公開日 2014/09/05 14:10
<IFA>ソニー商品企画担当者インタビュー:最上位ヘッドホン「Z7」と新ハイレゾ“ウォークマン”の詳細
スペシャルインタビュー
ソニーはIFA2014のプレスカンファレンスで、新たなプレミアムヘッドホン「MDR-Z7」や、エントリーモデルのウォークマン「NWZ-A15」をはじめ、同社ハイレゾ戦略の重要なターニングポイントとなる新製品群を発表した。
今回はIFAの会場にて、同社のオーディオ開発担当の商品企画担当であるソニー(株)ホームエンタテインメント&サウンド事業本部の中田謙二氏、瓜谷尚大氏を訪ね、新製品誕生の背景をうかがった。
■プレミアムヘッドホンを追求して辿り着いたバランス接続対応の「MDR-Z7」
「MDR-Z7」は久しぶりに登場したリファレンスクラスのヘッドホンだ。IFAではヘッドホンアンプの新製品「PHA-3AC」とのバランス接続によるリスニングスタイルとサウンドが紹介されている。はじめに今回、ヘッドホン「Z7」が開発された経緯をうかがった。
「2012年にプレミアムモデルとしてMDR-1Rを発売して、以来昨年はMK2に進化してきました。ハイレゾ対応の高音質を謳った本シリーズが高い評価を頂けたことで、音質を突き詰めた、より上位のヘッドホンを作ろうということになり、Z7の開発がスタートしました」(中田氏)
「ウォークマンが先行してNW-ZX1というプレミアムモデルをリリースしていました。MDR-Z7もヘッドホンのプレミアムモデルをつくることが開発の目標としてありました」
本体には長さ3mのヘッドホンケーブルのほかに、長さ2mのバランス接続用のケーブルが付いてくる。「ハイエンド仕様を突き詰めていくと、左右チャンネルのセパレーションが取れるバランス接続を採用するという方向に、必然的に辿り着きました。MDR-1Rからステップアップできた、最も大きなポイントの一つです」(中田氏)
昨今、特に若年層の音楽ファンにとって、オーディオへの入口がヘッドホンという場合が増えている。「スピーカーで聴ける良い音をヘッドホンでいかに体験していただけるかと考えたときに、まずはしっかりと左右の音を分けられるバランス接続を追求していくという方向に至った」と説明を続ける。
ヘッドホンアンプ「PHA-3AC」のフロントパネルにはステレオミニジャックと3極バランス端子が搭載されており、ヘッドホンに付属するバランスケーブルを接続し、より高品位なサウンドが楽しめる。入力側はmicroUSB、USB-A、ステレオミニのほかに角型の光デジタル入力端子も搭載されている。今回のイベントに展示されていたデモ機はAC電源で駆動する仕様だったが、国内展開の際にはバッテリーを内蔵してくることも考えられそうだ。
振動板には従来のMDR-1Rから使われている液晶ポリマーフィルムに、Z7ではアルミコーティングを施している。音質面では10kHz近辺にあるノイズをフラットにして、高域を整える効果が得られるという。再生周波数のスペックはMDR-1RMk2の4Hz〜80kHzから、Z7では4Hz〜100kHzへと帯域を広げている。
ハウジング上に設けたポートにより、低域における通気抵抗をコントロールする「ビートレスポンスコントロール」はこれまでも搭載されていた技術の一つだが、70mm口径の大型ドライバーに合わせてダクトの形状も変更し、よりタイトで正確なリズムの再現性を獲得させている。振動板の形状変更も含めた高音質化のアプローチについては、「70mmの大口径ドライバーで100kHzまでの再生に対応させるため、振動板に切り込みを入れて高域のレスポンスを高めています」と中田氏は説明する。
別売オプションとして、キンバーケーブルとのコラボレーションによる特製バランスケーブル「MUC-B20BL」も開発が進められている。IFAの会場ではZ7とPHA-3と組み合わせたサウンドを体験することができた。通常のバランスケーブルと音を聴き比べてみると、低域の量感が明らかに豊かさを増し、中高域の解像感が高まる。今回のコラボレーションは、ハイエンドオーディオに実績を持つキンバーケーブルとソニーのエンジニア同士の交流によって実現したそうだ。
なおヘッドホン側のケーブルは左右両出しで、ロック機構付の2.5mm端子を採用している。ロック機構はアドオンで設けられているので他社製のリケーブルも使うことができそうだ。
