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公開日 2024/10/07 18:37

「第9回ハイエンドカーオーディオコンテスト」をレポート。自分の音を客観的に知ることができる“スキルアップの場”

台風の中決行された国内最高峰のカーオーディオコンテスト
ファイルウェブオーディオ編集部・筑井真奈
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国内最大級のカーオーディオコンテスト、「第9回ハイエンドカーオーディオコンテスト」(通称:ハイコン)が今年も8月31日、9月1日に開催された。場所は昨年に引き続き、静岡県掛川市のつま恋リゾート彩の郷のカート場である。

「第9回ハイエンドカーオーディオコンテスト」が静岡県掛川市で開催

全国のカーオーディオ有力ショップが中心になって開催しているイベントで、北は青森から南は九州まで、全国のカーオーディオファンとショップが集結し、1年間磨き上げたオーディオのチューニングスキルを競い合った。

巨大台風10号が迫り、高速道路や新幹線も足止めとなる中で開催そのものも危ぶまれたが、運営スタッフの努力によってなんとか実現にこぎつけた。初日はスコールのような大雨が降る時間帯もあったが、2日目は時折晴れ間ものぞき、スタッフはもちろんエントラントの多大な協力もあり、スムーズに大会は運営された。

強烈な大雨でテントの中に避難しなければならない時も

日傘が必要になるほどの快晴とを行ったり来たり

今年の審査員は、小原由夫氏、山之内 正氏、土方久明氏のベテラン勢3名に加え、岩井 喬氏、峯岸良行氏、秋山 真氏のフレッシュな3名を加えた6人体制で実施。残念ながら台風の影響で何台かのキャンセルは出てしまったが、2日間合わせて100台近いエントリーが揃った。

今年の審査員のみなさま。左から秋山氏、峯岸氏、岩井氏、小原氏、土方氏、山之内氏

「ハイエンドカーオーディオコンテスト」は、運転席に審査員(ジャッジ)が座り、帯域バランスや位相の正確性、サウンドステージなど複数の項目で点数をつけ、その総合点がもっとも大きかった車両が優勝となる。

初日はディーラーデモカーコースとユーザーによるチャレンジコース、2日目はユーザー参加によるハイレゾエキスパートコース、こちらは価格帯別にA/B/Cの3コースに分かれての審査となる。

ディーラーデモカーコースは、全国のカーオーディオショップがそれぞれの威信をかけて「音質」を競う年に一度の大勝負である。今回は18台がエントリーした。

関西を中心にカー&ホームシアター&オーディオショップを展開するAV Kansaiは、天王寺店、堺店、京都店、宝塚店と4台をエントリー。それぞれに違う車種とシステムを組み込んでコンテストに挑む。

特に印象的だったのは天王寺店からエントリーの緑のBMW「M3」。あざやかなグリーンの車体もカスタムカラーで仕上げたこだわりの一台だ。スピーカーにはQUARTORIGOのOPUSシリーズ、アンプにもQUARTORIGOのINGOTと強力なラインナップで構成。

グリーンも鮮やかなAV Kansai天王寺店のデモカーBMW

課題曲ムソルグスキーの「禿山の一夜」では、混濁しがちな低域をしっかり分離良く描き出し、金管楽器の華やかな表現もナチュラルかつストレート。今回の楽曲では、1分20秒前後にあるピッコロの「ピュー」という、おそらく鳥をイメージした強烈な音が非常に印象的だが、その音がキツくなりすぎず、それでいて確かな存在感を示すのはさすがのひとこと。岩元さん自身が楽しんで音作りをしていることが伝わってくる魅力的な一台。

QUARTORIGOのフラグシップスピーカーを装着

AV Kansai堺店からは、こちらはグレーのアウディ「RS3」をエントリー。モレルのスピーカーELATE CARBONシリーズを3ウェイで組み合わせ、RESOLUTのDSP、ARC AUDIOのアンプで駆動する。オーケストラの安定した定位感もさることながら、リズ・ライトの湿度ある声の表現はなかなかに艶かしくて心に残る。

