公開日 2018/12/07 10:38
なぜ「Snapdragon 855」に“aptX Adaptive”を標準搭載したのか? クアルコム幹部に独占インタビュー
接続安定性/低遅延/高音質の新コーデック
既報の通り、米クアルコムはハワイ・マウイ島で開催中のプレスカンファレンス「Qualcomm Snapdragon Technology Summit」にて次世代のモバイル向けSoCのフラグシップ「Snapdragon 855シリーズ」を発表した。今年の秋に発表された新しいオーディオコーデック「aptX Adaptive」が標準搭載されることも決まっている。
今回はクアルコムテクノロジーズ社シニア・バイスプレジデント兼、Voice & Music分野 ゼネラルマネージャーであるAnthony Murray氏に、aptX Adaptiveや完全ワイヤレスイヤホン向けの新技術「Qualcomm TWS Plus」の最新状況を独占インタビューした。
ーー9月に発表された新しいBluetoothオーディオのコーデック技術である「aptX Adaptive」が、いよいよローンチに向けて本格的に始動しました。
Murray氏:来年以降に商品化される、Snapdragon 855シリーズを搭載するスマホなどのモバイル端末の場合、オプション機能としてaptX Adaptive対応を選択することが可能になります。最新世代のSoCとの合わせ込みについては、パワーマネジメントや様々な通信アンテナと共存するシステム設計の両面から多くの困難がありましたが、いよいよ実現できる運びとなります。
ーービットレートを280kbpsから420kpbsの間でダイナミックに可変しながら音声信号を伝送するaptX Adaptiveは、信号の接続安定性/低遅延/高音質を3つのポイントとして掲げています。
Murray氏:クアルコムはaptX classicの頃から、Bluetoothオーディオの音質についてはこだわりを持ち続けていますが、特に近年では多くの人々が音楽に映画、ゲームなどエンターテインメントを楽しむプレーヤーとしてスマートフォンを活用するようになって、ワイヤレスオーディオの接続安定性や低遅延性能についても同時に担保することが求められるようになっています。aptX Adaptiveでは音質と接続安定性、低遅延という3つのデマンドにバランス良く応えることが課題とされました。
モバイル端末による動画視聴時のリップシンクについては「Delay Reporting」という技術によって、ワイヤレスイヤホンなどの機器が接続されている場合、意図的に動画の再生を遅らせて音声と同期を図る方法が確立されています。映画やドラマなどのコンテンツを楽しむ場合にはとても有効ですが、モバイルゲーミングの場合には操作感の遅延を招いてしまうため逆効果です。
そこでaptX AdaptiveはスタンダードなBluetooth接続の場合よりもかなり低い、60〜80ミリ秒の範囲に音声の遅延を収めることに注力しています。
これまでクアルコムではaptX classicに始まり、低遅延のaptX Low Latency、ハイレゾ相当の最大48kHz/24bit、転送ビットレート576kbpsを実現したaptX HDというBluetoothオーディオのコーデックをリリースしてきました。これらの固定ビットレート方式によるコーデックは、それぞれのユースケースがある程度決まっている場合には強みを発揮できますが、スマホのように一人のユーザーがひとつの端末で様々なコンテンツを楽しむことになるモバイルデバイスの場合は、環境由来の影響を受けて体験が損なわれることも考えられます。そのためaptX Adaptiveでは従来のaptX系コーデックの良いところを継承しながら、可変ビットレートに挑戦したというわけです。
ーーSnapdragon 855の詳細が発表された基調講演のステージでは、aptX Adaptiveがモバイルゲーミングの体験にもたらすメリットについても時間を割いてアピールされていました。
Murray氏:Snapdragon 855シリーズではユーザーがモバイル端末でどのようなコンテンツを再生しているか、リアルタイムに判別しながらaptX Adaptiveの接続状態を最適化します。ゲーミングコンテンツを検知した場合は伝送ビットレートを下げて、レイテンシ性能の確保に寄せてパフォーマンスを最適化します。接続条件が厳しい環境では、伝送ビットレートを下げて接続安定性を優先する、パケット落ちを引き起こさないということがユーザー体験の向上につながります。
