公開日 2023/10/30 13:57
クアルコムのWi-Fiオーディオ技術「XPAN」は何がすごい? 詳細を開発者に聞いた
新技術に寄せる期待と展望
米クアルコムがSnapdragon Soundの新しいワイヤレスオーディオテクノロジーとして、スマホとワイヤレスイヤホン・ヘッドホンを超低消費電力のWi-Fiプロトコルで接続して、ハイレゾワイヤレス伝送を実現する新技術「Qualcomm XPAN(エクスパン)」を発表した。
ハワイのマウイ島で開催されたSnapdragonの発表会で、オーディオ部門の開発責任者であるディノ・ベキス氏を取材した。Qualcomm XPANについてわかった詳細を報告しよう。
「Qualcomm Expanded Personal Area Network Technology(XPAN)」は、BluetoothオーディオのプロファイルをWi-Fiプロトコルの上に走らせて、優れた音質と高いロバスト性能、低遅延伝送を実現するワイヤレスオーディオの新技術だ。
クアルコムはXPANのため、消費電力を低く抑えながら通常のWi-Fiプロトコルの上にあらゆるBluetoothオーディオのコーデックによる信号を通せる独自技術を開発した。XPANはクアルコムの次期ワイヤレスオーディオ向けSoCのフラグシップである「Qualcomm S7 Pro Gen 1 Sound Platform」に搭載される。
S7 Proチップに内蔵するWi-Fi RFモジュールは2.4GHzと5GHzの周波数帯域に対応する。ベキス氏は、今後もさらに普及拡大が見込まれる6GHz帯にも「チャレンジする」と話している。
送り出し側のデバイスが搭載するSoCは、当初はXPANによる接続の安定性を図るためとして、今回のイベントでクアルコムが発表したモバイル向けの「Snapdragon 8 Gen 3」とコンピューティング向けの「Snapdragon X Elite」に限られる。
ベキス氏は「近い将来にはより多く、クアルコムのSoCにXPANを拡大したい」と意気込む。デバイスが搭載するOSもまたXPANのプロトコルをサポートしなければならないが、Wi-FiとBluetoothについてはオープンスタンダードの技術を使うことから、今後は多くのパートナーが参加する大きなエコシステムをつくることもクアルコムは考えている。
XPANのWi-Fiオーディオ伝送はどれぐらい低消費電力なのか、ベキス氏に聞いた。
「XPANは主に、S7 Proを搭載するシンク側のデバイス(ワイヤレスイヤホンやヘッドホンなど)に進化をもたらす技術です。ワイヤレスイヤホンの筐体に搭載できるバッテリーのサイズは限られます。現在、左右独立型ワイヤレスイヤホンは9〜10時間のバッテリー持ちが一般的です。現行のQualcomm S5 Gen 2 Sound Platform(関連記事)は、aptX Adaptiveコーデックによる48kHz/24bitのロスレスオーディオ再生が約10時間連続で行えるSoCです。この使い勝手を基準に置いて、XPANでも最大96kHz/24bitのロスレスオーディオ再生を約10時間楽しめるようにチューニングしています」
XPANはaptX Adaptiveの拡張機能であるSnapdragon Sound Lossless(旧称はaptX Lossless)による最大96kHz/24bitのロスレス再生をサポートする。なお、Snapdragon SoundのaptX Adaptiveによるロスレスオーディオ再生は、直近で44.1kHz/16bitから48kHz/24bitに強化された。XPANに対応する機器どうしでは、これが最大96kHz/24bitになる。
ベキス氏は「今後もaptX Adaptiveコーデックのブラッシュアップを続けることにより、XPANで最大192kHz/24bitのマルチチャンネル/ハイレゾオーディオ伝送を狙う」とした。
XPANの上にはaptX Adaptiveだけでなく、ソニーのLDAC、サムスンやファーウェイによる独自のBluetoothオーディオのコーデックが伝送できる。ただし、ベキス氏はやはり「相性はaptX Adaptiveが最もよい」と語っている。
Snapdragonの発表会ではXPANに対応する機器どうしによる接続環境について、いくつかの方向性が示唆された。
