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公開日 2008/10/01 20:40
<折原一也のCEATEC2008レポート>超解像にDRC、iShadow − 各社の高解像化技術を見比べる
昨日より千葉の幕張メッセで開催されているCEATEC JAPAN 2008。今年も会場では、高画質化・超薄型化で進化を続ける薄型テレビの展示を見ることができた。昨年までの薄型テレビの展示では1,920×1,080ドットのフルHD対応と液晶の倍速駆動を全面に押し出したものが多かったが、今年は各社がこれらに対応したことで、解像度や倍速に関しては一段落した感もある。
そこで今回は、各社が取り組む画質の「高解像化」技術に注目して、出展していた各社の展示内容と簡単なインプッションをお届けしよう。
●地デジの映像を高精細に作り替える東芝の「超解像」技術
この秋の「高解像度化」技術の先駆けとなったのが、東芝REGZAシリーズが搭載する「超解像」技術だ。同社展示ブースでは、2009年秋発売のCell TVの超解像技術も紹介されていた。
超解像処理についての詳しい技術解説はREGZA発表会の記事で確認して欲しいが、入力映像を1,920×1,080のフルHD映像に変換するアップスケーリングで高画質化を行う。このため対象となるソースはDVD(720×480)や地デジ(1,440×1,080)が対象となり、最初から1,920×1,080の映像は対象としない。
実際の処理はフレーム内処理のみでなく前後のフレームを比較も含めて行う。また、「超解像」の処理は複数回実行することで画質を向上させることができ、現行のREGZAは1回のみで処理しているが、Cell TVではリアルタイムと呼べるほどの速度で、3回処理を行うようなことも可能となる。また、番組をひと寝かせて、「超解像」を何度もかけて高画質化しておく「熟成」も可能と、この秋発売のREGZAに搭載する機能をさらに推し進めたものとなる。
Cell TVの超解像のクオリティは、デモ映像のみの視聴だったので厳密な比較ではないものの、1,440のソースらしからぬキメ細かさがあり、地デジとは思えないクオリティを感じることが出来た。すぐ近くのREGZAによる画質デモでは、芝目のキメ細かさといい、建物の立体感といい、東芝らしいメリハリのある精細な映像を見せてくれた。
なお、今回展示していたCell TVデモ機は、地デジ6チューナー搭載の試作モデル。実際の製品は、来年秋にCellの微細プロセス版を搭載して発売される見込みで、ハイエンド製品から展開する計画だ。HDD容量は「2TBにするか5TBにするか、まだまだ考えている最中」(説明員)というほどなので、夢のあるモデルとして期待したい。
また同社ブース内では、DVDレコーダーのVARDIAで搭載するXDE技術のデモも実施されていた。「超解像度」と「XDE」は別の技術で、XDEはエッジやディテールのエンハンスを中心とした技術。アップスケーリングなしでも使用できる。「レコーダーとして高画質な技術を選択した」(説明員)とのこと。
●SDのボケた映像をクッキリさせる日立の「高度映像処理技術」
日立のブースでは、同社の液晶・プラズマテレビWoooのラインナップと合わせて、同社独自の超解像技術を、シミュレーションによるデモ映像で紹介していた。
同社の超解像技術は、主にSDの映像を高解像度の1080pに作り替える技術だ。高解像度化は1フレームの映像内だけで処理する。適応される映像は、VHSやDVDプレーヤーなどから入力した古い映像はもちろん、デジタル放送のドラマ再放送などでよく見られる、HD解像度にアップコンバートされたSDソースも自動的に検出し、高解像度化を行うことができる。またHD収録の映像に対しても、カメラのボケているシーンなどをクッキリさせる効果が得られる。ただし「背景まですべてクッキリさせてしまうと遠近感までなくなってしまうので、画面の解析によって適応的に効かせる」(説明員)ということなので、基本的にはSDの映像向けと考えて良い。
デモ映像は、腕時計のアップや織物など、SD映像では大画面表示が厳しいようなソースだが、「高度映像処理技術」の適用後は、たしかにHDとして通じるほどの立体感ある映像になる。イメージとしては、SDからのアップコンバート映像から、特有のぼやけ感を徹底して排除したような映像で、やや柔らかなHD映像、といった印象だ。アナログ放送のVHSなどでも効果があることを考えると、なかなか有用な技術となりそうだ。
なお同技術は、現在はシミュレーション段階とのことで、これからLSIを起こしてチップ化し、リアルタイム処理出来る状態にしてから製品に組み込んでいく予定だ。
●1080pの映像も自分好みに高画質化できるソニーの「DRC-MF v3」
映像を高精細化する技術としては、ソニーの液晶テレビBRAVIA、BDレコーダーに搭載された「DRC-MF v3」も忘れてはならないだろう。ソニーブースでも、BRAVIA、BDレコーダーの両コーナーで実機デモを実施していた。
