公開日 2019/04/05 06:30
エラックは“音楽の聴き方”の変化にどう応えるのか? 同社社長が製品開発のビジョンを語る
スピーカー開発の取り組みも紹介
ここ日本においても高い人気を誇る、ドイツのスピーカーブランド「ELAC(エラック)」。現在同社の社長を務めるLars Baumann氏に、エラックのビジョンについて話を伺うことができた。
Baumann氏はもともとプロフェッショナル関連分野の出身だが、ドイツ人である同氏にとって、子供の頃からエラックは身近な存在であり、当時は特にターンテーブルやカートリッジで大きな存在感を放っていた。80年代に入り時代がデジタルからアナログへ変遷、それに伴って姿を消すオーディオメーカーも多い中、エラックはスピーカーを中心に手がけるメーカーへの転身を成功させた。以降、現在に至るまで多くの名機を送り出してきたことはご存じの通りだ。
そして今、再びオーディオを取り巻く環境や市場が変化の時期を迎えているとBaumann氏。スマートフォンやタブレットの普及によって人々のライフスタイルは一変し、音楽の楽しみ方も大きく変化している。ソースもCDから、ハイレゾを含むファイル音源、さらには音楽ストリーミングと変遷・多様化が進む。
Lars Baumann氏は「今起こっている新しい変化に対応するために、会社自体も変革しようとしているタイミングで私はエラックに入りました。とてもよい時期にジョインできたと思います」と語る。
実際エラックはここ数年、すでに確固たる地位を築いているスピーカーシステム以外の領域でも、積極的に新しい取り組みを行っている。2017年にはかつての同社の主要製品であったアナログプレーヤーを復活、同社90周年記念モデルとして「Miracord 90」を発売した。一方で、音場補正機能を備えたDAC内蔵プリメインアンプ「EA101EQ-G」を発売するなど、最新のリスニングスタイルを踏まえたエレクトロニクス製品も展開する。
「スピーカーシステムの開発・製造はもちろん今後も事業の基幹になりますが、今後はエレクトロニクス製品にもさらに力を入れていきます。人々のライフスタイルの一部となったスマートフォンで再生した音楽を、いかに良い音で鳴らすのか。ワイヤレスオーディオも含め、現代のユーザーの要望に応える製品を開発していきたいと考えています」(Baumann氏)。
一方でスピーカーシステムにもさらに力を入れ、これまでの成功にとどまることのない積極的な展開を行っている。直近では、昨年登場した新ラインナップ「VELA 400 LINE」が大きな注目を集めることになった。
VELA 400 LINEは、エラックスピーカーのアイデンティティのひとつであるJETトゥイーターの最新版「JET V」を継承しつつ、その性能をさらに引き出すために細部にわたるまで改良を実施。そのデザインもより現代的なかたちへ刷新した。
「VELAでの革新は単純なものではありませんが、我々はやり方をわかっていました。デザインの刷新も大きなテーマになりましたが、音の良さにおいてさらなる進化を実現できるように、各国の開発チームのリソースを集結して、開発にあたりました」(Baumann氏)。
エラックは現在、アメリカ・カナダ・ドイツ・トルコなどそれぞれに企画・開発チームを持っている。そして、各国のユーザーの嗜好なども吸い上げつつ、各チームのリソースを総合して、製品開発にあたっているのだという。VELAについても、エンジニアリングはドイツのチームが、デザインはアメリカのチームが担当した。Baumann氏は「エラックのような規模の企業でこのような体制を取るのは珍しいかもしれないですが、だからこそ、高度かつ多様性あるモノづくりが実現できるのです」と説明する。
同社は現在、開発から製造、製品の輸送に至るまでのプロセスの最適化にもダイナミックに取り組んでいるという。上記のようなVELAの開発プロセスもその一環といえる。伝統あるブランドがオーディオを取り巻く環境の変化の中で苦戦を強いられるケースが多いなか、エラックは時代の変化に敏感に対応することで、その規模をさらに拡大している。Baumann氏は「変化を起こすこと」の重要性を繰り返し説いていた。
