HOME > ニュース > AV&ホームシアターニュース
公開日 2014/09/05 00:09
<IFA>ソニー平井CEO一問一答。平井氏が語るハイレゾ/テクニクス復活/ウェアラブル/テレビ事業/PS4戦略
「好奇心を刺激して感動を届ける」
IFA2014のプレイベント開催2日目となる9月4日、ソニーの平井一夫社長による日本のジャーナリストを対象としたラウンドテーブルが開催された。今回のIFAで発表された製品やサービスによって「感動」を生み出す事業戦略の詳細が語られた。
冒頭、平井氏は「私がソニーのCEOになって以来、好奇心を刺激して感動を届けるというフィロソフィーに可能な限り沿った商品展開を心がけてきた。今回のIFAでは理想に近い商品群を紹介できたと実感している」と述べ、今年の出展内容への手応えを強調した。
以下、Q&A形式で実施されたラウンドテーブルの内容を紹介する。なお、会場にはソニー・ヨーロッパの玉川勝社長も出席し、ヨーロッパでの事業戦略を中心に記者の質問に回答した。
ー カンファレンスでは、高品位での差異化路線商品がユーザーに伝わりつつあるというコメントがあった。そのような「体験重視型」の商品群が、ソニー全体での成功事例としてどのような成果を築きつつあるのか。
平井氏:直近で言えば、インタラクティブエンターテインメントを提案するPS4が1,000万台を超えてユーザーに受け入れられた。昨年のIFAで発表したデジタルカメラの「QXシリーズ」は今年も新製品を追加し、牽引車となっている。ハイレゾ製品群も徹底的に注力しているが、これも功を奏している。ハイレゾについては特に日本とアジアを中心に盛り上がりをみせていると感じている。デジタルイメージングのカテゴリーは、ローエンドモデルがスマートフォンに取って代わられつつあることは確かだが、撮影クオリティという軸で考えれば「α7s」をはじめミラーレスカメラが受け入れられている。これらは開発者の努力の成果だと思う。
玉川氏:欧州では12年度から13年度までに、テレビの販売台数が全サイズで約7割増えた。基本的に50インチクラスの2Kテレビが貢献しているが、4Kテレビについてはこれから形作られる市場の中でシェアを拡大していく。
ー 昨年発表したハイレゾがヒットし、インパクトを与えた。今はポータブルに注力していると思うが、これからの商品展開はどうするのか。パナソニックが発表したテクニクスブランドの復活をどう捉えているか。
平井氏:今年はポータブルに注力したが、全体のラインナップとしては家庭用据え置き型のハイエンドから普及型まで幅広い商品展開ができている。ただ、これまで一つご指摘があったとするならば、普及価格帯のウォークマンが欲しいと言われていた。そこで今回、新製品の「NW-A15」を発表した。ポータブルヘッドホンアンプの「PHA-2」もかなり好評を得てきたモデルだが、このカテゴリーについては、これも当社の商品企画担当が「まだまだやることがある」といって、バランス駆動という新しいアプローチから「PHA-3AC」を開発してくれた。現在では、ポータブルで徹底したこだわりを盛り込みながら、ものづくりができる体制が整った。担当者の熱心な取り組みにより、ポータブルでもここまで感動していただける商品を作ることができたので、私も徹底的に追求して欲しいと伝えた。
パナソニックのテクニクスブランドについては、ある意味ではオーディオの原点を追求してきたソニーの取り組みに近いものを感じる。パナソニックが長年培ってきた技術の原点に戻って訴求することを選択したものだと思う。業界的にはオーディオは停滞していると言われて久しいが、実は新しい音楽の楽しみ方を提供するという点で、市場にはまだ成長性があると私は思っている。
− フラグシップスマートフォンのXperia Z3を発表したが、競合に対する強みはどこにあるのか。PS4リモートプレイがキラーになるのか。スマートフォンのカメラ機能がこれほど進化してしまうと、コンデジを浸食することはないか。
平井氏:PS4リモートプレイは、Xperiaシリーズにエクスクルーシブで搭載される機能。欧米の市場においてキャリアの皆様がXperiaを採用いただき、ひいてはお客様にアピールできる一つの強いポイントにはなると思う。ほかにも本体の基本性能やアプリも差別化のキー要素になると思う。
