[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第170回】“あちらの業界”の一大イベント「楽器フェア」をオーディオ目線でレポート!
まずは木材。木管楽器のオーボエやファゴット、クラリネットの本体に使われる木材としては、ローズウッドまたはグラナディロが一般的なようだ。ローズウッドはギターの指板、アコースティックギターのサイドやバックの素材としても一般的。グラナディロも稀にはギターにも使用される。
こちらはこおろぎ社ブースに展示されていたマリンバ。小松未可子さんの特技がマリンバ演奏であることでおなじみのマリンバだ。その音色のまさに“鍵”であろう鍵盤の素材は…ホンジュラスローズウッド!ブラジリアンローズウッドほどではないがワシントン条約によって輸出入がやりにくくなっている希少材を惜しげもなく!同社ウェブサイトによると原木、つまり丸太で買い付け、大まかな製材の後に五年の自然乾燥を経てから楽器に使用するとのこと。
続いて金属だが、こちらではイヤホン等のハウジングの「金管楽器にも用いられているブラス素材」みたいな売り文句に出てくるブラス=真鍮はオーディオファンにも特になじみ深いだろう。
ブラスはギターのビブラートブリッジシステムのイナーシャブロック部分でも音の調整要素としてよく利用されている。鋼鉄、真鍮、アルミといったところが一般的だが、「フロイドローズ」のブロックとしてESPブースに展示されていたのは…
タングステンだ。真鍮の時点でかなり比重の高い、つまり同じ大きさならより重くできる素材なのだが、タングステンはそれよりさらに比重が高く、しかも硬い。重さと硬さでは劣化ウランと張り合うレベルであり、対戦車対艦徹甲弾に用いられるほどだ。ロマンを感じずにはいられない素材と言える。
オーディオ分野では、不要振動を制御するインシュレーター周りでの採用例がいくつかあるようだ。なるほど適任。しかし他の金属を削るドリルなどに使われるのがタングステンなので、それを逆に削って加工する大変さも容易に想像できる…
他、十数年前には特殊な新製品のような扱いだったギターのブリッジ周りやトラスロッド周りのチタン材パーツも今や定着しており、今回も何箇所かに展示されていた。
またギターやベースのナットをチタン材から削り出すのは加工が極度に大変らしく、その実例は極めて稀なようだが、オーディオの分野ではFitEar「FitEar Titan」のような3Dプリンタによる造形も実現している。
なので今後は「まずギター職人が既存の材でナットを調整し、そのナットを3Dスキャンし、3Dプリンタでチタンナットを造形し、弦との接点を磨き上げる」のような手順でならば、チタンナットの現実性を高めることもできるのではないだろうか。その音調にどれほどのニーズがあるのかはやってみないとわからないが…。
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