公開日 2010/02/10 09:00
ULTRASONE「edition 8 Palladium」を岩井喬氏が聴く − “唯一の個性”を堪能できる最上級モデル
フラグシップ・ヘッドホンのニューフェイス
“唯一の個性”を堪能できる最上級ヘッドホンに、ふたつのバリエーションが誕生した
ULTRASONEのフラグシップ“editionシリーズ”として、大きな期待を持って迎え入れられたニューモデル「edition 8」。その新たな仲間として加わったのが、「秋のヘッドホン祭2009」にてサンプル機が出展され、多くのハイエンド・ヘッドホン・ファンの注目を集めた「edition 8 Palladium(パラディウム)」だ。これまでの「edition 8」は「edition 8 Ruthenium(ルテニウム)」として同時展開も決まり、ここにeditionシリーズ初となる二つの顔を持つラインアップが完成した。今回、いち早く「edition 8 Palladium」の実機を試聴させていただく機会を得たが、取材が発売前の時期でもあったため、エージングが終わっていない個体での試聴であることを予めご了承いただきたい。
ULTRASONE“editionシリーズ”とは〜フラグシップの系譜とそこに活かされた先進技術を辿る〜
ご存知の方も多いとは思うが、ここでULTRASONEにおけるeditionシリーズの位置づけについて再確認してみよう。同社のヘッドホンが他社と大きく違うのは、電磁波やHRTF(頭内伝達係数)の研究を長年続けている、創業者フロリアン・ケーニッヒ氏の理論が詰まった製品であるという点だ。具体的にはスピーカーからの再生音の印象に近い頭外定位を実現する、“S-LOGIC”と呼ばれるドライバーのオフセット配置技術のほか、MUメタルを用いた電磁波抑制技術“ULE(Ultra Low Emission)”という2つの大きなテクノロジーが挙げられる。
これらの独自技術を投入することにより、他のヘッドホンを圧倒する存在感を持たせた高級機として誕生したモデルが、2004年発売のeditionシリーズ第1号機「edition 7」である。高級感溢れるエチオピアン・シープ・スキンを用いたイヤーパッドやヘッドパッド、落ち着いた光沢を持つクロームメッキボディ、そして全世界999台限定で、ダイナミック型ヘッドホンとしても孤高の472,500円(税込・日本市場価格)というプライス設定は、ハイエンド・ヘッドホンの代名詞となる存在であった。
その2年後の2006年、次なるeditionシリーズとして発表されたのが「edition 9」だ。こちらは全世界1,111台限定で241,500円(税込・日本市場価格)となり、「edition 7」と較べてリーズナブルな価格設定となったが、用いている技術やパーツなど、性能の点では全く引けを取っておらず、editionシリーズの人気を決定付けた記念碑的モデルである。
そして2009年、シリーズ初の通常販売モデルとして発売されたのが「edition 8」(Ruthenium)である。エチオピアン・シープ・スキンによるイヤーパッドやヘッドパッドはそのままであるが、editionシリーズらしく“ポータブル機の最高峰”という高い頂を目指したモデルであり、クロームメッキとは違う、高硬度で深い落ち着きのある輝きを放つ白金系の希少金属“ルテニウム箔”をハウジングに採用。基幹技術である“S-LOGIC”は、3D的な立体的音場の追求を行った進化版“S-LOGIC Plus”とし、低域成分の伝達スピードを制御するトリプル・バスチューブ・コントロール採用のΦ40mmチタン・マイラー・ドライバーを搭載している。ケーブルは「iPod」などの携帯プレーヤーとの接続を考慮した1.2mという長さで、USC OFC(超軟加工・無酸素銅)を導体に採用、プラグ形状もΦ3.5mmステレオミニタイプが標準装備である(4.0m延長コード、標準プラグ変換アダプターも付属)。
>>岩井喬氏が聴いた「edition 8 Ruthenium」テストレビュー
「edition 8」“Palladium”と“Ruthenium”はどこが違うのか?