コンデジカメラとのカニバリについては、まさしく世界的な傾向として起こっている問題だと思う。しかし、その世の中の傾向に逆らってばかりでも意味はない。私がソニーの社長になってから、積極的にありとあらゆる技術をスマホへと積極的に投入してきた。これによって、自信を持ってお客様に届けられるスマホを作るという決意を持って進めてきた。結果としてサイバーショットが売れなくなってしまうかもしれないが、そのお客様がXperiaにシフトしてくれたら、ソニーとしては成功と言える。これは他社にはない強みとして、これからも強調していきたい。デジタルカメラそのものにも、RXシリーズをはじめ、スマホでは体験できない高画質撮影の領域にシフトした商品がある。ほかにも“レンズスタイルカメラ”のように新感覚の体験に振った商品も盛り上げていきながら、全体のビジネスバランスを整えていく。
ー Androidのプラットフォームをテレビに採用して高付加価値化を狙っていく考えはあるのか。
平井氏:一つの大きな可能性としては考えている。コネクティビティ、アプリを含めて1社が単独でやるよりも可能性は広がるだろう。
ー ウォークマンAとXperia Z3がハイレゾに対応したが、今後ハイレゾ製品は高付加価値商品として位置づけるのか、それとも全商品に搭載していくのか。欧州市場では、今後どのようにハイレゾがアピールできると考えているか。
平井氏:これからのハイレゾの普及の仕方という観点では、最終的には普及価格帯に展開していくものだと思っているし、そういう日も来るだろう。でもやはりそこで注意すべきは、お客様に評価されている素晴らしい音質のソフトやハードがあるので、価格が下がっていった中で、スペック的にはハイレゾでも安かろう悪かろうで良いだろうと業界全体がなってしまうと、価値がなくなってしまう。お客様の体験軸を大事にして、業界としてビジネスの種となっているハイレゾを大事に育てることがすごく重要だと思う。一例として、ハイレゾのロゴは各社がバラバラにやっているが、ソニーがつくったハイレゾのロゴを無償でライセンスするので、使って欲しいという提案をした。なるべく統一感を演出することも大事に育てるためのアクティビティの一環だと思っている。
玉川氏:欧州はハイレゾという意味では出遅れていると言われているが、高級Hi-Fiでは大きな市場がある。一方で、ハイレゾの普及にはソフトを普及させることも重要。QUOBZのダウンロードサービスも9カ国から広げる。ソニーミュージックからもハイレゾ対応のソフトを増やしていくことで、ハードとソフトの両面から市場が広げられると思っている。
ー ヨーロッパ市場向けの曲面液晶テレビを発表したが、これは先行メーカーが既に展開しているカテゴリーだ。ソニーの他社に対する優位性はどこにあるのか。また、有機ELテレビはもう開発をやめたのか。
平井氏:有機ELについては合弁会社で製造も含めて今後も展開していく。弊社の技術を投入して他社と一緒にオールジャパンで勝つための仕組みを整えた。またメディカルや放送局では既にソニーの有機ELを商品化しているので、これらを継続的に提供していきたいと考えている。技術が確立しても、製造をどうするという話もある。製造コストと技術面で優位性のある有機ELパネルができて、価格と性能、画質を含めてバランスの取れる商品がお客様に届けられるならテレビという商品形態も考えられるだろう。ただし、最近では液晶の画質が上がっているので、有機ELがどこで差異化できるデバイスかを見極めなければならない。有機ELである理由が明言できるものが作れるなら出していく。
曲面液晶については、パネルの形状にかかわらず4Kの優位性は「画質」が勝負。クオリティについては主観的な好みもあるかもしれないが、こだわりやバックグラウンドの技術はソニーとして自信を持って出せる商品を持っているという自負がある。音質も追求していくというところも含めて差異化が大事だ。
− カンファレンスの中で、少し先の将来に展開する商品として有望と思われるものを作っていくという話があったが、そういった商品の市場性やビジネス性をどう考えているのか。ソニー全体としてウェアラブル性の高い商品をどのように位置づけ、どのような製品をいつ頃展開するのか。
