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公開日 2010/10/01 19:36

「田園の中の研究所」テクニカフクイの新社屋が竣工

3事業所を統合し開発力も強化
ファイル・ウェブ編集部
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オーディオテクニカ(本社・東京町田市、代表取締役社長・松下和雄)の子会社で、同社グループの主要開発生産拠点であるテクニカフクイ(本社・福井県越前市)は、創立40周年にあたる2010年10月1日、強力な開発インフラを整備した新社屋を、福井県越前市に竣工した。

越前市郊外に広がるのどかな田園風景に溶け込む穏やかな表情の外観。建物の後には三里山が控えている

テクニカフクイが本拠を構える福井県越前市は、オーディオテクニカ創業者・松下秀雄氏の出身地。なおテクニカフクイの従業員数は190名で、内訳は生産部門100名、開発部門60名、管理部門30名。

■福井県内の3事業所を統合したねらいとは


オーディオテクニカ代表取締役でテクニカフクイの代表取締役も兼務する松下和雄氏
オーディオテクニカの代表取締役社長であるとともにテクニカフクイの代表取締役社長も務める松下和雄氏は、新社屋竣工記念パーティーの席上で次のように語った。

「新社屋増築の設計・施工にあたった竹中工務店には、優れた設計技術、優れた施工技術をもとに大変近代的な素晴らしい地元に密着した田園の中の研究所というテーマに沿って素晴らしい建物ができたことを誇りに思い、感謝します。特に今年の冬は寒く、雪も多かったので作業される方、また、夏は9月まで酷暑が続いて大変ご苦労されたと思いますが、日程通り、大変立派に、また、無事故で竣工できたことは喜びにたえません。テクニカフクイはこちらで創業してから今年で40周年目を迎えますが、これからも社会に役立つ商品を次々と開発して、お客様に喜んでいただけるような商品を提供し、また、社員も新しい社屋で明るくいきいきと働けるように努力してまいります」。

テクニカフクイでは従来、福井県内に3か所の事業所を展開してきた。武生事業所は全体の事業統括と光ピックディスクアップの開発・生産を、池田事業所はレコードプレーヤー用カートリッジとレーザー墨出器の開発・生産を、清水事業所はワイヤレスマイクロホンの開発・生産を行っているが、新社屋の完成により、これらを1ヵ所に統合。事業運営の効率化と開発のスピードアップを図る。


テクニカフクイ常務取締役 林保彦氏
テクニカフクイの常務取締役で、事業運営を切り盛りする林保彦氏は「製品のデジタル化や複合化によって、メカ、電気回路、ソフトウェアのエンジニアが共同で作業することが重要になってきていること、また、3つの事業所にそれぞれ配置されていたバイヤー機能、品質管理機能、生産技術機能などを一箇所に統合することによって、製品開発の向上とスピードアップ、事業運営の効率化を図ることができます」と3事業所統合の狙いを語った。

今回の新社屋の完成と事業所の統合に加えて、技術系社員の増員・増強も図っていきたいとのこと。「デジタルワイヤレス、コードレス」をキーワードに、高性能な次世代製品の効率的な開発生産を行う体制作りをさらに強化する。

■コンセプトは「田園の中の研究所」

新社屋の建設にあたってのキーコンセプトは「田園の中の研究所」。これに、「デジタルワイヤレス商品の開発をさらに強化するための電波暗室と無響室の新設」「将来の拡張性と脈々と受け継がれてきた記憶の継承の共存」「豊かな室内環境と環境負荷の低減」「敷地の高低差を利用したスキップフロアの採用などによるひとつながりの立体的な空間」を加え、5つの大きな特徴を備えている。

新社屋の建設地は福井県越前市戸谷町で、従来、武生事業所が置かれていた場所の隣接地。3事業所の統合と新社屋の建設は3年前の2007年に着想され、2009年9月に着工、2010年10月1日に竣工した。

新社屋は地上2階、地下1階構造で、建築面積は2,240m²、建延床面積は3,720m²。1階に事務管理部門とマイク、ミキサー、ヘッドホン、ワイヤレスマイク、光ピックアップの生産部門を配置し、2階にマイク、ヘッドホン、光ディスクピックアップなどを担当する技術部門、商品企画部門に加えて中期的な開発企画を行う部署が配置されている。

新社屋の設計・施工は竹中工務店。松下社長の言葉にもあるように、新社屋のコンセプト「田園の中の研究所」にふさわしく、外観は田園風景が広がる建設地の周囲の環境に違和感なく調和するよう穏やかな表情ながら、直線とガラスを組み合わせ、あたかも美術館の外観を思わせるような近代的な造形となっている。

美術館を思わせるような瀟洒でモダンな外観

内部に入ると、開放的で明るくモダンな空間が目をひく。新社屋の中心には「水盤」が配置されており、その水盤に面した周囲の建築物の壁は、全面ガラスで構成されている。建物の内部に十分に光を取り込むことで、明るく開放感あふれる内部空間を構成するとともに、刻々と変化する光や雲がガラスに映り込み、あたかも美術館の中に入り込んだような錯覚に陥いる。

正面玄関を入るといきなり目に飛び込んでくるのがこの風景。正面には水盤、その上は穏やかな光を事務所に注ぎ込む空。水盤を取り囲む形で建物があり、水盤側の壁はガラスで構成されている

