公開日 2019/07/19 10:14
4K有機ELレグザPro「X930/X830 SERIES」は、東芝が映像と音に正面から向き合った“最高画質・最高音質”のテレビ
「VGP2019 SUMMER」総合金賞受賞インタビュー
今夏の主役を決する「VGP2019 SUMMER」において審査委員から圧倒的な評価を獲得。見事に「総合金賞」の座を射止めた、東芝映像ソリューションの4K有機ELレグザPro「X930 SERIES」「X830 SERIES」。コアテクノロジーセンター長や統括技師長を歴任し、レグザの歴史に長年にわたり深く携わってきた同社取締役上席副社長・安木成次郎氏に、常に一歩先を見据えた貪欲なチャレンジで進化を続けるレグザの強みを語っていただいた。(インタビュアー:音元出版 永井光晴)
東芝映像ソリューション(株)取締役上席副社長
安木成次郎氏
1959年3月8日生まれ。福岡県出身。九州大学総合理工学研究科情報システム学科修士卒。1984年4月 株式会社東芝入社。2003年4月 コアテクノロジーセンター AV技術開発部長、2007年4月 コアテクノロジーセンター長、2012年1月 デジタルプロダクツ&サービス社統括技師長、2016年6月 東芝映像ソリューション株式会社 常務取締役統括技師長、2018年3月 取締役副社長、2019年6月 取締役上席副社長。好きな言葉はダーウィンの「生きる種とは、最も強いものではない。最も知的なものでもない。それは、変化に最もよく適応したものである」。
■テレビである以上、映像にも音にもこだわる
―― 高画質エンジン「レグザエンジン プロフェッショナル」や新開発AIレコメンドシステムで進化した「みるコレ」機能を搭載する4K有機ELレグザPro「X930 SERIES」「X830 SERIES」が、VGP2019 SUMMERで「総合金賞」を受賞しました。おめでとうございます。昨年末開催「VGP2019」での「X920 SERIES」「Z720X SERIES」の「総合金賞」に続いての連続受賞となりました。
安木 ありがとうございます。これまで東芝映像ソリューションでは、デジタル衛星放送や地デジ放送の開始にあたり、常に一番乗りで対応チューナー内蔵のモデルを発売してきました。昨年12月の4K衛星放送スタートに際しても一番乗りを目指し、昨年7月と9月に、CASや放送ストリーム変更など開発負荷がかかるいくつもの難題を乗り越え、「X920 SERIES」「Z720X SERIES」を発売し、公言通りに一番乗りを果たすことができました。同時に、VGP2019では「総合金賞」をいただくことができました。それに対して今回の「X930 SERIES」「X830 SERIES」では、いま一度基本に立ち戻り、「映像」と「音声」に正面から向き合いました。「どうあるべきか」を問い掛け、じっくりと再考し、納得のいく答えを出したモデルとなっています。
―― それではまず“音”について伺います。薄型テレビにとっての“テレビの音”は、デザインを研ぎ澄ます上からは二律背反の関係にある宿命とも言える課題です。顕在化している声はもちろん、潜在的に不満を持つユーザーも数多いのではないかと思われます。
安木 そこで東芝ソリューションでは、ブラウン管テレビ時代に大変好評を博した「重低音バズーカ」を、数年前から再び手掛けています。大変なのはやはり“厚み”が出てしまうこと。それを2代目となった今回は、かなり薄く作り込むことができました。結構リッチなウーファーを備えており、従来の薄型テレビとは一線を画す低音再生が実現し、高画質映像に負けない高音質が手にできたと自負しています。デザイン優先のインビジブルスピーカーでは、下向きにしたり、反射を利用したりいろいろなチャレンジがありましたが、満足のいくレベルを超えることはなかなか難しいですね。