AV Kansai堺店のデモカーはグレーのアウディ

こちらはmorelのELATE CARBONスピーカーを使用。外向けに取り付けられたBLAMのトゥイーターもポイント

岩手県のサウンドフリークスは、なんとホームオーディオ用スピーカー、TADの「CSTドライバー」を分解し、フロント用の同軸スピーカーとして使用するという斬新な手法で挑む。「TAD-GE1TX」は店舗にも導入しており、「ホームの音を聴き込んでからカーオーディオ用のチューニングに入る」のは店主・佐藤清人さんの得意技。「他のお店にはできない、独自のスタイルでカーオーディオの魅力を伝えていきたいです」とベテランショップならではの意地を聴かせる。

岩手県一関市・サウンドフリークスのデモカー

TADのCSTドライバーをピラーに装着。だいぶはみ出してます

青森県のイングラフはBMWのM2 Competitionに、BLAMの中核「Multix」の3ウェイスピーカーを組み込んで参戦。「禿山の一夜」では「ティンパニとグランカッサの描き分け」を大切にしながら調整したと語ってくれたが、実際にそれら楽器のリアルな音像が眼前に展開するさまは見事。BLAMのユニットの正確さと良質な質感表現をしっかり引き出しているように感じられた。

青森県八戸市・イングラフのデモカー

フランスBLAMのスピーカーでコンテストに挑む

静岡県浜松市のレジェーラは、PLUG&PLAYの純正スピーカーから交換するだけ、金額も30万円程度で実現できるシステムで参戦。カーオーディオの裾野を広げたいと気合い十分。シンプルなシステムながら声や弦楽器の艶感は格別で、リズ・ライトの色気にはクラクラきそう。実はオーディオ以外のところに秘密があり、災害用として販売されている家庭用リチウムバッテリーを持ち込み、電源はこのバッテリーからとっているそう。店長の大塚さんによると、「声の密度感などに効果があるんですよ」とニヤリ。

レジェーラのデモカーと店長の大塚さん

助手席の足元に置かれた「バッテリー電源」も音に効いているそう

チャレンジコースは、課題曲とユーザーが選んだ自由曲の2曲での審査を行う。自由曲をどう選ぶかというのも審査結果に関わる大きな戦略ポイントで、好きな曲をしっかり追い込んでいくか、あるいはコンテストらしい良質な録音を選定するかも考えた上で音作りを行う必要がある。

チャレンジコースで特に印象に残ったのが、ダイハツのテリオスキッドで参戦するコンテスト常連のひとり、堀田雅雄さん。広島のショップM.E.I.からのエントリーとなる。自由曲では、綾戸智恵のライヴ音源をセレクト。メインスピーカーはモレルの3ウェイだが、さらにダッシュボード中央にセンタースピーカーも追加し声の定位感を高めている。綾戸智恵のピアノの上手さが引き立つとともに、拍手のニュアンス感もリッチで、音楽愛とチューニングの上手さをたっぷり聴かせてくれた。

広島から来場した堀田雅雄さんの愛車、ダイハツのテリオスキッド

ダッシュボード中央に「センタースピーカー」を配置するのもこだわり

AV Kansai天王寺からエントリーの米田清隆さん。課題曲であるラフマニノフのピアノ協奏曲では、弱音部の解像感が非常に良好で、楽器それぞれの役割が非常によく見えてくる。ダイナミックレンジの広い楽曲における弱音部の再現性の重要性を改めて認識した。自由曲ではヘイリー・ロレンの「エリー・マイ・ラヴ」をセレクト。「サザンも好きで、ヘイリー・ロレンもコンサートに行ったことがあるので、自由曲はこれだ!と決めて挑みました」と米田さん。ゾクっとするような色気ある声にすっかり魅了されてしまう。

ヘイリー・ロレンの「Ellie, My Love」を自由曲にセレクト。カーオーディオ向けにチューニングされたiBassoのDAPを使用

マイクロプレシジョンのスピーカーに、DSPはRESOLUTを組み合わせ

2日目はハイレゾエキスパートコースの開催。2日目も大雨とカンカン照りを行ったり来たりするような不安定な空模様ではあったが、それでもAコース20台、Bコース21台、Cコース22台のエントリー車両が会場に集結し、熱戦を繰り広げた。

