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ガジェット 公開日 2024/02/15 10:45
“シンプルなワンプラン”の楽天モバイル、なぜ「最強家族プログラム」を導入したのか
【連載】佐野正弘のITインサイト 第95回
新規参入の楽天モバイルは2023年、ローミングエリアでもデータ通信が無制限となる新料金プラン「Rakuten最強プラン」の提供を開始。法人向けの「楽天モバイル法人プラン」を提供して法人需要を本格開拓し始めたほか、さらに新しいプラチナバンドとなる700MHz帯の免許を獲得するなど、好材料をいくつか持つことで契約数をおよそ600万にまで伸ばしている。
ただその一方で、先行投資による大幅な赤字は解消されておらず、親会社の楽天グループも楽天モバイルの先行投資による巨額の社債償還に苦しむなど、経営は依然厳しい。それゆえ楽天モバイルも、自前でのネットワーク構築を大幅に抑え、当面KDDIとのローミングをフル活用する方針に舵を切るなど、思うようにインフラ投資できず非常に厳しい様子を見せている。
そうした状況下で迎えた2024年。最大の懸念である赤字の解消に向けた楽天モバイルの新たな一手が問われるところだが、2月13日に同社は新たな発表イベントを実施。2月21日から新たな割引プログラム「最強家族プログラム」を提供することを発表した。
これは要するに、楽天モバイルの家族割引施策であり、Rakuten最強プランを契約している家族でグループを組むことにより、グループ内家族の月額料金が毎月110円引きになるというものだ。グループの主回線となる人は18歳以上である必要があるものの、参加する家族の年齢に制限はなく、最大で20回線まで適用できるという。
また、家族であることの条件だが、他社のように親等で判断するのではなく、グループの代表者と同一の名字であることが条件となっている。それゆえ現状、例えば名字が異なる義理の両親とグループを組むことはできないほか、名字が異なる事実婚の人などは対応できない一方で、同じ名字であれば赤の他人でもグループを組めてしまうことになる。
同社では今後そうした部分に関して、より多様な家族に対応できるよう検討を図るとしているほか、不正行為は随時確認して対応するとしている。複雑な家族の仕組みに対応するには、システムやオペレーションなどで様々な変更が求められるだけに、サービス提供スピードを優先した結果、このような家族判断基準に至ったものと考えられる。だが、内容的に課題は多いだけに、提供後にどのような軌道修正がなされるのかにも注目しておく必要があるだろう。
そして筆者が気になったのは、今回楽天モバイルがあえて家族割引施策の提供に踏み切ったことだ。確かに家族割引施策は携帯大手3社が導入しているもので、それ自体を導入することに目新しさはないのだが、楽天モバイルはこれまでシンプルなワンプランであることに強くこだわりをみせ、複雑な割引がなくても安いことを強く打ち出してきた経緯がある。
それがなぜ現在のタイミングで、料金プランがシンプルでなくなってしまう家族割引施策を提供するに至ったのか?という点は非常に気になる。同日のイベントに登壇した楽天モバイルの代表取締役会長・三木谷浩史氏はその理由について、楽天モバイルのユーザーから「よく『家族プランはないの?』といわれる」と、ユーザーから家族割引を求める声が多く聞かれたことを挙げている。
確かに楽天モバイルのRakuten最強プランは、割引などがなくても他社より安い料金水準を実現しており、料金だけを見れば競争優位性は高い。だが、既に他社のサービスを長く利用しているユーザーからしてみれば、楽天モバイルの料金がどうあれ、他社にあるものが楽天モバイルにないことが不満要素となることは十分あり得る。
そして楽天モバイル側も、競合他社の家族割引施策が契約獲得を推し進める上で大きな障壁になっていたと考えられる。そもそも携帯3社が、家族で契約すると割引が適用されるサービスに力を入れてきたのは、ひとえに顧客の囲い込みのためだ。家族割引施策は人数に応じて割引額が変化することが多く、誰か1人でも解約して他社に移ってしまうと他の家族の割引額が減ってしまうことから、自分だけの判断で止めることが難しいのである。
もちろん、以前には家族割引施策だけでなく、他にも2年間の契約を前提とした割引施策など、他にも顧客を “縛る” 施策はいくつか存在した。携帯大手3社から顧客が移らず寡占が続いていることに業を煮やした総務省によって、そうした施策の多くは姿を消しているものの、家族割引施策には直接規制がかけられておらず、現在も残り続けている。
それゆえ楽天モバイルも、規制がかけられていない家族割引施策に関しては、他社に追随せざるを得ないと判断した、というのが正直なところではないだろうか。
そうなると今後気になるのが、楽天モバイルの料金プランが複雑になってしまうのでは?ということだが、これはある意味仕方がないことだと筆者は感じている。
これまでの歴史を振り返っても、料金プランが「複雑で分かりにくい」という声に応じてシンプル化を図ったものの、その後ユーザー側からの要望に応えるかたちで割引などのサービスが増え、結局また複雑になってしまうというケースはよく見られたものだからだ。
その複雑化を招く要因はユーザーの声であるだけに、多様なユーザーの声に応えるには複雑化は避けられない。競合他社はユーザー層に応じて、ブランドやプランを複数に分けることでその対処を図る傾向にあるが、料金プランが1つしかない楽天モバイルはそれが難しいのだ。