テレビである以上はやはり、映像も音も、両方がしっかりと出ていなければなりません。映像にマイスターがいるように、音にもマイスターがいます。これまでは薄さを追求する中で、あまりいい音を追究することができませんでした。しかし、今回は“音”に対して相当に力を入れましたので、音に携わるエンジニアの表情も、いつもよりイキイキしていましたね。
―― ドルビーアトモスをはじめとするイマーシブサウンドについてはどのようにお考えですか。
安木 テレビのスピーカーではコンテンツを楽しめる聴きやすさを重視し、それに加えて、他のAV機器を繋がなくても楽しめるくらいの音質感・臨場感を追究していきます。また、レグザは周辺機器との接続率が非常に高いことが特徴のひとつです。外付けHDDは他社の30%に対して60%もあります。AVアンプも5%の接続があり、ドルビーアトモスでも、そこはAVアンプにお任せして、その分のリソースを映像にさらに振り向けていくこともひとつの考え方です。
―― 一方、画質についてはいかがですか。
安木 数年前、ひとつのブレイクスルーとなったのが「AI」です。超解像のアルゴリズムを開発してテレビに搭載していますが、従来は、たった一人のエンジニアが考えたもので、方法もひとつ。それがAIにより、複数の優秀なエンジニアが考えた、複数の方式の超解像を入れることが可能となったのです。
さらに、シーンごとの最適なチューニングを追究し、採用したのが深層学習(ディープラーニング)です。毎フレームごとにいまがどういうシーンなのかをテレビ自身が理解できるようになり、その判断に基づいて解像度を上げたり、画像をチューンナップするパラメーターを決定したり、それらを自動で行うことができるようになりました。超解像とAIが融合したAI超解像技術により、画質がさらに大きく進化しています。
また、暗所部分の再現やコントラスト、色再現性を改善していくにあたり、今まで磨いてきた技術をパネルとして表現することができた“有機EL”の登場も追い風となりました。まさにベースとなる本質に立ち戻り、飽くなき追求に取り組んだ画質・音質を高くご評価いただき、本当にうれしい限りです。
■進化するテレビ。つながるデバイスはすべて受け止める
―― ライフスタイルの中でのテレビの立ち位置が変化していますが、“新しいテレビ”についてはどのようにお考えですか。
安木 注目ポイントのひとつは、テレビのクラウドへの接続が高くなってきていること。これをうまく活かして使い勝手を高めていくと同時に、AI技術を用いてお客様が見たいコンテンツをリコメンドする機能「みるコレ」を搭載、これまで当たり前だった自分でチャンネルを選択する以外の新しい視聴スタイルを提案します。
ベースとなるのはお馴染みの「タイムシフトマシン」です。1週間分を丸録りした膨大なコンテンツの中から、過去番組表で遡って気になる番組を選んで視聴できます。今回、さらに進化した「みるコレ」では、AIレコメンドシステムが視聴履歴を学習・解析し、さらにネット上の膨大なコンテンツを含めた番組の中から、お好みの番組をレコメンデーションします。
AIを中心にしていろいろな進化が起きています。今後、ここをさらに究めていきたい。例えば、ゴルフの芝のシーンひとつとっても、現在はまだラフな状態での検出になりますが、これからはゴルフ、野球、アニメーションなどセグメンテーションをもっと細かくして検出していく。そこに、東芝エンジニアのノウハウを注入できることが大きな強みとなります。今回の受賞モデルは、画質、音質、データ解析を活かしたレコメンデーションなど、いろいろな要素が融合していくテレビのスタートポイントになります。
これからは、いろいろなデバイスがつながっていきます。レコーダーやサウンドバー、AVアンプなど、いわゆるエンターテインメントの画面表示としての従来の役割はもちろん、さらに、生活にもっとお役立ちできる、この画面を通してできることがたくさんあるはずです。すなわち、つながるデバイスももっとあるはずで、それらを全部受け止める意気込みから、今回はHDMI端子を7つも付けています。