今回登場する「edition 8 Palladium」と、これまでの「edition 8 Ruthenium」との違いであるが、イヤーカップに用いられた素材が大きな変更点となる。「edition 8 Ruthenium」では白金系のルテニウム箔を用いていたが、「edition 8 Palladium」では経年変化が少なく、強度を保ちながら、最適な薄膜加工ができるという同じ白金系のパラディウム箔を採用している。
仕上げも艶消し調のブラッシュ加工を施し、インレイのハイテク・セラミックが放つグロスブラック色との対比も美しい。「edition 8 Ruthenium」のイヤーカップは美しい光沢を持っているが、指紋などの汚れが目立ってしまうという点も一方で指摘されていた。また、もう少し落ち着いたデザインのものが欲しいというニーズもあり、「edition 8 Palladium」の開発が進められたという背景もあるそうだ。
このワンポイントのインレイ部の素材においても様々な検討が行われたそうで、ブラック色と、薄くても成型に耐えうる強度が欲しいというニーズに応えるものとしてハイテク・セラミックに辿り着いたという。さらにインレイ部の背面側はネジ留めが当たっている構造であり、レゾナンスを吸収する点でも硬度の高い素材が必要だったこともあり、逆にハイテク・セラミック以外はないとも言えるベストな選択だったとも考えられる。その他、「edition 8 Palladium」ではヘッドバンドのイヤーカップ部に配置されたブランドロゴがレーザーカットになり、アルミの素材感が引き立つデザインに仕上がっている。なお、本機の発売と同時に「edition 8 Ruthenium」の方もブランドロゴが現在のブラックのプリントからレーザーカットの刻印へと仕様が変更されることも明らかになった。
岩井氏がリファレンス・ソフトで聴いた「edition 8 Palladium」のサウンド
試聴においてはCD/SACDプレーヤーに「デノンDCD-SA11」、ヘッドホンアンプに「Lehmann audio Black Cube Linear PRO」を用意。「iPod nano」に保存したソースの試聴も合わせて行った。
■岩井喬氏のリファレンス試聴ソフト
・『Pure〜AQUAPLUS LEGEND OF ACOUSTICS』(F.I.X.:KIGA2)本文以下略称:AP
・ユーベル・スダーン/東京交響楽団『ブルックナー:交響曲第7番』(N&F:NF21202)本文以下略称:ブルックナー
・オスカー・ピーターソン・トリオ『プリーズ・リクエスト』(ユニバーサル:UCCU-9407)本文以下略称:オスカー
・デイヴ・メニケッティ『MENIKETTI』(DREAM CATCHER:CRIDE35)本文以下略称:メニケ
まずはCDのサウンドだが、「AP」においてはドライな空間が展開。ストリングスはソリッドにまとまり、ハリの強さと粒立ちの細やかさが共存している。ピアノは高域の輝きが際立ち、響きの余韻も豊かだ。ボーカルやベースの音像もソリッド傾向で、肉付き感も程良く、クリアに分離する。「ブルックナー」では低域が引き締まり、管弦楽器のトーンは芯を中心にして際立たせている。キレ良く跳ねるバイオリンの描写も鮮明だ。ホールトーンはドライな傾向だが、余韻の消え入り際まではっきりと感じ取れる。全体的に落ち着いたトーンでまとめている。
「オスカー」においては、高域の輝きが抑えられ、穏やかな音色だ。ピアノはコロコロと転がる軽いまとめ方で、スネアのブラシはドライにヌケる。ウッドベースも引き締まった音像で、音場は一歩引いた場所で聴いているような、全体を見渡せる雰囲気を味わえた。「メニケ」ではすっきりとした音場が広がり、ドライで芯を中心にしたリズム隊のタイトなサウンドが際立つ。ボーカルやコーラスは穏やかな色彩を放っている。
続いて「iPod nano」のサウンドだが、全体的に穏やかな音色となり、見通しの良い音場と粒立ち、細やかな描写との絶妙なバランスが生まれる。「ブルックナー」では粒立ち良くスカッと広がる管弦楽器の質感はキレ良く、若々しいハリが伸びやかだ。ホールの見通しも深い。「AP」では、ボーカルが柔らかくなり、アコギの音色とともに艶やかな音伸びの良さも感じられる。
「オスカー」でも適度な丸みがあるピアノや、甘くふくよかなウッドベースのトーンがバランスよく融合する。「メニケ」においては全体的に細身な描写となり、ベースの押し出しも若干甘くなるものの、エレキのディストーションは渋みのある質感で表現され、耳あたりの良いサウンドだった。
