[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第170回】“あちらの業界”の一大イベント「楽器フェア」をオーディオ目線でレポート!
■デスクトップでいけそうなパワーモニタースピーカー
ローランドといえば先日ヘッドホンメーカー「V-MODA」をグループに迎えたことがニュースになったが、時を同じくして他にもいくつかの海外ブランドの輸入を行うことも発表していた。
その中で「これデスクトップオーディオにもフィットするかも?」と思わされたのが、今回は参考出展だったが、「FLUID AUDIO」社のパワードモニタースピーカーシリーズだ。
「Fader」シリーズではボリュームフェーダーを前面に搭載している!ガチなパワードモニターだとボリュームコントロールは「なくて当然、あっても背面」みたいな感じが多く、いくら音がよくてもオーディオリスナーとしてはそれ単体では使いにくい場合もある。その点これは使いやすそうだ。会場では確認し忘れたが、あとは左右のボリュームがバラバラではなく、片側のフェーダーだけで両側の音量を揃えて調整できるタイプであってくれれば尚良い。
モニタースピーカー系としては、新製品ではないがIK Multimediaの「iLoud Micro Monitor」も展示されていた。ギター向けオーディオインターフェース「iRig」で知られるメーカーのスピーカーだが、小型/角度調整機構/マイクスタンドに設置可能/Bluetooth対応など、普通に便利そうなモデルだ。
■Crews Maniac SoundのNutube搭載アンプ
渋谷のギターショップ「Hoochies」も運営するクルーズのオリジナルブランドが「Crews Maniac Sound」。そのブースにコルグが開発した新増幅素子「Nutube」を搭載したアンプ/ヘッドホンアンプのプロトタイプが展示されていた。
入力から出力まで、一般的なチップの段→Nutubeの段→デジタルアンプでのスピーカー駆動パワーアンプ段という構成とのことだ。Nutubeの真空管らしさをうまく引き出し、駆動力はデジタルアンプで確保ということだろう。
しかし個人的には、このアンプの一番のポイントはNutube搭載というところではないと感じた。その最大のポイントは“音作り”だと思う。
楽器メーカーであるから当然なのかもしれないが、音作りの方向性というか感性が多くのオーディオメーカーとは異なる。音を聴かせていただいても話を聞かせていただいても、全ての音を公平に再現しようというところには重きを置いておらず、「ここは音楽としてギターはこう聴こえてほしい」というような感覚を重視した音作りのようだ。例えばジミ・ヘンドリクス氏のクランチのパキッとした感じ、その音色のやや硬質な抜けと艶やかさの絶妙なバランスなど、そういうところの生々しさにはさすがと唸らされる。
この感覚はベースアンプメーカー「PHIL JONES BASS」のポータブルヘッドホンアンプ「BIGHEAD」やヘッドホン「H850」に感じたものとも近い。エレクトリックベースへのレスポンスが実に素晴らしく、「そこはさすがだな」と感心させられた。
音楽的な「ここ」「そこ」の選び方、そこやここへの注力の仕方に楽器メーカーならではの「らしさ」があるのではないか。そのように感じる。
■ORBブースで理想の試聴環境?を体験
以前から、オーディオ機器の試聴において微妙なニュアンスを聴き分けるのに理想的な環境とは、自分でリアルタイムで弾いている演奏をモニターすることではないかと思ってはいた。今回のポタフェスエリア「ORB」ブースにはまさにその環境が!
ギターからEVA電子のDIボックスにつなぎ、ORBのモニターボックス/ヘッドホンアンプ「JADE stage model J」でヘッドホンモニターできるのだ。
ストラトタイプのギターでORBのケーブル2モデルを聴き比べてみたのだが、僕には「J7」ケーブルの方がストラトのピックアップポジションのフロントやセンターの個性がよい塩梅に出るように感じられた。「CS216」はレスポール系の厚みと相性がよさそうだ。
ケーブルの違いをこれほどまでに明瞭に感じられる機会はあまりなく、これはやはり「自分で弾いてリアルタイムにかなりダイレクトなシステムで自分で聴く」というこの環境のおかげだろう。
またどちらのケーブルにも共通して、透明感や音の立ち上がりのスムースさ、バランスの良さを感じた。それはイヤホンリケーブルの「Clear Force」にも感じていたところだ。ORB製品においてモデルごとの個性を超えて共通する土台はそこと言えるだろう。
というわけで今回は「楽器フェア」のレポートをお送りさせていただいた。オーディオに直接役立つような情報ではなかったかと思うが、見識を深める一助程度にでもなってくれればと思う。