機能は積分でどんどん効いてきます。それを誰もが簡単に扱えるようにするUIや使い勝手のよさも欠かせないポイントになります。ネットワークからはどんどんコンテンツが入ってきます。パートナーさんとはメタデータを交換するなど、ネットワーク側にあるコンテンツをこちら側に持ってきたときにも見やすく表現できる工夫がより大切になってきます。“エンターテインメントの大きなハブ”としてのテレビの役割は、さらに強まっていくと確信しています。
―― さまざまなエンターテインメントのひとつにゲームがありますが、レグザは低遅延のテレビとしてもゲームマニアから絶大な支持を獲得していますね。
安木 ネットワーク環境がかなり充実してきていますから、テレビを「臨場感たっぷりに楽しめる大画面で表示できるデバイス」という一つの選択肢として手軽にご利用いただくためにも、テレビに取り込んだコンテンツを、CPUのパワーを効率よく機能させ、できるだけ早く出画することは大事な要素のひとつ。なかでもその典型がゲームになります。
今では「eスポーツ」という言葉も当たり前に聞かれるようになりましたが、東芝映像ソリューションが「低遅延モード」の開発を検討し始めたのは今から数年前になります。テレビに搭載する大きなメモリーをうまく活かすことで、バッファリングをしながら声と映像を合わせ、それを極力短い時間で出画します。さまざまな課題を解決して完成した「低遅延モード」が、これほどまでに評価をいただけるのかと響きました。ゲーマーと呼ばれる皆さんのレスポンスは本当に想像もつかない速さで、15msずれるだけで歴然とわかってしまいます。
―― レグザなら究極の使い勝手が手に入れられるというわけですね。ゲームファンは極限のシビアですが、唇の動きと音声とを連動させるリップシンクのずれに対しては、ホームシアターファンも大変厳しい。
安木 遅延は本当にシビアなテーマで、リップシンクのずれも、わかる方には本当にすぐにわかってしまいます。少し前に、テレビに搭載するスピーカーと外部のサウンドバー「レグザサウンドシステム」がシンクロして、よりパワフルでクリアなサウンドを実現できる「シンクロモード」を開発しました。当時としては無謀とも言えるチャレンジで、レベルの高い技術を要求されるものでしたが、そこで開発された制御技術は今日まで脈々と息づいています。
■5G到来による劇的な進化をどうテレビに取り込むか
―― これまでお話があった一番乗りでのデジタルチューナーの搭載、タイムシフトマシン、低遅延モードはじめ、あらゆる機能が搭載されたレグザは“全部入り”と称され、その快適性が高い評価を集めています。
安木 例えば、テレビの音が悪いからと言って外部に委ねてしまうのではなく、あくまでテレビで完結する音の満足度を追究する。若者を中心としたテレビ離れも指摘されますが、テレビは放送をきちんと見られるものであり続ける、その考え方は首尾一貫しています。レグザのご愛用者に当社のクラウドにつなぐ許諾をいただき、そこで得られるお客様の視聴データからさまざまな分析を行っています。外部に繋げてゲームをしたり、YouTubeやAmazonプライム・ビデオを視聴したり、確かに傾向は年々変化していますが、それでも王様はまだまだ地上波です。NHKがすべての番組を放送と同時にインターネット配信できるようにする放送法改正案が通りました。民放さんでもいろいろなVODサービスを自ら提供されています。放送を取り巻く環境がどのように進化していくのか。その動向を常に注視しています。
―― 視聴スタイルの変化は加速していきそうですね。
安木 広告ビジネスの在り方は、コンテンツと密接な関係にありますから、そこも当然変わっていくのではないでしょうか。桁違いの環境をもたらそうとしている「5G」の到来が及ぼす影響は計り知れません。もちろん、一気に普及するわけではありませんが、全然違う世界が出現してくることは想像に難くないですね。同時接続台数も物凄い数になってきます。インフラが変わり、ビジネスの在り方が変わり、コンテンツの在り方も変わってくる。そこを先読みしながら、テレビの中にどう取り込んでいくかを考えていかなければなりません。