「DRC-MF v3」は、ソニーが以前から推進してきた解像度創造技術“DRC(デジタル・リアリティ・クリエーション)”の最新版。従来からSDからHDへのアップコンバート、さらには1080iから1080pへの変換に実力を発揮してきた技術だが、最新版では新たに動画解像度の向上というポイントに取り組んでいる。地上デジタル放送などでよく見られる、不自然なザワ付きを押さえる処理を加えることで、よりクッキリとした映像表示を可能とした。
実際の会場デモでは、桜と森を撮影したゆっくりパンする映像で、地上デジタル放送のノイズ感を上手く抑えていると感じた。BDレコーダーのコーナーでは「昨年の製品をご購入いただいた方には申し訳ないのですが…」(説明員)と言いながら、2007年冬発売のフラグシップ「BDZ-X90」と今秋発売の「BDZ-X100」の同一ソースによる比較デモを実施。教会内部を映した紀行番組のゆったりとスクロールする映像を上映しており、シャッキリとした映像を、さらに的確に補正する効果が確認できた。
また「DRC-MF v3」では新たに1080p映像のさらなる高画質化にも対応しており、BDソフトの映像も全体に先鋭感を増し、人物が浮き出るような立体感ある映像になることも注目したいポイントだ。
●視覚特性を利用して高精細化するビクター「iShadow」
国内ではテレビ販売を大幅に縮小してしまった日本ビクターのブースでも、テレビ向けの最新技術をいくつか見ることができた。
まず、映像回路「GENESSA PREMIUM II」の機能として「iShadow」の技術デモを実施。同技術は人間の視覚特性を利用した高精細化技術で、映像をオブジェクト単位で認識して処理をすることで精細感、コントラスト感を向上させる。技術の詳しい内容は非公開ながら、フレーム内で完結する処理で、映像のエンハンス処理などは行っていないとのこと。
デモ映像は鶴の舞う湖を映した自然映像であったが、コントラスト感をやや大きく取ってメリハリを付け、立体的で奥行き感ある映像に調整しているように感じられた。なお、同技術は2009年には欧州向けのテレビに搭載される予定。国内はプロジェクターへの搭載なども含めて未定とのこと。
以上のように、各社の高精細化技術に注目して見てみると、一言で高精細化と言っても各社でアプローチが異なることが改めて分かった。1,440×1,080から1,920×1,080へのアップスケーリングする東芝REGZA、SD映像に注力する日立、1080pからの更なる高画質化に加えて地デジの弱点解消もするソニー、人間の視覚特性を利用して高精細さを出すビクターと、どれも十分な成果を挙げている。また同時に、現在のデジタル放送の映像には、まだまだクオリティ向上の余地があるということも実感させられた。
(折原一也)
執筆者プロフィール
埼玉県出身。コンピューター系出版社編集職を経た後、フリーライターとして雑誌・ムック等に寄稿し、現在はデジタル家電をはじめとするAVに活動フィールドを移す。PCテクノロジーをベースとしたデジタル機器に精通し、AV/PCを問わず実用性を追求しながら両者を使い分ける実践派。
そこで今回は、各社が取り組む画質の「高解像化」技術に注目して、出展していた各社の展示内容と簡単なインプッションをお届けしよう。
●地デジの映像を高精細に作り替える東芝の「超解像」技術
この秋の「高解像度化」技術の先駆けとなったのが、東芝REGZAシリーズが搭載する「超解像」技術だ。同社展示ブースでは、2009年秋発売のCell TVの超解像技術も紹介されていた。
超解像処理についての詳しい技術解説はREGZA発表会の記事で確認して欲しいが、入力映像を1,920×1,080のフルHD映像に変換するアップスケーリングで高画質化を行う。このため対象となるソースはDVD(720×480)や地デジ(1,440×1,080)が対象となり、最初から1,920×1,080の映像は対象としない。
実際の処理はフレーム内処理のみでなく前後のフレームを比較も含めて行う。また、「超解像」の処理は複数回実行することで画質を向上させることができ、現行のREGZAは1回のみで処理しているが、Cell TVではリアルタイムと呼べるほどの速度で、3回処理を行うようなことも可能となる。また、番組をひと寝かせて、「超解像」を何度もかけて高画質化しておく「熟成」も可能と、この秋発売のREGZAに搭載する機能をさらに推し進めたものとなる。
Cell TVの超解像のクオリティは、デモ映像のみの視聴だったので厳密な比較ではないものの、1,440のソースらしからぬキメ細かさがあり、地デジとは思えないクオリティを感じることが出来た。すぐ近くのREGZAによる画質デモでは、芝目のキメ細かさといい、建物の立体感といい、東芝らしいメリハリのある精細な映像を見せてくれた。
なお、今回展示していたCell TVデモ機は、地デジ6チューナー搭載の試作モデル。実際の製品は、来年秋にCellの微細プロセス版を搭載して発売される見込みで、ハイエンド製品から展開する計画だ。HDD容量は「2TBにするか5TBにするか、まだまだ考えている最中」(説明員)というほどなので、夢のあるモデルとして期待したい。
また同社ブース内では、DVDレコーダーのVARDIAで搭載するXDE技術のデモも実施されていた。「超解像度」と「XDE」は別の技術で、XDEはエッジやディテールのエンハンスを中心とした技術。アップスケーリングなしでも使用できる。「レコーダーとして高画質な技術を選択した」(説明員)とのこと。
