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公開日 2008/05/08 19:00
iPodやダビング10を「私的録音・録画補償金制度」の対象に − 文化庁が制度改正案を提出
文化庁は8日、今年第2回目の文化審議会 著作権分科会私的録音録画小委員会を開催し、先頃同庁が取りまとめを行った「私的録音・録画補償金制度」の改正案を提出した。
同委員会は、音楽や放送コンテンツなどの著作物について私的使用を目的とした録音・録画に対し、権利者への補償金を支払うことを定めた「私的録音・録画補償金制度」に関するあり方を審議するため、平成18年(2006年)に著作権分科会内に設けられた。著作権分科会長によって指名された、機器等の製造メーカー、およびコンテンツホルダーの代表、ならびに有識者などが委員、臨時委員および専門委員として出席する。
著作権法では、個人的に楽しむためであっても、MDやオーディオ用CD-Rなど政令で定められたデジタル方式の機器・媒体を用いた録音、録画については著作権者への補償金の支払いを義務づけている(著作権法30条2)。これを「私的録音・録画補償金制度」といい、家庭内等で音楽などの著作物を私的に使用することを目的とした録音・録画に対し、権利者への補償金を支払うことを定めた制度のことである。録音については1993年6月から、録画については2000年7月から実施されている。補償金の支払い方法としては、政令指定を受けた特定機器・記録媒体の製造メーカーなどの協力を得て、ユーザーが機器・媒体を購入する際、補償金を含める形で一括して支払う仕組みが取られている。
今回文化庁から改正案が委員会に提出されたのは「私的録音・録画補償金制度」について、その実施当初から現在までに、ユーザーのライフスタイルが大きく変化したことを受け、内容を見直す必要があると判断したため。iPodをはじめとした携帯オーディオプレーヤーによる「音楽CDからの録音」と、6月2日に運用が開始される予定のダビング10を取り巻く「無料デジタル放送からの録画」について、新たに補償金制度での対応が必要な分野として検討対象とされたことが、今回の改正案で最も注目されている。
「私的録音・録画補償金制度」については、録音・録画機器に搭載される著作権保護技術が大きく進化し、コンテンツ権利者たちの求める水準に近づいてきたことから、昨今では「原則として補償金制度を縮小していく方向」で検討されてきた。一方で、これまでPCの周辺機器として、制度の対象外とされてきたiPodなど、録音・録画機能を有し、記録媒体を内蔵した一体型のオーディオプレーヤーを、現状のユーザーのライフスタイルに則したかたちで、新たに対象として加えることが適当と判断された。
また無料デジタル放送の録画については、6月2日からの運用開始を控える「ダビング10」について、コンテンツ権利者サイドから「採用に関する一連の経緯等において、コンテンツ権利者の要請が反映された上で策定されたものではない」という理由から、新たにデジタル放送の録画機や、録画機能を組み込んだテレビについても対象とすることが改正案に含まれている。なお、デジタルチューナーを搭載するPCや携帯電話、カーナビゲーションについては「録音・録画を主たる用途としている機器ではない」として、制度の対象外とされた。
「ダビング10」に関しては、その結論に至る検討経緯において、「権利者側は“COG+一定の制限”という考え方そのものは支持しているが、一方でその“回数”については“10回”という決定が、権利者の要請により定められたものではないことは明らかだ」とし、補償金制度での対応を検討する必要がある分野と指摘。一方で、「権利者の要請などに基づく新たなルールが導入された場合は、補償金制度は必要ない」ともしている。
補償金額の決定方法については「現行法の手続きを維持することが適当である」とされた。また具体的な補償金額の認可手続きを行う際には、「より多くの関係者の意見を反映させ、慎重にその額を決定するためにも、新たに“評価機関”を設けて、ユーザーの私的録音録画の実態を定期的に把握し、分析を重ねていくことが不可欠」であるとされた。なお、今回の提案では、新たな補償金額の内容は盛り込まれていない。