今はAIを軸に、誰よりも早くチャレンジして、出来上がった技術をコアにしてさらに次のテーマに挑む。それは、われわれ東芝時代から受け継いだDNAですから、今後も投資を惜しまず、継続し、次の時代へとつなげていかなければなりません。
レグザのお客様はネットへの接続率が大変高いのが特徴ですが、その中からかなりの数のお客様のレグザが、われわれのクラウドにつながっています。そのポテンシャルの高さを今、つくづく実感します。積分で増えていきますから、やり続けていくことが大切。そこから得られる膨大なデータをうまく活用することで、われわれがこれから考えていく新しいサービスを生み出す大きな力になります。
―― 4K8K、HDR、ハイレゾなど、これまでの次元とは違ったよりリアルな世界へどんどん近づいていきますね。
安木 8Kには本当に驚かされました。大画面でなくてもきちんと差がわかる。“奥行き”という新しい軸がはっきりとわかります。人間の網膜解像度には、限界となる物理的なパラメーターが存在しますが、人間はもっと高度な次元でいろいろなことを行っており、頭の中では映像を創り上げたり、音を創り上げたりします。8Kの描く世界はまさしく、そうした創造力のような領域、人間の可能性が秘めるもっとも奥深いところに関係したものだと思います。ハイレゾもそうですね。あれは耳ではなく肌で聴いている、いわば感覚の世界です。今後さらに現実とバーチャルとの距離が縮まり、よりリアルな世界へと近づいていくことは間違いありません。
そこへ向かっていくわけですから、クリアすべき課題はまだまだたくさんあります。レグザの持ち味である“全部入り”ももちろん、これからも継続していきます。さらに環境が大きく変化していく中で、いろいろな機能があって便利だけれども、その複雑性を感じさせることがない使い勝手にもより工夫を凝らすなど、技術を磨いていく大切さを痛感しています。
今回、総合金賞を受賞した4K有機ELレグザPro「X930 SERIES」「X830 SERIES」に加え、液晶テレビのZシリーズ「Z730X SERIES」も、東芝時代から培ってきた技術を継承し、液晶の中でトップエンドを目指しました。見逃した番組もすぐに楽しめるタイムシフトマシンや迫力ある重低音を実現したレグザ重低音バズーカオーディオシステムPROなど、総合金賞をいただいたのは4K有機ELレグザProですが、Zシリーズも負けず劣らずの仕上がりとなりました。自慢のフルラインナップで市場を大いに盛り上げて参ります。そして、次回のレグザにもどうぞご期待ください。
東芝映像ソリューション(株)取締役上席副社長
安木成次郎氏
1959年3月8日生まれ。福岡県出身。九州大学総合理工学研究科情報システム学科修士卒。1984年4月 株式会社東芝入社。2003年4月 コアテクノロジーセンター AV技術開発部長、2007年4月 コアテクノロジーセンター長、2012年1月 デジタルプロダクツ&サービス社統括技師長、2016年6月 東芝映像ソリューション株式会社 常務取締役統括技師長、2018年3月 取締役副社長、2019年6月 取締役上席副社長。好きな言葉はダーウィンの「生きる種とは、最も強いものではない。最も知的なものでもない。それは、変化に最もよく適応したものである」。
■テレビである以上、映像にも音にもこだわる
―― 高画質エンジン「レグザエンジン プロフェッショナル」や新開発AIレコメンドシステムで進化した「みるコレ」機能を搭載する4K有機ELレグザPro「X930 SERIES」「X830 SERIES」が、VGP2019 SUMMERで「総合金賞」を受賞しました。おめでとうございます。昨年末開催「VGP2019」での「X920 SERIES」「Z720X SERIES」の「総合金賞」に続いての連続受賞となりました。
