公開日 2011/05/16 09:46
【連続企画】新世代ブランド「VanCryst」解剖 − 優良製品を設計し続けるATEN社の実力を実感
【目次】 第1回:「VanCryst」ブランド紹介編 第2回:「VanCryst」製品ハンドリング 第3回(6月中旬掲載):「VanCryst」エンジニアに聞く |
ケーブルをスマートに使うことの必要性が増している。ディスプレイと再生装置をつなぐ大動脈であるHDMIは飛び交うデータ量と速度、画質/音質に与える影響の大きさで、他のケーブルと同列には論じられない。ATEN社のVanCryst製品が実現する、その優れた実力を確かめてみることにしよう。
デジタルAVに焦点を
絞った製品を実際に使ってみた
AV機器とPCの共生が進むなか、従来以上に「ケーブルをスマートに使う」ことの必要性が増している。USBやi.LINKなど両者をつなぐケーブルは複数あるが、ディスプレイと再生装置をつなぐ大動脈にあたるHDMIは、そこを飛び交うデータ量と速度、および画質/音質に与える影響の大きさからいっても、他のケーブルと同列には論じられない。
ATEN社のVanCryst(ヴァンクリスト)シリーズは、デジタルビデオにターゲットした集線/配線器の製品群だ。ここでは、同シリーズ製品のうちHDMIに関連するVE800とVS0108H、VM0404Hを例に、その機能を紹介してみよう。
VE800(HDMI延長器) 【SPEC】●接続端子:HDMI入力×1(VE800L)、同出力(VE800R) ●ユニット間接続:RJ-45×2 ●延長距離:最大60m(1080i) ●HDMI最大解像度:WUXGA(PC)、1080p(HDTV) ●外形寸法:90W×24H×55Dmm×2 ●質量:160g×2 | |
VS0108H(HDMI分配器) 【SPEC】●モニター接続数:8(ダイレクト接続)、最大512(カスケード) ●接続端子:HDMI入力×1、同出力×8 ●HDMI最大解像度:WUXGA(PC)、1080p(HDTV) ●外形寸法:432W×44H×154Dmm ●質量:1.74kg | |
VM0404H(マトリックス型HDMI分配器) 【SPEC】●モニター接続数:4(ダイレクト接続)、最大64(カスケード) ●接続端子:HDMI入力×4、同出力×4 ●HDMI最大解像度:WUXGA(PC)、1080p(HDTV) ●外形寸法:432W×44H×154Dmm ●質量:1.86kg |
VE800は、HDMIビデオ出力を最大60mに伸ばす延長器だ。最大解像度は1920×1200、到達可能な距離は1080i時が60mで1080p時が40m。延長には市販のイーサネットケーブル2本(カテゴリ5e/6)を使用するため、ロングタイプHDMIケーブルに比べ構築コストを抑えることができることも特徴といえる。
VS0108Hは、出力8ポート搭載のHDMI分配器だ。1系統のHDMI信号を最大8系統に分配できるため、1枚のBlu-rayを8台の液晶テレビに同時出力、といった芸当も難なくこなせる。HDCP対応はもちろん、12bitDeepColorやCEC、ドルビーTrueHDとDTS-HDマスターオーディオもサポートするため、業務用はもちろんホームシアターにも活用できる。
もう1機は、HDMIスイッチャー「VM0404H」。背面にはHDMIポートを8基備え、うち4基はビデオレコーダーなどの入力用、4基が薄型テレビなどへの出力用として、任意に分配先を切り替えられる。付属のIRリモコンを使えば、離れた位置から操作することも可能だ。
HDMIの複数入力であれば、いまや多くのディスプレイが備えている。しかしATEN社の製品には、キーボードにビデオとマウスの切り替えを担うPC用周辺機器「KVMスイッチ」の分野で積み重ねたノウハウというアドバンテージがあるのだ。
そのひとつが「エミュレーション」。ここで言うエミュレーションとは、切替器で選択されていない機器に対しなんらかの情報を返す機能で、HDMI分配/切替器の場合はおもに「テレビが接続されているかのように振る舞う」ことを意味する。エミュレーションが行われないと、切り替えるつどテレビが接続解除されてしまうため、なにかと不都合だからだ。
通常パソコンや動画再生をするBlu-rayプレーヤーは、ディスプレイとの間で解像度や操作周波数などの設定情報を通信するが、VM0404Hではこれら入力装置との接続を保つ為にそれぞれのポートに対してエミュレーション機能が働くため、入力装置を切り替えても、ディスプレイの表示に影響を与えることはない。
優れたデジタル製品を
設計してきた実績を実感
筆者のノートパソコン(Mac)は、アダプター経由で画面をHDMI出力できるが、接続する外部モニターにはエミュレーション機能がない。その結果、入力先を切り替えると接続解除されたと認識してしまい、HDMIで接続するPS3とモニターを共有することが困難になっていた。そこでVM0404Hを経由するようHDMIケーブルを配線し直したところ、問題は無事解決。モニターの使用をPS3に切り替えている間も、Macはモニターの接続が維持されているかのように動作した。
操作もシンプル。VM0404Hの場合、入力先の切り替えは前面のボタンを数回押すか、付属のリモコンを利用すればいい。その一方、リアパネルには遠隔操作用のRS-232ポートを備えるという、拡張性も備えている。
集線/分配器は縁の下の力持ち的な存在であるだけに、製品としての完成度を視覚や聴覚で判断することが難しい。だがVanCrystシリーズの場合、AVアンプに比べたときのコストパフォーマンスの高さと、KVMスイッチでの実績という安心感がある。9Wという低消費電力と発熱の少なさも、オーディオルームでの利用を考えたとき大きなメリットとなるだろう。
クオリティに関しても同様だ。長いほど信号の減衰によるエラーが生じやすいHDMIケーブルの場合、5mを超えるあたりからその傾向が顕著となるが、集線/分配器を経由させれば減衰なしに総延長を伸ばすことが可能になる。
餅は餅屋…とはよくいうが、ことデジタルに関しては、PC周辺機器メーカーも餅屋に相違ない。VanCrystシリーズにもPC周辺機器的な雰囲気は多く残るが、筐体にはESD対策が施されるなど、AV機器としての基本は押さえている。むしろ我々が重視すべきは、優れたAV機器を残してきたかではなく、優れたデジタル製品を設計してきたか、なのではないだろうか。
次回は、採用実績や活用事例をATEN社に取材し、VanCrystシリーズの実像に迫る予定だ。
【執筆者紹介】
海上 忍 Shinobu Unakami
ITジャーナリスト・コラムニスト。コンピューターテクノロジー方面全般での豊富な執筆経験を持ち、Mac OS XやLinux、デジタル家電関連の著作多数。