ULTRASONEの開発陣は、「edition 8 Ruthenium」をレファレンスとして「edition 8 Palladium」のサウンドメイクをしているとのことで、素材の違いで音質が変わらないよう開発時に配慮しているそうである。今回の試聴でも「edition 8 Ruthenium」を再確認したが、「edition 8 Palladium」よりもふくよかで、色艶良く煌き感のあるサウンドであるように感じた。これは冒頭でも述べたようにエージング時間による差であるように思う。ただ、これはあくまで筆者としての見解であるが、素材の差が僅かながらもサウンドに反映される可能性もゼロではないと考えている。
「edition 8 Palladium」に用いられているパラディウム、ハイテクセラミックといったパーツは素材価格が高価であるため、「edition 8 Ruthenium」よりも製品の販売価格はやや高めの設定となる。いわゆる一般的なカラーバリエーションということでラインアップを追加したということではないところが、editionシリーズらしい回答である。映える外観の「edition 8 Ruthenium」か、落ち着きある「edition 8 Palladium」か。選択肢が広がったことで、より多くのユーザーに「edition 8」の魅力を味わってもらえるのではないかと思う。
“唯一の個性”、それがeditionシリーズの共通したマインドであるように思う。他社製では採用されていないレアメタルの出で立ちは、個性を重んじるステイタス・シンボルにもなり得る。音だけではなく、意匠の面で差をつけたいユーザーに対して、携帯性の高い「edition 8」の二つのラインアップは、現段階において最高のポータブル・オーディオ・デバイスだ。
【SPEC】
●形式:密閉ダイナミック ●ドライバー:40mm チタニアム・マイラー ●再生周波数帯域:6〜42,000Hz ●インピーダンス:30Ω ●出力音圧レベル:94dB ●質量:260g ●コード:ストレート1.2m/4.0m(延長コード付属) φ3.5mm金メッキステレオミニ(標準プラグ変換アダプター付属)
【edition 8に関する問い合わせ先】
(株)タイムロード
TEL/03-5758-6070
http://www.timelord.co.jp/
◆筆者プロフィール 岩井喬 Takashi Iwai
1977年・長野県北佐久郡出身。東放学園音響専門学校卒業後、レコーディングスタジオ(アークギャレットスタジオ、サンライズスタジオ)で勤務。その後大手ゲームメーカーでの勤務を経て音響雑誌での執筆を開始。現在でも自主的な録音作業(主にトランスミュージックのマスタリング)に携わる。プロ・民生オーディオ、録音・SR、ゲーム・アニメ製作現場の取材も多数。小学生の頃から始めた電子工作からオーディオへの興味を抱き、管球アンプの自作も始める。
ULTRASONEのフラグシップ“editionシリーズ”として、大きな期待を持って迎え入れられたニューモデル「edition 8」。その新たな仲間として加わったのが、「秋のヘッドホン祭2009」にてサンプル機が出展され、多くのハイエンド・ヘッドホン・ファンの注目を集めた「edition 8 Palladium(パラディウム)」だ。これまでの「edition 8」は「edition 8 Ruthenium(ルテニウム)」として同時展開も決まり、ここにeditionシリーズ初となる二つの顔を持つラインアップが完成した。今回、いち早く「edition 8 Palladium」の実機を試聴させていただく機会を得たが、取材が発売前の時期でもあったため、エージングが終わっていない個体での試聴であることを予めご了承いただきたい。
ULTRASONE“editionシリーズ”とは〜フラグシップの系譜とそこに活かされた先進技術を辿る〜
ご存知の方も多いとは思うが、ここでULTRASONEにおけるeditionシリーズの位置づけについて再確認してみよう。同社のヘッドホンが他社と大きく違うのは、電磁波やHRTF(頭内伝達係数)の研究を長年続けている、創業者フロリアン・ケーニッヒ氏の理論が詰まった製品であるという点だ。具体的にはスピーカーからの再生音の印象に近い頭外定位を実現する、“S-LOGIC”と呼ばれるドライバーのオフセット配置技術のほか、MUメタルを用いた電磁波抑制技術“ULE(Ultra Low Emission)”という2つの大きなテクノロジーが挙げられる。
これらの独自技術を投入することにより、他のヘッドホンを圧倒する存在感を持たせた高級機として誕生したモデルが、2004年発売のeditionシリーズ第1号機「edition 7」である。高級感溢れるエチオピアン・シープ・スキンを用いたイヤーパッドやヘッドパッド、落ち着いた光沢を持つクロームメッキボディ、そして全世界999台限定で、ダイナミック型ヘッドホンとしても孤高の472,500円(税込・日本市場価格)というプライス設定は、ハイエンド・ヘッドホンの代名詞となる存在であった。