安木 ありがとうございます。これまで東芝映像ソリューションでは、デジタル衛星放送や地デジ放送の開始にあたり、常に一番乗りで対応チューナー内蔵のモデルを発売してきました。昨年12月の4K衛星放送スタートに際しても一番乗りを目指し、昨年7月と9月に、CASや放送ストリーム変更など開発負荷がかかるいくつもの難題を乗り越え、「X920 SERIES」「Z720X SERIES」を発売し、公言通りに一番乗りを果たすことができました。同時に、VGP2019では「総合金賞」をいただくことができました。それに対して今回の「X930 SERIES」「X830 SERIES」では、いま一度基本に立ち戻り、「映像」と「音声」に正面から向き合いました。「どうあるべきか」を問い掛け、じっくりと再考し、納得のいく答えを出したモデルとなっています。
―― それではまず“音”について伺います。薄型テレビにとっての“テレビの音”は、デザインを研ぎ澄ます上からは二律背反の関係にある宿命とも言える課題です。顕在化している声はもちろん、潜在的に不満を持つユーザーも数多いのではないかと思われます。
安木 そこで東芝ソリューションでは、ブラウン管テレビ時代に大変好評を博した「重低音バズーカ」を、数年前から再び手掛けています。大変なのはやはり“厚み”が出てしまうこと。それを2代目となった今回は、かなり薄く作り込むことができました。結構リッチなウーファーを備えており、従来の薄型テレビとは一線を画す低音再生が実現し、高画質映像に負けない高音質が手にできたと自負しています。デザイン優先のインビジブルスピーカーでは、下向きにしたり、反射を利用したりいろいろなチャレンジがありましたが、満足のいくレベルを超えることはなかなか難しいですね。
テレビである以上はやはり、映像も音も、両方がしっかりと出ていなければなりません。映像にマイスターがいるように、音にもマイスターがいます。これまでは薄さを追求する中で、あまりいい音を追究することができませんでした。しかし、今回は“音”に対して相当に力を入れましたので、音に携わるエンジニアの表情も、いつもよりイキイキしていましたね。
―― ドルビーアトモスをはじめとするイマーシブサウンドについてはどのようにお考えですか。
安木 テレビのスピーカーではコンテンツを楽しめる聴きやすさを重視し、それに加えて、他のAV機器を繋がなくても楽しめるくらいの音質感・臨場感を追究していきます。また、レグザは周辺機器との接続率が非常に高いことが特徴のひとつです。外付けHDDは他社の30%に対して60%もあります。AVアンプも5%の接続があり、ドルビーアトモスでも、そこはAVアンプにお任せして、その分のリソースを映像にさらに振り向けていくこともひとつの考え方です。
―― 一方、画質についてはいかがですか。
安木 数年前、ひとつのブレイクスルーとなったのが「AI」です。超解像のアルゴリズムを開発してテレビに搭載していますが、従来は、たった一人のエンジニアが考えたもので、方法もひとつ。それがAIにより、複数の優秀なエンジニアが考えた、複数の方式の超解像を入れることが可能となったのです。
さらに、シーンごとの最適なチューニングを追究し、採用したのが深層学習(ディープラーニング)です。毎フレームごとにいまがどういうシーンなのかをテレビ自身が理解できるようになり、その判断に基づいて解像度を上げたり、画像をチューンナップするパラメーターを決定したり、それらを自動で行うことができるようになりました。超解像とAIが融合したAI超解像技術により、画質がさらに大きく進化しています。
また、暗所部分の再現やコントラスト、色再現性を改善していくにあたり、今まで磨いてきた技術をパネルとして表現することができた“有機EL”の登場も追い風となりました。まさにベースとなる本質に立ち戻り、飽くなき追求に取り組んだ画質・音質を高くご評価いただき、本当にうれしい限りです。
■進化するテレビ。つながるデバイスはすべて受け止める
