公開日 2015/05/27 16:03
【独HIGH END】マルチch伝送も可能な次世代デジタルラジオ「DAB+」の可能性
バイエルン放送と放送技術研究所が共同ブースを開設
5月中旬にミュンヘンで開催されたオーディオイベント「High End」の会場を歩いていると、欧州では日本以上に音楽メディアの多様化が進んでいることを強く実感した。ディスク、ダウンロード、ストリーミングなどメディアのバリエーションが広がっているだけでなく、それらのなかには日本でまだ利用できないものが含まれているためだ。TIDALなど高音質のストリーミングサービスもその一つだが、それ以上に日本で利用できないことの残念感が強いのがデジタルラジオである。
西ヨーロッパでは「DAB+」と呼ばれるデジタルラジオ放送がすでにスタートし、特に英国、北欧諸国では放送設備と受信機器どちらも普及が進み、リスナーの認知度も高い。一方、2011年に導入されたドイツはまだそこまで普及はしていないものの、今年から各放送局の取り組みが本格化し、普及に弾みがつくと期待されている。
HighEndの会場にはバイエルン放送(BR)と放送技術研究所(IRT)が共同でブースを開設し、デジタルラジオの現状報告や他方式との音質比較、最新番組紹介など、多様なデモンストレーションを行った。HighEnd会場でのデジタルラジオの本格的な展示は今回が初めてということもあり、こちらの記事で紹介したDSDのブースに匹敵する注目を集めていた。ドイツ国内向けの放送で、講演やデモンストレーションもすべてドイツ語ということもあり、海外メディアなどの注目度はそれほど高くないのだが、DAB+のポテンシャルの高さは注目に値するものだと思う。一人の音楽ファンとして筆者自身も興味を惹かれた部分が多かったので、展示の概要を紹介することにしたい。
DAB+はDAB(Digital Audio Broadcast)をベースに改良を加えたデジタルラジオの標準規格で、オーディオコーデックには高効率なMPEG-4(HE-ACC v2)を採用している。同じ帯域幅であれば従来の3倍の情報を送信することができ、そこで生まれる余裕を音質改善やマルチチャンネル放送(5.1ch)の実現に利用することができる。実際にこの5月から一部の番組でデジタルラジオのサラウンド放送も始まっており、HighEndの会場でもブース内の試聴室と自動車の2つの環境でマルチチャンネル再生の音を確認することができた。
既存のFM放送との比較試聴では、DAB+の方が明らかに臨場感が優れており、特にライヴ中継では歴然とした差が生まれる。受信状況が安定していることやノイズレスなど、受信環境に左右されにくいメリットはもちろんだが、音質面でもFM放送との差は想像以上に大きいと感じた。ちなみにドイツではいずれFM放送のサービスを停止し、DAB+に全面移行することが発表されているが、その時期についてはまだ議論が継続中だという。BRは多数のラジオチャンネルのなかで、音質が重要な意味を持つBRクラシックチャンネルから順にデジタルへの完全移行を検討していることを表明し、話題になった。
インターネットラジオとの比較では、コーデックと転送レートの差がそのまま音に現れる。デジタルラジオはいまのところMPEG-4による96kbpsまたは128kbpsでのオンエアが多いのだが、低レートのMP3が主流を占めるインターネットラジオよりは情報量に明らかな余裕がある。96kbpsと聞くと低レートに思えるかもしれないが、MPEG-4ならば前述のように従来の3倍の情報が送信でき、それは音質にも現れていた。なお、会場ではMPEG-4 96kbpsでマルチチャンネル伝送も可能と説明されていた。
また、特にポータブル機器やカーラジオなど、屋外での受信を考えると、インターネットラジオに比べて安定性と音質の両面で利点が大きい。クルマのネット接続自体はかなり進んでいるのだが、ドイツをはじめとする欧州のインターネット環境は日本ほど高速ではない。SIMカードが不要で受信機以外に費用がかからないデジタルラジオは、コストの面から見ても明らかにアドバンテージがある。
家庭用ラジオやポータブル受信機はDAB+対応が加速しているが、ドイツではカーラジオのDAB+搭載率はまだ10%ほどにとどまっているという(2014年に販売された新車の推定値)。だが、交通情報を含む文字データの送受信など、付加機能も含めてデジタルラジオのメリットは自動車でこそ活きてくるものが多い。今年から来年にかけて、ドイツでも搭載率は着実に増える見込みだという。
自動車とデジタルラジオの相性の良さをアピールすることを狙って、High Endのホール展示ではアウディのS7でDAB+の再生デモンストレーションが行われた。実際に聴いてみると、特にサラウンド音源の臨場感と音の鮮度の高さに既存のFM放送との大きな違いを聴き取ることができ、フラウンホーファーが開発したコーデックと再生回路の長所もうかがうことができた。
