「もうシルバーバージョンには戻れない」
音質にさらなる磨きをかけた「micro iDSD BL」― 旧バージョンの愛用者、高橋健太郎氏がレポート
■広い空間に整列されて並ぶステレオ感
日を改めて、プライべートスタジオに移動して、テストを続けた。スタジオではDAWソフトウェアにMAC PRO上のProToolsを使用している。ProTools用のインターフェイスはAPOGEEの「SYMPHONY」だ。しかし、ProToolsでミックスダウンを書き出した後などに、それをプレイバックするのにSYMPHONYを使うのは意外に面倒くさい。
ミックス作業を行っていたセッションと違うサンプルレートのミックスダウンファイルを書き出した時は、一度、セッションを閉じて、ミックスダウン・ファイルのサンプルレートに合わせたセッションを立ち上げ、そこにファイルを読み込まないといけない。
それよりは別のUSB DACをMAC PROと接続しておいて、違うソフトウェアでミックスダウン・ファイルをプレイバックした方がずっと早い。そこで以前からmicro iDSDを利用していた。書き出したミックスダウン・ファイルをすぐにプレイバックしたい時は、KORGのAUDIOGATEに読み込んで、micro iDSDをDACとして使うのだ。デスクの上に置いてもスペースは取らないし、ヘッドフォンモニターもできるので重宝していた。
ただ、マスタリングにも使われるようなプロオーディオ機器と比べると、micro iDSDの音は線が細いのは否めなかった。そこはバッテリー駆動のポータブルDACの限界と考えていたところもある。電源の影響を受けないバッテリー駆動には利点もあるはずだが、重量級の電源回路を奢った据え置きの機材に比べると、やはり音の太さに違いが出る。しかし、自宅のリビングでも実力発揮したmicro iDSD BLならば、かなり良いモニターができるのではないかと予想した。
スタジオのモニタースピーカーはATC「SCM10」で、パワーアンプはMcIntoshの「MC7150」、プリアンプに当たるのはCaleman Audioのパッシヴのモニターコントローラーだ。ちょうど、プリプロ中の楽曲があったので、2曲ほど仮ミックスを作って、ProTools上でミックスしている時と、バウンスしたミックスダウン・ファイルをKORGのAUDIOGATEで再生した時で、どのくらいの音質差があるかを見てみることにした。前者ではAPOGEEのSYMPHONYがDACとなり、後者ではmicro iDSD BLがDACとなる。ProToolsのセッションは48KHz/24bitだったので、ミックスダウン・ファイルも48KHz/24bitで書き出した。
書き出したミックスダウン・ファイルをAUDIOGATEで試聴すると、ProToolsのセッション中に聴いているミックスよりも少しだけ平板に、その分、まとまり良く聴こえることが多い。micro iDSD BLを使った場合もその印象はあるが、ナローレンジになったとか、ステレオ感が狭まったというようなことはない。ステレオ感についてはむしろ、広い空間に要素が整理されて並び、定位や残響などが分かりやすくなったように思える。
シルバーバージョンと違いを感じるのは、やはり音が太く、細部の輪郭にも甘さがないことだ。音が太い、と感じるのは、ただ低音が多く出ているからではない。イコライザーで低音を上げてみれば分かるが、ただ低音が多くても、それだけではサウンドは「ぼよ〜ん」「どよ〜ん」とした感じになってしまう。
ベースの音にゴリッとした太さを感じる時というのは、低音が十分伸びているのと同時に、高域のアタック成分も上手く再生されているのだ。低域と高域のレスポンスが揃っていないと太さは出てこない。これは位相特性などと結びついていると思われるが、micro iDSD BLではそこが改善されているのかもしれない。
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