しかも楽天モバイルは、経営が非常に厳しく手段を選べる状況にはないだけに、顧客のニーズに応えて契約と売り上げを増やすことが至上命題となっている。
それだけに今後、顧客の声に応えた割引やオプションなどの提供により、同社の料金プランが一層複雑なものになる可能性は十分考えられるといえそうだ。
ただその一方で、先行投資による大幅な赤字は解消されておらず、親会社の楽天グループも楽天モバイルの先行投資による巨額の社債償還に苦しむなど、経営は依然厳しい。それゆえ楽天モバイルも、自前でのネットワーク構築を大幅に抑え、当面KDDIとのローミングをフル活用する方針に舵を切るなど、思うようにインフラ投資できず非常に厳しい様子を見せている。
■新割引施策「最強家族プログラム」。グループ内家族の月額料金が110円引きに
そうした状況下で迎えた2024年。最大の懸念である赤字の解消に向けた楽天モバイルの新たな一手が問われるところだが、2月13日に同社は新たな発表イベントを実施。2月21日から新たな割引プログラム「最強家族プログラム」を提供することを発表した。
これは要するに、楽天モバイルの家族割引施策であり、Rakuten最強プランを契約している家族でグループを組むことにより、グループ内家族の月額料金が毎月110円引きになるというものだ。グループの主回線となる人は18歳以上である必要があるものの、参加する家族の年齢に制限はなく、最大で20回線まで適用できるという。
また、家族であることの条件だが、他社のように親等で判断するのではなく、グループの代表者と同一の名字であることが条件となっている。それゆえ現状、例えば名字が異なる義理の両親とグループを組むことはできないほか、名字が異なる事実婚の人などは対応できない一方で、同じ名字であれば赤の他人でもグループを組めてしまうことになる。
同社では今後そうした部分に関して、より多様な家族に対応できるよう検討を図るとしているほか、不正行為は随時確認して対応するとしている。複雑な家族の仕組みに対応するには、システムやオペレーションなどで様々な変更が求められるだけに、サービス提供スピードを優先した結果、このような家族判断基準に至ったものと考えられる。だが、内容的に課題は多いだけに、提供後にどのような軌道修正がなされるのかにも注目しておく必要があるだろう。
そして筆者が気になったのは、今回楽天モバイルがあえて家族割引施策の提供に踏み切ったことだ。確かに家族割引施策は携帯大手3社が導入しているもので、それ自体を導入することに目新しさはないのだが、楽天モバイルはこれまでシンプルなワンプランであることに強くこだわりをみせ、複雑な割引がなくても安いことを強く打ち出してきた経緯がある。
それがなぜ現在のタイミングで、料金プランがシンプルでなくなってしまう家族割引施策を提供するに至ったのか?という点は非常に気になる。同日のイベントに登壇した楽天モバイルの代表取締役会長・三木谷浩史氏はその理由について、楽天モバイルのユーザーから「よく『家族プランはないの?』といわれる」と、ユーザーから家族割引を求める声が多く聞かれたことを挙げている。
確かに楽天モバイルのRakuten最強プランは、割引などがなくても他社より安い料金水準を実現しており、料金だけを見れば競争優位性は高い。だが、既に他社のサービスを長く利用しているユーザーからしてみれば、楽天モバイルの料金がどうあれ、他社にあるものが楽天モバイルにないことが不満要素となることは十分あり得る。
そして楽天モバイル側も、競合他社の家族割引施策が契約獲得を推し進める上で大きな障壁になっていたと考えられる。そもそも携帯3社が、家族で契約すると割引が適用されるサービスに力を入れてきたのは、ひとえに顧客の囲い込みのためだ。家族割引施策は人数に応じて割引額が変化することが多く、誰か1人でも解約して他社に移ってしまうと他の家族の割引額が減ってしまうことから、自分だけの判断で止めることが難しいのである。
もちろん、以前には家族割引施策だけでなく、他にも2年間の契約を前提とした割引施策など、他にも顧客を “縛る” 施策はいくつか存在した。携帯大手3社から顧客が移らず寡占が続いていることに業を煮やした総務省によって、そうした施策の多くは姿を消しているものの、家族割引施策には直接規制がかけられておらず、現在も残り続けている。
それゆえ楽天モバイルも、規制がかけられていない家族割引施策に関しては、他社に追随せざるを得ないと判断した、というのが正直なところではないだろうか。
■懸念される料金プランの複雑化
そうなると今後気になるのが、楽天モバイルの料金プランが複雑になってしまうのでは?ということだが、これはある意味仕方がないことだと筆者は感じている。
これまでの歴史を振り返っても、料金プランが「複雑で分かりにくい」という声に応じてシンプル化を図ったものの、その後ユーザー側からの要望に応えるかたちで割引などのサービスが増え、結局また複雑になってしまうというケースはよく見られたものだからだ。
その複雑化を招く要因はユーザーの声であるだけに、多様なユーザーの声に応えるには複雑化は避けられない。競合他社はユーザー層に応じて、ブランドやプランを複数に分けることでその対処を図る傾向にあるが、料金プランが1つしかない楽天モバイルはそれが難しいのだ。
しかも楽天モバイルは、経営が非常に厳しく手段を選べる状況にはないだけに、顧客のニーズに応えて契約と売り上げを増やすことが至上命題となっている。
それだけに今後、顧客の声に応えた割引やオプションなどの提供により、同社の料金プランが一層複雑なものになる可能性は十分考えられるといえそうだ。