平井氏:ウェアラブル市場はかなり可能性の高い市場だとみている。2014年は20億ドル、4年後には200億ドルぐらいまで行くという予測も一部では出ている。ソニーも商品を展開していくが、何しろウェアラブルは「不動産ビジネス」。人間の腕は2つしかないし、顔にかけるメガネは一つだけ。逆に成功して一等地を確保すれば、良いビジネスができる何がお客様にヒットするかが見えていない段階であれば、色々な商品のトライアルの時期だと捉えている。今回はスマートウォッチとスマートバンドという2つの製品を発売するが、機能や大きさ、見え方、バッテリーライフなどがそれぞれに異なるフィールドで各社が切磋琢磨していくことになると思っている。その中から勝者は出てくるだろうが、何がコンシューマーに受け入れられるのか、見えてくるのはこれからだろう。
もう一つは、一口にウェアラブルと言っても、手首に付けるウォッチ型の端末はそれなりのデザインであれば良いが、グラス型はデザインが非常に大事。SmartEyeglassについて言うと、CESに展示した前のモデルはデザインが良くなかった。当社の開発者たちには常々「あなたが自信をもって、満員の山の手線で身に付けられるデザインまで完成度を高められるかが勝負」と伝えている。ウェアラブルは機能性も大事だが、ファッション性も考えなければならないカテゴリー。ソニーとしては、デザインの部分はその道のエキスパートとコラボレーションしていくことも今後大事だと考えている。
ー ソニーとして、SIMロックフリーの端末を出す計画はあるか。またデジカメにSIMカードを入れたり、他のソニー製品にSIMを入れる予定はあるか。
平井氏:当然議論としてはある。実際そういうものを出すかは市場性やニーズを見ながら判断したい。絶対にないということはない。
ー スマートフォンの差異化に向けて、同じOSやデバイスを共有する中で差別化をどう考えているか。スマートフォンの商品カテゴリーについても同じ問題をどう解決していくのか。
平井氏:同じAndroidを使っても、OS依存ではない部分での差異化はまだできると思っている。例えばソニーで言うならばコンテンツの部分。スマホやタブレットが普及すればコンテンツに対する期待と価値が比例して上がっていく。そこはソニーグループにとって新しい収入源になるし、戦略的な強みにもなるはずだ。
ー PS4が世界販売台数1,000万台を突破したが、これがマクロ的にはゲーム業界をどのように変えいくものなのか。1,000万台達成は想定していたものなのか。
平井氏:PS4を発売する前には、家庭用のゲームコンソールはもう不要という議論もあった。それは決して否定しない。スマホとタブレットでゲームを楽しむ方も大勢いるが、そこでは得られないゲーム体験について徹底敵に議論をしたときに、高画質であったり大画面で楽しむ意義などは確かにある。またソーシャルに展開できるプラットフォームとして、ゲームが非常に高く評価されている部分もあるだろう。家庭用のコンソールだからこそ体験できる、厚みのあるゲームプレイが提案できると思う。とはいえ、やはり「楽しいゲーム」が揃うことが何と言っても一番大事であることは確かだ。
今後さらに台数を伸ばす戦略としては、アメリカでスタートしたクラウド型のゲームサービス「PlayStation Now」がひとつある。PS4に関連する新しい試みを次々と投入することで「ゲーム+α」を実現していきたい。1,000万台達成は、当初「ここまで到達できたらすごい」と考えていた数字の上の方には来ているが、これはやってみないとわからないものだ。日本市場はもう少し頑張った方が良いが、リアクションは上々だと思う。今後、お客様にハマる提案という意味ではソーシャルがキーになってくると考えている。
− ゲーム機がここまで順調に売れてきたことは確かだが、今の感触として、この後も順調に伸びていくと見ているのか、それとも今付いているお客様にサービスを次々と提供しながら、かなり加速させなければいけない段階と考えているのか。
平井氏:PlayStationのプラットフォームは毎回そうだが、まずはゲーマーの方に評価していただくプラットフォームを作る必要があると考えている。そこは達成できたと思う。これから大事になることは、いかにグレーなユーザー、ライトなユーザーにアピールできるサービスを充実させると同時に、最初からサポートいただいているコアなお客様に提供していくバランスを上手に保つというところだと思っている。初代PSの頃から基本的に考え方は同じだ。
ー モバイルは1Qで下方修正を発表したが、今回発表の新機種で挽回していくことができるのか。またエレキの事業分野はどうしていくのか。
