤質が良く、反りもない盤だった。そのためか、盤質の悪いレコード等を前提として策定されたRIAA-IECカーブにすると低域がごそっと抜けてしまい、『春の祭典』の魅力が失われてしまったことは、3枚に共通する印象だった。
RIAA-IECカーブでは、RIAAカーブに比べて低域のレベルが下げられて再生される。エンジニアは、RIAAカーブで再生される時に比べて低域を大きくしなければならない。また、Enhanced-RIAAカーブが公に提唱されたのは1995年なので、大部分のレコードはそれ以前に作られたということになる。エンジニアがカッティングによる高域特性の変化をカッティングマシンの“癖”のようなものとして把握し、あらかじめ補正していたとすれば、そもそもEnhanced-RIAAは必要ないともいえるだろう。
しかし、Enhanced-RIAAカーブは総じて、エンジニアが想定していた本来の音を再現するカーブといって良さそうだ。ただ、あくまでエンジニアがRIAA-IEC/Enhanced-RIAAを意識しているかどうかによって、選択すべきカーブが変わってくるといえるだろう。
当時のエンジニアがどういうプロセスを踏んで音作りをしていたかは、今となっては知る由もないのは事実だ。どのカーブが合うかどうかの判断は、リスナーに委ねられるのである。レコードの溝に刻まれた想いを再生するのは一筋縄ではいかないが、これもレコード再生ならではのディープな楽しみ方のひとつといっていいだろう。
構成:季刊・アナログ編集部 浅田陽介
RIAA-IECカーブを設定できるフォノイコライザーはいくつかあるが、比較的低価格のものとしてはiFI-Audio「micro iPhono2」や、M2TECHのデジタルフォノイコライザー「Evo PhonoDAC Two」と「JOPLIN MK2」がある。
M2TECH「Evo PhonoDAC Two」「JOPLIN MK2」では、IEC既定のカーブのほか、環境に合わせて低域の減衰量を複数の設定から選択することが可能だ。iFI-Audio「micro iPhono2」については、Enhanced RIAAカーブを設定することができる。
■micro iPhono2を使って3種類のRIAAカーブを検証
同じRIAAを名乗るカーブのでも、どのような変化がみられるのか。RIAA/RIAA-IEC/Enhanced RIAAそれぞれに設定できるmicro iPhono2を使い、各種カーブで『ショルティ(指揮)、シカゴ交響楽団/春の祭典』をリリース年の異なる英DECCA盤、国内盤、Speakers Corner復刻盤の3枚で聴き比べてみた。
まずは国内盤。帯にも書かれている通り、ノイマンのカッティングマシンを使っている。まずはスタンダードなRIAAカーブに設定して聴くと、音場にゆがみが感じられ、定位も曖昧な印象だ。また、金管の音の飛びもいまいちである。Enhanced-RIAAカーブに切り換えてみると、こうした音調がピントを合わせたかのようにはっきりしてくる。少なくとも、国内盤ではEnhanced-RIAAカーブが最も好印象だった。
この国内盤に対してSpeakers Cornerの復刻盤では、RIAAカーブが正しいと感じた。Enhanced-RIAAカーブだと異様に各楽器が張り出してしまい、バランスが崩れてしまうのだ。
オリジナルの英DECCA盤は、RIAAカーブでもEnhanced-RIAAカーブでもないようだ。これはRIAAではない、ほかのイコライゼーションで聴いてみるともっとよい結果が得られそうだ。
なお、今回聴き比べた3枚のレコードはいずれも盤質が良く、反りもない盤だった。そのためか、盤質の悪いレコード等を前提として策定されたRIAA-IECカーブにすると低域がごそっと抜けてしまい、『春の祭典』の魅力が失われてしまったことは、3枚に共通する印象だった。
RIAA-IECカーブでは、RIAAカーブに比べて低域のレベルが下げられて再生される。エンジニアは、RIAAカーブで再生される時に比べて低域を大きくしなければならない。また、Enhanced-RIAAカーブが公に提唱されたのは1995年なので、大部分のレコードはそれ以前に作られたということになる。エンジニアがカッティングによる高域特性の変化をカッティングマシンの“癖”のようなものとして把握し、あらかじめ補正していたとすれば、そもそもEnhanced-RIAAは必要ないともいえるだろう。
しかし、Enhanced-RIAAカーブは総じて、エンジニアが想定していた本来の音を再現するカーブといって良さそうだ。ただ、あくまでエンジニアがRIAA-IEC/Enhanced-RIAAを意識しているかどうかによって、選択すべきカーブが変わってくるといえるだろう。
当時のエンジニアがどういうプロセスを踏んで音作りをしていたかは、今となっては知る由もないのは事実だ。どのカーブが合うかどうかの判断は、リスナーに委ねられるのである。レコードの溝に刻まれた想いを再生するのは一筋縄ではいかないが、これもレコード再生ならではのディープな楽しみ方のひとつといっていいだろう。
構成:季刊・アナログ編集部 浅田陽介