[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域【第239回】
OVER10万円クラス!ダイナミック型ハイエンドイヤホン2019冬、注目の3モデルを徹底レビュー
■各サウンドをチェック! それぞれ異なる特色を高次元に実現
各モデルのサウンドの特色を紹介していこう。今回はハイエンドイヤホン! ということで、プレーヤーも超ハイエンドモデルであるAstell&Kern「SP2000」を用意。T9iEは同ブランドコンビとなるので少し有利になるかと思うが、気になる方はそこを差し引いて受け取ってもらえればと思う。
バランス駆動ケーブルが標準付属するAK T9iEとEAH-TZ700は、そちらでの試聴印象をメインとした。シングルエンドのみでの試聴となるA8000には不利があるかもしれないが、しかし、その不利を感じさせない好印象だったことは特筆したい。
まずは全モデルの印象を一覧化。それぞれの特徴などは以下に詳しく紹介する。
A8000は、彼らが「トランスペアレント」と表現する部分が確かに突出していると感じられた。音のプレゼンス=実在感とも近いニュアンスかと思うのだが、ひとつひとつの音に立体感があり、そしてそれらの空間配置にも立体感があって素晴らしい。フランク・ザッパ氏は自らの演奏を「空気に彫刻をする」と言い表していたというが、それを思い起こさせるような再生が、耳の中、そして頭の中で展開される。
また加えて、前述のようにA8000だけシングルエンド駆動での試聴だったのだが、それにも関わらず、空間の左右の広がりも突出して素晴らしかったことが印象的。こうした特徴から、空間表現に優れた音源をこのイヤホンで聴くと絶品となる。
例えば、悠木碧さんの声だけを重ねた楽曲をサラウンドミックスし、それをサラウンド再生してバイノーラルダミーヘッドマイクでステレオミックスに落としてあるという変態作品、「トコワカクノクニ」との相性は、僕がこれまでにこの作品を聴いてきたイヤホンの中でトップだ。
トップ「クラス」ではなく、「トップ」そのものと断言できる。さすがに頭の後から声が聴こえてきたりはしないが、様々な声が空間のあちらこちらに浮かび上がってくる様子をこれほど明瞭に再現してくれたイヤホンはこれまでにない。ちなみにだが、同社のバイノーラル特化型イヤホン「E500」もこの音源と相性が良い。そしてA8000はそれをも上回る!
他にも、Hoff Ensemble「Quiet Winter Night」では、レコーディング場所であるノルウェーの教会、その音響装置としての響きを本当に豊かに描き出し、Cornelius「Mellow Waves」のエレクトリックで緻密に構築されたサウンドステージも見事に再現。あらゆるタイプの空間表現に対応してくれた。
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