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公開日 2008/06/20 10:50
話題のソフトを“Wooo”で観る<特別編> − 「P50-XR02」が我が家にやってきた!
「三代目」が我が家にやってきた! …といっても、「築地魚河岸三代目」の赤木旬太郎の話ではない。正確には「三台目」である。日立のプラズマテレビWoooの最新製品で、ビジュアルグランプリ2008SUMMERで金賞を受賞した「P50-XR02」(製品データベース)が筆者の仕事場にやって来た。初代の「W42P-HR9000」、二台目の「P50-XR01」、そして今回の製品である。これからしばらくのあいだ、ブルーレイディスクを中心に、最新鋭のプラズマテレビ、「P50-XR02」で高画質ソフトを見る楽しさを語っていきたい。
初代のW42P-HR9000は1080ALIS方式(1,024×1,080)のハイビジョンテレビで、HDD録画機能を内蔵していた。二台目のP50-XR01はフルハイビジョン(1,920×1,080)になり、録画機能が内蔵HDDと着脱可能のiVポケットの二本立てになった。今回のP50-XR02は、フルHDで内蔵HDD/iVポケット搭載というところは前作と変わらない。一見、あまり大きな変更はないように見える。ところが、Woooシリーズのスタート以来、最もドラスティックな変化を経て誕生した製品なのである。
日立はプラズマテレビの初代機以来、ALIS(Alternate Lighting of Surface Method)方式のパネルを使ってきた。FHP社(富士通日立プラズマディスプレイ株式会社)が生産するALISパネルは一種のインターレース(飛び越し走査)で、表示解像度に対し垂直の画素数の半分のライン数で済むため高精細化が行いやすく、開口率も高く画面が明るいのが特徴だった。市販のプラズマテレビで垂直画素数1080を初めて達成したのは日立である。
しかし、垂直方向に隔壁を持たないストレートリブ構造ゆえに、画素内部の光漏れが避けられず黒が沈みきらない弱点があり、生産性には優れているが、画質面で遅れを取り始めていた。高精細化にずっと手古摺っていた他社が一般的なAC型パネルでフルハイビジョンを達成した一昨年、予備発光のレベルを下げて黒浮きを抑えて軒並み高いコントラストを獲得した昨年と、ALIS方式の長所は徐々に失われつつあった。
●構造を大きく変えた「1080フルHDブラックパネル」搭載
日立はついに、2008年夏の新製品からパネル設計を全面的に改めた。すべてのパネル構造を、画素が隔壁で囲まれたボックス・リブ構造に改め、フルハイビジョン機は面発光の順次走査(プログレッシブ)で映像を表示する「1080フルHDブラックパネル」へ、ハイビジョン機はALIS方式のインターレースを継承しながら、サブフィールドの非発光ラインを発光ラインとして活用するハイブリッド方式の「1080HDブラックパネル」を新たに搭載した。前者、「1080フルHDブラックパネル」を搭載する最初の製品がP50-XR02である。
こう書くとALIS方式が技術競争に敗れたようだが、2001年に32V型ハイビジョンプラズマテレビを発売し、プラズマテレビの高精細化と高輝度化に先鞭をつけ、量産による低コスト化をALIS方式が先導したのである。1990年代、ブラウン管陣営から「ものになるまで数十年かかる」と冷笑されたプラズマテレビを、わずか9年足らずで薄型テレビの代名詞としてリビングの風景の一部にしたのは、ALIS方式を採用した日立のプラズマテレビである。ALIS方式は時を待って、時代を創った技術としてその功績が再検証されるべきだろう。
●コントラスト比は30,000対1に進化
日立にとって節目の製品だけあって、P50-XR02は単に「パネルが変わりました」というだけの製品ではない。リーディングメーカーとして、プラズマ方式の画質のよさを知らしめる、力の入った製品である。新しいパネルはボックス・リブを採用し、発光の垂直方向への広がりを抑えると共に、リセット技術で背景の輝度を大幅に低減し、暗所コントラストは30,000:1に達した。コントラスト比の数値では昨年のパイオニアKUROシリーズを上回り、今年のパナソニックPZ800系と並んだ。セルとセルの間に外光を吸収する微細な金属の黒帯を採用し、パネル反射率を30%以上吸収し、明るい照明下でも締まった黒を表現する。実用コントラストでも大きな進境を見せた。