その2年後の2006年、次なるeditionシリーズとして発表されたのが「edition 9」だ。こちらは全世界1,111台限定で241,500円(税込・日本市場価格)となり、「edition 7」と較べてリーズナブルな価格設定となったが、用いている技術やパーツなど、性能の点では全く引けを取っておらず、editionシリーズの人気を決定付けた記念碑的モデルである。
そして2009年、シリーズ初の通常販売モデルとして発売されたのが「edition 8」(Ruthenium)である。エチオピアン・シープ・スキンによるイヤーパッドやヘッドパッドはそのままであるが、editionシリーズらしく“ポータブル機の最高峰”という高い頂を目指したモデルであり、クロームメッキとは違う、高硬度で深い落ち着きのある輝きを放つ白金系の希少金属“ルテニウム箔”をハウジングに採用。基幹技術である“S-LOGIC”は、3D的な立体的音場の追求を行った進化版“S-LOGIC Plus”とし、低域成分の伝達スピードを制御するトリプル・バスチューブ・コントロール採用のΦ40mmチタン・マイラー・ドライバーを搭載している。ケーブルは「iPod」などの携帯プレーヤーとの接続を考慮した1.2mという長さで、USC OFC(超軟加工・無酸素銅)を導体に採用、プラグ形状もΦ3.5mmステレオミニタイプが標準装備である(4.0m延長コード、標準プラグ変換アダプターも付属)。
>>岩井喬氏が聴いた「edition 8 Ruthenium」テストレビュー
「edition 8」“Palladium”と“Ruthenium”はどこが違うのか?
今回登場する「edition 8 Palladium」と、これまでの「edition 8 Ruthenium」との違いであるが、イヤーカップに用いられた素材が大きな変更点となる。「edition 8 Ruthenium」では白金系のルテニウム箔を用いていたが、「edition 8 Palladium」では経年変化が少なく、強度を保ちながら、最適な薄膜加工ができるという同じ白金系のパラディウム箔を採用している。
仕上げも艶消し調のブラッシュ加工を施し、インレイのハイテク・セラミックが放つグロスブラック色との対比も美しい。「edition 8 Ruthenium」のイヤーカップは美しい光沢を持っているが、指紋などの汚れが目立ってしまうという点も一方で指摘されていた。また、もう少し落ち着いたデザインのものが欲しいというニーズもあり、「edition 8 Palladium」の開発が進められたという背景もあるそうだ。
このワンポイントのインレイ部の素材においても様々な検討が行われたそうで、ブラック色と、薄くても成型に耐えうる強度が欲しいというニーズに応えるものとしてハイテク・セラミックに辿り着いたという。さらにインレイ部の背面側はネジ留めが当たっている構造であり、レゾナンスを吸収する点でも硬度の高い素材が必要だったこともあり、逆にハイテク・セラミック以外はないとも言えるベストな選択だったとも考えられる。その他、「edition 8 Palladium」ではヘッドバンドのイヤーカップ部に配置されたブランドロゴがレーザーカットになり、アルミの素材感が引き立つデザインに仕上がっている。なお、本機の発売と同時に「edition 8 Ruthenium」の方もブランドロゴが現在のブラックのプリントからレーザーカットの刻印へと仕様が変更されることも明らかになった。
岩井氏がリファレンス・ソフトで聴いた「edition 8 Palladium」のサウンド
試聴においてはCD/SACDプレーヤーに「デノンDCD-SA11」、ヘッドホンアンプに「Lehmann audio Black Cube Linear PRO」を用意。「iPod nano」に保存したソースの試聴も合わせて行った。
■岩井喬氏のリファレンス試聴ソフト
・『Pure〜AQUAPLUS LEGEND OF ACOUSTICS』(F.I.X.:KIGA2)本文以下略称:AP
・ユーベル・スダーン/東京交響楽団『ブルックナー:交響曲第7番』(N&F:NF21202)本文以下略称:ブルックナー
・オスカー・ピーターソン・トリオ『プリーズ・リクエスト』(ユニバーサル:UCCU-9407)本文以下略称:オスカー
・デイヴ・メニケッティ『MENIKETTI』(DREAM CATCHER:CRIDE35)本文以下略称:メニケ