こちらもいくつか注目の車両を紹介しよう。サウンドフリークスから参加の澤井さん。全国各地のコンテストの常連でもあり、コンテストの上位入賞車両やメーカーデモカーなど、“良い音”をたくさん聴き込み、自分のスキルアップに繋げている。長年惚れ込んでいるDYNAUDIOのスピーカーを使用し、今回の課題曲についても追い込み十分。自然なステージングと音色のバランスの良さ、低域の安定感などオーディオ的な基礎体力の高さを改めて感じさせてくれた。

東京からエントリーの澤井孝之さんと愛車のBMW X2

DYNAUDIOのスピーカーを長年愛用している

サウンドウェーブからエントリーの古渡 浩さん。これまで10台以上の車でカーオーディオに取り組んできたというが、今回の「MINIクロスオーバー」は、今年のイーストジャパンコンテストに合わせて作成し、ハイコンに向けてさらに練り上げてきた気合いの一台。「別のコンテストで低域についての課題を指摘されたので、サブウーファーボックスを再調整してのチャレンジです」と意気込みを語る。スピーカーはモレルの限定モデルを3ウェイで装着、シート下とサブウーファーもモレルで構成する。中域の密度感はさすがのもので、リズ・ライトの声の艶やかさにハッと息を呑む。

サウンドウェーブで10台以上車を作ってきたという古渡 浩さんと愛車MINI

morelのLIMITEDモデルを装着

イングラフからエントリーの日隅伸逸さんはBMW「X1」を駆って青森県からはるばる参戦。ダッシュボード上に、広々と伸びやかに歌うオーケストラが大変に心地よい!日隅さんによると、「BRAXのDSPの良さをもっと引き出したい」と考えて、車内を最大限に活用できるようにユニットの取り付け位置も新たに再検討したそう。コンセプト通りに開放的に音が広がるさまは見事で、このままドライブに出かけたくなりそう。

青森からはるばる車を飛ばして参加した日隅伸逸さん

ソニーのDAPを送り出しに使用、BRAXのDSPを活用している

関西の強豪ショップ、AV Kansaiからも各店舗から複数台が参戦。AV Kansaiの参加者は、お互いの音を聴きあって切磋琢磨しあい、全体のレベルの底上げを図っていることが毎回感じさせてくれる。コンテストで聴くたびに新しい発見がある車が多く、カーオーディオの表現の幅に新たな可能性を開いている。

宝塚店からエントリーの紙谷祐亘さんのアウディ「RS7」。「禿山の一夜」では、暗い山奥を思わせる不気味な表現をリアリティ豊かに再現してくれて、思わず身がすくみそうになる。QUARTORIGOのOPUSシリーズとトップグレードのスピーカー&アンプを装備、良好なS/Nが功を奏しているのか、音数が少ないところの緊張感もしっかり伝わってくる。解像力と正確な楽器配置を突き詰めることで、オーケストラの世界そのものに入り込んでしまったかのような錯覚も抱かせる。課題曲をどう聴かせたいか、という作り手の思いが伝わってくるのはカーオーディオならではの楽しさである。

兵庫県からエントリーの紙谷祐亘さんの愛車アウディRS7

ハイコンでは、メーカーブースも設けられており、各社の新製品も多数お披露目される。山梨県のスピーカーブランドDEERも、新しいカーボン素材を採用したカーオーディオ用ユニット「RJ-II」を開発。代表の小久保さんによると、何より「原音再生」を旨とした製品開発を行っているとのことで、トゥイーター「RJ025」と、グレードの異なる3種類のミッドウーファー「RJ085」「RJ175」「RJ250」を用意する。

カーオーディオユニット開発に力をいれるDEERのデモカー

福岡県のカーオーディオショップ「サウンドサスペンション」は、このDEERのユニットを使用してデモカーを展示。代表の板井さんによると、「今回の課題曲をしっかり聴き込んで、ある意味“普通”の音を目指しました」と音作りのポイントを語ってくれた。アーティストの息遣いのリアルさは格別で、ユニットの素性の良さをたっぷり聴かせてくれる。

サウンドサスペンションのデモカーに装着されたDEERの最新ユニット

そのほかイース・コーポレーションは、現在注目高まるauneブランドから、「ネットワークプレーヤー」の発売を予定しているとのこと。WiFiに接続すれば、車の中でストリーミングサービスを楽しむことができる製品になるそうだ。またフランスのBLAMからは10周年記念モデルが順次発売されるので期待していてほしいと教えてくれた。

BLAMからは10周年記念モデルもまもなく正式発表!