伝送遅延の原因はコーデックに由来するものばかりではありません。例えばAndroid端末の場合はOSに起因する遅延も計算に入れなければならないため、Android OSバージョンのSnapdragon 855シリーズはOS階層のボトム部分から、さらにシステム由来の遅延を少なくするよう最適化を図っています。
ーー今後デバイスメーカーはaptX Adaptiveのコーデックに一つ対応するだけで、様々なユースケースに最適化されたワイヤレス接続を提供することが可能になるということですね。
Murray氏:そうです。先日当社が日本でaptX Adaptiveの記者説明会(関連ニュース)を実施した際にも担当者がご説明したものと思いますが、当社が英国のサルフォード大学と共同実施した研究において、aptX Adaptiveが最良の伝送スループットを実現している状態では、96kHz/24bitのネイティブハイレゾ再生と遜色のないリスニング感を達成しているという評価も得られています。
将来は96kHz/24bitを音質のベンチマークとして、aptX Adaptiveをベースにしたコーデックのブラッシュアップを図りたいと考えています。スループットについては600kbps前後にまで上げられそうなのですが、先ほども申し上げた通り、Snapdragonシリーズのシステム設計の中での合わせ込みが難しいことや、モバイルゲーミングを含めた様々なユースケースを想定してバランスも計りながら、来年のローンチ後もコーデックを出来映えを常に良いものにしていきたいと思っています。
ーーSnapdragon 855シリーズを搭載していない機器にもaptX Adaptiveの実装は可能である、ということで間違いないでしょうか。
Murray氏:はい、そうです。再生機器にとって必ずしもSnapdragon 855シリーズの搭載は必須ではありません。実際に当社でも、例えば半導体開発も自社で内製しているサムスンの端末などのシステム上でもコーデックが動かせるように調整を行っているところです。もちろんハイレゾDAPなどオーディオ機器に乗せることもできます。
ただ、Snapdragon 855シリーズの場合はクアルコムが設計・開発をすべて自社で手がけているため、アーキテクチャ上での完全な最適化が可能になる点がメリットと言えます。その効果はスマホによるゲーミングなど、より伝送の遅延や安定性に対してシビアなパフォーマンスが求められるユースケースの場合に違いを実感できるものになるはずです。
■「Qualcomm TWS Plus」もデフォルトで搭載可能に
ーー基調講演のステージでは完全ワイヤレスイヤホンによるリスニング体験を向上させる「Qualcomm TWS Plus」(関連インタビュー)が、Snapdragon 855からデフォルトで搭載できるようになるというアナウンスもありました。
Murray氏:2017年の「Qualcomm Snapdragon Technology Summit」でプレビューした技術がいよいよ普及に向けて動き出すものと期待しています。当技術はSnapdragon 845シリーズから実現しているもので、端末側でソフトウェアのアップデートを行うことにより、当社のBluetoothオーディオ向けコンポーネントを搭載する完全ワイヤレスイヤホンと組み合わせて、接続安定性の向上や低遅延などワイヤレス音楽再生に関わる様々なメリットが得られるようになります。
Snapdragon 855シリーズの場合は最初のソフトウェアリリースから「Qualcomm TWS Plus」が搭載されるので、スマホなどの端末メーカーはこの機能を容易に実装できるようになります。aptX Adaptiveの信号伝送については現在技術検証を進めている段階です。
ーーありがとうございました。
2019年もまたクアルコムからオーディオ関連の最新技術に関連する様々な発表が期待できそうだ。Snapdragon 855シリーズを搭載した端末の展開も含めてぜひ注目したいと思う。
(山本 敦)
今回はクアルコムテクノロジーズ社シニア・バイスプレジデント兼、Voice & Music分野 ゼネラルマネージャーであるAnthony Murray氏に、aptX Adaptiveや完全ワイヤレスイヤホン向けの新技術「Qualcomm TWS Plus」の最新状況を独占インタビューした。
ーー9月に発表された新しいBluetoothオーディオのコーデック技術である「aptX Adaptive」が、いよいよローンチに向けて本格的に始動しました。
Murray氏:来年以降に商品化される、Snapdragon 855シリーズを搭載するスマホなどのモバイル端末の場合、オプション機能としてaptX Adaptive対応を選択することが可能になります。最新世代のSoCとの合わせ込みについては、パワーマネジメントや様々な通信アンテナと共存するシステム設計の両面から多くの困難がありましたが、いよいよ実現できる運びとなります。