エラックについて気になるポイントも、Baumann氏に質問を向けてみた。現在エラックのスピーカーの上位ラインには、JET Vを搭載したモデルと、「ADANTE」など搭載していないモデルがある。後者はアンドリュー・ジョーンズ氏が開発に携わっていることでも知られるが、こうした展開にはどのような意図があるのだろうか。
Baumann氏は「JETとそうでないもので2つのラインを展開する、というようなことは考えていません」と説明する。「世界各国において音に対する好み、良い音はどのような音かという認識は、大きく異なります。また、我々は世界に開発拠点を持っているので、国ごとの差異というのはより正確に認識することができます。また、求められる価格帯というのも様々です。こうした要望に応えることができるのがエラックの強みであり、幅広い製品展開もその結果です」。
JET Vの“次”については、すでに検討されているのだろうか。「いずれは新しいJETも登場するでしょうが、現時点でJET Vは完成されたものです。ただちに改善するべき要素もありません。ただ、一貫してドイツで手作業で製造しているという点については、人件費の高騰や製造過程のさらなる最適化も踏まえて、検討する必要があるかとは考えています」(Baumann氏)。
インタビューの中では音楽ストリーミングなど現代のリスニングスタイルにも対応していくことの重要性を説いていたが、一方でレコード再生についてはどう考えているのだろうか。
「レコードの流行はドイツはもちろん、世界中で実感させられます。例えばドイツでは、スーパーマーケットで100ドル程度のレコードプレーヤーが売られていたりしますからね。スマートフォンに依存するなかで、自分の手で音楽を買って再生することに回帰しているのでしょう。レコード再生は質感や匂いも伴うもので、コレクションを息子に譲ることもできます。スマートフォンでストリーミングを聴くという場合はこうもいきませんからね」(Baumann氏)。こうした認識の元、同社では引き続き、レコードプレーヤーにも力を入れていくという。
◇
世界中のユーザーの要望に答えるべく、スピーカーシステムはもちろん、アナログ、そして最新のデジタル領域に至るまで、より豊かな音楽体験の提供を目指すエラック。Baumann氏はインタビューの最後に、今後の展開にもぜひ期待してほしいと語ってくれた。
Baumann氏はもともとプロフェッショナル関連分野の出身だが、ドイツ人である同氏にとって、子供の頃からエラックは身近な存在であり、当時は特にターンテーブルやカートリッジで大きな存在感を放っていた。80年代に入り時代がデジタルからアナログへ変遷、それに伴って姿を消すオーディオメーカーも多い中、エラックはスピーカーを中心に手がけるメーカーへの転身を成功させた。以降、現在に至るまで多くの名機を送り出してきたことはご存じの通りだ。
そして今、再びオーディオを取り巻く環境や市場が変化の時期を迎えているとBaumann氏。スマートフォンやタブレットの普及によって人々のライフスタイルは一変し、音楽の楽しみ方も大きく変化している。ソースもCDから、ハイレゾを含むファイル音源、さらには音楽ストリーミングと変遷・多様化が進む。
Lars Baumann氏は「今起こっている新しい変化に対応するために、会社自体も変革しようとしているタイミングで私はエラックに入りました。とてもよい時期にジョインできたと思います」と語る。
実際エラックはここ数年、すでに確固たる地位を築いているスピーカーシステム以外の領域でも、積極的に新しい取り組みを行っている。2017年にはかつての同社の主要製品であったアナログプレーヤーを復活、同社90周年記念モデルとして「Miracord 90」を発売した。一方で、音場補正機能を備えたDAC内蔵プリメインアンプ「EA101EQ-G」を発売するなど、最新のリスニングスタイルを踏まえたエレクトロニクス製品も展開する。
「スピーカーシステムの開発・製造はもちろん今後も事業の基幹になりますが、今後はエレクトロニクス製品にもさらに力を入れていきます。人々のライフスタイルの一部となったスマートフォンで再生した音楽を、いかに良い音で鳴らすのか。ワイヤレスオーディオも含め、現代のユーザーの要望に応える製品を開発していきたいと考えています」(Baumann氏)。