周囲に面した窓を小さくして外からの強い光を抑える一方、内側の窓を大きくすることによって、明るく開放的な空間を演出している。「美術館も外からの光が入らないようにして、光は中から取り込むようにしています。そういう意味では美術館の作りに似ているかもしれませんね。建物そのもののデザインもありますが、社屋の周囲の風景にもずいぶん助けられているように思います」と松下社長は解説する。

社屋の内部は明るく開放的な空間が広がる。会議スペースの右側にオフィス、左側には、建物に取り囲まれた水盤があり、やわらかく明るい光が事務所内に取り込まれる

建物の内部に設置されたメッセージコーナーの風景。建物の内部には、彫刻やポスターなどがさりげなく配置され、心豊かな空間になるよう配慮されている

■開発インフラを大幅強化し効率を高める

テクニカフクイでは開発主体型の企業への転身に取り組んでおり、今回の新社屋建設によって開発インフラを充実させるとともに、今後、商品開発スタッフの増強も図る。

開発インフラの大幅強化に向けた姿勢が象徴的に示されているのが、電波暗室と試聴室だ。

従来、同社には電波暗室がなく、必要に応じて外部のラボ等を利用してきた。これを今回、使いたい時にいつでも使える自前の設備を新社屋内に設定することによって、開発作業の効率が飛躍的に高まる。

新社屋に設置された電波暗室。10m法に対応するとともに、高速測定も可能で、テクニカフクイの今後の商品開発の大きな支援ツールとしての役割を担う

また、一般的な電波暗室では3m法に対応するものが多いが、今回テクニカフクイが作った電波暗室は10m法にも対応するとともに、測定時間も最大で従来の8倍程度に高速化。対応周波数帯域は、現時点では18GHzまでとなっているが、将来に備えて26.5GHzまで対応可能な測定用テストレシーバーを導入している。

この電波暗室の広さは、20.5m x 12.3m、高さ9mと大規模なものとなっている。

林常務は「この電波暗室は、われわれの今後を示す重要なメッセージを持たせています。世界各国でデジタル化の波がますます強くなっていますが、それぞれの国によって電波に関する規制が異なります。これに効率的に対応するために、自前の開発インフラを持ちたいという強い要求が技術部門にありました。そこで新社屋の建設にあたって電波暗室を備えることにしましたが、どうせ作るなら将来を考えた充実したものにしなさいという指示を受けて、10m法に対応しました。デジタルワイヤレス製品の開発生産を推進する当社にとって、開発段階でいつでも、何度も実験を繰り返せる設備は不可欠です。電波暗室を持ったことによって、今後、開発効率の大幅な向上が期待できます」と語る。

また、無響室はオーディオテクニカグループの開発拠点である成瀬事業所、audio-technica U.S. Inc.(アメリカ)に設置されている無響室とほぼ同じ仕様となっており、グループの開発拠点が同じ環境で製品特性を測定できるように工夫されている。

東京・町田にあるオーディオテクニカ本社や米国、台湾など、オーディオテクニカグループの他の開発拠点と共通の仕様で作られており、それぞれの無響室でとられたデータをグループ全体で共有化が図られている

■激動の時代を乗り越えたテクニカフクイはさらなる発展へ

テクニカフクイは、1970年10月に、福井県武生市(現、越前市)にオーディオテクニカ福井事業所として発足し、磁気ヘッドやカートリッジの生産を開始。1973年1月にオーディオテクニカフクイとして独立した。国内のオーディオ市場が急成長する中、武生工場だけでは生産が追い付かず、創業3年目に福井県今立郡池田朝に池田工場を立ち上げた。

さらに、その10年後の1983年10月には、福井県丹生郡清水町にマイクロホンの一貫生産来を備えた清水工場を立ち上げるなど当初の10数年間は順調に推移した同社だったが、1982年にCDプレーヤーが登場したことによって、同社の経営環境は一変した。

オーディオテクニカグループでは最盛期には世界のカートリッジ市場の約70%もの巨大なマーケットシェアを誇っていただけに、アナログレコードからCDへのメディアチェンジによる影響は甚大で、オーディオテクニカグループの主要生産開発拠点だったテクニカフクイの経営基盤を直撃した。

その時にオーディオテクニカグループが、カートリッジに代わる事業の大きな柱として位置づけたのが、かつて同社の中核事業であったカートリッジの市場を激減させたCDプレーヤーの基幹部品としての光ピックアップ事業。グループ全体の中で、その開発・生産面での拠点事業所としての役割を担ったのがテクニカフクイの武生事業所だった。

ディスクから信号を読み取るという点では、アナログレコード用カートリッジも光ディスク用ピックアップも同じだが、それを作るための技術や生産設備は全く異なる。技術者の育成からスタートし、幾多の苦労を乗り越えながら事業化に成功し、今や光ディスクピックアップの主要メーカーとしての地位を確立している。

東京都町田のオーディオテクニカの成瀬事業所と並ぶ、オーディオテクニカグループの主要な開発・生産の主要拠点として、光ディスク用ピックアップやワイヤレスヘッドホンなどグループ全体としての基幹事業の開発・生産面を支えているテクニカフクイ。新社屋の竣工と3つの事業所の統合によって、さらなる発展の道を歩み始める。


AT33PTG/II
なお、11月21日に発売されるMC型ステレオカートリッジ「AT33PTG/II」は、この新制テクニカフクイから送り出される第一弾製品となる。創立35周年を記念して作られた「AT33PTG」のリニューアルモデルとなる本製品。テクニカフクイ、そしてオーディオテクニカの今後の更なる躍進を指し示す製品として期待される。

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