平井氏:ソニーモバイルのビジネスは下方修正を発表した。全体的に市場そのものは伸びているが、現実的な数字を見て台数を下方修正した。年初には今年度での大体の予測数値も発表したが、その際にもお伝えした通り、市場の現実的な動きを見ながら柔軟に対応していくことが大事。エレキの分野はソニーグループとしても最終損益の数字を今のところは変えていないので、これから2Qの取り組みの中で見極めながら発表したい。現段階で上振れも、ネガティブな要素もないとみている。
ー スマートフォンの戦略はどのように見直すのか。
平井氏:これから様々な機会で説明するつもりだが、モバイルはマーケットシェアだけを追いかけるのではなく、利益体質を作っていくことを優先する。鈴木社長も含めて、ソニーモバイルのマネジメント陣とも共有している。今回は普及価格帯のXperia E3も発表したが、フラグシップのXperia Z3から派生したコンパクトモデルやタブレットなど、“ソニーらしさ”がアピールできるプレミアムモデルにウェイトを移して行く考えだ。マーケットシェアを取っていくという考えもあるだろうが、シェアばかりを追って赤字になっては元も子もない。ソニーの持っている技術的な強みを活かしながら魅力的な製品を提供することが大事だ。
− テレビ事業も下方修正されているが、テレビ事業では下期に、そして最終黒字に向けてどんなことに取り組んでいくのか。
平井氏:テレビ事業は分社化してコスト構造を見直した。必要最低限のテレビ事業を進める体制が整っている。事業単体としてはコスト構造が改善されてきている。あとは地域によって販社の構造を見直し、必要ならばもう一度コストの部分にも手を入れる。アメリカでは既に販社のリストラも実行している。ほかの地域についても、全ての地域ではないが、場合によっては販社のコストを見直す必要があると思っている。ただ守りの戦略だけでは良くない。いかにして強い商品軸をつくれるかが大事であると考えている。だから曲面タイプの4Kテレビを出したり、画音質を究めていくことも引き続き進めながら、事業を強くしていきたい。
ー 当然のことかもしれないが、IFAではVAIOの発表がなかった。株式会社バイオとの今後の連携はどう形をつくっていくのか。
平井氏:ひとつは、同社の株式をソニーが引き続き5%所有しているということ。またこれもオペレーション面での話になるが、ソニーグループには14万人の社員が働いているが、社用のパソコンとして用途に合えば、なるべく今後もVAIOを持ってもらいたいと考えている。またソニー・ピクチャーズの映画作品にプロダクトプレイスメントとして、例えば主人公に持ってもらったり印象的なシーンで使いたい。社名にVAIOというブランドネームを入れて頂いたわけなので、その運用として、どの商品群にVAIOと付けるかについて柔軟に運用して頂たいと思う。ソニーが今後VAIOのブランドでPC以外の製品を作るということは絶対にないとは言えないが、一般的に考えて、社名までVAIOを使っているわけなので、私としてはなるべくサポートしたいきたいと考えている。よほどのバッティングが無い限り、バイオ社がVAIOの名前で展開する商品は応援したい。逆に言えば、当社が何かしらの製品に、VAIOという名前をマーケティング戦略抜きで付けることには余り意味がないと思う。
ー 9月1日付けの機構改革で、平井氏が自らUX・商品戦略・マーケ担当執行役を兼務することになった狙いは何か。
平井氏:社内には、お客様とのタッチポイントの一部を担う部署が色々ある。一つがグローバルセールス&マーケティング。海外の販社を含めて世界中のマーケティングを日本からオペレーションしている部門や、SONYというブランドのイメージ戦略を担当する部門などがある。今まではバラバラでやっていたが、ブランドは大事な資産であるという考えから、今後は私のもとで、一つの組織で全部レポートラインを統一して「One Sony」を実現するための機構改革だ。組織を一本化して、ブランドの見え方に寄与していこうという考え方・エンターテインメントの世界でも、SONYのブランディングもある。これらも組織的にやっていこうという戦略だ。
ー 昨年から円安の流れが進む中で、円安は日本経済に思ったほど貢献していないという見方もある。中長期的な為替の相場観をどうみているか。それをどのようにソニーの生産体制に反映させるのか。