ーービットレートを280kbpsから420kpbsの間でダイナミックに可変しながら音声信号を伝送するaptX Adaptiveは、信号の接続安定性/低遅延/高音質を3つのポイントとして掲げています。
Murray氏:クアルコムはaptX classicの頃から、Bluetoothオーディオの音質についてはこだわりを持ち続けていますが、特に近年では多くの人々が音楽に映画、ゲームなどエンターテインメントを楽しむプレーヤーとしてスマートフォンを活用するようになって、ワイヤレスオーディオの接続安定性や低遅延性能についても同時に担保することが求められるようになっています。aptX Adaptiveでは音質と接続安定性、低遅延という3つのデマンドにバランス良く応えることが課題とされました。
モバイル端末による動画視聴時のリップシンクについては「Delay Reporting」という技術によって、ワイヤレスイヤホンなどの機器が接続されている場合、意図的に動画の再生を遅らせて音声と同期を図る方法が確立されています。映画やドラマなどのコンテンツを楽しむ場合にはとても有効ですが、モバイルゲーミングの場合には操作感の遅延を招いてしまうため逆効果です。
そこでaptX AdaptiveはスタンダードなBluetooth接続の場合よりもかなり低い、60〜80ミリ秒の範囲に音声の遅延を収めることに注力しています。
これまでクアルコムではaptX classicに始まり、低遅延のaptX Low Latency、ハイレゾ相当の最大48kHz/24bit、転送ビットレート576kbpsを実現したaptX HDというBluetoothオーディオのコーデックをリリースしてきました。これらの固定ビットレート方式によるコーデックは、それぞれのユースケースがある程度決まっている場合には強みを発揮できますが、スマホのように一人のユーザーがひとつの端末で様々なコンテンツを楽しむことになるモバイルデバイスの場合は、環境由来の影響を受けて体験が損なわれることも考えられます。そのためaptX Adaptiveでは従来のaptX系コーデックの良いところを継承しながら、可変ビットレートに挑戦したというわけです。
ーーSnapdragon 855の詳細が発表された基調講演のステージでは、aptX Adaptiveがモバイルゲーミングの体験にもたらすメリットについても時間を割いてアピールされていました。
Murray氏:Snapdragon 855シリーズではユーザーがモバイル端末でどのようなコンテンツを再生しているか、リアルタイムに判別しながらaptX Adaptiveの接続状態を最適化します。ゲーミングコンテンツを検知した場合は伝送ビットレートを下げて、レイテンシ性能の確保に寄せてパフォーマンスを最適化します。接続条件が厳しい環境では、伝送ビットレートを下げて接続安定性を優先する、パケット落ちを引き起こさないということがユーザー体験の向上につながります。
伝送遅延の原因はコーデックに由来するものばかりではありません。例えばAndroid端末の場合はOSに起因する遅延も計算に入れなければならないため、Android OSバージョンのSnapdragon 855シリーズはOS階層のボトム部分から、さらにシステム由来の遅延を少なくするよう最適化を図っています。
ーー今後デバイスメーカーはaptX Adaptiveのコーデックに一つ対応するだけで、様々なユースケースに最適化されたワイヤレス接続を提供することが可能になるということですね。
Murray氏:そうです。先日当社が日本でaptX Adaptiveの記者説明会(関連ニュース)を実施した際にも担当者がご説明したものと思いますが、当社が英国のサルフォード大学と共同実施した研究において、aptX Adaptiveが最良の伝送スループットを実現している状態では、96kHz/24bitのネイティブハイレゾ再生と遜色のないリスニング感を達成しているという評価も得られています。
将来は96kHz/24bitを音質のベンチマークとして、aptX Adaptiveをベースにしたコーデックのブラッシュアップを図りたいと考えています。スループットについては600kbps前後にまで上げられそうなのですが、先ほども申し上げた通り、Snapdragonシリーズのシステム設計の中での合わせ込みが難しいことや、モバイルゲーミングを含めた様々なユースケースを想定してバランスも計りながら、来年のローンチ後もコーデックを出来映えを常に良いものにしていきたいと思っています。