―― ライフスタイルの中でのテレビの立ち位置が変化していますが、“新しいテレビ”についてはどのようにお考えですか。
安木 注目ポイントのひとつは、テレビのクラウドへの接続が高くなってきていること。これをうまく活かして使い勝手を高めていくと同時に、AI技術を用いてお客様が見たいコンテンツをリコメンドする機能「みるコレ」を搭載、これまで当たり前だった自分でチャンネルを選択する以外の新しい視聴スタイルを提案します。
ベースとなるのはお馴染みの「タイムシフトマシン」です。1週間分を丸録りした膨大なコンテンツの中から、過去番組表で遡って気になる番組を選んで視聴できます。今回、さらに進化した「みるコレ」では、AIレコメンドシステムが視聴履歴を学習・解析し、さらにネット上の膨大なコンテンツを含めた番組の中から、お好みの番組をレコメンデーションします。
AIを中心にしていろいろな進化が起きています。今後、ここをさらに究めていきたい。例えば、ゴルフの芝のシーンひとつとっても、現在はまだラフな状態での検出になりますが、これからはゴルフ、野球、アニメーションなどセグメンテーションをもっと細かくして検出していく。そこに、東芝エンジニアのノウハウを注入できることが大きな強みとなります。今回の受賞モデルは、画質、音質、データ解析を活かしたレコメンデーションなど、いろいろな要素が融合していくテレビのスタートポイントになります。
これからは、いろいろなデバイスがつながっていきます。レコーダーやサウンドバー、AVアンプなど、いわゆるエンターテインメントの画面表示としての従来の役割はもちろん、さらに、生活にもっとお役立ちできる、この画面を通してできることがたくさんあるはずです。すなわち、つながるデバイスももっとあるはずで、それらを全部受け止める意気込みから、今回はHDMI端子を7つも付けています。
機能は積分でどんどん効いてきます。それを誰もが簡単に扱えるようにするUIや使い勝手のよさも欠かせないポイントになります。ネットワークからはどんどんコンテンツが入ってきます。パートナーさんとはメタデータを交換するなど、ネットワーク側にあるコンテンツをこちら側に持ってきたときにも見やすく表現できる工夫がより大切になってきます。“エンターテインメントの大きなハブ”としてのテレビの役割は、さらに強まっていくと確信しています。
―― さまざまなエンターテインメントのひとつにゲームがありますが、レグザは低遅延のテレビとしてもゲームマニアから絶大な支持を獲得していますね。
安木 ネットワーク環境がかなり充実してきていますから、テレビを「臨場感たっぷりに楽しめる大画面で表示できるデバイス」という一つの選択肢として手軽にご利用いただくためにも、テレビに取り込んだコンテンツを、CPUのパワーを効率よく機能させ、できるだけ早く出画することは大事な要素のひとつ。なかでもその典型がゲームになります。
今では「eスポーツ」という言葉も当たり前に聞かれるようになりましたが、東芝映像ソリューションが「低遅延モード」の開発を検討し始めたのは今から数年前になります。テレビに搭載する大きなメモリーをうまく活かすことで、バッファリングをしながら声と映像を合わせ、それを極力短い時間で出画します。さまざまな課題を解決して完成した「低遅延モード」が、これほどまでに評価をいただけるのかと響きました。ゲーマーと呼ばれる皆さんのレスポンスは本当に想像もつかない速さで、15msずれるだけで歴然とわかってしまいます。
―― レグザなら究極の使い勝手が手に入れられるというわけですね。ゲームファンは極限のシビアですが、唇の動きと音声とを連動させるリップシンクのずれに対しては、ホームシアターファンも大変厳しい。
安木 遅延は本当にシビアなテーマで、リップシンクのずれも、わかる方には本当にすぐにわかってしまいます。少し前に、テレビに搭載するスピーカーと外部のサウンドバー「レグザサウンドシステム」がシンクロして、よりパワフルでクリアなサウンドを実現できる「シンクロモード」を開発しました。当時としては無謀とも言えるチャレンジで、レベルの高い技術を要求されるものでしたが、そこで開発された制御技術は今日まで脈々と息づいています。