平井氏:生産体制は海外へのシフトが既にほぼ完了しているし、中国でもドルベースで展開している。今後為替が振れたところで生産拠点を変えることは、よほどのことがない限りは有り得ない。将来にどうなるかという見方では、アベノミクスが実を結んでいけば、ある程度安定していくと見ている。全般的に見れば、例えばジオポリティクスと経済の関係はある程度分離して考えられている部分があると思う。世界情勢が経済に直結して影響を及ぼしてくるかと言えば、そういうことはないだろう。
冒頭、平井氏は「私がソニーのCEOになって以来、好奇心を刺激して感動を届けるというフィロソフィーに可能な限り沿った商品展開を心がけてきた。今回のIFAでは理想に近い商品群を紹介できたと実感している」と述べ、今年の出展内容への手応えを強調した。
以下、Q&A形式で実施されたラウンドテーブルの内容を紹介する。なお、会場にはソニー・ヨーロッパの玉川勝社長も出席し、ヨーロッパでの事業戦略を中心に記者の質問に回答した。
ー カンファレンスでは、高品位での差異化路線商品がユーザーに伝わりつつあるというコメントがあった。そのような「体験重視型」の商品群が、ソニー全体での成功事例としてどのような成果を築きつつあるのか。
平井氏:直近で言えば、インタラクティブエンターテインメントを提案するPS4が1,000万台を超えてユーザーに受け入れられた。昨年のIFAで発表したデジタルカメラの「QXシリーズ」は今年も新製品を追加し、牽引車となっている。ハイレゾ製品群も徹底的に注力しているが、これも功を奏している。ハイレゾについては特に日本とアジアを中心に盛り上がりをみせていると感じている。デジタルイメージングのカテゴリーは、ローエンドモデルがスマートフォンに取って代わられつつあることは確かだが、撮影クオリティという軸で考えれば「α7s」をはじめミラーレスカメラが受け入れられている。これらは開発者の努力の成果だと思う。
玉川氏:欧州では12年度から13年度までに、テレビの販売台数が全サイズで約7割増えた。基本的に50インチクラスの2Kテレビが貢献しているが、4Kテレビについてはこれから形作られる市場の中でシェアを拡大していく。
ー 昨年発表したハイレゾがヒットし、インパクトを与えた。今はポータブルに注力していると思うが、これからの商品展開はどうするのか。パナソニックが発表したテクニクスブランドの復活をどう捉えているか。
平井氏:今年はポータブルに注力したが、全体のラインナップとしては家庭用据え置き型のハイエンドから普及型まで幅広い商品展開ができている。ただ、これまで一つご指摘があったとするならば、普及価格帯のウォークマンが欲しいと言われていた。そこで今回、新製品の「NW-A15」を発表した。ポータブルヘッドホンアンプの「PHA-2」もかなり好評を得てきたモデルだが、このカテゴリーについては、これも当社の商品企画担当が「まだまだやることがある」といって、バランス駆動という新しいアプローチから「PHA-3AC」を開発してくれた。現在では、ポータブルで徹底したこだわりを盛り込みながら、ものづくりができる体制が整った。担当者の熱心な取り組みにより、ポータブルでもここまで感動していただける商品を作ることができたので、私も徹底的に追求して欲しいと伝えた。
パナソニックのテクニクスブランドについては、ある意味ではオーディオの原点を追求してきたソニーの取り組みに近いものを感じる。パナソニックが長年培ってきた技術の原点に戻って訴求することを選択したものだと思う。業界的にはオーディオは停滞していると言われて久しいが、実は新しい音楽の楽しみ方を提供するという点で、市場にはまだ成長性があると私は思っている。
− フラグシップスマートフォンのXperia Z3を発表したが、競合に対する強みはどこにあるのか。PS4リモートプレイがキラーになるのか。スマートフォンのカメラ機能がこれほど進化してしまうと、コンデジを浸食することはないか。
平井氏:PS4リモートプレイは、Xperiaシリーズにエクスクルーシブで搭載される機能。欧米の市場においてキャリアの皆様がXperiaを採用いただき、ひいてはお客様にアピールできる一つの強いポイントにはなると思う。ほかにも本体の基本性能やアプリも差別化のキー要素になると思う。
