公開日 2015/01/23 12:56
マランツ「HD-DAC1」設計担当者に聞く “キャリア集大成” モデルに込めた想い
音質担当の澤田氏との開発エピソードも披露
マランツ初の単体ヘッドホンアンプ/USB-DAC「HD-DAC1」は、長年マランツの製品開発を担ってきた八ッ橋雅晴氏が、最後に手がけたモデルだ。八ッ橋氏はHD-DAC1にどのような想いを込め、そして音を追い込んでいったのか。マランツにおける製品作りの本質に迫る話を伺うことができた。
■HD-DAC1はマランツの製品設計の中心人物が最後に手がけたモデル
ーー 八ッ橋さんが2015年2月いっぱいで退職されるということで、最後に手がけた製品となったマランツのヘッドホンアンプ/USB-DAC「HD-DAC1」について、思い入れや開発段階でのエピソードなどを伺えればと考えています。
八ッ橋 製品を作るときはいつも、“自分が欲しいものを作りたい”という気持ちが第一にあります。自分でも使ってみたいと思わなければ、お客様も買わないだろうと。それでも、現実には様々な制約があります。HD-DAC1の前には「NA8005」(レビュー一覧)の設計を担当しましたが、本機はベースに「SA8005」があったので、シャーシの形などは開発当初でほぼ固まっていました。すでに形が決まっているものを変えるのはなかなか難しいですね。
ーー 従来モデルの兄弟機という時点で、自由度はある程度限定されてしまうということですね。その点、HD-DAC1はマランツで初めての単体ヘッドホンアンプでした。
八ッ橋 HD-DAC1は、完全に新規のモデルだったので、これは「何でも好きにできるな」と。それで最初に、シャーシは頑丈にしたいなと考えました。やはりオーディオ機器は剛性が大事です。天板もこの価格帯なら普通は0.8mm厚なんてところですが、HD-DAC1は1.2mm厚にしました。最初は「2mmくらいのできない?」って機構屋さんに言ったら、2mmにしたら合わせ目がきちんと出ませんと言われて。仕方ないなと、1.2mmに妥協しました。
ーー 1.2mmまで厚くしたけど、妥協だったと(笑)。
八ッ橋 ただハーフサイズの筐体で、天板が1.2mmですからね。かなりの剛性で、両手で力をかけても曲がらないくらいです。天板の次はフットです。フットにも制約がないので、それならとダイキャスト製にしました。通常、10万円程度の製品ではまずプラスチック製ですよね。またHD-DAC1はおなじみのダブルレイヤードシャーシを採用しているのですが、今思うと底板をもっと厚くしておけばよかったなあと。マランツのHi-Fiハイエンド機は、底板に3mmの鉄板を使っていますが、HD-DAC1は1mmです。せめて2mmにできれば…。悔いが残ってるところですね。
ーー 底板の厚さは音質面でやはり重要なのでしょうか。
八ッ橋 底板が厚いと重心がぐっと下がります。限度はありますが、軽いよりは重い方がいいです。それからサイドパネルも、いろいろと試作しました。リアルウッドも試しましたが、本物の木材なら音が良いかというと必ずしもそうではなかったです。木材は経時変化による反りもあり、その割にコストも高いです。最終的にはプラスチックのパネルにして、内側に振動を防止するための素材を貼り付けています。サイドパネルは最初はサイドからネジで止めていました。しかし10万円を超える製品でネジは見せたくないなと思って、スライド構造に変更して、ネジを目立たないように下から留める方式にしました。音が良いのは当たり前で、やっぱり外観の品位も大事にしたかったのです。あとは、価格からしたらボリュームノブもプラスチックになるところを、HD-DAC1はメタル製にしました。
ーー HD-DAC1のツマミの質感、すごく良いと思いました。
八ッ橋 感触もかなり重いですからね。重すぎるってネットに書かれていたのを見たような気もしますが、変に軽いよりは重いほうがいいですね。フロントパネルのバッジも、埋め込み式の高級感あるデザインにしています。フル新規ですから、まずは姿から“オーディオ機器はこうあってほしい”という理想に近づけたいなと思ったのです。
■歪みの排除にこだわった新設計ヘッドホンアンプ
ーー 具体的な音質対策という意味で、HD-DAC1において印象に残っているところはありますでしょうか。
八ッ橋 HD-DAC1はヘッドホンアンプ部ももちろん新規開発なので、ヒートシンクから新規で起こしました。ヒートシンクは、普通なら出来合いのものを探してきてくるのですが、理想の性能を出すためのサイズのイメージがあったので、ぴったりのものを作るしかないなと考えました。
ーー HD-DAC1のヘッドホンアンプがシングルエンド出力にこだわった理由として、バランス駆動用に4基分のヘッドホンアンプをハーフサイズの筐体に入れるとなると個々のアンプの性能を妥協せざるを得ず、それならば音質を最優先したいという判断があったと伺いました。
八ッ橋 ヘッドホンアンプなんて、やろうと思えばいくらでも小さくできます。しかしHD-DAC1は無帰還型アンプということもあって、性能をしっかり取りたかったのです。HD-DAC1のヘッドホンアンプの歪み率は16Ωで0.02%です。ところが人間の耳というのは、普通に聴いている分には1〜2%の歪みが判別できないものなんですね。10%を超えると、さすがにどんな人でも音が歪むのがわかりますけれどね。1〜2%の歪みなんていうのは本来聴感とは関係ないのですが、CDに入っている音をそのまま正確に出すことを考えたとき、元の音楽信号に2%の歪みが加わっているのは問題です。それはなるべく小さいほうがいい。人間の耳に聞こえないとはいってもそこはおさえとかなきゃいけないんで。ですから、歪みは徹底的に排除しました。
ーー ちなみに、シングルエンドかバランス駆動かというところでは、八ッ橋さんは企画段階でどう考えていましたでしょうか。
