公開日 2018/08/08 21:53
ローム初のハイエンドオーディオDAC国内初披露、来夏出荷。新ブランド「MUS-IC」で展開
ハイエンドシステムによるDACのデモも実施
ローム(ROHM)は本日8月8日、高音質オーディオ向け技術についての発表会およびセミナーを開催。同社が今年5月にミュンヘン HIGH ENDで初披露した開発中のオーディオ用DACチップ(関連ニュース)を国内初公開した。2019年夏に最初のサンプルを出荷する予定という。
会場では開発中のDACチップを搭載した試聴ボードとオーディオシステムが用意され、試聴デモンストレーションも行われた。
また、本DACやオーディオ用電源IC(関連ニュース)を含む、同社オーディオ用ICのトップエンドクラスを“ROHM Musical Device”「MUS-IC」という新ブランドとして展開していくことも改めて発表された。
DACチップの概要は既報の通りだが、型番は「BD34301EKV」。同社のフラグシップに位置付けられるDACとして開発されている。
ΔΣ方式・マルチビット出力型の2ch DACで、出力形式は電流出力型(電流セグメント型)となる。PCMは最大768/32bitkHz、DSDは22.4MHzのネイティブ再生に対応。FIRフィルターは8つのプリセットを用意するが、任意に係数を入力して任意のFIRフィルターを搭載することも可能だ。
動作電圧はデジタル(DVDD)が1.5V、アナログ(AVDD)が5.0V、I/Oが3.3Vとなる。チップのサイズは12.0mm×12.0mm×1.0mmで、64pin仕様(0.5mmピッチ)。
電流出力モードについては、モノラル/ステレオに両対応。本DACをモノラルモードでL/Rに1基ずつ用いるといった使い方も可能となる。
後述するように、このDACチップはリスニングテストをベースとした音質設計を重視しているが、一方で数値性能の高さもアピール。S/N 131.6dB、THD+N 115dBという特性を実現している。一方で本DACは開発段階であり、この値も最終的なものではなく、さらなる数値性能の向上を目指して追い込んで行く予定という。
同社のフラグシップDACという位置付けだが、実際の価格帯については、ESS Technology「ES9038 Pro」やAKM「AK4497EQ」といった競合他社のトップエンドDACチップと同じクラスを想定しているとのことだ。
音質という点では、ロームがこれまでも電源などオーディオ向けICチップ製造で行ってきた「28の音質に影響するパラメーター」の調整によって、聴感上の音質を向上させる手法を用いている。
このパラメーター調整は、ICチップ製造における回路設計からICレイアウト、ウエハー形成プロセス、金型、パッケージに至るまでの一連の工程の中から、音質に影響する28の要素をピックアップし、音質をチェックしながら、それぞれのパラメーターを追い込んでいくというものだ。
なお現時点で、デモで用いられた本DAC搭載の試作ボードを複数のメーカーへ提供ずみ。2019年の製品版サンプル提供に向けて、フィードバックされた意見も反映しながらさらなる追い込みを行っているという。現段階の完成度については「もう一周の追い込みを行う」と説明していた。また、すでに複数のメーカーが採用を検討しており、2019年の秋冬には本DACチップを搭載したオーディオ機器が世に出るかもしれないとのことだった。
発表会では、このDACチップの音質設計を担当する佐藤陽亮氏がその詳細を紹介した。
BD34301EKVを開発するにあたっては「演奏者の世界観を表現する豊かな音楽性」を目指し、音質設計を行っているという。また「音楽性」の具体的な要素として、「密度の高い空間表現」「伸びやかなボーカル」「豊かな低音」の3点を挙げた。ハイエンドにふさわしい優れた数値性能(電気的特性)と共に、こうした音楽性を追求していくことがロームの音質設計であると佐藤氏は説明する。
技術的な詳細についても言及。DACの出力方式は主に電圧出力型(スイッチトキャパシタ型)と電流出力型(電流セグメント型)があるが、高い数値性能と共に音質設計の自由度も重視して、本DACチップでは電流出力型を採用した。本方式はI/V(電流/電圧)変換回路を外部に用意する必要があるため、セットメーカーの求める音作りを行いやすいと言える。また、電流出力型は出力電流を多く取ることで信号レベルを大きくできるため、高いS/Nが実現できるという。
