HOME > ニュース > AV&ホームシアターニュース
公開日 2007/05/23 14:23
高音質を追求した“単コン版・NET JUKE” − ソニー開発担当者に訊く「NAC-HD1」登場の背景
手持ちの音楽CDをHDDに保存してジュークボックスのように楽しむというコンセプトを打ち出した、ソニーの“NETJUKE(ネットジューク)”シリーズ。「NAS-M90HD」をはじめとする既発売の一体型オーディオシステムから、アンプやスピーカーを廃した“NET JUKE・単コン版”とも言える製品「NAC-HD1」が発売された。
NET JUKEの詳細については以前、本サイトでも詳しくレポートしているのでご覧いただきたい。今回はシリーズのコンポ版と「NAC-HD1」との間にどのような違いがあるのかについて、その真相を探るべく製品開発者へのインタビューを行った。
【取材協力 ソニー(株)】
・オーディオ事業本部 第2ビジネス部門 HDA設計課 シニアプロジェクトリーダー 関井康彰氏
・オーディオ事業本部 AU開発・技術部門 システム設計2部1課 統括課長 平居孝博氏
・オーディオ事業本部 統合商品企画部門 企画MK1部企画3課 猪飼徳子氏
(インタビュー/鈴木桂水)
■NAC-HD1と一体型NET JUKEはどこが違うのか
━━まずは新しい「NAC-HD1」が開発された背景について教えてください。
猪飼氏:“NET JUKE”シリーズを発売して以来、ピュアオーディオユーザーから単体版コンポーネントの発売について多くの要望が寄せられていました。今回そういった声にお答えすべくNET JUKEシリーズの基本機能はそのままに、アンプ部とスピーカーを省いたNAC-HD1を開発しました。
━━「NAC-HD1」に新しく追加された機能はありますか。
関井氏:デジタル入力を2系統(光・同軸)で追加しました。本機ではピュアオーディオユーザーに納得していただけるように音質の強化を行いました。まず電源部は、パソコン等に用いられるスイッチング電源ではなく、原理的にスイッチングノイズを発生しないHiFiオーディオ用の電源トランスを使用しています。また、オーディオ専用の安定化電源回路を採用し、音のにごりや劣化を防いでいます。
DA変換回路には64レベルΔΣモジュレーター搭載の24bit/192kHzサンプリングD/Aコンバーターを採用しています。そのほか、防振・防音を強化した筐体、オーディオ専用パーツの投入などと相まって、CDのみならずATRACやMP3に対しても、ひずみの少ないクリアな再生を目指しました。デジタル出力端子を使って、当社の“S-Master PRO”搭載のアンプなどを接続すれば、音楽信号をデジタルのまま劣化なく高音質で楽しめます。
━━一体型コンポとの違いでは、MD機能が省かれていますが、その理由はどこにあったのでしょうか。
関井氏:MDを搭載することは技術的に難しい訳ではありません。ただし、あれもこれもと機能を追加するよりも「NAC-HD1」では第一に音質を追求すべきだと考えました。そのためにMDドライブよりも、大型のオーディオ用電源などを優先して搭載しました。MDについては今後要望があれば検討したいと思っています。
■単品コンポとして、音質に磨きをかけた「NAC-HD1」の思想
━━オーディオ機器として設計するにあたり苦心されたポイントはいかがでしょうか。
関井氏:NET JUKEシリーズには4.3型の液晶ディスプレイが搭載されています。「NAC-HD1」でもフロントパネルの中央に同じ液晶ディスプレイを配置しています。そのためCDとHDD一体化したCD/HDDブロックを本体の正面に向かって左側に配置することになりました。ご存じのように回転、振動するドライブは中央に配置するのがオーディオ機器を設計する上でのセオリーですが、左側に配置したCD/HDDブロックの反対側にトランスなどの電源部を配置することで、左右の重量バランスを調整しています。そのため、ドライブ部を中央に配置するのと近い効果が得られています。ちなみにソニーのオーディオ機器の電源入力は通常機器の正面に向かって右側に配置していますが、本機に限っては右側になっています。
━━NET JUKEシリーズでは、音楽CDを再生している時にドライブの動作音が発生し、これが少し気になっていました。今回のモデルではドライブの動作音に改良は行われたのでしょうか。
関井氏:NET JUKEシリーズ、「NAC-HD1」ともに高速読み込みに対応したCDドライブを搭載してます。一度音楽CDをHDDに記録すれば、動作ノイズを発生せずに音楽を楽しめるということは知っておいてください。ただ、高速記録タイプのドライブを使うので、CD再生時に限り通常のCDプレーヤーに比べて、わずかですが動作音が発生します。「NAC-HD1」ではその動作音を極力抑えるべく、ゴム系素材を使って防音と防振対策を施しました。CD再生時の動作音はNET JUKEシリーズよりも低くなっています。他にも大口径の冷却ファンを低速で回転させることで、ファンノイズも大幅に軽減しています。
━━操作系に関する変更点はありますか。