色域の拡大は、液晶方式も含め最近の薄型テレビが共通して取り組む課題だが、P50-XR02はダイナミックMBPフィルターを採用し、HDTV規格の色域比約125%という広色域を実現した。さらに、ノングレア(艶消し)か光沢か。薄型テレビのもう一つのトピックがパネルの表面仕上げだが、P50-XR02はパネルのフィルター部にAR(アンチ・リフレクション)コートを採用した。手をかざすとうっすら肌色の影が映るくらいの反射率である。50~200ルクスの一般的な照明条件下の大多数のリビングでは、筆者はP50-XR01の半光沢がべストと考えている。
●録画機能も充実した「最強のテレビ」
この他にも従来のWoooから継承の、あるいは新規採用の機能が満載されているが、視聴の傍ら、おいおい紹介していこう。これだけは後回しに出来ないので触れておくと、P50-XR02は250GBのHDDと「iVポケット」(着脱可能なカートリッジ式HDD用スロット)の両方を搭載し、テレビ本体で録画が出来る。しかも、液晶のUTシリーズのように別体のチューナー部にではなく、両方とも本体に内蔵されている。録画機能、日立のテレビの最大の特長にして変わらない魅力である。HDMIのCEC機能を利用した○×リンクが隆盛だが、録画立ち上がりのスピードでは、HDDを内蔵した日立に及ばない(日立も「Woooリンク」という機能を持っているが)。案外、録画が出来るテレビの存在を知らない方が、世の中にまだ多いかもしれない。画質を進化させた一方で、Woooの素晴らしい特長が失われてしまっては何にもならないが、最高水準の映像を持ち、録画が出来るP50-XR02は、足りないものの見つからない「最強のテレビ」となって私たちの前にやって来た。
●2年前の印象とは雲泥の差の「ナルニア国物語」
日立製作所から到着したP50-XR02(本体重量49.5kg)を、梱包状態のまま、二階の仕事場に運び上げて開梱した。電動スイーベルスタンドはセット済みで、これは別梱だった前作P50-XR01から進歩。セットアップは非常にラクである。受信チャンネルのセットアップを済ませ、PS3、DVDレコーダーDV-DH1000DなどをHDMIで接続し、これで視聴準備はOK。最初に見たソフトは『ナルニア国物語第一章 ライオンと魔女』、本記事「話題のソフトを”Wooo”で観る」の第一回でDVDを取り上げた。この記念すべきタイトルのブルーレイディスク版を新しいテレビで見ようという趣向である。
この2年間のハード、ソフトの進展を見せ付けられる画質の躍進ぶりである。DVDを観た時にもっとも不満だったのが、アスランが深夜、石舞台へ赴き自己犠牲となるシーンで、アスランの(仮の)死を目撃する姉妹の顔が、階調不足に陥り汚れてしまうのである。これがブルーレイディスクとP50-XR02ではきれいに払拭されている。
P50-XR02の特長として、映像の表現範囲が大幅に拡大されたため、画質調整のレスポンスが鋭敏になったことがあげられる。この映画は、第二次世界大戦のさなかに空襲の続くロンドンから田舎に逃れた4人兄妹が、旧家のワードローブからファンタジーの世界に迷い込むジュブナイルなのだが、好奇心旺盛な末娘が分別盛りの兄姉たちの導き手を努める。末娘がワードローブから迷い込んだナルニア国は一面の雪景色だが、たいていのテレビの映画モード(色温度6500℃~7000℃)では雪の色が赤くなる。色温度を上げると今度は末娘の顔から子供らしい赤味が消えてしまう。P50-XR02の場合、テクニカル調整の色温度調整でRドライブを若干下げるとすぐに最適画質が得られる。こうした機能は他社製品の多くに搭載されているが、P50-XR02の場合、映像の反応と変化が鋭敏で的確なのである。だから、勝手知ったる映画への「ここは、こう見えてほしい」という願望と狙いを、シャープかつビビッドに反映させることができる。「1080フルHDブラックパネル」の素性のよさ、統合画質回路「Picture Master Full HD」の二年目の完成度を知らしめられた瞬間である。
●自然でなめらかな色再現性能が最大の特長