コンデジカメラとのカニバリについては、まさしく世界的な傾向として起こっている問題だと思う。しかし、その世の中の傾向に逆らってばかりでも意味はない。私がソニーの社長になってから、積極的にありとあらゆる技術をスマホへと積極的に投入してきた。これによって、自信を持ってお客様に届けられるスマホを作るという決意を持って進めてきた。結果としてサイバーショットが売れなくなってしまうかもしれないが、そのお客様がXperiaにシフトしてくれたら、ソニーとしては成功と言える。これは他社にはない強みとして、これからも強調していきたい。デジタルカメラそのものにも、RXシリーズをはじめ、スマホでは体験できない高画質撮影の領域にシフトした商品がある。ほかにも“レンズスタイルカメラ”のように新感覚の体験に振った商品も盛り上げていきながら、全体のビジネスバランスを整えていく。
ー Androidのプラットフォームをテレビに採用して高付加価値化を狙っていく考えはあるのか。
平井氏:一つの大きな可能性としては考えている。コネクティビティ、アプリを含めて1社が単独でやるよりも可能性は広がるだろう。
ー ウォークマンAとXperia Z3がハイレゾに対応したが、今後ハイレゾ製品は高付加価値商品として位置づけるのか、それとも全商品に搭載していくのか。欧州市場では、今後どのようにハイレゾがアピールできると考えているか。
平井氏:これからのハイレゾの普及の仕方という観点では、最終的には普及価格帯に展開していくものだと思っているし、そういう日も来るだろう。でもやはりそこで注意すべきは、お客様に評価されている素晴らしい音質のソフトやハードがあるので、価格が下がっていった中で、スペック的にはハイレゾでも安かろう悪かろうで良いだろうと業界全体がなってしまうと、価値がなくなってしまう。お客様の体験軸を大事にして、業界としてビジネスの種となっているハイレゾを大事に育てることがすごく重要だと思う。一例として、ハイレゾのロゴは各社がバラバラにやっているが、ソニーがつくったハイレゾのロゴを無償でライセンスするので、使って欲しいという提案をした。なるべく統一感を演出することも大事に育てるためのアクティビティの一環だと思っている。
玉川氏:欧州はハイレゾという意味では出遅れていると言われているが、高級Hi-Fiでは大きな市場がある。一方で、ハイレゾの普及にはソフトを普及させることも重要。QUOBZのダウンロードサービスも9カ国から広げる。ソニーミュージックからもハイレゾ対応のソフトを増やしていくことで、ハードとソフトの両面から市場が広げられると思っている。
ー ヨーロッパ市場向けの曲面液晶テレビを発表したが、これは先行メーカーが既に展開しているカテゴリーだ。ソニーの他社に対する優位性はどこにあるのか。また、有機ELテレビはもう開発をやめたのか。
平井氏:有機ELについては合弁会社で製造も含めて今後も展開していく。弊社の技術を投入して他社と一緒にオールジャパンで勝つための仕組みを整えた。またメディカルや放送局では既にソニーの有機ELを商品化しているので、これらを継続的に提供していきたいと考えている。技術が確立しても、製造をどうするという話もある。製造コストと技術面で優位性のある有機ELパネルができて、価格と性能、画質を含めてバランスの取れる商品がお客様に届けられるならテレビという商品形態も考えられるだろう。ただし、最近では液晶の画質が上がっているので、有機ELがどこで差異化できるデバイスかを見極めなければならない。有機ELである理由が明言できるものが作れるなら出していく。
曲面液晶については、パネルの形状にかかわらず4Kの優位性は「画質」が勝負。クオリティについては主観的な好みもあるかもしれないが、こだわりやバックグラウンドの技術はソニーとして自信を持って出せる商品を持っているという自負がある。音質も追求していくというところも含めて差異化が大事だ。
− カンファレンスの中で、少し先の将来に展開する商品として有望と思われるものを作っていくという話があったが、そういった商品の市場性やビジネス性をどう考えているのか。ソニー全体としてウェアラブル性の高い商品をどのように位置づけ、どのような製品をいつ頃展開するのか。
平井氏:ウェアラブル市場はかなり可能性の高い市場だとみている。2014年は20億ドル、4年後には200億ドルぐらいまで行くという予測も一部では出ている。ソニーも商品を展開していくが、何しろウェアラブルは「不動産ビジネス」。人間の腕は2つしかないし、顔にかけるメガネは一つだけ。逆に成功して一等地を確保すれば、良いビジネスができる何がお客様にヒットするかが見えていない段階であれば、色々な商品のトライアルの時期だと捉えている。今回はスマートウォッチとスマートバンドという2つの製品を発売するが、機能や大きさ、見え方、バッテリーライフなどがそれぞれに異なるフィールドで各社が切磋琢磨していくことになると思っている。その中から勝者は出てくるだろうが、何がコンシューマーに受け入れられるのか、見えてくるのはこれからだろう。