一方でスピーカーシステムにもさらに力を入れ、これまでの成功にとどまることのない積極的な展開を行っている。直近では、昨年登場した新ラインナップ「VELA 400 LINE」が大きな注目を集めることになった。
VELA 400 LINEは、エラックスピーカーのアイデンティティのひとつであるJETトゥイーターの最新版「JET V」を継承しつつ、その性能をさらに引き出すために細部にわたるまで改良を実施。そのデザインもより現代的なかたちへ刷新した。
「VELAでの革新は単純なものではありませんが、我々はやり方をわかっていました。デザインの刷新も大きなテーマになりましたが、音の良さにおいてさらなる進化を実現できるように、各国の開発チームのリソースを集結して、開発にあたりました」(Baumann氏)。
エラックは現在、アメリカ・カナダ・ドイツ・トルコなどそれぞれに企画・開発チームを持っている。そして、各国のユーザーの嗜好なども吸い上げつつ、各チームのリソースを総合して、製品開発にあたっているのだという。VELAについても、エンジニアリングはドイツのチームが、デザインはアメリカのチームが担当した。Baumann氏は「エラックのような規模の企業でこのような体制を取るのは珍しいかもしれないですが、だからこそ、高度かつ多様性あるモノづくりが実現できるのです」と説明する。
同社は現在、開発から製造、製品の輸送に至るまでのプロセスの最適化にもダイナミックに取り組んでいるという。上記のようなVELAの開発プロセスもその一環といえる。伝統あるブランドがオーディオを取り巻く環境の変化の中で苦戦を強いられるケースが多いなか、エラックは時代の変化に敏感に対応することで、その規模をさらに拡大している。Baumann氏は「変化を起こすこと」の重要性を繰り返し説いていた。
エラックについて気になるポイントも、Baumann氏に質問を向けてみた。現在エラックのスピーカーの上位ラインには、JET Vを搭載したモデルと、「ADANTE」など搭載していないモデルがある。後者はアンドリュー・ジョーンズ氏が開発に携わっていることでも知られるが、こうした展開にはどのような意図があるのだろうか。
Baumann氏は「JETとそうでないもので2つのラインを展開する、というようなことは考えていません」と説明する。「世界各国において音に対する好み、良い音はどのような音かという認識は、大きく異なります。また、我々は世界に開発拠点を持っているので、国ごとの差異というのはより正確に認識することができます。また、求められる価格帯というのも様々です。こうした要望に応えることができるのがエラックの強みであり、幅広い製品展開もその結果です」。
JET Vの“次”については、すでに検討されているのだろうか。「いずれは新しいJETも登場するでしょうが、現時点でJET Vは完成されたものです。ただちに改善するべき要素もありません。ただ、一貫してドイツで手作業で製造しているという点については、人件費の高騰や製造過程のさらなる最適化も踏まえて、検討する必要があるかとは考えています」(Baumann氏)。
インタビューの中では音楽ストリーミングなど現代のリスニングスタイルにも対応していくことの重要性を説いていたが、一方でレコード再生についてはどう考えているのだろうか。
「レコードの流行はドイツはもちろん、世界中で実感させられます。例えばドイツでは、スーパーマーケットで100ドル程度のレコードプレーヤーが売られていたりしますからね。スマートフォンに依存するなかで、自分の手で音楽を買って再生することに回帰しているのでしょう。レコード再生は質感や匂いも伴うもので、コレクションを息子に譲ることもできます。スマートフォンでストリーミングを聴くという場合はこうもいきませんからね」(Baumann氏)。こうした認識の元、同社では引き続き、レコードプレーヤーにも力を入れていくという。
世界中のユーザーの要望に答えるべく、スピーカーシステムはもちろん、アナログ、そして最新のデジタル領域に至るまで、より豊かな音楽体験の提供を目指すエラック。Baumann氏はインタビューの最後に、今後の展開にもぜひ期待してほしいと語ってくれた。