小野島 大がインタビュー
ハイレゾ化でフィッシュマンズの音楽にもっと近づける − 茂木欣一がそのサウンドについて語る
厚みがありよく伸びる低域と奥行きのある立体的な音像が印象的
未発表ver.も含むハイレゾ限定“お試し版”も
オリジナルの良さを尊重し、よりクリアで分離のいい透明度の高い音でリフレッシュされたキムケン・リマスター、あくまでもフィッシュマンズを現在進行形の音楽ととらえ、2016年に戦える音としてリニューアルしたzAkリマスター、どちらも素晴らしい仕事ぶりであることは確かだ。
ハイレゾ版は厚みがありよく伸びる低域と奥行きのある立体的な音像で、とりわけファースト・アルバム『Chappie, Don't Cry』の晴れ上がった秋の空のようなヌケのいい爽快感は印象的で、デビューしたての若いバンドのひたむきな熱意が、リマスター/ハイレゾによって永久保存されたような感慨がある。ライヴ・レコーディングされた音源をスタジオで徹底加工した「Oh! Mountain」のクールで緻密な音像も非常に新鮮だった。
そしてこのたび、ポニーキャニオン時代の4枚のオリジナル・アルバムから1曲ずつを選んだ"ハイレゾお試し企画"もリリースされる。しかもそのうち2曲がリマスターCDやハイレゾ・アルバムとは別テイクで、1曲は未発表ヴァージョンという、マニアにも見逃せないアイテムとなっている。
この4曲についての茂木のコメントは以下の通りである。
【ハイレゾ限定】セレクション4 4曲売り¥1,000(税抜)/単曲¥400(税抜)
■ひこうき
『Chappie, Don't Cry』収録
記念すべきデビュー曲。オーストラリア、メルボルンにて録音。エンジニアPeter Blyton、プロデューサー こだま和文さんと一緒に、バンドが一生懸命録音に向かっている様子が見えてくると思います。歌声・演奏の初々しさも鮮明に甦りますが、それらを含めすべてが愛しい。
■頼りない天使
『KING MASTER GEORGE』収録曲だが、アルバムとは別ミックス。ハイレゾリマスターは木村健太郎
初期フィッシュマンズの代表曲のひとつ。このヴァージョンは、アルバム収録のHAKASEミックスとは違い、プロデューサー窪田晴男さんによるミックス。1999年のベスト盤『1991-1994 Singles & More』にボーナストラックとして収録されましたが、そのフルヴァージョン。
■いかれたBaby
『Neo Yankees' Holiday』収録曲だが、ここではシングル・ヴァージョンが登場。アルバム収録ヴァージョンより1分ほど長い。ハイレゾリマスターは木村健太郎。
「ナイトクルージング」とともにフィッシュマンズを代表する楽曲。当時このシングルが全然売れなくて本当に信じられない気持ちだったけれど、今ではライブで演奏すると、たくさんの人たちが歌ってくれる。佐藤伸治の歌声をハイレゾで思う存分近くに感じてみてほしいですね。
■感謝(驚)
『Orange』収録。
「アルバムは全曲ロンドンにてレコーディング。ギターは、脱退した小嶋謙介に変わってシュガー吉永(バッファロー・ドーター)が担当。この時期の生演奏の充実度、歌声、言葉、メロディーの魅力、独特なミックス。じっくり感じてほしいです。
もちろんフィッシュマンズの音源はこれで全部ではない。とりわけ『Oh! Mountain』に対応する後期のスタジオ加工ライヴ・アルバム『8月の現状』(1998年)と佐藤伸治存命時のラスト・ライヴ・アルバム『98.12.28 男達の別れ』、そしてラスト・シングルとなった「ゆらめきIN THE AIR」は、ぜひハイレゾ化してほしい音源だ。近々の実現をぜひお願いしたい。
執筆者プロフィール
小野島 大
音楽評論家。内外のロックなどポップ・ミュージックを中心に各メディアに執筆。著編書に『音楽配信はどこへ向かう?』(インプレス)、フィッシュマンズ全書』(小学館)『Disc Guide Series UK New Wave』(シンコーミュージック)等多数。オーディオに関する執筆も多い。