■定番モデルが「MDR-1A」に進化/DAC内蔵のバリエーションモデルも登場
「MDR-Z7」の原点である「MDR-1R」も今回進化を遂げている。ヨーロッパを含めて、ワールドワイドで人気の高い定番モデルをアップデートした「MDR-1A」の大きな特徴は、高域の再生周波数帯域が80kHzから100kHzに伸びたことだ。ドライバーの大きさは40mm口径から変更されていない。ケーブルは無酸素銅の線材に銀コーティングを高めて損失の低減を改善している。
「ほかにも密閉感を高めるためにイヤーパッドの形状を変更しています。耳の下にあたる箇所をやや膨らませてフィット感を高めました。同じ工夫を上位モデルの「Z7」にも採用しています」(中田氏)
「MDR-1A」をベースにしたバリエーションモデルとして、本体にDACを内蔵する「MDR-1ADAC」も発表された。本機の開発意図をこう説明する。
「iPhoneやXperiaなど、スマートフォンで音楽を楽しむ方々が増えています。USB経由でのデジタル出力を受けて、音の損失がなるべく少なく抑えられる接続環境でヘッドホンリスニングが楽しめる一つのスタイルとして、DAC内蔵型のヘッドホンをご提案させていただきました」
「スマートフォンに直接つないで、いい音が楽しめるヘッドホン」として魅力を訴求していく製品であるという。本体にはmicroUSBーmicroUSB、microUSBーWM-Port、microUSBーLightningと3種類のケーブルが付属してくる。それぞれヘッドホン側のUSB端子に突起が付いた専用ケーブルで接続する仕様だ。
内蔵DACのスペックはPCM系が192kHz/24bitをサポート。DSDも5.6MHz/2.8MHzの音源をPCM変換で再生ができる。DACを介さずにアナログ入力からつないで通常のヘッドホンとしても楽しむことができるようになっている。
本体に搭載するバッテリーは4時間でフル充電、8時間の連続再生が楽しめる。
■ハイレゾ対応の“ウォークマン”入門機「NWZ-A15」
今年のIFAでソニーが発表したハイレゾ関連製品の中で、一つ大きなトピックスとなる製品がウォークマン「NWZ-A15」だ。ヘッドホンではリファレンスクラスの「Z7」にステップアップを図った一方で、ウォークマンはより広い音楽ファンにハイレゾの「感動」を届けるため、普及価格帯へのチャレンジを遂げた。日本市場への展開については他の未発表新製品と同様にまだ明らかにされていないが、「NWZ-A15」のヨーロッパでの導入は16GBモデルで200ユーロ後半(27,000円前後)という価格設定になりそうだ。
「本機を開発した意図としては、スマートフォンで音楽を楽しむユーザーが増えてくると、ウォークマンのようなポータブルオーディオプレーヤーも新たな付加価値を追求していかなければなりません。オーディオ再生の専用機として、次のステージを目指した結果、普及価格帯のウォークマンにもハイレゾ対応を実現したいと考え、新しいAシリーズでこれを実現しました」(中田氏)
「上位のウォークマンであるZX1、F880でハイエンド志向の方々にはハイレゾ再生をご提案できたと思いますが、より手軽な価格帯のオーディオプレーヤーで音楽を楽しみたいという方にもハイレゾの魅力を知っていただくため、Aシリーズをラインナップに加えました」
OSはZX1、F880に採用されているAndroidではなく、従来のAシリーズと同じLinuxベースのものになる。アプリを追加することはできないが、音楽再生専用機としてのシンプルな使い勝手を追求したモデルに仕上がっている。16GBの内蔵メモリーに加え、最大32GBのmicroSDカードを装着できる。日本での展開は未定だが、「アジア地域では64GBのメモリー内蔵モデルも発売する予定」だという。
ハイレゾ音源は最大192kHz/24bitのWAV/FLAC/AIFF/ALAC形式のファイルが再生可能だ。DSDのPCM変換再生には対応しない。「ハイレゾについて詳しくご存じないエントリーユーザーの方にも、お持ちの音楽ライブラリーをより高音質に楽しんでもらえるようDSEE HXを搭載しています」。
