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公開日 2007/04/04 15:19

新ウォークマンA誕生秘話・インタビュー<中編> − ウォークマンは“動画再生機能”を加速させるのか?

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ソニー(株)コーポレート・エグゼクティブ SVP オーディオ事業本部 事業本部長 吉岡浩氏
「圧縮音源に対応したウォークマンの中で、最も高音質な製品を目指したプレーヤー」━━それが“ウォークマンA800シリーズ”だ。音源を圧縮することで失われた高音部をデジタル処理で再現するDSEEや、大口径13.5mmEXヘッドホンを付属するなど高音質再生に心を砕いている。今回のインタビュー前半では、ウォークマンA800シリーズは高音質を最優先に設計された製品ということがわかった。

その一方で、オーディオ事業部のトップであるオーディオ事業本部長の吉岡浩氏からは、動画再生機能に対する期待感などをいまひとつ感じることができなかった。一方で、インタビューでは開発を指揮した統合商品企画MK部門の木野内氏から動画機能について積極的なアピールを受けた。今回の<中編>では、はじめに木野内氏にウォークマンA800シリーズの動画機能の魅力を語っていただき、後半で吉岡氏に今後のオーディオ機器の動画対応についてのビジョンを伺うことにした。

(インタビュー/鈴木桂水)


■ウォークマンA800シリーズは、なぜ記録媒体にフラッシュメモリーを採用したのか?

━━ウォークマンA800シリーズの動画機能は、どんな利用シーンを考えて作られているのでしょうか。
木野内氏:気軽に持ち歩いて、音楽と動画を快適に楽しめるプレーヤーを目指しました。そのためにA800シリーズでは、快適に動画を楽しめるように“軽量コンパクト”と“高画質”に重心を置いて設計しています。まずコンパクト化を実現するために、記録媒体をHDDからフラッシュメモリーに変更しました。HDDを搭載すればフラッシュメモリーよりも大容量の製品を作ることができます。容量が音楽ファイルよりも数倍大きい動画データを記録するならばメモリー容量は多い方が良いのはわかっています。しかし、容量を優先するあまりHDDを採用すると、本体が大きくなり、消費電力もアップします。そうなればより大きなバッテリーが必要になり、本体は雪だるま式に大きく、重くなってしまいます。それは避けたいという思いがありました。

iPod nanoとサイズを比較してみる。ウォークマンのほうが少し厚みがあるが、動画再生に対応していることを考えると驚きの薄さだと言える

A800シリーズのコンセプトはフラッシュメモリーの採用が大きなカギを握っていた。容量に特長のあるHDDだが、それを搭載することでデメリットも多くなるという事だ。HDDはモーターを使うのでフラッシュメモリーに比べて消費電力が高く、それを維持するためには大容量のバッテリーが必要になる。またHDDは衝撃に弱いので、耐衝撃性能を高めるために本体にゆとりを持たせた設計を採用したり、緩衝材などを内蔵する必要があるのだ。フラッシュメモリーを採用すれば、これらHDDのデメリットをまとめて解消できる。そしてもう一つのキーワード高画質は液晶だった。


■高画質2.0型液晶の搭載も“ウォークマン”ブランドならではのこだわり


ソニー(株)オーディオ事業本部 統合商品企画MK部門 プロダクトプロデューサー 木野内敬氏
木野内氏:画面サイズと解像度を決めるのにも思案しました。画面サイズは大きい方が見やすいのは当然なのですが、これもHDDと同じく大きなサイズの液晶を搭載すると、本体そのものが大きくなり消費電力も大幅に増加します。バッテリーライフと見やすさを考慮した結果、2.0型の液晶を採用しました。液晶のサイズだけでなく解像度も重要なのでQVGA(320×240ピクセル)での表示に対応させました。QVGAは多くの携帯電話やPDAでも利用されている解像度で、文字の輪郭がハッキリして読みやすい表示が可能です。

━━A800シリーズはタテ表示になるデザインになっています。動画が小さくなって見づらくはありませんか。
木野内氏:くどいようですが、A800シリーズは、動画が再生できるといってもオーディオ機器です。ですから、デザインはオーディオプレーヤーとして操作しやすいタテ表示が基本になっています。ただし設定により動画だけをヨコ表示に切替えて表示できます。一度設定をすれば動画になると、ヨコ画面で表示するので迷わずに使えます。

タテ表示だと画面が小さく見づらいが動画をヨコ表示に設定すれば、全画面で動画を楽しめる

ヨコ表示は右利き用、左利き用でそれぞれ設定できるユニバーサル仕様だ

━━A800シリーズで再生可能な動画ファイルを教えて下さい。
木野内氏:MPEG4とAVC(H.264)Baseline Profileのファイル形式に対応しています。基本的に拡張子が「.mp4」か「.m4v」のファイルを再生できます。VAIOなどのテレビパソコンで録画した映像などを付属ソフトの「Image Converter 3」を使うことでA800シリーズ用の動画に変換して転送できます。このソフトにビデオRSSチャンネル(ビデオポッドキャスティング)を登録しておけば、ネット上の動画をダウンロードして楽しめます。ソネットエンタテインメント株式会社が運営する動画サイト「Portable TV(P-TV)」やソニースタイルの動画サイト「みんなのビデオ屋さん」から、有料/無料のコンテンツをダウンロードして再生できます。