まずはCDのサウンドだが、「AP」においてはドライな空間が展開。ストリングスはソリッドにまとまり、ハリの強さと粒立ちの細やかさが共存している。ピアノは高域の輝きが際立ち、響きの余韻も豊かだ。ボーカルやベースの音像もソリッド傾向で、肉付き感も程良く、クリアに分離する。「ブルックナー」では低域が引き締まり、管弦楽器のトーンは芯を中心にして際立たせている。キレ良く跳ねるバイオリンの描写も鮮明だ。ホールトーンはドライな傾向だが、余韻の消え入り際まではっきりと感じ取れる。全体的に落ち着いたトーンでまとめている。
「オスカー」においては、高域の輝きが抑えられ、穏やかな音色だ。ピアノはコロコロと転がる軽いまとめ方で、スネアのブラシはドライにヌケる。ウッドベースも引き締まった音像で、音場は一歩引いた場所で聴いているような、全体を見渡せる雰囲気を味わえた。「メニケ」ではすっきりとした音場が広がり、ドライで芯を中心にしたリズム隊のタイトなサウンドが際立つ。ボーカルやコーラスは穏やかな色彩を放っている。
続いて「iPod nano」のサウンドだが、全体的に穏やかな音色となり、見通しの良い音場と粒立ち、細やかな描写との絶妙なバランスが生まれる。「ブルックナー」では粒立ち良くスカッと広がる管弦楽器の質感はキレ良く、若々しいハリが伸びやかだ。ホールの見通しも深い。「AP」では、ボーカルが柔らかくなり、アコギの音色とともに艶やかな音伸びの良さも感じられる。
「オスカー」でも適度な丸みがあるピアノや、甘くふくよかなウッドベースのトーンがバランスよく融合する。「メニケ」においては全体的に細身な描写となり、ベースの押し出しも若干甘くなるものの、エレキのディストーションは渋みのある質感で表現され、耳あたりの良いサウンドだった。
ULTRASONEの開発陣は、「edition 8 Ruthenium」をレファレンスとして「edition 8 Palladium」のサウンドメイクをしているとのことで、素材の違いで音質が変わらないよう開発時に配慮しているそうである。今回の試聴でも「edition 8 Ruthenium」を再確認したが、「edition 8 Palladium」よりもふくよかで、色艶良く煌き感のあるサウンドであるように感じた。これは冒頭でも述べたようにエージング時間による差であるように思う。ただ、これはあくまで筆者としての見解であるが、素材の差が僅かながらもサウンドに反映される可能性もゼロではないと考えている。
「edition 8 Palladium」に用いられているパラディウム、ハイテクセラミックといったパーツは素材価格が高価であるため、「edition 8 Ruthenium」よりも製品の販売価格はやや高めの設定となる。いわゆる一般的なカラーバリエーションということでラインアップを追加したということではないところが、editionシリーズらしい回答である。映える外観の「edition 8 Ruthenium」か、落ち着きある「edition 8 Palladium」か。選択肢が広がったことで、より多くのユーザーに「edition 8」の魅力を味わってもらえるのではないかと思う。
“唯一の個性”、それがeditionシリーズの共通したマインドであるように思う。他社製では採用されていないレアメタルの出で立ちは、個性を重んじるステイタス・シンボルにもなり得る。音だけではなく、意匠の面で差をつけたいユーザーに対して、携帯性の高い「edition 8」の二つのラインアップは、現段階において最高のポータブル・オーディオ・デバイスだ。
【SPEC】
●形式:密閉ダイナミック ●ドライバー:40mm チタニアム・マイラー ●再生周波数帯域:6〜42,000Hz ●インピーダンス:30Ω ●出力音圧レベル:94dB ●質量:260g ●コード:ストレート1.2m/4.0m(延長コード付属) φ3.5mm金メッキステレオミニ(標準プラグ変換アダプター付属)
【edition 8に関する問い合わせ先】
(株)タイムロード
TEL/03-5758-6070
http://www.timelord.co.jp/
◆筆者プロフィール 岩井喬 Takashi Iwai
1977年・長野県北佐久郡出身。東放学園音響専門学校卒業後、レコーディングスタジオ(アークギャレットスタジオ、サンライズスタジオ)で勤務。その後大手ゲームメーカーでの勤務を経て音響雑誌での執筆を開始。現在でも自主的な録音作業(主にトランスミュージックのマスタリング)に携わる。プロ・民生オーディオ、録音・SR、ゲーム・アニメ製作現場の取材も多数。小学生の頃から始めた電子工作からオーディオへの興味を抱き、管球アンプの自作も始める。