ソニーが昨年のIFA2013でハイレゾへの全力投球を宣言してから1年後、蓄えたノウハウをベースにハイエンドからエントリーまで、さらにハイレゾによる「感動」を広めるための戦略的な製品を用意してきた。本稿では取り上げなかったが、IFA2014での重要なもう一つのハイレゾ対応製品にスマートフォン・タブレットの「Xperia」シリーズがある。これらの製品が日本でも近く発表されることを期待したい。
今回はIFAの会場にて、同社のオーディオ開発担当の商品企画担当であるソニー(株)ホームエンタテインメント&サウンド事業本部の中田謙二氏、瓜谷尚大氏を訪ね、新製品誕生の背景をうかがった。
■プレミアムヘッドホンを追求して辿り着いたバランス接続対応の「MDR-Z7」
「MDR-Z7」は久しぶりに登場したリファレンスクラスのヘッドホンだ。IFAではヘッドホンアンプの新製品「PHA-3AC」とのバランス接続によるリスニングスタイルとサウンドが紹介されている。はじめに今回、ヘッドホン「Z7」が開発された経緯をうかがった。
「2012年にプレミアムモデルとしてMDR-1Rを発売して、以来昨年はMK2に進化してきました。ハイレゾ対応の高音質を謳った本シリーズが高い評価を頂けたことで、音質を突き詰めた、より上位のヘッドホンを作ろうということになり、Z7の開発がスタートしました」(中田氏)
「ウォークマンが先行してNW-ZX1というプレミアムモデルをリリースしていました。MDR-Z7もヘッドホンのプレミアムモデルをつくることが開発の目標としてありました」
本体には長さ3mのヘッドホンケーブルのほかに、長さ2mのバランス接続用のケーブルが付いてくる。「ハイエンド仕様を突き詰めていくと、左右チャンネルのセパレーションが取れるバランス接続を採用するという方向に、必然的に辿り着きました。MDR-1Rからステップアップできた、最も大きなポイントの一つです」(中田氏)
昨今、特に若年層の音楽ファンにとって、オーディオへの入口がヘッドホンという場合が増えている。「スピーカーで聴ける良い音をヘッドホンでいかに体験していただけるかと考えたときに、まずはしっかりと左右の音を分けられるバランス接続を追求していくという方向に至った」と説明を続ける。
ヘッドホンアンプ「PHA-3AC」のフロントパネルにはステレオミニジャックと3極バランス端子が搭載されており、ヘッドホンに付属するバランスケーブルを接続し、より高品位なサウンドが楽しめる。入力側はmicroUSB、USB-A、ステレオミニのほかに角型の光デジタル入力端子も搭載されている。今回のイベントに展示されていたデモ機はAC電源で駆動する仕様だったが、国内展開の際にはバッテリーを内蔵してくることも考えられそうだ。
振動板には従来のMDR-1Rから使われている液晶ポリマーフィルムに、Z7ではアルミコーティングを施している。音質面では10kHz近辺にあるノイズをフラットにして、高域を整える効果が得られるという。再生周波数のスペックはMDR-1RMk2の4Hz〜80kHzから、Z7では4Hz〜100kHzへと帯域を広げている。
ハウジング上に設けたポートにより、低域における通気抵抗をコントロールする「ビートレスポンスコントロール」はこれまでも搭載されていた技術の一つだが、70mm口径の大型ドライバーに合わせてダクトの形状も変更し、よりタイトで正確なリズムの再現性を獲得させている。振動板の形状変更も含めた高音質化のアプローチについては、「70mmの大口径ドライバーで100kHzまでの再生に対応させるため、振動板に切り込みを入れて高域のレスポンスを高めています」と中田氏は説明する。
別売オプションとして、キンバーケーブルとのコラボレーションによる特製バランスケーブル「MUC-B20BL」も開発が進められている。IFAの会場ではZ7とPHA-3と組み合わせたサウンドを体験することができた。通常のバランスケーブルと音を聴き比べてみると、低域の量感が明らかに豊かさを増し、中高域の解像感が高まる。今回のコラボレーションは、ハイエンドオーディオに実績を持つキンバーケーブルとソニーのエンジニア同士の交流によって実現したそうだ。
なおヘッドホン側のケーブルは左右両出しで、ロック機構付の2.5mm端子を採用している。ロック機構はアドオンで設けられているので他社製のリケーブルも使うことができそうだ。
■定番モデルが「MDR-1A」に進化/DAC内蔵のバリエーションモデルも登場