ーーSnapdragon 855シリーズを搭載していない機器にもaptX Adaptiveの実装は可能である、ということで間違いないでしょうか。
Murray氏:はい、そうです。再生機器にとって必ずしもSnapdragon 855シリーズの搭載は必須ではありません。実際に当社でも、例えば半導体開発も自社で内製しているサムスンの端末などのシステム上でもコーデックが動かせるように調整を行っているところです。もちろんハイレゾDAPなどオーディオ機器に乗せることもできます。
ただ、Snapdragon 855シリーズの場合はクアルコムが設計・開発をすべて自社で手がけているため、アーキテクチャ上での完全な最適化が可能になる点がメリットと言えます。その効果はスマホによるゲーミングなど、より伝送の遅延や安定性に対してシビアなパフォーマンスが求められるユースケースの場合に違いを実感できるものになるはずです。
■「Qualcomm TWS Plus」もデフォルトで搭載可能に
ーー基調講演のステージでは完全ワイヤレスイヤホンによるリスニング体験を向上させる「Qualcomm TWS Plus」(関連インタビュー)が、Snapdragon 855からデフォルトで搭載できるようになるというアナウンスもありました。
Murray氏:2017年の「Qualcomm Snapdragon Technology Summit」でプレビューした技術がいよいよ普及に向けて動き出すものと期待しています。当技術はSnapdragon 845シリーズから実現しているもので、端末側でソフトウェアのアップデートを行うことにより、当社のBluetoothオーディオ向けコンポーネントを搭載する完全ワイヤレスイヤホンと組み合わせて、接続安定性の向上や低遅延などワイヤレス音楽再生に関わる様々なメリットが得られるようになります。
Snapdragon 855シリーズの場合は最初のソフトウェアリリースから「Qualcomm TWS Plus」が搭載されるので、スマホなどの端末メーカーはこの機能を容易に実装できるようになります。aptX Adaptiveの信号伝送については現在技術検証を進めている段階です。
ーーありがとうございました。
2019年もまたクアルコムからオーディオ関連の最新技術に関連する様々な発表が期待できそうだ。Snapdragon 855シリーズを搭載した端末の展開も含めてぜひ注目したいと思う。
(山本 敦)
関連リンク
-
10万円台でハイコスパなAVアンプ/HDMIプリメインをガチ比較!デノン/マランツの厳選機種を一斉レビュー
-
銅製ボディには “確かな音質の違い” がある!「A&ultima SP3000T Copper」を聴き比べ
-
使いやすくて、歌声なめらか。カジュアルDAP「ACTIVO P1」をボーカル中心に聴き込んだ
-
“ビッグサイズ・4K Mini LED液晶レグザ”、「Z990R」「Z770N」のプロも認める高画質を堪能
-
ハーマンカードン「Enchant 1100」の魅力をリビングで検証! 音もデザインも“洗練”されたサウンドバー
-
ダイナミック&BA&骨伝導の“トライブリッド・サウンド”!Empire Ears TRITONレビュー
-
新開発ユニットを巧みに操る懐深いサウンド。ELAC「Debut 3.0」フロア型/ブックシェルフ型を聴く
-
天井投写もラクラクのボトル型モバイルプロジェクターJMGO「PicoFlix」を使いこなす
-
高音質と機能性を両立する新たなスタンダード機!AVIOT完全ワイヤレス「TE-V1R」レビュー
クローズアップCLOSEUP
-
10万円台でハイコスパなAVアンプ/HDMIプリメインをガチ比較!デノン/マランツの厳選機種を一斉レビュー
-
銅製ボディには “確かな音質の違い” がある!「A&ultima SP3000T Copper」を聴き比べ
-
使いやすくて、歌声なめらか。カジュアルDAP「ACTIVO P1」をボーカル中心に聴き込んだ
-
“ビッグサイズ・4K Mini LED液晶レグザ”、「Z990R」「Z770N」のプロも認める高画質を堪能
-
ダイナミック&BA&骨伝導の“トライブリッド・サウンド”!Empire Ears TRITONレビュー
-
新開発ユニットを巧みに操る懐深いサウンド。ELAC「Debut 3.0」フロア型/ブックシェルフ型を聴く
-
天井投写もラクラクのボトル型モバイルプロジェクターJMGO「PicoFlix」を使いこなす
-
高音質と機能性を両立する新たなスタンダード機!AVIOT完全ワイヤレス「TE-V1R」レビュー
アクセスランキング
RANKING
12/20 10:05 更新