公開日 2006/05/22 16:30
レガシーからスタンダードへ − JBL「LSシリーズ」開発者インタビュー
先日のニュースでお伝えしたとおり、JBLから同社創立60周年を記念したスピーカーシステム「LSシリーズ」が登場、6月1日から販売が開始される。
シリーズは、3ウェイフロア型の「LS80」「LS60」と、センタースピーカー「LS Center」の3機種で構成される。Phile-webでは、このLSシリーズの開発を手がけた、「JBLの若きエース」と目されるシステムエンジニア、Charles Sprinkle氏へのインタビューを行った。
−−−Sprinkleさんのプロフィールを教えてください。
Sprinkle氏:実は、JBLは私のセカンドキャリアなのです。カリフォルニア州立大学卒業後、ドラッグストアに勤務していたのですが、あるとき、友人宅で高価なハイファイシステムの音を聴いて、非常にびっくりしました。それから、自分でスピーカーを作り始めました。その後、大学に戻るチャンスがあったので、スピーカー開発者になるため、メカニカルエンジニアを志しました。
在学中、AES(AUDIO ENGINEERING SOCIETY 注 )でハーマンの社員と出会い、インターンとして勤務しはじめました。最初はアシスタントエンジニアとして配属されましたが、2003年に正社員になり、同年秋に大学の学士を取得しました。
注:AES(Audio Engineering Society Inc.)は、米国ニューヨークに本部を置き、日本をはじめ世界各地に支部を有するオーディオ技術者、研究者など専門家の団体で、オーディオに関する唯一の国際組織
−−−スピーカーを開発するために大学に入学し直すとは、すごい情熱ですね。入社後はどの製品を担当しましたか?
Sprinkle氏:2003年の入社以来、3シリーズ1モデルを担当し、トランスデューサーの開発にも一部関わりました。センタースピーカー「HC5000」の開発も担当しました。
−−−今回の「LSシリーズ」について、まずは製品のコンセプトを教えてください。
Sprinkle氏:JBLのスピーカーラインナップは、K2などのハイエンドモデルと、スタジオモニターの2つに大きく分けることができます。それぞれ、非常に多くのユーザーにご支持を頂いています。今回のLSシリーズでは、これらの製品を支持して頂いているマニア層だけでなく、リビングでオーディオを楽しむような、より一般の方々にも受け入れられるよう設計しました。
−−−「LS」は何の略ですか?
Sprinkle氏:LSには、“from Legacy to Standard”という意味を込めています。
−−−音の作り込みではどのような工夫をされましたか?
Sprinkle氏:コンプレッションホーンを使った音のキャラクターは、JBLのこれまでの音の方向性を踏襲していますが、多くの方に受け入れられるようニュアンスを変えています。私は、スピーカーは音楽の表現するための装置で、存在を主張しすぎない、透明なキャラクターが望ましいと考えています。
−−−さきほどリビングルームという言葉が出ましたが、世界的に見て、リビングルームにどんどん薄型テレビが入ってきています。音の方向性を決める段階で、これについて意識しましたか?
Sprinkle氏:LSシリーズは、薄型テレビを中心としたサラウンドシステムにも、あるいは2チャンネルでのステレオ再生にも、両方に対応できるように開発しました。
−−−デザインについてはどうですか?
Sprinkle氏:私はインダストリアルデザインの担当者ではない(注) のであまり詳しくは語れませんが、デザインにはJBLの伝統が表現されています。新しさの中にJBLの特徴をうまく表現していると思います。
注:LSシリーズのインダストリアルデザインはDaniel Ashcraft氏が担当した
−−−今回、新しい音の方向性を打ち出したのは、大きな冒険だったのではないかと思います。開発で力を入れた点を教えてください。
Sprinkle氏:今回はホーンを一から開発し直しました。ホーンは非常に複雑な形状をしているため、音の伝わり方を正確に計算するのが難しい。たとえば、これまでは音波が平滑に伝わるモデルで計算していましたが、実際は球状に広がるわけです。ですが、球状のモデルで計算すると計算が複雑になりすぎるので、代わりにホーンをなるべく単純なかたちにすることで対処していました。今回、計算方法を改めたことで、“ダックビル”という新たな形状が実現しました。初めてこのホーンの音を聴いたとき、ほぼ意図した通りの音が出てきたことに興奮しました。
−−−ホーンの形状を変えたことで、具体的にどのような効果が得られましたか?
Sprinkle氏:大きなホーンでは干渉が発生しにくいので、これまでの形状でもよいのですが、小さなホーンでは、内部反射が問題になります。今回のホーンでは内部反射を低減でき、周波数特性が改善しました。また、ディテールの正確な再現が可能になりました。
そのほか、上下方向の指向性が高まったのも新しいホーンの効果です。中低域の指向性は広く、高域は狭くチューニングすることで、トゥイーターやウーファーとのつながりが良くなっています。
−−−今後、このホーンをほかのJBL製品にも搭載していきますか?