ウォークマンで楽しむための動画コンテンツは、付属ソフトの「Image Converter 3」で変換し準備する

ソネットエンタテインメントが運営する動画サイト「Portable TV」

RSSチャンネルのビデオポッドキャスティング・チャンネルも楽しむことができる

━━ビデオポッドキャスティングに対応するということは、アップルのiPod用に作成されたビデオキャストも再生できるのですか。
木野内氏:はい。すべてではありませんが、そのほとんどに対応しています。ユーザーの利便性を優先するなら、すでに多くのコンテンツが存在するiPod用の動画にも対応する必要があると考えました。

━━HDD&DVDレコーダーのスゴ録シリーズやBDレコーダーには、録画した番組を携帯ゲーム機のPSPに転送できる「おでかけ・スゴ録」機能がついています。この機能は録画しながらAVCファイルを作成するので、2時間程度の映画でも数分で転送できます。しかし、今回のA800シリーズは「おでかけ・スゴ録」に対応していません。その理由を教えて下さい。
木野内氏:使い勝手を考えると、「おでかけ・スゴ録」機能は対応したかったのですが…。おでかけ・スゴ録が作成するAVCファイルは、より高圧縮な「AVC Main Profile」という形式で記録します。A800シリーズが対応しているのは「AVC Baseline Profile」というワンセグなどでも使われる標準的な形式です。AVCメインプロファイルは画質がいいのですが、再生には専用の回路が必要になり、本体のサイズアップにつながってしまいますので、今回は見送りました。


■ビデオポッドキャストは視聴可能←→「おでかけ・スゴ録」の対応は見送り

ウォークマンで楽しめる動画ファイルを準備する方法は、大きく分けて2つある。一つはテレビパソコンやムービーで撮影した動画などをImage Converter 3により、ウォークマンで再生できるAVC(H.264)動画に変換し転送する方法。録画したテレビ番組などをA800シリーズで楽しめるが、動画の変換には実時間がかかるので使い勝手はいまひとつだ。

もう一つはネット上にある有料/無料の動画だ。前述したソニーグループが提供する動画やiPod用のビデオキャストなどの動画をA800シリーズへ転送して楽しむ方法だ。

今回「おでかけ・スゴ録」への対応が見送られたことはとても残念だ。PSPでは対応している「おでかけ・スゴ録」ならば、転送時間が短縮できるだけでなく、デジタル放送までA800シリーズで楽しめたはずだ。これから発売されるソニーのレコーダーが「AVC Baseline Profile」に対応した動画作成機能を搭載すればA800シリーズでも「おでかけ・スゴ録」が使えるようになるはずなので、今後同社が掲げる“ソニー・ユナイテッド”の商品戦略の実現に期待したいところだ。

筆者が感じる現在の動画配信サイトの現状はお世辞にも充実しているとは言い難い。無料の動画と言えば映画やDVDの予告編どまりで、わざわざダウンロードをしてまで見たいコンテンツは少ない。では有料のコンテンツはどうだろう。これも1本あたりのダウンロード価格がレンタルDVDなどに比べるとかなり割高だ。たとえば30分のアニメや特撮番組は1本100円前後。映画などは500円を超えるものもある。レンタルDVDなら4話入って、300円程度で、セット割引やクーポンを使えばさらに安く視聴できることも多い。多くのダウンロード動画は音楽配信と違い、視聴期限が決まっているのも気になる。1話100円で購入しても1週間程度の視聴期限が来れば再生できなくなるのだ。

このような状況で、ソニーとしてはA800シリーズの動画機能をどう育てる予定なのだろうか?オーディオ事業本部長の吉岡氏に伺ってみることにした。


■今後“ウォークマン”は動画再生対応を加速させていくのか?


━━A800シリーズが動画対応になったことで、ソニーのオーディオ事業は今後どのように変化するのでしょうか。
吉岡氏:先にお話させていただきました通り、A800シリーズは動画再生ありきで開発がスタートしたわけではありません(前回のインタビュー)。とは言え、昨今は動画再生が可能なポータブル機器の注目度が日増しに高まっていることも事実です。ソニーとしては、まずは今回発売するA800シリーズに動画再生機能を付けたことで、ユーザーの皆さんがどう反応されるのか、どう使っていただけるのか、その様子をうかがってみたいと考えています。