文化庁の提案は、委員会会場にて事務局の川瀬室長により説明が行われ、列席した委員会メンバーからの質疑応答が行われた。
(社)電子情報技術産業協会 常務理事の長谷川英一氏は「今回の提案の内容では、原則として補償金精度の縮小を検討していると言いながらも、その方向が見えてこないと言わざるを得ない。著作権保護技術により補償金の必要性は減少していくはずなのに、それどころか、補償金の対象が際限なく広がっていきそうな不安を覚える。補償の金額についても評価機関で決定するとあるが、その枠組みが曖昧だ」と指摘した。
また(社)日本記録メディア工業会 著作権委員会 委員長の井田倫明氏は「デジタル放送の録画ルールについては、コンテンツ権利者の要請に従うばかりではその方法がなかなかまとまらないのではという不安がある。補償金を設けるとしてもどのような場合に補償が必要なのか、今後さらに検討を深めてコンセンサスを得る必要があるだろう」とした。
主婦連合会副常任委員の河村真紀子氏は、「ユーザーの観点から今回の提案内容について意見を述べたい」とし、「ユーザーが、クリエイターとその著作物をリスペクトしないということは有り得ない。“私的補償金は誰のためにあるのか”ということをもっと深く議論して、透明性が確保されることが前提だ。ユーザーがクリエイターに対して、ダイレクトに対価を提供できる方法も模索していく必要がある」と語った。
(社)日本芸能実演家団体協議会実演家著作隣接権センター運営委員の椎名和夫氏は「補償金精度の改定については、ユーザーの利用実態が刻一刻と変化している一方で、コンセンサスを得るのに長い時間がかかっており、権利者の補償が損なわれている実態も生まれてしまっている。権利者側としては、今回の文化庁の提案はひとまず議論を終息させるための、いわば段階的な結論であると認識しており、著作権保護の現状の課題を、補償金制度と保護技術の両方を用いてカバーしていくという考え方は評価したい」とした。さらに「今後も新たなユーザーのコンテンツ利用のスタイルがでてくるものと思うが、それぞれについて立ち止まって考える余地が残っていると理解している。著作権保護に関して、建設的な議論を継続していくためにも、関係者が前向きに合意を形成しようという意志を持って話し合うことが大切だ」と語った。
文化庁の提案は、今後第3回目以降に継続される委員会で引き続き検討が重ねられていく。
(Phile-web編集部)
同委員会は、音楽や放送コンテンツなどの著作物について私的使用を目的とした録音・録画に対し、権利者への補償金を支払うことを定めた「私的録音・録画補償金制度」に関するあり方を審議するため、平成18年(2006年)に著作権分科会内に設けられた。著作権分科会長によって指名された、機器等の製造メーカー、およびコンテンツホルダーの代表、ならびに有識者などが委員、臨時委員および専門委員として出席する。
著作権法では、個人的に楽しむためであっても、MDやオーディオ用CD-Rなど政令で定められたデジタル方式の機器・媒体を用いた録音、録画については著作権者への補償金の支払いを義務づけている(著作権法30条2)。これを「私的録音・録画補償金制度」といい、家庭内等で音楽などの著作物を私的に使用することを目的とした録音・録画に対し、権利者への補償金を支払うことを定めた制度のことである。録音については1993年6月から、録画については2000年7月から実施されている。補償金の支払い方法としては、政令指定を受けた特定機器・記録媒体の製造メーカーなどの協力を得て、ユーザーが機器・媒体を購入する際、補償金を含める形で一括して支払う仕組みが取られている。
今回文化庁から改正案が委員会に提出されたのは「私的録音・録画補償金制度」について、その実施当初から現在までに、ユーザーのライフスタイルが大きく変化したことを受け、内容を見直す必要があると判断したため。iPodをはじめとした携帯オーディオプレーヤーによる「音楽CDからの録音」と、6月2日に運用が開始される予定のダビング10を取り巻く「無料デジタル放送からの録画」について、新たに補償金制度での対応が必要な分野として検討対象とされたことが、今回の改正案で最も注目されている。