しかし、P50-XR02の最大の見所は、予想に反して色再現の素晴らしさであった。P50-XR02の場合、豊かで深い黒表現をベースにバランスのいいなめらかで雄大な画質を狙っている。液晶方式や一部のプラズマテレビに見られる「目を射るような」鮮鋭感、解像感を演出していない。情報量が少ないのでなく、それをあえて強調せずバランスのよさを狙っている。
しかし、ここぞという時には、剃刀の切れ味で見る者を驚かせる。劇団四季の「ライオンキング」の女性演出家ジュリー・テイモアによる8月日本公開の最新映画『アクロス・ザ・ユニバース』は全編、ザ・ビートルズの楽曲で構成したミュージカルだが、カバー演奏のサラウンドの面白さと同様に、いかにもテイモアらしいナイーブでエキセントリックな(つまり、この点でジュリー・テイモアとザ・ビートルズは通底しているのだ)映像も優れている。リバプールやニューヨークのシックな街並みのシャープでリアルな描写に、P50-XR02は、見る者の目を吸い寄せ釘付けにする解像感を発揮し、出来立てホヤホヤの最新映画をブルーレイの器に入れたような感覚で、シズル感が発散している。
そして、色再現のこの素晴らしさはどうだ。フィルムらしいナチュラルトーンを活かしたシーンは微妙な中間色を目を蕩けさせるような艶と厚みで描き、ピーター・マックスのイラストのパロディのようなサイケデリック調のシーンでは、画面外に溢れかえり散乱するように色彩をぶちまける。放電リセットの副産物として色純度が向上し、さらにコントラストの大幅な拡大、そして先述のダイナミックMBPフィルターの効果が最後に加わって、薄型テレビ屈指の華麗な色彩画家P50-XR02が誕生したのである。
深く厚く広大なコントラスト、じんわりと切れ込むような解像力、そして、「艶、彩、妖」を完備した色彩表現。テレビに求められる要件に望外の高さで応えたP50-XR02での、数々の最新ソフトとの出会いが、これから楽しみでならない。
(大橋伸太郎)
大橋伸太郎 プロフィール
1956 年神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。フジサンケイグループにて、美術書、児童書を企画編集後、(株)音元出版に入社、1990年『AV REVIEW』編集長、1998年には日本初にして現在も唯一の定期刊行ホームシアター専門誌『ホームシアターファイル』を刊行した。ホームシアターのオーソリティとして講演多数2006年に評論家に転身。趣味はウィーン、ミラノなど海外都市訪問をふくむコンサート鑑賞、アスレチックジム、ボルドーワイン。
初代のW42P-HR9000は1080ALIS方式(1,024×1,080)のハイビジョンテレビで、HDD録画機能を内蔵していた。二台目のP50-XR01はフルハイビジョン(1,920×1,080)になり、録画機能が内蔵HDDと着脱可能のiVポケットの二本立てになった。今回のP50-XR02は、フルHDで内蔵HDD/iVポケット搭載というところは前作と変わらない。一見、あまり大きな変更はないように見える。ところが、Woooシリーズのスタート以来、最もドラスティックな変化を経て誕生した製品なのである。
日立はプラズマテレビの初代機以来、ALIS(Alternate Lighting of Surface Method)方式のパネルを使ってきた。FHP社(富士通日立プラズマディスプレイ株式会社)が生産するALISパネルは一種のインターレース(飛び越し走査)で、表示解像度に対し垂直の画素数の半分のライン数で済むため高精細化が行いやすく、開口率も高く画面が明るいのが特徴だった。市販のプラズマテレビで垂直画素数1080を初めて達成したのは日立である。
しかし、垂直方向に隔壁を持たないストレートリブ構造ゆえに、画素内部の光漏れが避けられず黒が沈みきらない弱点があり、生産性には優れているが、画質面で遅れを取り始めていた。高精細化にずっと手古摺っていた他社が一般的なAC型パネルでフルハイビジョンを達成した一昨年、予備発光のレベルを下げて黒浮きを抑えて軒並み高いコントラストを獲得した昨年と、ALIS方式の長所は徐々に失われつつあった。
●構造を大きく変えた「1080フルHDブラックパネル」搭載