━━米国ではアップルのiTunes Storeで人気のテレビドラマが、放映翌日にはインターネットで販売され、なおかつその売れ行きが好調であると聞きます。動画機能を定着させるには日本市場でも思い切った展開が必要だと思いますが、吉岡さんはどのようにお考えでしょうか。
吉岡氏:動画のネットワーク販売は著作権保護や利用時間の設定、そして課金金額の設定など、現在国内で実施するためには複数の課題があり、いまのところは成功している事例が少ないのではと考えています。ソニーとしては、まずA800シリーズに動画機能を搭載して「器」を作りました。そしてソネット、ソニースタイルにはウォークマン専用の動画配信コーナーを設けてあります。他にもビデオキャストに対応しましたが、ここを現時点でのスタートラインと考えています。今後コンテンツを充実させていくにあたっては、コンテンツホルダーやサービスプロバイダーの方々の協力が不可欠要素となります。一方でA800シリーズがユーザーの皆様に受け入れられ、「器」が普及していくことで動画を楽しむ環境を充実させることに貢献できるものと思っています。

━━iPodには動画再生だけでなく、簡単なゲーム機能なども備わっています。今後2.0型の液晶を活用する新機能は追加されるのでしょうか。
吉岡氏:今のところ考えていません。なぜなら、表示能力の高い液晶を搭載するプレーヤーは、やもすれば多機能になり過ぎてしまい、高品位な音楽再生機能など本来の在り方を見失う商品になりがちだと考えるからです。例えばスケジュール管理ができるPDA機能やゲーム機能も盛り込んでしまうと、結局は何を楽しんでいただくための製品なのかがわからなくなってしまいます。ウォークマンA800シリーズは、まず一番に音楽を楽しむためのオーディオ機器ですので、“良い音が楽しめるプレーヤー”という本質がぶれないように開発しました。

━━今後動画再生機能を搭載したHDDモデルが登場する予定はありますか。
吉岡氏:現時点で全くないとは言い切れません。A800シリーズは発売以来、当社の予想に反して8GBモデルの売れ行きが好調なので、私も驚いています。発売から1週間足らずで8GBモデルが品切れになってしまうショップも出ていますので、大容量モデルへのニーズの高さを実感しています。これは動画に限らず、音楽をより高音質で記録したいというユーザーにも共通しているものと思います。そのため、大容量モデルの開発は現在早急に取り組んでいます。ただし、これは必ずしも「大容量=HDD」ということではありません。と言うのも、フラッシュメモリーの値下がりが予想以上に早まっている一方、音楽プレーヤー用の小型HDDの価格にここの所大きな変化がありません。これからは大容量モデルにおいても、消費電力、コンパクト設計そして低価格のフラッシュメモリータイプが主流になると思います。

━━吉岡さんご自身は、新しいウォークマンの動画機能を楽しまれていらっしゃいますか。
吉岡氏:英会話のビデオポッドキャストをダウンロードして、通勤電車で楽しんでいます。同時にノイズキャンセリング機能を備えたS700シリーズも使っているので、通勤前にどちらを持って行くか、毎朝選んで楽しんでいます。


■ネット動画との上手な連携がウォークマンA800シリーズ飛躍のカギとなるだろう

吉岡氏のコメントを伺うと、「ウォークマンA800シリーズは動画再生機能は加わったものの、何よりも先ずは高音質な音楽が楽しめるオーディオ機器である」という揺るぎないコンセプトが伝わってきた。一方で開発の指揮を執った木野内氏からは、動画再生機能の強い思いと期待感が伝わってきた。

A800シリーズの動画機能はアップルのiPod用に作成されたビデオポッドキャストに対応している点も興味深い。iPod用に配信される大量のビデオポッドキャストが、そのままウォークマンのユーザーも楽しめるメリットは大きい。今回インタビューで、お二人から明言されることはなかったが、A800シリーズの動画再生機能はネット動画に特化していると筆者は感じている。実際に使うと2.0型という画面サイズはドラマや映画を視るには小さいと感じるサイズだ。老眼の筆者は洋画を再生したときの字幕が見づらいのだ。それよりもネットにある短時間のムービーを“話のネタ”として、友人に見せるようなシチュエーションに向いているだろう。コンパクトな本体と相まって、カジュアルにモバイルムービーを楽しむきっかけになりそうだ。吉岡氏の言葉によれば、A800シリーズの動画機能がどう発展するか、購入したユーザーの声にゆだねられているように思う。

次回はウォークマンA800シリーズが登場した事による、ソニーのオーディオ製品群の変化を探ろうと思う。


【ケースイメモでインタビューを総括!】
1.脱HDDでコンパクトな動画対応機を実現
2.ビデオポッドキャストに対応しコンテンツ不足を解決
3.動画再生機能の今後はユーザーの声を参考にする


鈴木桂水(Keisui Suzuki)
元産業用ロボットメーカーの開発、設計担当を経て、現在はAV機器とパソコン周辺機器を主に扱うフリーライター。テレビ番組表を日夜分析している自称「テレビ番組表アナリスト」でもある。ユーザーの視点と元エンジニアの直感を頼りに、日経BP社デジタルARENAにて「使って元取れ! ケースイのAV機器<極限>酷使生活」、徳間書店「GoodsPress」など、AV機器を使いこなすコラムを執筆中。
>>鈴木桂水氏のブログはこちら

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