【特別企画】LCI JAPANショールームに聞く
オーディオに“デザインの価値”が問われる今、「PATHOS/chario」はなぜ評価されるのか。インテリアのプロが分析
■なぜか、触りたくなる。不思議な吸引力を持つチャリオ
土方 スピーカーのチャリオはいかがですか。
菊池 大きく用いられている天然木の素材感、それからスタンドの絶妙なデザインがイタリアらしいですよね。我々もフロアスタンド照明を扱っていますが、安全性を最優先するとどうしても脚が太くなったりとデザインがどんどんカッコ悪くなっていくんです。チャリオはスタンドのスリムさ、全体のフォルムもかっこいいし、木でできた素材だと触ってみたくなりますよね。
土方 私も同感です。リアルウッドを用いたエンクロージャーが、あまりにも美しい。工芸品としての価値さえ感じます。他のブックシェルフスピーカーと同じくらいの大きさながら、サイド/天井部/フロントから見た造形に同じところがないんですね。細部のフィニッシュのこだわりは驚くほどです。これは愛着が湧きますよね。ちなみにこれだけ美しいショールームに2つの製品が入って、雰囲気は変わりましたか?
菊池 すごく変わりました。お客様が外から店内を見た時に、入口までは照明器具が導入の役割を果たしますが、そこで中に入ったお客様を奥まで引き込めるようになりました。デザイン品質が高いことと、音楽が流れていることで、魅力的な空間を作れるようになったと思います。
土方 実際にパトスとチャリオを見たお客様はどのような反応をされますか?
菊池 皆様、まず一旦触ります。この時点で、オーディオ機器に対して興味を持たせることにすごく成功しているのではないかなと思います。パトスに関しては、真空管のところが気になって「これなんですか」と質問してくる方が多いです。オーディオに興味のなかった方が、そこで初めて興味を持つということ、接点を作れているということでしょう。
そしてチャリオから心地よい音が流れてくるわけです。音の良し悪しというのはみなさん感じ方がバラバラでしょうが、まずは見た目で吸い寄せられているんです。そして「触ってみたい」と思わせる不思議な魅力があるんではないかなと思っています。
土方 菊池さんは実際に音を聴かれて、どのような印象を持たれました?
菊池 私はオーディオの専門家ではありませんが、低音や響きが一般的なオーディオ製品とはちがうのはよくわかりました。それから、スピーカーの置き方ひとつで全く違う空間を作れるということもわかりました。いろいろ試してみると、音が良くなるポイントがありますよね。
土方 まさにそのポイントを探るのが、オーディオの楽しみのひとつなんですよ。オーディオ評論家としてはまず音を第一に考えますが、パトスとチャリオの組み合わせからは色艶のいい音が聴こえます。情報量の多さとか空間表現の良さといったオーディオ的尺度の部分と、メロディアスで聴き心地の良い音楽性のふたつがすごくバランス良く交わっている。
今回、この組合せでじっくりと試聴も行いました。CDプレーヤーを接続してマイルス・デイヴィス「枯葉」を聴くと、トランペットやサックスの色彩感が良く、キャビネットの響きがほんの少しだけベースのふくよかさをサポートして絶品の表現で聴かせてくれます。もしも私のようなジャズとオーディオ好きが、街中にあるお店のドアが少しだけ開いていてこの音が流れてきたら思わず立ち止まって中を覗いてしまうでしょう。
オーディオ的な聴きどころも多く、外観から受ける印象より上下のfレンジも広く情報量もあります。美しいデザインの意匠と出音がリンクする見事なサウンドだと言えると思います。
また、クラシックでも印象が良いです。それを如実に感じたのは、ネマニャ・ラドゥロヴィチのヴァイオリン協奏曲。USB入力端子を持つオプションのD/Aコンバーター内蔵ボードを使用して、MacBook Proをトランスポートとしてハイレゾファイルを再生したのですが、オーケストラもブックシェルフとは思えないほどの重厚感があり、しかもその重厚さの中に、各楽器が明瞭に分離しながらも絶妙な滑らかさを持ちメロディを奏でます。
神経質とは無縁な、音楽性の高さがこの組み合わせからは聴こえるのです。見せかけの解像感ではなく情報量の多さが根本にあり、それを卓越したセッティングでまとめている本格志向の音の出方です。
次ページただ音を出すだけではない。パトスとチャリオは人と人をつなぐ「接点」を作ってくれる