ここまでのハイパフォーマンスモデルではなくても、最近のクルマは高速走行時でも比較的エンジン回転数が低く、車内は静かな環境が保たれている。そうした環境で聴くことを想定すると、DAB+の音質は確実なメリットになり、大きな可能性を秘めている。
これからしばらくは、ドイツを訪れてクルマを運転する楽しみが増える。それと同時に、日本に戻ったとき、なぜ同じようなサービスが利用できないのか、不満が募ることになりそうだ。
西ヨーロッパでは「DAB+」と呼ばれるデジタルラジオ放送がすでにスタートし、特に英国、北欧諸国では放送設備と受信機器どちらも普及が進み、リスナーの認知度も高い。一方、2011年に導入されたドイツはまだそこまで普及はしていないものの、今年から各放送局の取り組みが本格化し、普及に弾みがつくと期待されている。
HighEndの会場にはバイエルン放送(BR)と放送技術研究所(IRT)が共同でブースを開設し、デジタルラジオの現状報告や他方式との音質比較、最新番組紹介など、多様なデモンストレーションを行った。HighEnd会場でのデジタルラジオの本格的な展示は今回が初めてということもあり、こちらの記事で紹介したDSDのブースに匹敵する注目を集めていた。ドイツ国内向けの放送で、講演やデモンストレーションもすべてドイツ語ということもあり、海外メディアなどの注目度はそれほど高くないのだが、DAB+のポテンシャルの高さは注目に値するものだと思う。一人の音楽ファンとして筆者自身も興味を惹かれた部分が多かったので、展示の概要を紹介することにしたい。
DAB+はDAB(Digital Audio Broadcast)をベースに改良を加えたデジタルラジオの標準規格で、オーディオコーデックには高効率なMPEG-4(HE-ACC v2)を採用している。同じ帯域幅であれば従来の3倍の情報を送信することができ、そこで生まれる余裕を音質改善やマルチチャンネル放送(5.1ch)の実現に利用することができる。実際にこの5月から一部の番組でデジタルラジオのサラウンド放送も始まっており、HighEndの会場でもブース内の試聴室と自動車の2つの環境でマルチチャンネル再生の音を確認することができた。
既存のFM放送との比較試聴では、DAB+の方が明らかに臨場感が優れており、特にライヴ中継では歴然とした差が生まれる。受信状況が安定していることやノイズレスなど、受信環境に左右されにくいメリットはもちろんだが、音質面でもFM放送との差は想像以上に大きいと感じた。ちなみにドイツではいずれFM放送のサービスを停止し、DAB+に全面移行することが発表されているが、その時期についてはまだ議論が継続中だという。BRは多数のラジオチャンネルのなかで、音質が重要な意味を持つBRクラシックチャンネルから順にデジタルへの完全移行を検討していることを表明し、話題になった。
インターネットラジオとの比較では、コーデックと転送レートの差がそのまま音に現れる。デジタルラジオはいまのところMPEG-4による96kbpsまたは128kbpsでのオンエアが多いのだが、低レートのMP3が主流を占めるインターネットラジオよりは情報量に明らかな余裕がある。96kbpsと聞くと低レートに思えるかもしれないが、MPEG-4ならば前述のように従来の3倍の情報が送信でき、それは音質にも現れていた。なお、会場ではMPEG-4 96kbpsでマルチチャンネル伝送も可能と説明されていた。
また、特にポータブル機器やカーラジオなど、屋外での受信を考えると、インターネットラジオに比べて安定性と音質の両面で利点が大きい。クルマのネット接続自体はかなり進んでいるのだが、ドイツをはじめとする欧州のインターネット環境は日本ほど高速ではない。SIMカードが不要で受信機以外に費用がかからないデジタルラジオは、コストの面から見ても明らかにアドバンテージがある。
家庭用ラジオやポータブル受信機はDAB+対応が加速しているが、ドイツではカーラジオのDAB+搭載率はまだ10%ほどにとどまっているという(2014年に販売された新車の推定値)。だが、交通情報を含む文字データの送受信など、付加機能も含めてデジタルラジオのメリットは自動車でこそ活きてくるものが多い。今年から来年にかけて、ドイツでも搭載率は着実に増える見込みだという。
自動車とデジタルラジオの相性の良さをアピールすることを狙って、High Endのホール展示ではアウディのS7でDAB+の再生デモンストレーションが行われた。実際に聴いてみると、特にサラウンド音源の臨場感と音の鮮度の高さに既存のFM放送との大きな違いを聴き取ることができ、フラウンホーファーが開発したコーデックと再生回路の長所もうかがうことができた。
ここまでのハイパフォーマンスモデルではなくても、最近のクルマは高速走行時でも比較的エンジン回転数が低く、車内は静かな環境が保たれている。そうした環境で聴くことを想定すると、DAB+の音質は確実なメリットになり、大きな可能性を秘めている。
これからしばらくは、ドイツを訪れてクルマを運転する楽しみが増える。それと同時に、日本に戻ったとき、なぜ同じようなサービスが利用できないのか、不満が募ることになりそうだ。