日立はついに、2008年夏の新製品からパネル設計を全面的に改めた。すべてのパネル構造を、画素が隔壁で囲まれたボックス・リブ構造に改め、フルハイビジョン機は面発光の順次走査(プログレッシブ)で映像を表示する「1080フルHDブラックパネル」へ、ハイビジョン機はALIS方式のインターレースを継承しながら、サブフィールドの非発光ラインを発光ラインとして活用するハイブリッド方式の「1080HDブラックパネル」を新たに搭載した。前者、「1080フルHDブラックパネル」を搭載する最初の製品がP50-XR02である。
こう書くとALIS方式が技術競争に敗れたようだが、2001年に32V型ハイビジョンプラズマテレビを発売し、プラズマテレビの高精細化と高輝度化に先鞭をつけ、量産による低コスト化をALIS方式が先導したのである。1990年代、ブラウン管陣営から「ものになるまで数十年かかる」と冷笑されたプラズマテレビを、わずか9年足らずで薄型テレビの代名詞としてリビングの風景の一部にしたのは、ALIS方式を採用した日立のプラズマテレビである。ALIS方式は時を待って、時代を創った技術としてその功績が再検証されるべきだろう。
●コントラスト比は30,000対1に進化
日立にとって節目の製品だけあって、P50-XR02は単に「パネルが変わりました」というだけの製品ではない。リーディングメーカーとして、プラズマ方式の画質のよさを知らしめる、力の入った製品である。新しいパネルはボックス・リブを採用し、発光の垂直方向への広がりを抑えると共に、リセット技術で背景の輝度を大幅に低減し、暗所コントラストは30,000:1に達した。コントラスト比の数値では昨年のパイオニアKUROシリーズを上回り、今年のパナソニックPZ800系と並んだ。セルとセルの間に外光を吸収する微細な金属の黒帯を採用し、パネル反射率を30%以上吸収し、明るい照明下でも締まった黒を表現する。実用コントラストでも大きな進境を見せた。
色域の拡大は、液晶方式も含め最近の薄型テレビが共通して取り組む課題だが、P50-XR02はダイナミックMBPフィルターを採用し、HDTV規格の色域比約125%という広色域を実現した。さらに、ノングレア(艶消し)か光沢か。薄型テレビのもう一つのトピックがパネルの表面仕上げだが、P50-XR02はパネルのフィルター部にAR(アンチ・リフレクション)コートを採用した。手をかざすとうっすら肌色の影が映るくらいの反射率である。50~200ルクスの一般的な照明条件下の大多数のリビングでは、筆者はP50-XR01の半光沢がべストと考えている。
●録画機能も充実した「最強のテレビ」
この他にも従来のWoooから継承の、あるいは新規採用の機能が満載されているが、視聴の傍ら、おいおい紹介していこう。これだけは後回しに出来ないので触れておくと、P50-XR02は250GBのHDDと「iVポケット」(着脱可能なカートリッジ式HDD用スロット)の両方を搭載し、テレビ本体で録画が出来る。しかも、液晶のUTシリーズのように別体のチューナー部にではなく、両方とも本体に内蔵されている。録画機能、日立のテレビの最大の特長にして変わらない魅力である。HDMIのCEC機能を利用した○×リンクが隆盛だが、録画立ち上がりのスピードでは、HDDを内蔵した日立に及ばない(日立も「Woooリンク」という機能を持っているが)。案外、録画が出来るテレビの存在を知らない方が、世の中にまだ多いかもしれない。画質を進化させた一方で、Woooの素晴らしい特長が失われてしまっては何にもならないが、最高水準の映像を持ち、録画が出来るP50-XR02は、足りないものの見つからない「最強のテレビ」となって私たちの前にやって来た。
●2年前の印象とは雲泥の差の「ナルニア国物語」
日立製作所から到着したP50-XR02(本体重量49.5kg)を、梱包状態のまま、二階の仕事場に運び上げて開梱した。電動スイーベルスタンドはセット済みで、これは別梱だった前作P50-XR01から進歩。セットアップは非常にラクである。受信チャンネルのセットアップを済ませ、PS3、DVDレコーダーDV-DH1000DなどをHDMIで接続し、これで視聴準備はOK。最初に見たソフトは『ナルニア国物語第一章 ライオンと魔女』、本記事「話題のソフトを”Wooo”で観る」の第一回でDVDを取り上げた。この記念すべきタイトルのブルーレイディスク版を新しいテレビで見ようという趣向である。