XPANに対応する機器は最初にBluetoothのペアリングと、イヤホンなどシンク側のデバイスにWi-Fiアクセスポイントの接続初期設定を済ませる必要がある。
最初はクアルコムのSoCを搭載するモバイルデバイスやノートPCと、S7 Proを載せたワイヤレスオーディオがWi-Fiにより「直接つながる」形態からスタートする。ベキス氏は「いずれはWi-FiアクセスポイントにXPAN対応のワイヤレスオーディオが直接つながって、音楽ストリーミングなどを楽しむスタイルを実現したい」と話す。セルラー通信によりインターネットに接続できるスマートウォッチを扱うようなイメージを想定しているという。
イヤホンを装着するユーザーが室内を移動して、接続先がモバイルデバイスからWi-Fiアクセスポイントに切り替わる際には、S7 Proが自動でハンドオフする。
Snapdragonの発表会で筆者はXPANのデモンストレーションを体験し、「Wi-FiからBluetoothへの自動切り替え」も試した。やはり切り替わったことがわかる程度に一瞬、音途切れは発生する。ただ、目立つほどのノイズが飛び込むこともない。これからさらにブラッシュアップされれば、一般には快適な使い勝手になるであろうこともイメージできた。
なお、XPANに対応するワイヤレスイヤホン・ヘッドホンが単体でアクセスポイントにつながるようになると、例えば音楽配信サービスに接続した状態で楽曲の検索や再生操作をどのように行えばよいのだろうか。ベキス氏は「音声コントロール」が最も有力な手段になると話していた。
XPANが今後ユーザーにも実感を伴うメリットをもたらせるように、クアルコムは2つのことに取り組む必要がある。
ひとつは送り出し側とシンク側のそれぞれに対応するSoCを増やすことだ。ベキス氏は今後もまずはクアルコムのSoCから、スタンダードクラスのチップに技術の拡大を図りたいとした。
もうひとつはXPANのロゴなどをつくって、ユーザーに対応するデバイスを見分けられるようにすることだ。多くの人々はクアルコムの名前やSnapdragonのSoCの種類を知らないはずだ。今のままでは対応条件に合う機器の組み合わせを見つけることがかなり困難だろう。ベキス氏は今回、Snapdragonのイベントで多くのジャーナリストから指摘を受けたことから、XPANの周知を図るための計画を立てるべきだと認識したという。
今回のイベントで発表された、Snapdragonのオーディオ向けSoCのフラグシップである「Qualcomm S7 Gen 1」シリーズは、デバイス上で完結する機械学習処理の能力がS5 Gen 2シリーズとの比較で約100倍に飛躍を遂げた。
理由についてベキス氏は「詳しい数値は非公開だが、チップセットのプロセスノードを微細化できたこと」を挙げている。
「プロセスノードを微細化して、機械学習処理に特化するマイクロNPU(Neural Processing Unit)に割り振るダイサイズをより多く確保しています。パワフルなNPUを少ない電力で動かせるシステム設計となったことがパフォーマンスの向上につながっています」
S7シリーズのチップにはクアルコムの新しい第4世代のANC(アクティブノイズキャンセリング)が載る。フィルターステージが拡大したことにより、イヤホンに内蔵するマイクと連携しながらより精度の高いノイズ除去を低レイテンシーで実現できる。ベキス氏は、例えば外から飛び込んでくるノイズを除去するノイズリダクションや、オープン型のワイヤレスイヤホンにもより精度の高いノイズキャンセリング機能が載せられると語った。ここにもNPUの性能向上がからんでくる。
ほかにも、例えばワイヤレスイヤホンに生体情報を取得する複数のセンサーを載せてヘルスケアやフィットネス系の用途を追えたり、精度の高いヘッドトラッキングと連動するイマーシブオーディオ体験を引き出すことも、高性能なNPUがもたらす恩恵だ。「PCやスマートフォンが求められてきたような飛躍的なパフォーマンス向上が、いよいよワイヤレスオーディオに訪れようとしている」とベキス氏は期待を語った。
クアルコムのSnapdragon Soundの現況についても聞いたところ、ロスレスオーディオ再生への対応については先述の通りだが、いよいよ近くSnapdragon Soundを搭載するWindows PCがコンシューマ向けの商品として出揃うことにもなりそうだ。快適なワイヤレスオーディオが楽しめるエコシステムの拡大に今後も注目したい。