Sprinkle氏:このホーンは、カジュアルなシステムには特に適していると考えています。筐体の小さい製品にはこのホーンが使われることが増えるかもしれません。
−−−今後の活躍に期待しています。本日はありがとうございました。
(Phile-web編集部)
シリーズは、3ウェイフロア型の「LS80」「LS60」と、センタースピーカー「LS Center」の3機種で構成される。Phile-webでは、このLSシリーズの開発を手がけた、「JBLの若きエース」と目されるシステムエンジニア、Charles Sprinkle氏へのインタビューを行った。
−−−Sprinkleさんのプロフィールを教えてください。
Sprinkle氏:実は、JBLは私のセカンドキャリアなのです。カリフォルニア州立大学卒業後、ドラッグストアに勤務していたのですが、あるとき、友人宅で高価なハイファイシステムの音を聴いて、非常にびっくりしました。それから、自分でスピーカーを作り始めました。その後、大学に戻るチャンスがあったので、スピーカー開発者になるため、メカニカルエンジニアを志しました。
在学中、AES(AUDIO ENGINEERING SOCIETY 注 )でハーマンの社員と出会い、インターンとして勤務しはじめました。最初はアシスタントエンジニアとして配属されましたが、2003年に正社員になり、同年秋に大学の学士を取得しました。
注:AES(Audio Engineering Society Inc.)は、米国ニューヨークに本部を置き、日本をはじめ世界各地に支部を有するオーディオ技術者、研究者など専門家の団体で、オーディオに関する唯一の国際組織
−−−スピーカーを開発するために大学に入学し直すとは、すごい情熱ですね。入社後はどの製品を担当しましたか?
Sprinkle氏:2003年の入社以来、3シリーズ1モデルを担当し、トランスデューサーの開発にも一部関わりました。センタースピーカー「HC5000」の開発も担当しました。
−−−今回の「LSシリーズ」について、まずは製品のコンセプトを教えてください。
Sprinkle氏:JBLのスピーカーラインナップは、K2などのハイエンドモデルと、スタジオモニターの2つに大きく分けることができます。それぞれ、非常に多くのユーザーにご支持を頂いています。今回のLSシリーズでは、これらの製品を支持して頂いているマニア層だけでなく、リビングでオーディオを楽しむような、より一般の方々にも受け入れられるよう設計しました。
−−−「LS」は何の略ですか?
Sprinkle氏:LSには、“from Legacy to Standard”という意味を込めています。
−−−音の作り込みではどのような工夫をされましたか?
Sprinkle氏:コンプレッションホーンを使った音のキャラクターは、JBLのこれまでの音の方向性を踏襲していますが、多くの方に受け入れられるようニュアンスを変えています。私は、スピーカーは音楽の表現するための装置で、存在を主張しすぎない、透明なキャラクターが望ましいと考えています。
−−−さきほどリビングルームという言葉が出ましたが、世界的に見て、リビングルームにどんどん薄型テレビが入ってきています。音の方向性を決める段階で、これについて意識しましたか?
Sprinkle氏:LSシリーズは、薄型テレビを中心としたサラウンドシステムにも、あるいは2チャンネルでのステレオ再生にも、両方に対応できるように開発しました。
−−−デザインについてはどうですか?
Sprinkle氏:私はインダストリアルデザインの担当者ではない(注) のであまり詳しくは語れませんが、デザインにはJBLの伝統が表現されています。新しさの中にJBLの特徴をうまく表現していると思います。
注:LSシリーズのインダストリアルデザインはDaniel Ashcraft氏が担当した
−−−今回、新しい音の方向性を打ち出したのは、大きな冒険だったのではないかと思います。開発で力を入れた点を教えてください。
Sprinkle氏:今回はホーンを一から開発し直しました。ホーンは非常に複雑な形状をしているため、音の伝わり方を正確に計算するのが難しい。たとえば、これまでは音波が平滑に伝わるモデルで計算していましたが、実際は球状に広がるわけです。ですが、球状のモデルで計算すると計算が複雑になりすぎるので、代わりにホーンをなるべく単純なかたちにすることで対処していました。今回、計算方法を改めたことで、“ダックビル”という新たな形状が実現しました。初めてこのホーンの音を聴いたとき、ほぼ意図した通りの音が出てきたことに興奮しました。
−−−ホーンの形状を変えたことで、具体的にどのような効果が得られましたか?
Sprinkle氏:大きなホーンでは干渉が発生しにくいので、これまでの形状でもよいのですが、小さなホーンでは、内部反射が問題になります。今回のホーンでは内部反射を低減でき、周波数特性が改善しました。また、ディテールの正確な再現が可能になりました。
そのほか、上下方向の指向性が高まったのも新しいホーンの効果です。中低域の指向性は広く、高域は狭くチューニングすることで、トゥイーターやウーファーとのつながりが良くなっています。
−−−今後、このホーンをほかのJBL製品にも搭載していきますか?
Sprinkle氏:このホーンは、カジュアルなシステムには特に適していると考えています。筐体の小さい製品にはこのホーンが使われることが増えるかもしれません。
−−−今後の活躍に期待しています。本日はありがとうございました。
(Phile-web編集部)