もう一つは、一口にウェアラブルと言っても、手首に付けるウォッチ型の端末はそれなりのデザインであれば良いが、グラス型はデザインが非常に大事。SmartEyeglassについて言うと、CESに展示した前のモデルはデザインが良くなかった。当社の開発者たちには常々「あなたが自信をもって、満員の山の手線で身に付けられるデザインまで完成度を高められるかが勝負」と伝えている。ウェアラブルは機能性も大事だが、ファッション性も考えなければならないカテゴリー。ソニーとしては、デザインの部分はその道のエキスパートとコラボレーションしていくことも今後大事だと考えている。
ー ソニーとして、SIMロックフリーの端末を出す計画はあるか。またデジカメにSIMカードを入れたり、他のソニー製品にSIMを入れる予定はあるか。
平井氏:当然議論としてはある。実際そういうものを出すかは市場性やニーズを見ながら判断したい。絶対にないということはない。
ー スマートフォンの差異化に向けて、同じOSやデバイスを共有する中で差別化をどう考えているか。スマートフォンの商品カテゴリーについても同じ問題をどう解決していくのか。
平井氏:同じAndroidを使っても、OS依存ではない部分での差異化はまだできると思っている。例えばソニーで言うならばコンテンツの部分。スマホやタブレットが普及すればコンテンツに対する期待と価値が比例して上がっていく。そこはソニーグループにとって新しい収入源になるし、戦略的な強みにもなるはずだ。
ー PS4が世界販売台数1,000万台を突破したが、これがマクロ的にはゲーム業界をどのように変えいくものなのか。1,000万台達成は想定していたものなのか。
平井氏:PS4を発売する前には、家庭用のゲームコンソールはもう不要という議論もあった。それは決して否定しない。スマホとタブレットでゲームを楽しむ方も大勢いるが、そこでは得られないゲーム体験について徹底敵に議論をしたときに、高画質であったり大画面で楽しむ意義などは確かにある。またソーシャルに展開できるプラットフォームとして、ゲームが非常に高く評価されている部分もあるだろう。家庭用のコンソールだからこそ体験できる、厚みのあるゲームプレイが提案できると思う。とはいえ、やはり「楽しいゲーム」が揃うことが何と言っても一番大事であることは確かだ。
今後さらに台数を伸ばす戦略としては、アメリカでスタートしたクラウド型のゲームサービス「PlayStation Now」がひとつある。PS4に関連する新しい試みを次々と投入することで「ゲーム+α」を実現していきたい。1,000万台達成は、当初「ここまで到達できたらすごい」と考えていた数字の上の方には来ているが、これはやってみないとわからないものだ。日本市場はもう少し頑張った方が良いが、リアクションは上々だと思う。今後、お客様にハマる提案という意味ではソーシャルがキーになってくると考えている。
− ゲーム機がここまで順調に売れてきたことは確かだが、今の感触として、この後も順調に伸びていくと見ているのか、それとも今付いているお客様にサービスを次々と提供しながら、かなり加速させなければいけない段階と考えているのか。
平井氏:PlayStationのプラットフォームは毎回そうだが、まずはゲーマーの方に評価していただくプラットフォームを作る必要があると考えている。そこは達成できたと思う。これから大事になることは、いかにグレーなユーザー、ライトなユーザーにアピールできるサービスを充実させると同時に、最初からサポートいただいているコアなお客様に提供していくバランスを上手に保つというところだと思っている。初代PSの頃から基本的に考え方は同じだ。
ー モバイルは1Qで下方修正を発表したが、今回発表の新機種で挽回していくことができるのか。またエレキの事業分野はどうしていくのか。
平井氏:ソニーモバイルのビジネスは下方修正を発表した。全体的に市場そのものは伸びているが、現実的な数字を見て台数を下方修正した。年初には今年度での大体の予測数値も発表したが、その際にもお伝えした通り、市場の現実的な動きを見ながら柔軟に対応していくことが大事。エレキの分野はソニーグループとしても最終損益の数字を今のところは変えていないので、これから2Qの取り組みの中で見極めながら発表したい。現段階で上振れも、ネガティブな要素もないとみている。