■5G到来による劇的な進化をどうテレビに取り込むか
―― これまでお話があった一番乗りでのデジタルチューナーの搭載、タイムシフトマシン、低遅延モードはじめ、あらゆる機能が搭載されたレグザは“全部入り”と称され、その快適性が高い評価を集めています。
安木 例えば、テレビの音が悪いからと言って外部に委ねてしまうのではなく、あくまでテレビで完結する音の満足度を追究する。若者を中心としたテレビ離れも指摘されますが、テレビは放送をきちんと見られるものであり続ける、その考え方は首尾一貫しています。レグザのご愛用者に当社のクラウドにつなぐ許諾をいただき、そこで得られるお客様の視聴データからさまざまな分析を行っています。外部に繋げてゲームをしたり、YouTubeやAmazonプライム・ビデオを視聴したり、確かに傾向は年々変化していますが、それでも王様はまだまだ地上波です。NHKがすべての番組を放送と同時にインターネット配信できるようにする放送法改正案が通りました。民放さんでもいろいろなVODサービスを自ら提供されています。放送を取り巻く環境がどのように進化していくのか。その動向を常に注視しています。
―― 視聴スタイルの変化は加速していきそうですね。
安木 広告ビジネスの在り方は、コンテンツと密接な関係にありますから、そこも当然変わっていくのではないでしょうか。桁違いの環境をもたらそうとしている「5G」の到来が及ぼす影響は計り知れません。もちろん、一気に普及するわけではありませんが、全然違う世界が出現してくることは想像に難くないですね。同時接続台数も物凄い数になってきます。インフラが変わり、ビジネスの在り方が変わり、コンテンツの在り方も変わってくる。そこを先読みしながら、テレビの中にどう取り込んでいくかを考えていかなければなりません。
今はAIを軸に、誰よりも早くチャレンジして、出来上がった技術をコアにしてさらに次のテーマに挑む。それは、われわれ東芝時代から受け継いだDNAですから、今後も投資を惜しまず、継続し、次の時代へとつなげていかなければなりません。
レグザのお客様はネットへの接続率が大変高いのが特徴ですが、その中からかなりの数のお客様のレグザが、われわれのクラウドにつながっています。そのポテンシャルの高さを今、つくづく実感します。積分で増えていきますから、やり続けていくことが大切。そこから得られる膨大なデータをうまく活用することで、われわれがこれから考えていく新しいサービスを生み出す大きな力になります。
―― 4K8K、HDR、ハイレゾなど、これまでの次元とは違ったよりリアルな世界へどんどん近づいていきますね。
安木 8Kには本当に驚かされました。大画面でなくてもきちんと差がわかる。“奥行き”という新しい軸がはっきりとわかります。人間の網膜解像度には、限界となる物理的なパラメーターが存在しますが、人間はもっと高度な次元でいろいろなことを行っており、頭の中では映像を創り上げたり、音を創り上げたりします。8Kの描く世界はまさしく、そうした創造力のような領域、人間の可能性が秘めるもっとも奥深いところに関係したものだと思います。ハイレゾもそうですね。あれは耳ではなく肌で聴いている、いわば感覚の世界です。今後さらに現実とバーチャルとの距離が縮まり、よりリアルな世界へと近づいていくことは間違いありません。
そこへ向かっていくわけですから、クリアすべき課題はまだまだたくさんあります。レグザの持ち味である“全部入り”ももちろん、これからも継続していきます。さらに環境が大きく変化していく中で、いろいろな機能があって便利だけれども、その複雑性を感じさせることがない使い勝手にもより工夫を凝らすなど、技術を磨いていく大切さを痛感しています。
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