●SDのボケた映像をクッキリさせる日立の「高度映像処理技術」
日立のブースでは、同社の液晶・プラズマテレビWoooのラインナップと合わせて、同社独自の超解像技術を、シミュレーションによるデモ映像で紹介していた。
同社の超解像技術は、主にSDの映像を高解像度の1080pに作り替える技術だ。高解像度化は1フレームの映像内だけで処理する。適応される映像は、VHSやDVDプレーヤーなどから入力した古い映像はもちろん、デジタル放送のドラマ再放送などでよく見られる、HD解像度にアップコンバートされたSDソースも自動的に検出し、高解像度化を行うことができる。またHD収録の映像に対しても、カメラのボケているシーンなどをクッキリさせる効果が得られる。ただし「背景まですべてクッキリさせてしまうと遠近感までなくなってしまうので、画面の解析によって適応的に効かせる」(説明員)ということなので、基本的にはSDの映像向けと考えて良い。
デモ映像は、腕時計のアップや織物など、SD映像では大画面表示が厳しいようなソースだが、「高度映像処理技術」の適用後は、たしかにHDとして通じるほどの立体感ある映像になる。イメージとしては、SDからのアップコンバート映像から、特有のぼやけ感を徹底して排除したような映像で、やや柔らかなHD映像、といった印象だ。アナログ放送のVHSなどでも効果があることを考えると、なかなか有用な技術となりそうだ。
なお同技術は、現在はシミュレーション段階とのことで、これからLSIを起こしてチップ化し、リアルタイム処理出来る状態にしてから製品に組み込んでいく予定だ。
●1080pの映像も自分好みに高画質化できるソニーの「DRC-MF v3」
映像を高精細化する技術としては、ソニーの液晶テレビBRAVIA、BDレコーダーに搭載された「DRC-MF v3」も忘れてはならないだろう。ソニーブースでも、BRAVIA、BDレコーダーの両コーナーで実機デモを実施していた。
「DRC-MF v3」は、ソニーが以前から推進してきた解像度創造技術“DRC(デジタル・リアリティ・クリエーション)”の最新版。従来からSDからHDへのアップコンバート、さらには1080iから1080pへの変換に実力を発揮してきた技術だが、最新版では新たに動画解像度の向上というポイントに取り組んでいる。地上デジタル放送などでよく見られる、不自然なザワ付きを押さえる処理を加えることで、よりクッキリとした映像表示を可能とした。
実際の会場デモでは、桜と森を撮影したゆっくりパンする映像で、地上デジタル放送のノイズ感を上手く抑えていると感じた。BDレコーダーのコーナーでは「昨年の製品をご購入いただいた方には申し訳ないのですが…」(説明員)と言いながら、2007年冬発売のフラグシップ「BDZ-X90」と今秋発売の「BDZ-X100」の同一ソースによる比較デモを実施。教会内部を映した紀行番組のゆったりとスクロールする映像を上映しており、シャッキリとした映像を、さらに的確に補正する効果が確認できた。
また「DRC-MF v3」では新たに1080p映像のさらなる高画質化にも対応しており、BDソフトの映像も全体に先鋭感を増し、人物が浮き出るような立体感ある映像になることも注目したいポイントだ。
●視覚特性を利用して高精細化するビクター「iShadow」
国内ではテレビ販売を大幅に縮小してしまった日本ビクターのブースでも、テレビ向けの最新技術をいくつか見ることができた。
まず、映像回路「GENESSA PREMIUM II」の機能として「iShadow」の技術デモを実施。同技術は人間の視覚特性を利用した高精細化技術で、映像をオブジェクト単位で認識して処理をすることで精細感、コントラスト感を向上させる。技術の詳しい内容は非公開ながら、フレーム内で完結する処理で、映像のエンハンス処理などは行っていないとのこと。
デモ映像は鶴の舞う湖を映した自然映像であったが、コントラスト感をやや大きく取ってメリハリを付け、立体的で奥行き感ある映像に調整しているように感じられた。なお、同技術は2009年には欧州向けのテレビに搭載される予定。国内はプロジェクターへの搭載なども含めて未定とのこと。
以上のように、各社の高精細化技術に注目して見てみると、一言で高精細化と言っても各社でアプローチが異なることが改めて分かった。1,440×1,080から1,920×1,080へのアップスケーリングする東芝REGZA、SD映像に注力する日立、1080pからの更なる高画質化に加えて地デジの弱点解消もするソニー、人間の視覚特性を利用して高精細さを出すビクターと、どれも十分な成果を挙げている。また同時に、現在のデジタル放送の映像には、まだまだクオリティ向上の余地があるということも実感させられた。
(折原一也)
執筆者プロフィール
埼玉県出身。コンピューター系出版社編集職を経た後、フリーライターとして雑誌・ムック等に寄稿し、現在はデジタル家電をはじめとするAVに活動フィールドを移す。PCテクノロジーをベースとしたデジタル機器に精通し、AV/PCを問わず実用性を追求しながら両者を使い分ける実践派。