ー スマートフォンの戦略はどのように見直すのか。
平井氏:これから様々な機会で説明するつもりだが、モバイルはマーケットシェアだけを追いかけるのではなく、利益体質を作っていくことを優先する。鈴木社長も含めて、ソニーモバイルのマネジメント陣とも共有している。今回は普及価格帯のXperia E3も発表したが、フラグシップのXperia Z3から派生したコンパクトモデルやタブレットなど、“ソニーらしさ”がアピールできるプレミアムモデルにウェイトを移して行く考えだ。マーケットシェアを取っていくという考えもあるだろうが、シェアばかりを追って赤字になっては元も子もない。ソニーの持っている技術的な強みを活かしながら魅力的な製品を提供することが大事だ。
− テレビ事業も下方修正されているが、テレビ事業では下期に、そして最終黒字に向けてどんなことに取り組んでいくのか。
平井氏:テレビ事業は分社化してコスト構造を見直した。必要最低限のテレビ事業を進める体制が整っている。事業単体としてはコスト構造が改善されてきている。あとは地域によって販社の構造を見直し、必要ならばもう一度コストの部分にも手を入れる。アメリカでは既に販社のリストラも実行している。ほかの地域についても、全ての地域ではないが、場合によっては販社のコストを見直す必要があると思っている。ただ守りの戦略だけでは良くない。いかにして強い商品軸をつくれるかが大事であると考えている。だから曲面タイプの4Kテレビを出したり、画音質を究めていくことも引き続き進めながら、事業を強くしていきたい。
ー 当然のことかもしれないが、IFAではVAIOの発表がなかった。株式会社バイオとの今後の連携はどう形をつくっていくのか。
平井氏:ひとつは、同社の株式をソニーが引き続き5%所有しているということ。またこれもオペレーション面での話になるが、ソニーグループには14万人の社員が働いているが、社用のパソコンとして用途に合えば、なるべく今後もVAIOを持ってもらいたいと考えている。またソニー・ピクチャーズの映画作品にプロダクトプレイスメントとして、例えば主人公に持ってもらったり印象的なシーンで使いたい。社名にVAIOというブランドネームを入れて頂いたわけなので、その運用として、どの商品群にVAIOと付けるかについて柔軟に運用して頂たいと思う。ソニーが今後VAIOのブランドでPC以外の製品を作るということは絶対にないとは言えないが、一般的に考えて、社名までVAIOを使っているわけなので、私としてはなるべくサポートしたいきたいと考えている。よほどのバッティングが無い限り、バイオ社がVAIOの名前で展開する商品は応援したい。逆に言えば、当社が何かしらの製品に、VAIOという名前をマーケティング戦略抜きで付けることには余り意味がないと思う。
ー 9月1日付けの機構改革で、平井氏が自らUX・商品戦略・マーケ担当執行役を兼務することになった狙いは何か。
平井氏:社内には、お客様とのタッチポイントの一部を担う部署が色々ある。一つがグローバルセールス&マーケティング。海外の販社を含めて世界中のマーケティングを日本からオペレーションしている部門や、SONYというブランドのイメージ戦略を担当する部門などがある。今まではバラバラでやっていたが、ブランドは大事な資産であるという考えから、今後は私のもとで、一つの組織で全部レポートラインを統一して「One Sony」を実現するための機構改革だ。組織を一本化して、ブランドの見え方に寄与していこうという考え方・エンターテインメントの世界でも、SONYのブランディングもある。これらも組織的にやっていこうという戦略だ。
ー 昨年から円安の流れが進む中で、円安は日本経済に思ったほど貢献していないという見方もある。中長期的な為替の相場観をどうみているか。それをどのようにソニーの生産体制に反映させるのか。
平井氏:生産体制は海外へのシフトが既にほぼ完了しているし、中国でもドルベースで展開している。今後為替が振れたところで生産拠点を変えることは、よほどのことがない限りは有り得ない。将来にどうなるかという見方では、アベノミクスが実を結んでいけば、ある程度安定していくと見ている。全般的に見れば、例えばジオポリティクスと経済の関係はある程度分離して考えられている部分があると思う。世界情勢が経済に直結して影響を及ぼしてくるかと言えば、そういうことはないだろう。