「私的録音・録画補償金制度」については、録音・録画機器に搭載される著作権保護技術が大きく進化し、コンテンツ権利者たちの求める水準に近づいてきたことから、昨今では「原則として補償金制度を縮小していく方向」で検討されてきた。一方で、これまでPCの周辺機器として、制度の対象外とされてきたiPodなど、録音・録画機能を有し、記録媒体を内蔵した一体型のオーディオプレーヤーを、現状のユーザーのライフスタイルに則したかたちで、新たに対象として加えることが適当と判断された。
また無料デジタル放送の録画については、6月2日からの運用開始を控える「ダビング10」について、コンテンツ権利者サイドから「採用に関する一連の経緯等において、コンテンツ権利者の要請が反映された上で策定されたものではない」という理由から、新たにデジタル放送の録画機や、録画機能を組み込んだテレビについても対象とすることが改正案に含まれている。なお、デジタルチューナーを搭載するPCや携帯電話、カーナビゲーションについては「録音・録画を主たる用途としている機器ではない」として、制度の対象外とされた。
「ダビング10」に関しては、その結論に至る検討経緯において、「権利者側は“COG+一定の制限”という考え方そのものは支持しているが、一方でその“回数”については“10回”という決定が、権利者の要請により定められたものではないことは明らかだ」とし、補償金制度での対応を検討する必要がある分野と指摘。一方で、「権利者の要請などに基づく新たなルールが導入された場合は、補償金制度は必要ない」ともしている。
補償金額の決定方法については「現行法の手続きを維持することが適当である」とされた。また具体的な補償金額の認可手続きを行う際には、「より多くの関係者の意見を反映させ、慎重にその額を決定するためにも、新たに“評価機関”を設けて、ユーザーの私的録音録画の実態を定期的に把握し、分析を重ねていくことが不可欠」であるとされた。なお、今回の提案では、新たな補償金額の内容は盛り込まれていない。
文化庁の提案は、委員会会場にて事務局の川瀬室長により説明が行われ、列席した委員会メンバーからの質疑応答が行われた。
(社)電子情報技術産業協会 常務理事の長谷川英一氏は「今回の提案の内容では、原則として補償金精度の縮小を検討していると言いながらも、その方向が見えてこないと言わざるを得ない。著作権保護技術により補償金の必要性は減少していくはずなのに、それどころか、補償金の対象が際限なく広がっていきそうな不安を覚える。補償の金額についても評価機関で決定するとあるが、その枠組みが曖昧だ」と指摘した。
また(社)日本記録メディア工業会 著作権委員会 委員長の井田倫明氏は「デジタル放送の録画ルールについては、コンテンツ権利者の要請に従うばかりではその方法がなかなかまとまらないのではという不安がある。補償金を設けるとしてもどのような場合に補償が必要なのか、今後さらに検討を深めてコンセンサスを得る必要があるだろう」とした。
主婦連合会副常任委員の河村真紀子氏は、「ユーザーの観点から今回の提案内容について意見を述べたい」とし、「ユーザーが、クリエイターとその著作物をリスペクトしないということは有り得ない。“私的補償金は誰のためにあるのか”ということをもっと深く議論して、透明性が確保されることが前提だ。ユーザーがクリエイターに対して、ダイレクトに対価を提供できる方法も模索していく必要がある」と語った。
(社)日本芸能実演家団体協議会実演家著作隣接権センター運営委員の椎名和夫氏は「補償金精度の改定については、ユーザーの利用実態が刻一刻と変化している一方で、コンセンサスを得るのに長い時間がかかっており、権利者の補償が損なわれている実態も生まれてしまっている。権利者側としては、今回の文化庁の提案はひとまず議論を終息させるための、いわば段階的な結論であると認識しており、著作権保護の現状の課題を、補償金制度と保護技術の両方を用いてカバーしていくという考え方は評価したい」とした。さらに「今後も新たなユーザーのコンテンツ利用のスタイルがでてくるものと思うが、それぞれについて立ち止まって考える余地が残っていると理解している。著作権保護に関して、建設的な議論を継続していくためにも、関係者が前向きに合意を形成しようという意志を持って話し合うことが大切だ」と語った。
文化庁の提案は、今後第3回目以降に継続される委員会で引き続き検討が重ねられていく。
(Phile-web編集部)