また、本チップはマルチビット出力型を採用しているが、このビット数も同社が目指す音楽性の実現に最適な値を設定しているとのこと。ΔΣ変調(ノイズシェービング)も、独自技術でその精度を高めた。
28の音質パラメーターの調整で、具体的にどのように音質設計を追い込んでいるかも紹介された。代表的な要素として「電源ラインの共通インピーダンス」「電流セグメントのクロック波形」「ボンディングワイヤー材」「パッケージ応力」などが挙げられた。
「電源ラインの共通インピーダンス」については、豊かな低音を実現することを目標に、ICチップ内の電流セグメントの電源ラインの共通インピーダンスを極限まで小さくしたという。
電流セグメントとは、ΔΣ変調されたパルス密度変調波を多数のスイッチで切り替えアナログ変換する方法で、このスイッチ切り替えのマッチング誤差を最小化することが音質向上に寄与するという。本DACチップではマッチング誤差の原因である電源ラインの共通インピーダンスを極小化することで、低音の迫力と奥行き、さらには帯域バランスを向上させることに成功したと佐藤氏は説明する(詳細はこちらの記事も参照のこと)。
「電流セグメントのクロック波形」は、密度の高い空間表現を実現するために重要な要素なのだという。本DACチップは電流セグメントを動作させるクロック性能を向上させるために、クロック波形の立ち上がりをより急峻にして、さらに各電流セグメントに入るクロックタイミングが揃うよう設計が行われた。これにより臨場感と解像度が増し、低音の量感も向上したとする。
「ボンディングワイヤー材」は、チップとリードフレームを結ぶ線材のこと。このボンディングワイヤーの材質が音の表現力に影響を与えるのだという。本DACチップでは銅製ワイヤーよりも音の表現力が豊かという金製ワイヤーを採用。これがボーカルの自然な余韻や楽器の繊細な音色の再現に寄与するという。
「パッケージ応力」はICパッケージ内のチップにかかる応力のことで、この応力を最小化することが電流セグメントのマッチング精度が向上、音質アップにもつながるという。音質設計において応力を緩和するパラメーターを選択、さらにL/Rチャンネルの電流セグメントを完全左右対称レイアウトとして応力の影響をL/Rで同一にすることで、音の色付きを減少させてより自然なサウンドを実現した。
発表会では、この「BD34301EKV」を搭載、同社のオーディオ用電源ICも組み合わせたD/Aコンバーター試聴ボードを用意。アキュフェーズのプリ/パワーアンプ、TAD、MBLのスピーカーと組み合わせての試聴デモンストレーションが行われた。デモではジャズやクラシックなどの192kHz/24bit音源や11.2MHz DSD音源が再生された。
ミュンヘンの初披露時にも同様のデモが行われたが、DACチップのさらなる追い込みに加えて、試聴ボードを収める重厚な金属削り出しケースが用意されるなど、さらなるブラッシュアップが行われていた。
ロームの高音質オーディオ分野における開発戦略とブランディングについても説明され、同社の岡本成弘氏が詳細を語った。この中で、オーディオ向けICのトップエンドを「MUS-IC」ブランドとして展開することも発表された。MUS-ICは「MUSIC」と「IC」を組み合わせた造語で、最高峰の音楽表現を実現するオーディオ用ICであることを意味しているという。
また、MUS-ICシリーズの今後のロードマップについても紹介。2016年からこれまでに登場したサウンドプロセッサーIC、ハイレゾ対応SoC、オーディオ用電源ICがMUS-ICのラインナップとなるが、2019年夏にはここにオーディオ用DACが加わる。さらには2020年の登場を目指して、オーディオ用アンプデバイスの開発も現在行っているという。
オーディオ評論家の山之内正氏による、最新オーディオ動向をテーマとしたセミナーも開催された。山之内氏はこの中で、ロームが公益財団法人ローム ミュージック ファンデーションを設立して、奨学生制度や録音のスポンサード、音楽ホールの運営など長年にわたりクラシック音楽を支援したことに言及。「クラシックを中心とした音楽の世界で、ロームがブランドとして定着することに感心している」と話した。また、ロームのエンジニアが音楽に対して非常に関心が高いことに感銘を受けたとも語っていた。