平居氏:現行NET JUKEシリーズから変更はありません。使いやすいと好評いただいているNET JUKEシリーズの操作系をそのまま引き継いでいます。ただ「NAC-HD1」は工場出荷時で最新バージョンのシステムソフトを搭載しています。このバージョンはHDDにリニアPCMで記録した音楽をATRAC/MP3に圧縮しながら“ウォークマン”に転送できます。リニアPCMはCDの音楽情報を非圧縮で記録する方式なので、家で聴く場合はリニアPCMの高音質で楽しみ、外出するときは容量を圧縮して“ウォークマン”に記録して持ち出せます。
猪飼氏:地味な機能かもしれませんがピュアオーディオとして「NAC-HD1」を開発するあたり、このリニアPCMからATRAC/MP3への圧縮転送は欠かせないと思っていました。内蔵するHDDにはリニアPCMで約380枚の音楽CDを記録できます。手持ちのCDをHDDに保存すれば、検索などの管理も簡単です。CDを多く所有する音楽ファンほど重宝していただけるのではないでしょうか。CDからHDDへの転送は16倍速なので、大量のCDでも効率よく保存できます。リニアPCMでHDDに保存すると高音質で楽しめる半面、ウォークマンに転送するには一度HDD上でATRACやMP3に再変換し、それから転送していました。しかし最新バージョンは、HDD上での再変換を省いて転送ができます。この機能はシステムのバージョンアップを行うことで「NAS−D50S/M70HD/M90HD」でも利用できます。NET JUKEコンポのユーザーの皆様にもぜひ使ってみていただきたいと思います。
■単品コンポスタイルのメリットを活かした新しいNET JUKEの魅力がある
HDDに大量に保存した音楽やパソコン無しで音楽のネット配信を利用できるなど便利な機能を満載するNET JUKEシリーズ。とくに内蔵するAM/FMチューナーを使った留守録機能はとても快適で、ラジオ好きが一度使えば手放せなくなること請け合いと言ってもいいだろう。一方で一体型コンポゆえの制約から、アンプやスピーカーを変更して、音質をグレードアップすることに制限があることが不満に感じる部分もあった。またスピーカーを外して手持ちのコンポに接続した場合も、コンポ然としたデザインがオーディオラックの調和を乱すことで二の足を踏んでいた人も多かったと思う。「NAC-HD1」はHDDネットワークオーディオに興味こそあるものの、いまひとつ踏み切れなかったユーザーにとっても、高音質再生とシステムデザインが楽しめる製品としても魅力的な製品になっているようだ。その使いこなしと音質のレポートについては、近日レビューをお伝えする予定だ。
鈴木桂水(Keisui Suzuki)
元産業用ロボットメーカーの開発、設計担当を経て、現在はAV機器とパソコン周辺機器を主に扱うフリーライター。テレビ番組表を日夜分析している自称「テレビ番組表アナリスト」でもある。ユーザーの視点と元エンジニアの直感を頼りに、日経BP社デジタルARENAにて「使って元取れ! ケースイのAV機器<極限>酷使生活」、徳間書店「GoodsPress」など、AV機器を使いこなすコラムを執筆中。
>>鈴木桂水氏のブログはこちら
NET JUKEの詳細については以前、本サイトでも詳しくレポートしているのでご覧いただきたい。今回はシリーズのコンポ版と「NAC-HD1」との間にどのような違いがあるのかについて、その真相を探るべく製品開発者へのインタビューを行った。
【取材協力 ソニー(株)】
・オーディオ事業本部 第2ビジネス部門 HDA設計課 シニアプロジェクトリーダー 関井康彰氏
・オーディオ事業本部 AU開発・技術部門 システム設計2部1課 統括課長 平居孝博氏
・オーディオ事業本部 統合商品企画部門 企画MK1部企画3課 猪飼徳子氏
(インタビュー/鈴木桂水)
■NAC-HD1と一体型NET JUKEはどこが違うのか
━━まずは新しい「NAC-HD1」が開発された背景について教えてください。
猪飼氏:“NET JUKE”シリーズを発売して以来、ピュアオーディオユーザーから単体版コンポーネントの発売について多くの要望が寄せられていました。今回そういった声にお答えすべくNET JUKEシリーズの基本機能はそのままに、アンプ部とスピーカーを省いたNAC-HD1を開発しました。
━━「NAC-HD1」に新しく追加された機能はありますか。
DA変換回路には64レベルΔΣモジュレーター搭載の24bit/192kHzサンプリングD/Aコンバーターを採用しています。そのほか、防振・防音を強化した筐体、オーディオ専用パーツの投入などと相まって、CDのみならずATRACやMP3に対しても、ひずみの少ないクリアな再生を目指しました。デジタル出力端子を使って、当社の“S-Master PRO”搭載のアンプなどを接続すれば、音楽信号をデジタルのまま劣化なく高音質で楽しめます。
━━一体型コンポとの違いでは、MD機能が省かれていますが、その理由はどこにあったのでしょうか。
関井氏:MDを搭載することは技術的に難しい訳ではありません。ただし、あれもこれもと機能を追加するよりも「NAC-HD1」では第一に音質を追求すべきだと考えました。そのためにMDドライブよりも、大型のオーディオ用電源などを優先して搭載しました。MDについては今後要望があれば検討したいと思っています。