両日とも、16時過ぎには審査も全て終了し、ホテルに場所を移して結果発表の時間となる。初日に開催されたディーラーデモカーコースでは、昨年に引き続きAV Kansai(堺店・アウディのRS3)が優勝を攫った。2位にもAV Kansai(天王寺店・BMWのM3)がランクイン、3位は青森のイングラフ(BMWのM2)が食い込んだ。昨年2位に入ったカーオーディオクラブは涙を飲んだが、5位と7位と2台を表彰台に送り込んだ。昨年は10位だったレジェーラは今年6位と大きく順位をあげた。30代の佐々木裕太さんが運営する岩手県の新しいショップ「LAVID」も9位にランクイン、新しい風をコンテストの吹き込んでいる。

ディーラーデモカーコースの上位入賞者

チャレンジコースはAV Kansaiからエントリーの米田清隆さんが優勝、続いてサウンドフリークスの千葉成幸さん、AV Kansaiの紙谷祐亘さんが後を追う。こちらは10位までの入賞のうち5台をAV Kansaiからの出場車が占め、変わらぬ強さを見せつけたが、堀田雅雄さん(M.E.I.・ダイハツのテリオスキッド)は4位入賞、江口藍里さん(カーオーディオクラブ・ベンツGLA)は5位入賞と、AV Kansaiの牙城を崩すべく狙いを定めている。

チャレンジコースの上位入賞者

2日目のユーザーカー部門・ハイレゾエキスパートAコースでは、AV KansaiIの北川祐士さん(ハリアー)が優勝、2位と3位もAV Kansaiが入賞し上位を独占し、改めての強さを見せつけた。4位にはイングラフの嶋守学さん(ヴェルファイア)がつけたほか、6位の日隅伸逸さん、7位の三好龍彦さんとイングラフも強い追い上げを見せる。AV Kansaiとイングラフがハイエンド市場を牽引する流れはしばらく続きそうだ。

ハイレゾエキスパートAコースの上位入賞者

ハイレゾエキスパートBコースは、比較的システムの価格帯が近い製品が集まるため、チューニングのスキルがそのまま審査結果に反映されるシビアな戦いが繰り広げられる。Bコースを制したのはAV Kansaiの森本健さん(ベンツのE53)、それをサウンドフリークスの澤井孝之さん(BMW・X2)が追う。3位は金澤賢一さん(AV Kansai・ジャガーEペース)が入賞した。こちらもAV Kansaiが10位入賞のうち半分を占める結果となったが、アンティフォンの花村将光さん、LAVIDの千葉洋平さんらも上位入賞を果たすなど健闘を見せた。

ハイレゾエキスパートBコースの上位入賞者

ハイレゾエキスパートCコースでは、レジェーラの秋月祐一さん(プリウス)が優勝、続いてカーオーディオクラブの村田信洋さん(プジョー・308)、レジェーラの藤原秀明さん(ベンツ・AMGA35)が入賞した。Cコースでは近年特にレジェーラの躍進が光っており、今後のカーオーディオ市場の発展にも期待が高まる。

ハイレゾエキスパートCコースの上位入賞者

コンテストにおいては「入賞」という結果を持ち帰ることができるかどうかも非常に重要だが、さらに大切なのは“スキルアップの場”でもあるということだ。自分の作った音が客観的にどういう位置付けにあるのか、全国の他のショップはどんなレベルの音を出しているのか、それを知ることができる貴重な機会となる。良い結果を得られたエントラントも、どこに“勝ち”の理由があったのかを改めて考えることは、次のコンテストにも大きく生きてくる。

今回得た学びが、次のコンテストにどのような新しい音として生きてくるのか、来年のコンテストもまた一段と楽しみになる。

初日の夜には「スーパー登山部」がライヴパフォーマンスを披露

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