会場では開発中のDACチップを搭載した試聴ボードとオーディオシステムが用意され、試聴デモンストレーションも行われた。
また、本DACやオーディオ用電源IC(関連ニュース)を含む、同社オーディオ用ICのトップエンドクラスを“ROHM Musical Device”「MUS-IC」という新ブランドとして展開していくことも改めて発表された。
DACチップの概要は既報の通りだが、型番は「BD34301EKV」。同社のフラグシップに位置付けられるDACとして開発されている。
ΔΣ方式・マルチビット出力型の2ch DACで、出力形式は電流出力型(電流セグメント型)となる。PCMは最大768/32bitkHz、DSDは22.4MHzのネイティブ再生に対応。FIRフィルターは8つのプリセットを用意するが、任意に係数を入力して任意のFIRフィルターを搭載することも可能だ。
動作電圧はデジタル(DVDD)が1.5V、アナログ(AVDD)が5.0V、I/Oが3.3Vとなる。チップのサイズは12.0mm×12.0mm×1.0mmで、64pin仕様(0.5mmピッチ)。
電流出力モードについては、モノラル/ステレオに両対応。本DACをモノラルモードでL/Rに1基ずつ用いるといった使い方も可能となる。
後述するように、このDACチップはリスニングテストをベースとした音質設計を重視しているが、一方で数値性能の高さもアピール。S/N 131.6dB、THD+N 115dBという特性を実現している。一方で本DACは開発段階であり、この値も最終的なものではなく、さらなる数値性能の向上を目指して追い込んで行く予定という。
同社のフラグシップDACという位置付けだが、実際の価格帯については、ESS Technology「ES9038 Pro」やAKM「AK4497EQ」といった競合他社のトップエンドDACチップと同じクラスを想定しているとのことだ。
音質という点では、ロームがこれまでも電源などオーディオ向けICチップ製造で行ってきた「28の音質に影響するパラメーター」の調整によって、聴感上の音質を向上させる手法を用いている。
このパラメーター調整は、ICチップ製造における回路設計からICレイアウト、ウエハー形成プロセス、金型、パッケージに至るまでの一連の工程の中から、音質に影響する28の要素をピックアップし、音質をチェックしながら、それぞれのパラメーターを追い込んでいくというものだ。
なお現時点で、デモで用いられた本DAC搭載の試作ボードを複数のメーカーへ提供ずみ。2019年の製品版サンプル提供に向けて、フィードバックされた意見も反映しながらさらなる追い込みを行っているという。現段階の完成度については「もう一周の追い込みを行う」と説明していた。また、すでに複数のメーカーが採用を検討しており、2019年の秋冬には本DACチップを搭載したオーディオ機器が世に出るかもしれないとのことだった。
発表会では、このDACチップの音質設計を担当する佐藤陽亮氏がその詳細を紹介した。
BD34301EKVを開発するにあたっては「演奏者の世界観を表現する豊かな音楽性」を目指し、音質設計を行っているという。また「音楽性」の具体的な要素として、「密度の高い空間表現」「伸びやかなボーカル」「豊かな低音」の3点を挙げた。ハイエンドにふさわしい優れた数値性能(電気的特性)と共に、こうした音楽性を追求していくことがロームの音質設計であると佐藤氏は説明する。
技術的な詳細についても言及。DACの出力方式は主に電圧出力型(スイッチトキャパシタ型)と電流出力型(電流セグメント型)があるが、高い数値性能と共に音質設計の自由度も重視して、本DACチップでは電流出力型を採用した。本方式はI/V(電流/電圧)変換回路を外部に用意する必要があるため、セットメーカーの求める音作りを行いやすいと言える。また、電流出力型は出力電流を多く取ることで信号レベルを大きくできるため、高いS/Nが実現できるという。