この2年間のハード、ソフトの進展を見せ付けられる画質の躍進ぶりである。DVDを観た時にもっとも不満だったのが、アスランが深夜、石舞台へ赴き自己犠牲となるシーンで、アスランの(仮の)死を目撃する姉妹の顔が、階調不足に陥り汚れてしまうのである。これがブルーレイディスクとP50-XR02ではきれいに払拭されている。
P50-XR02の特長として、映像の表現範囲が大幅に拡大されたため、画質調整のレスポンスが鋭敏になったことがあげられる。この映画は、第二次世界大戦のさなかに空襲の続くロンドンから田舎に逃れた4人兄妹が、旧家のワードローブからファンタジーの世界に迷い込むジュブナイルなのだが、好奇心旺盛な末娘が分別盛りの兄姉たちの導き手を努める。末娘がワードローブから迷い込んだナルニア国は一面の雪景色だが、たいていのテレビの映画モード(色温度6500℃~7000℃)では雪の色が赤くなる。色温度を上げると今度は末娘の顔から子供らしい赤味が消えてしまう。P50-XR02の場合、テクニカル調整の色温度調整でRドライブを若干下げるとすぐに最適画質が得られる。こうした機能は他社製品の多くに搭載されているが、P50-XR02の場合、映像の反応と変化が鋭敏で的確なのである。だから、勝手知ったる映画への「ここは、こう見えてほしい」という願望と狙いを、シャープかつビビッドに反映させることができる。「1080フルHDブラックパネル」の素性のよさ、統合画質回路「Picture Master Full HD」の二年目の完成度を知らしめられた瞬間である。
●自然でなめらかな色再現性能が最大の特長
しかし、P50-XR02の最大の見所は、予想に反して色再現の素晴らしさであった。P50-XR02の場合、豊かで深い黒表現をベースにバランスのいいなめらかで雄大な画質を狙っている。液晶方式や一部のプラズマテレビに見られる「目を射るような」鮮鋭感、解像感を演出していない。情報量が少ないのでなく、それをあえて強調せずバランスのよさを狙っている。
しかし、ここぞという時には、剃刀の切れ味で見る者を驚かせる。劇団四季の「ライオンキング」の女性演出家ジュリー・テイモアによる8月日本公開の最新映画『アクロス・ザ・ユニバース』は全編、ザ・ビートルズの楽曲で構成したミュージカルだが、カバー演奏のサラウンドの面白さと同様に、いかにもテイモアらしいナイーブでエキセントリックな(つまり、この点でジュリー・テイモアとザ・ビートルズは通底しているのだ)映像も優れている。リバプールやニューヨークのシックな街並みのシャープでリアルな描写に、P50-XR02は、見る者の目を吸い寄せ釘付けにする解像感を発揮し、出来立てホヤホヤの最新映画をブルーレイの器に入れたような感覚で、シズル感が発散している。
そして、色再現のこの素晴らしさはどうだ。フィルムらしいナチュラルトーンを活かしたシーンは微妙な中間色を目を蕩けさせるような艶と厚みで描き、ピーター・マックスのイラストのパロディのようなサイケデリック調のシーンでは、画面外に溢れかえり散乱するように色彩をぶちまける。放電リセットの副産物として色純度が向上し、さらにコントラストの大幅な拡大、そして先述のダイナミックMBPフィルターの効果が最後に加わって、薄型テレビ屈指の華麗な色彩画家P50-XR02が誕生したのである。
深く厚く広大なコントラスト、じんわりと切れ込むような解像力、そして、「艶、彩、妖」を完備した色彩表現。テレビに求められる要件に望外の高さで応えたP50-XR02での、数々の最新ソフトとの出会いが、これから楽しみでならない。
(大橋伸太郎)
大橋伸太郎 プロフィール
1956 年神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。フジサンケイグループにて、美術書、児童書を企画編集後、(株)音元出版に入社、1990年『AV REVIEW』編集長、1998年には日本初にして現在も唯一の定期刊行ホームシアター専門誌『ホームシアターファイル』を刊行した。ホームシアターのオーソリティとして講演多数2006年に評論家に転身。趣味はウィーン、ミラノなど海外都市訪問をふくむコンサート鑑賞、アスレチックジム、ボルドーワイン。