■単品コンポとして、音質に磨きをかけた「NAC-HD1」の思想
━━オーディオ機器として設計するにあたり苦心されたポイントはいかがでしょうか。
関井氏:NET JUKEシリーズには4.3型の液晶ディスプレイが搭載されています。「NAC-HD1」でもフロントパネルの中央に同じ液晶ディスプレイを配置しています。そのためCDとHDD一体化したCD/HDDブロックを本体の正面に向かって左側に配置することになりました。ご存じのように回転、振動するドライブは中央に配置するのがオーディオ機器を設計する上でのセオリーですが、左側に配置したCD/HDDブロックの反対側にトランスなどの電源部を配置することで、左右の重量バランスを調整しています。そのため、ドライブ部を中央に配置するのと近い効果が得られています。ちなみにソニーのオーディオ機器の電源入力は通常機器の正面に向かって右側に配置していますが、本機に限っては右側になっています。
━━NET JUKEシリーズでは、音楽CDを再生している時にドライブの動作音が発生し、これが少し気になっていました。今回のモデルではドライブの動作音に改良は行われたのでしょうか。
関井氏:NET JUKEシリーズ、「NAC-HD1」ともに高速読み込みに対応したCDドライブを搭載してます。一度音楽CDをHDDに記録すれば、動作ノイズを発生せずに音楽を楽しめるということは知っておいてください。ただ、高速記録タイプのドライブを使うので、CD再生時に限り通常のCDプレーヤーに比べて、わずかですが動作音が発生します。「NAC-HD1」ではその動作音を極力抑えるべく、ゴム系素材を使って防音と防振対策を施しました。CD再生時の動作音はNET JUKEシリーズよりも低くなっています。他にも大口径の冷却ファンを低速で回転させることで、ファンノイズも大幅に軽減しています。
━━操作系に関する変更点はありますか。
平居氏:現行NET JUKEシリーズから変更はありません。使いやすいと好評いただいているNET JUKEシリーズの操作系をそのまま引き継いでいます。ただ「NAC-HD1」は工場出荷時で最新バージョンのシステムソフトを搭載しています。このバージョンはHDDにリニアPCMで記録した音楽をATRAC/MP3に圧縮しながら“ウォークマン”に転送できます。リニアPCMはCDの音楽情報を非圧縮で記録する方式なので、家で聴く場合はリニアPCMの高音質で楽しみ、外出するときは容量を圧縮して“ウォークマン”に記録して持ち出せます。
猪飼氏:地味な機能かもしれませんがピュアオーディオとして「NAC-HD1」を開発するあたり、このリニアPCMからATRAC/MP3への圧縮転送は欠かせないと思っていました。内蔵するHDDにはリニアPCMで約380枚の音楽CDを記録できます。手持ちのCDをHDDに保存すれば、検索などの管理も簡単です。CDを多く所有する音楽ファンほど重宝していただけるのではないでしょうか。CDからHDDへの転送は16倍速なので、大量のCDでも効率よく保存できます。リニアPCMでHDDに保存すると高音質で楽しめる半面、ウォークマンに転送するには一度HDD上でATRACやMP3に再変換し、それから転送していました。しかし最新バージョンは、HDD上での再変換を省いて転送ができます。この機能はシステムのバージョンアップを行うことで「NAS−D50S/M70HD/M90HD」でも利用できます。NET JUKEコンポのユーザーの皆様にもぜひ使ってみていただきたいと思います。
■単品コンポスタイルのメリットを活かした新しいNET JUKEの魅力がある
HDDに大量に保存した音楽やパソコン無しで音楽のネット配信を利用できるなど便利な機能を満載するNET JUKEシリーズ。とくに内蔵するAM/FMチューナーを使った留守録機能はとても快適で、ラジオ好きが一度使えば手放せなくなること請け合いと言ってもいいだろう。一方で一体型コンポゆえの制約から、アンプやスピーカーを変更して、音質をグレードアップすることに制限があることが不満に感じる部分もあった。またスピーカーを外して手持ちのコンポに接続した場合も、コンポ然としたデザインがオーディオラックの調和を乱すことで二の足を踏んでいた人も多かったと思う。「NAC-HD1」はHDDネットワークオーディオに興味こそあるものの、いまひとつ踏み切れなかったユーザーにとっても、高音質再生とシステムデザインが楽しめる製品としても魅力的な製品になっているようだ。その使いこなしと音質のレポートについては、近日レビューをお伝えする予定だ。
元産業用ロボットメーカーの開発、設計担当を経て、現在はAV機器とパソコン周辺機器を主に扱うフリーライター。テレビ番組表を日夜分析している自称「テレビ番組表アナリスト」でもある。ユーザーの視点と元エンジニアの直感を頼りに、日経BP社デジタルARENAにて「使って元取れ! ケースイのAV機器<極限>酷使生活」、徳間書店「GoodsPress」など、AV機器を使いこなすコラムを執筆中。
>>鈴木桂水氏のブログはこちら