「MDR-Z7」の原点である「MDR-1R」も今回進化を遂げている。ヨーロッパを含めて、ワールドワイドで人気の高い定番モデルをアップデートした「MDR-1A」の大きな特徴は、高域の再生周波数帯域が80kHzから100kHzに伸びたことだ。ドライバーの大きさは40mm口径から変更されていない。ケーブルは無酸素銅の線材に銀コーティングを高めて損失の低減を改善している。
「ほかにも密閉感を高めるためにイヤーパッドの形状を変更しています。耳の下にあたる箇所をやや膨らませてフィット感を高めました。同じ工夫を上位モデルの「Z7」にも採用しています」(中田氏)
「MDR-1A」をベースにしたバリエーションモデルとして、本体にDACを内蔵する「MDR-1ADAC」も発表された。本機の開発意図をこう説明する。
「iPhoneやXperiaなど、スマートフォンで音楽を楽しむ方々が増えています。USB経由でのデジタル出力を受けて、音の損失がなるべく少なく抑えられる接続環境でヘッドホンリスニングが楽しめる一つのスタイルとして、DAC内蔵型のヘッドホンをご提案させていただきました」
「スマートフォンに直接つないで、いい音が楽しめるヘッドホン」として魅力を訴求していく製品であるという。本体にはmicroUSBーmicroUSB、microUSBーWM-Port、microUSBーLightningと3種類のケーブルが付属してくる。それぞれヘッドホン側のUSB端子に突起が付いた専用ケーブルで接続する仕様だ。
内蔵DACのスペックはPCM系が192kHz/24bitをサポート。DSDも5.6MHz/2.8MHzの音源をPCM変換で再生ができる。DACを介さずにアナログ入力からつないで通常のヘッドホンとしても楽しむことができるようになっている。
本体に搭載するバッテリーは4時間でフル充電、8時間の連続再生が楽しめる。
■ハイレゾ対応の“ウォークマン”入門機「NWZ-A15」
今年のIFAでソニーが発表したハイレゾ関連製品の中で、一つ大きなトピックスとなる製品がウォークマン「NWZ-A15」だ。ヘッドホンではリファレンスクラスの「Z7」にステップアップを図った一方で、ウォークマンはより広い音楽ファンにハイレゾの「感動」を届けるため、普及価格帯へのチャレンジを遂げた。日本市場への展開については他の未発表新製品と同様にまだ明らかにされていないが、「NWZ-A15」のヨーロッパでの導入は16GBモデルで200ユーロ後半(27,000円前後)という価格設定になりそうだ。
「本機を開発した意図としては、スマートフォンで音楽を楽しむユーザーが増えてくると、ウォークマンのようなポータブルオーディオプレーヤーも新たな付加価値を追求していかなければなりません。オーディオ再生の専用機として、次のステージを目指した結果、普及価格帯のウォークマンにもハイレゾ対応を実現したいと考え、新しいAシリーズでこれを実現しました」(中田氏)
「上位のウォークマンであるZX1、F880でハイエンド志向の方々にはハイレゾ再生をご提案できたと思いますが、より手軽な価格帯のオーディオプレーヤーで音楽を楽しみたいという方にもハイレゾの魅力を知っていただくため、Aシリーズをラインナップに加えました」
OSはZX1、F880に採用されているAndroidではなく、従来のAシリーズと同じLinuxベースのものになる。アプリを追加することはできないが、音楽再生専用機としてのシンプルな使い勝手を追求したモデルに仕上がっている。16GBの内蔵メモリーに加え、最大32GBのmicroSDカードを装着できる。日本での展開は未定だが、「アジア地域では64GBのメモリー内蔵モデルも発売する予定」だという。
ハイレゾ音源は最大192kHz/24bitのWAV/FLAC/AIFF/ALAC形式のファイルが再生可能だ。DSDのPCM変換再生には対応しない。「ハイレゾについて詳しくご存じないエントリーユーザーの方にも、お持ちの音楽ライブラリーをより高音質に楽しんでもらえるようDSEE HXを搭載しています」。
ソニーが昨年のIFA2013でハイレゾへの全力投球を宣言してから1年後、蓄えたノウハウをベースにハイエンドからエントリーまで、さらにハイレゾによる「感動」を広めるための戦略的な製品を用意してきた。本稿では取り上げなかったが、IFA2014での重要なもう一つのハイレゾ対応製品にスマートフォン・タブレットの「Xperia」シリーズがある。これらの製品が日本でも近く発表されることを期待したい。