八ッ橋 バランス駆動も興味がないわけではありませんが、HD-DAC1のサイズと値段の制約の中でベストのものを作ろうとした場合、やっぱシングルエンドがベストでした。オペアンプを使えばいくらでもバランス駆動は実現できますが、そこで実際に出てくる音には満足ができないと考えたのです。ですから、将来的にはマランツもバランス駆動型のヘッドホンアンプを出す可能性はありますし、そのときは筐体サイズやコストもよりベストなかたちで挑むはずです。
■HD-DAC1はマランツの製品設計の中心人物が最後に手がけたモデル
ーー 八ッ橋さんが2015年2月いっぱいで退職されるということで、最後に手がけた製品となったマランツのヘッドホンアンプ/USB-DAC「HD-DAC1」について、思い入れや開発段階でのエピソードなどを伺えればと考えています。
八ッ橋 製品を作るときはいつも、“自分が欲しいものを作りたい”という気持ちが第一にあります。自分でも使ってみたいと思わなければ、お客様も買わないだろうと。それでも、現実には様々な制約があります。HD-DAC1の前には「NA8005」(レビュー一覧)の設計を担当しましたが、本機はベースに「SA8005」があったので、シャーシの形などは開発当初でほぼ固まっていました。すでに形が決まっているものを変えるのはなかなか難しいですね。
ーー 従来モデルの兄弟機という時点で、自由度はある程度限定されてしまうということですね。その点、HD-DAC1はマランツで初めての単体ヘッドホンアンプでした。
八ッ橋 HD-DAC1は、完全に新規のモデルだったので、これは「何でも好きにできるな」と。それで最初に、シャーシは頑丈にしたいなと考えました。やはりオーディオ機器は剛性が大事です。天板もこの価格帯なら普通は0.8mm厚なんてところですが、HD-DAC1は1.2mm厚にしました。最初は「2mmくらいのできない?」って機構屋さんに言ったら、2mmにしたら合わせ目がきちんと出ませんと言われて。仕方ないなと、1.2mmに妥協しました。
ーー 1.2mmまで厚くしたけど、妥協だったと(笑)。
八ッ橋 ただハーフサイズの筐体で、天板が1.2mmですからね。かなりの剛性で、両手で力をかけても曲がらないくらいです。天板の次はフットです。フットにも制約がないので、それならとダイキャスト製にしました。通常、10万円程度の製品ではまずプラスチック製ですよね。またHD-DAC1はおなじみのダブルレイヤードシャーシを採用しているのですが、今思うと底板をもっと厚くしておけばよかったなあと。マランツのHi-Fiハイエンド機は、底板に3mmの鉄板を使っていますが、HD-DAC1は1mmです。せめて2mmにできれば…。悔いが残ってるところですね。
ーー 底板の厚さは音質面でやはり重要なのでしょうか。
八ッ橋 底板が厚いと重心がぐっと下がります。限度はありますが、軽いよりは重い方がいいです。それからサイドパネルも、いろいろと試作しました。リアルウッドも試しましたが、本物の木材なら音が良いかというと必ずしもそうではなかったです。木材は経時変化による反りもあり、その割にコストも高いです。最終的にはプラスチックのパネルにして、内側に振動を防止するための素材を貼り付けています。サイドパネルは最初はサイドからネジで止めていました。しかし10万円を超える製品でネジは見せたくないなと思って、スライド構造に変更して、ネジを目立たないように下から留める方式にしました。音が良いのは当たり前で、やっぱり外観の品位も大事にしたかったのです。あとは、価格からしたらボリュームノブもプラスチックになるところを、HD-DAC1はメタル製にしました。
ーー HD-DAC1のツマミの質感、すごく良いと思いました。
八ッ橋 感触もかなり重いですからね。重すぎるってネットに書かれていたのを見たような気もしますが、変に軽いよりは重いほうがいいですね。フロントパネルのバッジも、埋め込み式の高級感あるデザインにしています。フル新規ですから、まずは姿から“オーディオ機器はこうあってほしい”という理想に近づけたいなと思ったのです。
■歪みの排除にこだわった新設計ヘッドホンアンプ
ーー 具体的な音質対策という意味で、HD-DAC1において印象に残っているところはありますでしょうか。
八ッ橋 HD-DAC1はヘッドホンアンプ部ももちろん新規開発なので、ヒートシンクから新規で起こしました。ヒートシンクは、普通なら出来合いのものを探してきてくるのですが、理想の性能を出すためのサイズのイメージがあったので、ぴったりのものを作るしかないなと考えました。
ーー HD-DAC1のヘッドホンアンプがシングルエンド出力にこだわった理由として、バランス駆動用に4基分のヘッドホンアンプをハーフサイズの筐体に入れるとなると個々のアンプの性能を妥協せざるを得ず、それならば音質を最優先したいという判断があったと伺いました。
八ッ橋 ヘッドホンアンプなんて、やろうと思えばいくらでも小さくできます。しかしHD-DAC1は無帰還型アンプということもあって、性能をしっかり取りたかったのです。HD-DAC1のヘッドホンアンプの歪み率は16Ωで0.02%です。ところが人間の耳というのは、普通に聴いている分には1〜2%の歪みが判別できないものなんですね。10%を超えると、さすがにどんな人でも音が歪むのがわかりますけれどね。1〜2%の歪みなんていうのは本来聴感とは関係ないのですが、CDに入っている音をそのまま正確に出すことを考えたとき、元の音楽信号に2%の歪みが加わっているのは問題です。それはなるべく小さいほうがいい。人間の耳に聞こえないとはいってもそこはおさえとかなきゃいけないんで。ですから、歪みは徹底的に排除しました。
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