また、本チップはマルチビット出力型を採用しているが、このビット数も同社が目指す音楽性の実現に最適な値を設定しているとのこと。ΔΣ変調(ノイズシェービング)も、独自技術でその精度を高めた。
28の音質パラメーターの調整で、具体的にどのように音質設計を追い込んでいるかも紹介された。代表的な要素として「電源ラインの共通インピーダンス」「電流セグメントのクロック波形」「ボンディングワイヤー材」「パッケージ応力」などが挙げられた。
「電源ラインの共通インピーダンス」については、豊かな低音を実現することを目標に、ICチップ内の電流セグメントの電源ラインの共通インピーダンスを極限まで小さくしたという。
電流セグメントとは、ΔΣ変調されたパルス密度変調波を多数のスイッチで切り替えアナログ変換する方法で、このスイッチ切り替えのマッチング誤差を最小化することが音質向上に寄与するという。本DACチップではマッチング誤差の原因である電源ラインの共通インピーダンスを極小化することで、低音の迫力と奥行き、さらには帯域バランスを向上させることに成功したと佐藤氏は説明する(詳細はこちらの記事も参照のこと)。
「電流セグメントのクロック波形」は、密度の高い空間表現を実現するために重要な要素なのだという。本DACチップは電流セグメントを動作させるクロック性能を向上させるために、クロック波形の立ち上がりをより急峻にして、さらに各電流セグメントに入るクロックタイミングが揃うよう設計が行われた。これにより臨場感と解像度が増し、低音の量感も向上したとする。
「ボンディングワイヤー材」は、チップとリードフレームを結ぶ線材のこと。このボンディングワイヤーの材質が音の表現力に影響を与えるのだという。本DACチップでは銅製ワイヤーよりも音の表現力が豊かという金製ワイヤーを採用。これがボーカルの自然な余韻や楽器の繊細な音色の再現に寄与するという。
「パッケージ応力」はICパッケージ内のチップにかかる応力のことで、この応力を最小化することが電流セグメントのマッチング精度が向上、音質アップにもつながるという。音質設計において応力を緩和するパラメーターを選択、さらにL/Rチャンネルの電流セグメントを完全左右対称レイアウトとして応力の影響をL/Rで同一にすることで、音の色付きを減少させてより自然なサウンドを実現した。
発表会では、この「BD34301EKV」を搭載、同社のオーディオ用電源ICも組み合わせたD/Aコンバーター試聴ボードを用意。アキュフェーズのプリ/パワーアンプ、TAD、MBLのスピーカーと組み合わせての試聴デモンストレーションが行われた。デモではジャズやクラシックなどの192kHz/24bit音源や11.2MHz DSD音源が再生された。
ミュンヘンの初披露時にも同様のデモが行われたが、DACチップのさらなる追い込みに加えて、試聴ボードを収める重厚な金属削り出しケースが用意されるなど、さらなるブラッシュアップが行われていた。
ロームの高音質オーディオ分野における開発戦略とブランディングについても説明され、同社の岡本成弘氏が詳細を語った。この中で、オーディオ向けICのトップエンドを「MUS-IC」ブランドとして展開することも発表された。MUS-ICは「MUSIC」と「IC」を組み合わせた造語で、最高峰の音楽表現を実現するオーディオ用ICであることを意味しているという。
また、MUS-ICシリーズの今後のロードマップについても紹介。2016年からこれまでに登場したサウンドプロセッサーIC、ハイレゾ対応SoC、オーディオ用電源ICがMUS-ICのラインナップとなるが、2019年夏にはここにオーディオ用DACが加わる。さらには2020年の登場を目指して、オーディオ用アンプデバイスの開発も現在行っているという。
オーディオ評論家の山之内正氏による、最新オーディオ動向をテーマとしたセミナーも開催された。山之内氏はこの中で、ロームが公益財団法人ローム ミュージック ファンデーションを設立して、奨学生制度や録音のスポンサード、音楽ホールの運営など長年にわたりクラシック音楽を支援したことに言及。「クラシックを中心とした音楽の世界で、ロームがブランドとして定着することに感心している」と話した。また、ロームのエンジニアが音楽に対して非常に関心が高いことに感銘を受けたとも語っていた。