ハワイのマウイ島で開催されたSnapdragonの発表会で、オーディオ部門の開発責任者であるディノ・ベキス氏を取材した。Qualcomm XPANについてわかった詳細を報告しよう。
■Wi-Fiで高品位なポータブルワイヤレスオーディオを実現するXPAN
「Qualcomm Expanded Personal Area Network Technology(XPAN)」は、BluetoothオーディオのプロファイルをWi-Fiプロトコルの上に走らせて、優れた音質と高いロバスト性能、低遅延伝送を実現するワイヤレスオーディオの新技術だ。
クアルコムはXPANのため、消費電力を低く抑えながら通常のWi-Fiプロトコルの上にあらゆるBluetoothオーディオのコーデックによる信号を通せる独自技術を開発した。XPANはクアルコムの次期ワイヤレスオーディオ向けSoCのフラグシップである「Qualcomm S7 Pro Gen 1 Sound Platform」に搭載される。
S7 Proチップに内蔵するWi-Fi RFモジュールは2.4GHzと5GHzの周波数帯域に対応する。ベキス氏は、今後もさらに普及拡大が見込まれる6GHz帯にも「チャレンジする」と話している。
送り出し側のデバイスが搭載するSoCは、当初はXPANによる接続の安定性を図るためとして、今回のイベントでクアルコムが発表したモバイル向けの「Snapdragon 8 Gen 3」とコンピューティング向けの「Snapdragon X Elite」に限られる。
ベキス氏は「近い将来にはより多く、クアルコムのSoCにXPANを拡大したい」と意気込む。デバイスが搭載するOSもまたXPANのプロトコルをサポートしなければならないが、Wi-FiとBluetoothについてはオープンスタンダードの技術を使うことから、今後は多くのパートナーが参加する大きなエコシステムをつくることもクアルコムは考えている。
■XPANの「低消費電力」の実力は?
XPANのWi-Fiオーディオ伝送はどれぐらい低消費電力なのか、ベキス氏に聞いた。
「XPANは主に、S7 Proを搭載するシンク側のデバイス(ワイヤレスイヤホンやヘッドホンなど)に進化をもたらす技術です。ワイヤレスイヤホンの筐体に搭載できるバッテリーのサイズは限られます。現在、左右独立型ワイヤレスイヤホンは9〜10時間のバッテリー持ちが一般的です。現行のQualcomm S5 Gen 2 Sound Platform(関連記事)は、aptX Adaptiveコーデックによる48kHz/24bitのロスレスオーディオ再生が約10時間連続で行えるSoCです。この使い勝手を基準に置いて、XPANでも最大96kHz/24bitのロスレスオーディオ再生を約10時間楽しめるようにチューニングしています」
XPANはaptX Adaptiveの拡張機能であるSnapdragon Sound Lossless(旧称はaptX Lossless)による最大96kHz/24bitのロスレス再生をサポートする。なお、Snapdragon SoundのaptX Adaptiveによるロスレスオーディオ再生は、直近で44.1kHz/16bitから48kHz/24bitに強化された。XPANに対応する機器どうしでは、これが最大96kHz/24bitになる。
ベキス氏は「今後もaptX Adaptiveコーデックのブラッシュアップを続けることにより、XPANで最大192kHz/24bitのマルチチャンネル/ハイレゾオーディオ伝送を狙う」とした。
XPANの上にはaptX Adaptiveだけでなく、ソニーのLDAC、サムスンやファーウェイによる独自のBluetoothオーディオのコーデックが伝送できる。ただし、ベキス氏はやはり「相性はaptX Adaptiveが最もよい」と語っている。
■XPANのデモンストレーションを体験した
Snapdragonの発表会ではXPANに対応する機器どうしによる接続環境について、いくつかの方向性が示唆された。
XPANに対応する機器は最初にBluetoothのペアリングと、イヤホンなどシンク側のデバイスにWi-Fiアクセスポイントの接続初期設定を済ませる必要がある。
最初はクアルコムのSoCを搭載するモバイルデバイスやノートPCと、S7 Proを載せたワイヤレスオーディオがWi-Fiにより「直接つながる」形態からスタートする。ベキス氏は「いずれはWi-FiアクセスポイントにXPAN対応のワイヤレスオーディオが直接つながって、音楽ストリーミングなどを楽しむスタイルを実現したい」と話す。セルラー通信によりインターネットに接続できるスマートウォッチを扱うようなイメージを想定しているという。
イヤホンを装着するユーザーが室内を移動して、接続先がモバイルデバイスからWi-Fiアクセスポイントに切り替わる際には、S7 Proが自動でハンドオフする。
Snapdragonの発表会で筆者はXPANのデモンストレーションを体験し、「Wi-FiからBluetoothへの自動切り替え」も試した。やはり切り替わったことがわかる程度に一瞬、音途切れは発生する。ただ、目立つほどのノイズが飛び込むこともない。これからさらにブラッシュアップされれば、一般には快適な使い勝手になるであろうこともイメージできた。
なお、XPANに対応するワイヤレスイヤホン・ヘッドホンが単体でアクセスポイントにつながるようになると、例えば音楽配信サービスに接続した状態で楽曲の検索や再生操作をどのように行えばよいのだろうか。ベキス氏は「音声コントロール」が最も有力な手段になると話していた。
■XPANのパートナー拡大のために必要な施策とは
XPANが今後ユーザーにも実感を伴うメリットをもたらせるように、クアルコムは2つのことに取り組む必要がある。
ひとつは送り出し側とシンク側のそれぞれに対応するSoCを増やすことだ。ベキス氏は今後もまずはクアルコムのSoCから、スタンダードクラスのチップに技術の拡大を図りたいとした。
もうひとつはXPANのロゴなどをつくって、ユーザーに対応するデバイスを見分けられるようにすることだ。多くの人々はクアルコムの名前やSnapdragonのSoCの種類を知らないはずだ。今のままでは対応条件に合う機器の組み合わせを見つけることがかなり困難だろう。ベキス氏は今回、Snapdragonのイベントで多くのジャーナリストから指摘を受けたことから、XPANの周知を図るための計画を立てるべきだと認識したという。
■機械学習処理の能力が「100倍に向上」した理由
今回のイベントで発表された、Snapdragonのオーディオ向けSoCのフラグシップである「Qualcomm S7 Gen 1」シリーズは、デバイス上で完結する機械学習処理の能力がS5 Gen 2シリーズとの比較で約100倍に飛躍を遂げた。
理由についてベキス氏は「詳しい数値は非公開だが、チップセットのプロセスノードを微細化できたこと」を挙げている。
「プロセスノードを微細化して、機械学習処理に特化するマイクロNPU(Neural Processing Unit)に割り振るダイサイズをより多く確保しています。パワフルなNPUを少ない電力で動かせるシステム設計となったことがパフォーマンスの向上につながっています」
S7シリーズのチップにはクアルコムの新しい第4世代のANC(アクティブノイズキャンセリング)が載る。フィルターステージが拡大したことにより、イヤホンに内蔵するマイクと連携しながらより精度の高いノイズ除去を低レイテンシーで実現できる。ベキス氏は、例えば外から飛び込んでくるノイズを除去するノイズリダクションや、オープン型のワイヤレスイヤホンにもより精度の高いノイズキャンセリング機能が載せられると語った。ここにもNPUの性能向上がからんでくる。
ほかにも、例えばワイヤレスイヤホンに生体情報を取得する複数のセンサーを載せてヘルスケアやフィットネス系の用途を追えたり、精度の高いヘッドトラッキングと連動するイマーシブオーディオ体験を引き出すことも、高性能なNPUがもたらす恩恵だ。「PCやスマートフォンが求められてきたような飛躍的なパフォーマンス向上が、いよいよワイヤレスオーディオに訪れようとしている」とベキス氏は期待を語った。
クアルコムのSnapdragon Soundの現況についても聞いたところ、ロスレスオーディオ再生への対応については先述の通りだが、いよいよ近くSnapdragon Soundを搭載するWindows PCがコンシューマ向けの商品として出揃うことにもなりそうだ。快適なワイヤレスオーディオが楽しめるエコシステムの拡大に今後も注目したい。
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